1. トップページ >
  2. ちゅうでん教育大賞 >
  3. 「第21回ちゅうでん教育大賞」選考結果

しかく2022年度「第21回ちゅうでん教育大賞」

選考総評

選考委員長 寺本潔(東京成徳大学特任教授・玉川大学名誉教授)

本年も先生方のご努力により、新型コロナ禍による様々な制限の下でも教育活動を欠かすことなく優れた実践論文が提出された。今年度の教育大賞は奈良市立平城小学校で実践された「SDGsの達成に資するオンラインによる学校間交流学習-奈良と屋久島で行うESD環境教育の授業実践―」が選ばれた。この実践は、奈良市の小学校と鹿児島県の屋久島にある小学校の交流学習の成果を綴ったもので、地元奈良市を流れる川と屋久島の川とでは人々の生活との関係にどのような違いがあるのか、川のごみ調査の比較から、川と海はつながっている、川に流れこむプラスチックごみを減らすため「プラスチックをなるべく使わない生活」を軸に環境への意識変革と行動化に成功した内容であった。子どもの社会参画論で国際的にも評価の高い米国の環境地理学者であるロジャー・ハートの「参画のはしご」理論を手掛かりに、しっかりとした対話による問いの醸成が達成されている。問題解決学習のステップを着実に踏まえつつ、児童の行動の変容が対面でなくオンラインでも実現できた点は汎用性の面からも注目できる。奈良市と屋久島は同じ世界遺産地区であり、世界遺産学習の交流会でも接点があったことは、本実践を展開する上で好条件でもあった。地元の河川から地球環境にまで課題意識を拡大できた点もSDGsな教育のモデル授業として高く評価できよう。さらに嬉しいことに、本論文と後述する鉾田南中学校の実践が前年度の本財団による教育振興助成を受けて実施された教育活動をもとに執筆されている点も付記しておきたい。
続く、優秀賞には中学理科の分野で「新しい生活様式における魅力ある『主体的・対話的で深い学び』の理科授業―虹の発生条件を実感できる探究学習の実践―」並びに「協働的な学級文化を共創した仲間たちに感謝の思いをもち、半歩先の未来に向けて前向きな展望を抱く児童の育成-3つのフィードバックモデルの考え方を援用した学級集団架橋プログラムを通して―」の二本が選ばれた。
前者は、虹の発生に対する生徒の好奇心を引き起こし、実験→役割分担→記録・プレゼンテーションと見事な指導の過程を経て、探究学習の面白さを味わわせ、生徒の主体性と対話を生む授業が実現できている。屈折や反射のメカニズムの解明にアプローチできており、しかも生徒たちの前向きで楽しく学習に勤しんでいる様子も伝わった。
後者は、学級づくりに関し多様な思考ツールやバックキャスティング等の思考法を積極的に取り入れ、児童のキャリアパスポートへの利活用にもつながった学級活動の実践である。「理屈と直感の食い違い」「め・だ・ま会議」「道徳と学級活動の往還型の学習」等を着眼点として設定し、小学6年生らしい質の高い変容も見られた。学級経営の方法論としてもユニークである。いずれの論文も児童・生徒自身の理解や合意といった内面にまで学習活動が影響を及ぼし、本教育大賞が期待する方向性と合致する内容であった。
惜しくも上位3位には入らなかったものの、今後の発展が期待できる9本の教育論文に奨励賞が授与された。それらは、研究的な小学校理科単元学習や遠泳に挑戦した特別活動、図と数直線を活用した算数授業、まちづくり意識に向かわせた中学家庭科(住居領域)、うなぎ養殖の不振という地域課題の探究に励んだ小学3年生、新城という同じ地名を話題にドイツの学校と英語での動画交流が成功した中学校、英語の授業が好きだと思える環境づくりと教材開発、タブレット活用による通級学級による障害理解教育、岡山市の身近な歴史資料の現代語化を通した中学総合の自校化といった多種多様なテーマに及ぶ実践となっている。
新型コロナ感染症の3年間にも及ぶ拡大により児童・生徒たちの学びの損失は甚大なものになっているが、オンラインを駆使しながら質の高い教育に挑んでおられる現場教師の方々のご努力を本審査を介して実感した。敬意を表したい。

