2025年9月発行

「Japan Energy Summit 2025」参加報告 -エネルギー市場でのメタン排出削減へ向けた産学官連携の場で-

  • 木村裕子(地球システム領域 高度技能専門員)
  • 岡本祥子(地球システム領域 主任研究員)

国立環境研究所(NIES)は、2025年6月18日から20日にかけて東京ビッグサイトで開催された「Japan Energy Summit 2025」に参加しました。本イベントは、東京ガスおよび株式会社JERAによるホストスポンサーのもとに開催され、「エネルギーの安全保障」と「持続可能性」をテーマに国内外のエネルギー分野のリーダーによる議論がなされました。その背景のひとつには脱炭素化への動きをうけたLNG(液化天然ガス)活用・クリーンエネルギーの導入があります。本イベントの展示会では天然ガス・LNG技術、水素・アンモニア、低炭素ソリューション、港湾・海運、再生可能エネルギー、エネルギー効率、デジタル化・AIなど、エネルギー市場全体の現在地を垣間見ることができました。

NIESは、このイベントで独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)のブースにて展示を行いました。JOGMECは資源・エネルギーの安定的かつ低廉な確保を目的として、カーボンニュートラル社会の実現に向けて幅広い分野で事業を推進しており、本ブースでは主要な温室効果ガスの1つであるメタンの排出削減の取り組みがテーマでした。メタンは天然ガスの主成分のため、その適切な現状把握が排出削減につながります。NIESでもGOSATシリーズ衛星(注1) によるメタン濃度観測を2009年から継続し、GOSATデータを用いた排出量推定等を実施していることから、JOGMECのブースで展示を実施する運びとなりました。

NIESは、GOSATシリーズの紹介ポスター(衛星観測センター作成)、GOSAT-GW打ち上げ告知ポスター(注2) 、3Dビジュアライザー(環境省・株式会社バスキュール提供)、書籍『ここが知りたい温暖化』(地球システム領域提供)(注3) 、等を展示しました。なかでも立体的な映像でGOSAT観測を元にした世界の温室効果ガス(greenhouse gas; GHG)濃度を把握できる3Dビジュアライザーは来場者の関心を集めていました。
(NIES以外には、コニカミノルタ、旭化成エレクトロニクス、日揮等の企業も出展していて、それぞれ盛りだくさんな内容でした。)

GOSATに関心のある来場者と歓談する梅澤主任研究員(写真左)
GOSATに関心のある来場者と歓談する梅澤主任研究員(写真左)
GOSATシリーズの紹介ポスター
GOSATシリーズの紹介ポスター
3Dビジュアライザー
3Dビジュアライザー

この展示ブースの半分はセミナースペースになっており、一日に最大7枠の講演を行うことができました。NIESからは岡本祥子主任研究員と梅澤拓主任研究員、大阪公立大学からは植山雅仁准教授により講演が行われました。

岡本主任研究員は「GOSAT-series: methane observation, policy implications, and international cooperation」というタイトルで、GOSAT及びGOSAT-2で観測されたメタン濃度の分布や傾向、打ち上げが予定されていたGOSAT-GWで期待されるデータ、現在準備中の日本GHGセンター(仮称)(注4) の紹介を行いました。

梅澤主任研究員、植山准教授は「What measurements tell us about methane emissions in cities?」というタイトルで講演を行いました。エネルギー部門によるメタン放出は当イベントとの関連も深いことから、気候変動におけるメタンの役割やメタン放出削減のための国際的な取り組みを取り上げ、特に、大阪の都市部で展開しているメタン放出把握のための観測研究については具体的事例も含めて紹介しました。

岡本主任研究員の講演
岡本主任研究員の講演
梅澤主任研究員の講演
梅澤主任研究員の講演
植山准教授の講演
植山准教授の講演

講演が始まると会場の空気も活気が溢れ、時に笑いもあり、来場者も思わず足を止め講演に聞き入る様子がみられました。都市部での実際のエネルギー利用とそれに伴うメタン放出がどのように観測されるかという最新の科学研究の成果は、来場者の関心にも一致する面が多いように見受けられました。

普段は科学系の国際会議・イベントへの参加が多いNIESですので、今回のような民間企業を中心としたイベントへの参加は前例の少ない試みであり、試行錯誤がありましたが、JOGMECをはじめ環境省、講演者の皆様のご協力を得て貴重な機会となりました。関係者の皆様には心より感謝申し上げます。

JOGMECのみなさんと谷本地球システム領域長(写真左から2番目)
JOGMECのみなさんと谷本地球システム領域長(写真左から2番目)
木村 裕子
KIMURA Hiroko
高度技能専門員|地球システム領域
岡本 祥子
OKAMOTO Sachiko
主任研究員|地球システム領域
連載
アーカイブ
過去の連載記事