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しかく2024年度「第23回ちゅうでん教育大賞」

選考総評

選考委員長 寺本 潔 (公立大学法人名桜大学 特任教授・玉川大学 名誉教授)

コロナ禍が一定の収束を見せ、学校現場に平常が戻ってきた。そのおかげもあり、本年は79本もの論文応募を得た。1次、2次と二回の審査会を経て、本年の教育大賞は次の学校の教育実践論文に授与されることが決定した。長野市立七二会小学校の西澤浩教諭が取組まれた「お蚕様の生糸と紡いだ4年間の総合的な学習の時間―養蚕とシルク灯籠作りで児童は何を学んだか?-」である。一読すると素晴らしく一種のドラマ性も感じる教育実践に仕上がっていることが分かった。山間地の小規模校という利点も活かされ、養蚕というこの地域に遺伝子のように記憶に残る生業を扱った点も成功の背景にあると推察できる。蚕の世話を支えた住民や先人の知恵にクローズアップできているからだ。さらにシルク灯籠という生糸の活用に挑んだ後半の記述も読みごたえがあった。灯籠の「美しさ」が有する教育力が存分に発揮されている。欲を言えば指導内容の評価に関する説明や児童の態度変容の詳細がもう少し欲しかった。非認知能力の育ちを大事にされており、信濃(の教育)らしさを感じた。4年児童が綴った「ぼくたちの勉強のために命をなくしたお蚕さん、ありがとう」との一言に感銘を受けた。

次に二本選定される教育優秀賞は、どちらも保健体育科の実践論文となった。一本は、さいたま市立大宮国際中等教育学校の加藤俊介主任による「転移学習を導入した保健体育のカリキュラム作成とその効果検証の試み」と題された実証性に富む面白い体育の実践である。単元ごとの状況設定が実にバリュエーションに富んでおり工夫が感じられた。ただし構成の中で「3.PLAN」の記述がやや冗長となり、その分「4.DO」の実践に関する記述が遅く登場する構成になっており、工夫を要すると感じた。知識の構造化による転移に焦点が当てられ「個人」で行われた転移の例も分かりやすかった。とりわけ生徒自身が呼吸・軸・リズムなどの観点に気づく結果は素晴らしい。転移すべき原理原則を生徒自身が見出しており、新規性や独自性も感じられる優れた実践である。

もう一本の教育優秀賞は、岡山市立芳明小学校の中安翼教諭による「持続可能な体育授業を実現するための教具づくり―教師も子供も前向きに体育を楽しめる学校を目指してー」が選ばれた。体育指導の教具扱いに関する工夫が秀逸である。とりわけ、ビブスや音が鳴るコーン、ペットボトルネット、踏み切りの滑り止めシート、立体コート図等、多種にわたる教具の効率的な運用は汎用性に富んでいる。体育授業での片付けの効率化についても実は大事であり、実効性ある指導の知見がつまっている。教育理論の観点では特に新規性のある研究とは言えないものの、指導技術的な観点での工夫や努力は素晴らしい。児童の生き生きとした動きや声を動画でも確認できた。指導の確かな効果が認められる。

惜しくも上記の賞には達しなかったものの、教育奨励賞として10本の論文が北は青森県、南は沖縄県から選定された。いずれも児童生徒の変容が実証的に語られ、優れた教育効果に結実した実践であった。ICT活用や医療機関と連携した特別支援、郷土料理、オペレッタづくり、演劇的手法、算数の単元内自由進度学習、環境教育(バイオ装置)等、多岐にわたる内容が選ばれた。今後に向けて教育実践のさらなる発展を奨励したい。詳しくは入賞結果一覧を参照されたい。

選考委員からのアドバイス

【よりよい論文作成に向けて】

本財団の「教育大賞」で求めている論文は、授業実践を中心にしつつ、リアルな子どもの学びを深めた教育論文です。たとえ優れた教育実践でも、その論文としての書き方や表現方法が不十分なため、予備審査の段階で選考に漏れてしまうことがあります。そこで、応募にあたって次の4点を特に留意して作成ください。