選考委員からのアドバイス

【よりよい論文作成に向けて】

本財団の「教育大賞」で求めている論文は、授業実践を中心にしつつ、リアルな子どもの学びを深めた教育論文です。たとえ優れた教育実践でも、その論文としての書き方や表現方法が不十分なため、予備審査の段階で選考に漏れてしまうことがあります。そこで、応募にあたって次の4点を特に留意して作成ください。

1
学校研究として行った全体的なテーマをそのまま題目にしたり、単に実践を記録的にまとめるのではなく、単体の論文として題目や論旨・構成を工夫する。
2
実践した教育活動をすべて書き出すのではなく、テーマに即して最も主張したい内容を絞り込み、学校や学級ならではの独自性を描き出す。
3
提出する論文の文字数・ページ数(写真、図表などのスペースも含まれることに注意)や添付資料の規定を厳守する。また、子ども達のノート等を使う場合はできるだけクリアな印字や写真で作成する。
4
参考、引用文献がある場合は、論文の最後に必ず明記する。

以上の留意点を念頭に立派な教育論文が全国から応募されることを願っています。

入賞者一覧

応募総数:44件 受賞論文:教育大賞1件、教育優秀賞2件、教育奨励賞9件

(都道府県コード順、敬称略)

受賞内容 都道府県 学校名 研究題目 受賞者
教育大賞 奈良県 奈良市立平城小学校 SDGsの達成に資するオンラインによる学校間交流学習 〜奈良と屋久島で行うESD環境教育の授業実践〜

えるふVol.29にて紹介

新宮 済
教育優秀賞 茨城県 鉾田市立鉾田南中学校 新しい生活様式における魅力ある『主体的・対話的で深い学び』の理科授業 〜虹の発生条件を実感できる探究学習の実践〜

えるふVol.29にて紹介

窪谷 理
教育優秀賞 愛知県 豊橋市立二川小学校 「協働的な学級文化を共創した仲間たちに感謝の思いをもち、半歩先の未来に向けて前向きな展望を抱く児童の育成」 〜3つのフィードバックモデルの考え方を援用した学級集団架橋プログラムを通して〜

えるふVol.30にて紹介

水流 卓哉
教育奨励賞 秋田県 男鹿市立船越小学校 卒業論文の要素を生かした小学校理科の単元開発 〜第6学年 「自然環境との関わり方について考えよう」の実践を通して〜 髙橋 健一
教育奨励賞 新潟県 長岡市立表町小学校 心身の発育を目指した「海の学校」の実践 〜海での遠泳2000m を目指した5年生の思考と様相を通して〜 水谷 徹平
教育奨励賞 富山県 南砺市立福光中部小学校 自分にとって最適な学びを計画・実行する力の育成 〜算数科における自啓教育の実践を通して〜 佐々木 暁
杉本 愛華
教育奨励賞 愛知県 長久手市立南中学校 主体的に地域の一員として活躍する生徒の育成 〜学校と地域との協働に視点を当てた家庭科学習〜 松本 咲子
教育奨励賞 愛知県 西尾市立一色東部小学校 地域の課題を探究する総合的な学習の時間の取組 〜人・もの・こと に関わる横断的・総合的な学習を通して〜 中村 恵美子
中内 悦子
牧野 祥子
教育奨励賞 愛知県 新城市立新城中学校 英語でのやりとりを楽しむ生徒の育成 〜「NEWCASTLES OFTHE WORLD」を柱とした場の工夫を通して〜 今泉 太希
鈴木 友絵
教育奨励賞 奈良県 奈良市立帯解小学校 英語を話すことが好きな児童の育成 〜環境作りと効果的な音読教材の開発を通して 頃橋 真也
教育奨励賞 奈良県 大和高田市立浮孔西小学校 通級指導担当教員が実施する通常学級における障害理解教育の一実践 〜通級指導教室に通う児童が自身の学習を学級の友達に紹介する活動を通して〜 安里 健志
教育奨励賞 岡山県 岡山市立福浜中学校 コミュニティスクールの機能を生かした学校課題解決マネジメントの実践 〜「社会に開かれた学校」による授業改善と生徒指導の充実に向けて〜 藤枝 茂雄

各賞の副賞は教育大賞50万円、教育優秀賞20万円、教育奨励賞5万円

以上

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /