はじめに
日本はすぐに使える資源に乏しく、国土を山と深い海に囲まれるなどの地理的制約があり、エネルギー安定供給上の脆弱性を抱えています。こうした中で、エネルギー政策の根本的な解決を見出すことは容易ではなく、2050年カーボンニュートラル実現に向けては、更なるイノベーションが不可欠です。
引き続き、GX経済移行債を活用した投資促進策等により、世界に先行した技術開発を進めて日本の競争力を磨くとともに、NEDO等とも連携しながら、世界の市場拡大を見据えて先行的な企業の設備投資を促すことで、スタートアップによる取組等も含め、新たな技術革新に向けた日本の総力を挙げた取組を進めていきます。
<具体的な主要施策>
1.生産に関する技術における施策
(1)再生可能エネルギーに関する技術における施策
1太陽光発電の導入可能量拡大等に向けた技術開発事業
(再掲 第3章第5節 参照)
2洋上風力発電等の導入拡大に向けた研究開発事業
(再掲 第3章第5節 参照)
3地熱・地中熱等導入拡大技術開発事業
(再掲 第3章第5節 参照)
(2)原子力に関する技術における施策
1原子力の安全性向上に資する技術開発事業
(再掲 第4章第3節 参照)
2高速炉実証炉開発事業
(再掲 第4章第5節 参照)
3高温ガス炉実証炉開発事業
(再掲 第4章第5節 参照)
4高速炉サイクル技術の研究開発
(再掲 第4章第6節 参照)
5高温ガス炉とこれによる熱利用技術の研究開発
【2024年度当初:23億円】
水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉と、これによる熱利用技術の研究開発を推進しています。JAEAが所有する高温工学試験研究炉(HTTR)は、2021年7月に運転を再開し、高温ガス炉固有の安全性実証及び水素製造実証のための試験を実施しています。2024年度は、HTTRに熱利用施設(水素製造施設)を接続するための原子炉設置変更許可を申請するとともに、熱利用施設における異常を模擬した熱負荷変動試験を実施し、熱利用施設の接続に伴うHTTRの挙動を検証するためのデータを取得しました。さらに、文部科学省と経済産業省の連携により、2030年までに高温熱を利用したカーボンフリー水素製造技術の確立に向けた要素技術開発等を推進しています。
国際連携では、2017年5月にJAEAとポーランド国立原子力研究センター(NCBJ)の間で締結された「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」等に基づき、高温ガス炉研究炉の基本設計に関する研究開発に協力しています。2023年11月に文部科学省とポーランド気候・環境省の間でポーランド高温ガス炉技術分野に係る研究開発に関する協力覚書を結び、2024年7月に盛山文部科学大臣がNCBJを訪問し、今後の協力について確認しました。
6フュージョンエネルギーの早期実現と産業化を目指した推進体制の構築
【2023年度補正:249億円、2024年度当初:213億円、2024年度補正:194億円】
フュージョンエネルギーは、次世代のクリーンエネルギーとして、環境・エネルギー問題の解決策としての期待に加え、政府主導の取組の科学的・技術的な進展もあり、諸外国における民間投資が増加しています。世界各国が大規模投資を実施し、国策として自国への技術・人材の囲い込みを強める中、日本の技術・人材の海外流出を防ぎ、日本のエネルギーを含めた安全保障政策に資するため、政府では「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略(2023年4月統合イノベーション戦略推進会議決定)」に基づき、発電実証時期をできるだけ早く明確化するとともに、研究開発の加速により原型炉を早期に実現するための取組を推進しています。
日本は、世界7極の協力により、国際約束に基づき、実験炉の建設・運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的な実現可能性を実証する国際熱核融合実験炉(ITER)計画に参画しています。建設地のフランスでは、ITERの建設作業が本格化しており、2024年7月には主要機器である超伝導トロイダル磁場コイルの納入完了記念式典がITERサイトで開かれました。あわせて、日本は、ITER計画を補完・支援し、原型炉に必要な技術基盤を確立するための日欧協力による先進的研究開発である幅広いアプローチ(BA1 )活動を推進しています。BA活動では、2024年9月に、茨城県那珂市にある世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置「JT-60SA」が、トカマクプラズマのギネス世界記録に認定されました。また、フュージョンエネルギーの実現に向けて、原型炉の実現に向けた基盤整備に加え、核融合科学研究所における大型ヘリカル装置(LHD)等を活用した多様な学術研究や、ムーンショット型研究開発制度等を活用した独創的な新興技術の支援を推進しています。