1
学校研究として行った全体的なテーマをそのまま題目にしたり、単に実践を記録的にまとめるのではなく、単体の論文として題目や論旨・構成を工夫する。
2
実践した教育活動をすべて書き出すのではなく、テーマに即して最も主張したい内容を絞り込み、学校や学級ならではの独自性を描き出す。
3
提出する論文の文字数・ページ数(写真、図表などのスペースも含まれることに注意)や添付資料の規定を厳守する。また、子ども達のノート等を使う場合はできるだけクリアな印字や写真で作成する。
4
参考、引用文献がある場合は、論文の最後に必ず明記する。

以上の留意点を念頭に立派な教育論文が全国から応募されることを願っています。

入賞者一覧

応募総数:79件 受賞論文:教育大賞1件、教育優秀賞2件、教育奨励賞10件

(都道府県コード順、敬称略)

受賞内容 都道府県 学校名 研究題目 受賞者
教育大賞 長野県 長野市立七二会小学校 「 お蚕様の生糸と紡いだ4年間の総合的な学習の時間 」
〜 養蚕とシルク灯籠作りで児童は何を学んだか? 〜

えるふVol.35にて紹介

西澤 浩
教育優秀賞 埼玉県 さいたま市立大宮国際中等教育学校 転移学習を導入した保健体育のカリキュラム作成とその効果検証の試み

えるふVol.36にて紹介

加藤 俊介
教育優秀賞 岡山県 岡山市立芳明小学校 持続可能な体育授業を実現するための教具づくり
〜 教師も子供も前向きに体育を楽しめる学校を目指して 〜

えるふVol.36にて紹介

中安 翼
教育奨励賞 青森県 弘前大学教育学部附属小学校 生活や社会の中の形や色などと豊かに関わる資質・能力を育てる一人一台端末の活用について 八嶋 孝幸
教育奨励賞 新潟県 長岡市立新町小学校 舌小帯短縮症を抱える児童への構音指導のあり方 〜 医療機関や外部指導者と連携した支援による児童の変容を通して 〜 高松 敏之
教育奨励賞 新潟県 新発田市立御免町小学校 郷土への愛着と誇りを育てる! 「 郷土料理 『雑煮』」 の学習を中核とした主体的な探究活動の実現 〜 町おこしイベント「城下町しばた全国雑煮合戦」への参画を通して 〜 河本 朋也
教育奨励賞 新潟県 妙高市立妙高高原中学校 地域の魅力発信プロジェクト型学習と、生成的に学ぶ子どもの姿から見えるもの (前任校:柏崎市立北条中学校での実践) 上山 晃平
教育奨励賞 静岡県 吉田町立自彊小学校 子供が自分の思いをもち、主体的に取り組む音楽授業を目指して 〜 地域と結び、地域の材を生かした小学校2年生オペレッタづくりの実践 〜 (前任校:牧之原市立地頭方小学校での実践) 髙橋 順子
教育奨励賞 愛知県 長久手市立南中学校 パートナーシップで創造する循環型の地域社会を目指して
〜 MEGURU - BIO と小型バイオ装置でつなぐ小中連携教育 〜
松本 咲子
教育奨励賞 兵庫県 伊丹市立鴻池小学校 小学校における演劇的手法の持ち味を活かした授業への挑戦
- 言語的なやりとりだけで終わらない学びの可能性を考える -
塩家 崇生
教育奨励賞 島根県 島根大学教育学部附属義務教育学校 前期課程 個別最適な学びを実現する小学校算数における授業づくり
〜 自己調整しながら学ぶ力を育むUDLの視点を取り入れた単元内自由進度学習 はじめのいっぽ 〜
中尾 祐子
川谷 のり子
赤木 信介
教育奨励賞 香川県 まんのう町立長炭小学校 経験者の語りに学ぶ 「不登校支援メソッド」の開発
- 香川県における小学校の事例を中心として -
山内 秀則
教育奨励賞 沖縄県 渡嘉敷村立渡嘉敷小中学校 学校給食とICTを活用し地域への愛着を育む交流学習の実践
- 昆布ロードをテーマに利尻と渡嘉敷徒歩 528 時間をつなぐ -
玉城 恵子
小野 彩加
藤本 勇二

各賞の副賞は教育大賞50万円、教育優秀賞20万円、教育奨励賞5万円

以上

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