フュージョンエネルギー分野における二国間協力では、米国やEU(ユーラトム:欧州原子力共同体)等との研究協力の実施取決め等の下、研究交流を実施し、年に1回の会議を開催する等、情報共有・意見交換を行っているほか、2024年4月には、文部科学省が米国エネルギー省と「フュージョンエネルギーの実証と商業化を加速する戦略的パートナーシップに関する共同声明」を発表しました。また、多国間協力では、IAEAやIEAにおける各種国際会議へ参画するとともに、IEA実施取決めの下、積極的に研究協力や研究者の交流を実施しているほか、2024年6月にイタリアで開催された「G7サミット」の成果文書において、フュージョンエネルギーに関する記載が盛り込まれました。同年11月には、「G7サミット」の成果文書において言及された、G7作業部会及び世界フュージョン・エネルギー・グループの創立閣僚級会議がイタリア・ローマで開催されました。
政府としては、ITER、JT-60SA等で培った技術や人材を最大限活用して、国際連携も活用し、原型炉に必要な基盤整備を加速するとともに、フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)とも連携して、安全確保の基本的な考え方を策定するなど、フュージョンエネルギーの早期実現と関連産業の発展に向けた取組を推進していきます。
(3)化石燃料・鉱物資源に関する技術における施策
1国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業
(再掲 第1章第2節 参照)
2海洋鉱物資源開発資源量評価・生産技術等調査事業委託費
(再掲 第1章第2節 参照)
2.流通に関する技術における施策
電気自動車用革新型蓄電池開発事業
(再掲 第2章第1節 参照)
3.消費に関する技術における施策
(1)高効率・高速処理を可能とする次世代コンピューティングの技術開発事業
(再掲 第2章第1節 参照)
(2)革新的な省CO2実現のための部材や素材の社会実装・普及展開加速化事業
【2024年度当初:38億円】
高品質窒化ガリウム(GaN)基板を活用したGaNインバーターの実用化を目指して、種結晶、ウエハ、パワーデバイス及びインバーター技術について一貫して開発・実証を行うとともに、レーダーやサーバー等に組み込まれている各種デバイスについて、高品質GaN基板を用いることで高効率化し、徹底したエネルギー消費量の削減を実現するための技術開発及び実証を行いました。
(3)未来社会創造事業(大規模プロジェクト型)
(再掲 第2章第1節 参照)
(4)戦略的創造研究推進事業 先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)
(再掲 第3章第5節 参照)
(5)SIP第3期課題「スマートエネルギーマネジメントシステムの構築」
(再掲 第3章第5節 参照)
(6)地域資源循環を通じた脱炭素化に向けた革新的触媒技術の開発・実証事業
【2024年度当初:19億円】
未利用の地域資源の循環・活用を目指し、多元素ナノ合金、非在来型触媒プロセス及び材料創製インフォマティクスを活用することで、バイオマス資源循環、プラスチック資源循環及びこれらの資源循環に必要な水素の製造技術に資する革新的な触媒・プロセスに係る技術開発及び実証を行いました。
4.革新的な技術開発に対する継続的な支援を行う施策
(1)グリーンイノベーション基金事業
【2020年度補正:2兆円、2022年度補正:3,000億円、2023年度当初:4,564億円】
グリーンイノベーション基金においては、現在20プロジェクトの取組が開始されています。一部のプロジェクトについては、予見性のない環境変化によりコストの上昇等が発生し、当初想定のスピードや規模での実施に支障が生じるおそれがあったことから、実施者に追加の予算措置を行いました。
また、研究開発及び社会実装をより一層加速させるため、浮体式洋上風力発電、ペロブスカイト太陽電池及び水電解に関するプロジェクトについて、研究開発の取組を追加・拡充しました。
さらに、研究開発成果の国外への不適切な流出を防ぐため、プロジェクト実施者に対して「技術情報管理強化」及び「技術移転防止(事前相談)」を新たに求めることとしました。
(2)革新的GX技術創出事業(GteX)
【2022年度補正:496億円の内数】
2050年カーボンニュートラル実現等への貢献を目指し、従来の延長線上にない非連続なイノベーションをもたらす革新的な技術を創出するため、日本のアカデミアが強みを持つ「蓄電池」、「水素」、「バイオものづくり」の3つの重点領域を設定し、技術成熟度を高める研究開発スキームの導入等を行いながら、材料等の開発やエンジニアリング、評価・解析等を統合的に行うオールジャパンのチーム型研究開発を展開しています。
2024年度は、文部科学省が策定した事業の基本方針及び研究開発方針等に基づき、各領域において2023年度に採択した研究開発課題を推進するとともに、研究設備・機器の共用推進、関連事業や領域間での連携等の効果的な研究開発の推進に向けた取組や、研究開発戦略の検討等の成果の最大化や早期の社会実装に向けた仕組みの構築を進めました。また、2023年度の採択結果や研究開発方針等を踏まえ、蓄電池領域の「将来的な企業投資が見込まれる革新電池創出に向けた研究開発」のみを対象とした公募を行い、新たに1件の研究開発課題を採択しました。
- 1
- BA:Broader Approachの略。