いきいきミュージアム

2025年11月28日

市民とつながり、ふるさとまるまるが博物館(後編)

南アルプス市教育委員会文化財課 保阪太一



前回に引き続き、南アルプス市の取り組みをご紹介します。

「ふるさと〇〇博物館〜掘り起こし・育み・伝えるプロジェクト〜」

平成29年、「ふるさと〇〇(まるまる)博物館」というプロジェクトを開始しました。 博物館と言っても、普段のモノを展示する施設や館を指すものではなく、市内のあらゆる歴史資源や遺跡、人をつないで市全体を博物館とみなすもので、身近で何気ない歴史資源を市民や子どもたちと共に掘り起し、アーカイブして発信していこうというプロジェクトです。

民具やアルバム、思い出話などから見えてくる個人や家族のヒストリーを大切にしており、これらをつなぐことで「地域らしさ」を語るストーリーが見えてくるものと考えています。その活動の過程で歴史資源や地域を誇る「人」を顕在化させ、魅力ある地域とすることを目指しています。

ふるさとしろまるしろまる博物館のイメージ

ふるさとしろまるしろまる博物館のイメージ

活動のなかでは、高齢者の記憶や経験は地域にとっての大切な資源と考えており、各家庭や高齢者の集まるサロンなどを訪れ、「思い出話(オーラルヒストリー)」を優先して聞き取り、動画で記録しています。聞き取りにはスタッフだけでなく学生や小学生も参加しており、世代を超えた交流のなかで地域の記憶を引き継ぐことも大きな意味があると考えています。

高齢者サロンなどで、昔の近所の写真を見ながら思い出話を聞き取る。

高齢者サロンなどで、昔の近所の写真を見ながら思い出話を聞き取る。

小学生の質問に笑顔で答えたり、また事前に準備したりと、高齢者のみなさんも嬉しそうに前向きに取り組まれている。

小学生の質問に笑顔で答えたり、また事前に準備したりと、高齢者のみなさんも嬉しそうに前向きに取り組まれている。

瞳を輝かせながら半径30mを誇らしく語る市民で溢れさせたい

蓄積させたデータの活用を促進する目的で、東京大学大学院の渡邉英徳教授の研究室と共同研究を行い、デジタルアース上に歴史資源であるモノ・コト・人の記憶を配置した「〇博アーカイブ」も製作しています(H29・30)。

語り部は市民全員、高齢者の記憶はこのデジタルアーカイブの中で語り続けるのです。

「〇博アーカイブ」

https://archives.maruhakualps.jp/

「〇博アーカイブ」。平成30年の公開時には200件程だったコンテンツは現在1100件以上に。

「〇博アーカイブ」。平成30年の公開時には200件程だったコンテンツは現在1100件以上に。

見切り発車での展示・公開が情報・資料の更なる収集に

他方で、実物を展示するふるさと文化伝承館は、「ふるさと〇〇博物館」プロジェクトの拠点施設として機能しています。地域から寄贈された資料はデジタル化して「ふるさとしろまるしろまる博物館」で公開するほか、ふるさと文化伝承館の企画展示として期間限定で内容を入れ替えながら展示公開しています。

企画展では、詳細な情報が揃う前の資料であっても、敢えて展示することがあります。情報の足りない資料をあえて展示することで、むしろその資料への情報が住民から寄せられることが多くあるからです。広報誌での紹介や「文化財課のお手伝い」で伺う地域での講座も同様で、素直に「情報求む!」とすることで情報が集まってきます。私たちにとって展示や地域での講座は住民とのコミュニケーションや聞き取りのための大切な場でもあるのです。

左_探してる表
右_探してる裏

チラシ「文化財課が探している」。地域の歴史資料となりうるものを具体的にお伝えすることで、廃棄前に連絡を頂くことが増えました。

今年の企画展は「ぼこ」(甲州弁で「子ども」)をテーマにしました。展示の中心となったのはあるお宅の蔵にあった「絵日記」です。昭和26年当時の小学3年生の目から見た地元の風景や暮らしの様子が活き活きと描かれています。絵日記は、絵と文字の情報を併せ持ちますから、当時の地域を語る生の声として大切な資料と言え、優先的に収集しています。

テーマ展「にしごおりのぼこんとう」の絵日記展示の様子。

テーマ展「にしごおりのぼこんとう」の絵日記展示の様子。

情報にたどり着きやすくするために

こうした展示や資料を常に皆さんに知っていただけるよう、多様な手法で情報をオンライン公開することに注力しています。

博物館の展示室を丸ごと3Dにして企画展の終了後も公開したり、普段展示できていない民俗資料や考古資料の3Dデータを公開したりする取り組みを開始したのは、博物館資料の情報にたどり着きやすくし、図書館のように資料を「探して読む(使う)」ことを簡単にできるようにすることで、市民にもっと歴史資源を活用していただけると思うからです。

バーチャルミュージアム

https://103.route11.jp/?ms=2&mc=54

バーチャルミュージアムの一場面。その資料に関する各データへのリンクを集約している。

バーチャルミュージアムの一場面。その資料に関する各データへのリンクを集約している。

ふるさと〇〇博物館

https://maruhakualps.jp/

「文化財Mなび(バーチャルミュージアム)」「〇博アーカイブ」「〇博アーカイブ by ぼこ(kids)」の3つのサイト画像

〇〇博物館のホームページは「文化財Mなび(バーチャルミュージアム)」「〇博アーカイブ」「〇博アーカイブ by ぼこ(kids)」の3つのサイトからなっている。昨年度は約72万件のアクセスがあった。

当館『みなみアルプス市ふるさと文化でんしょう館』の愛称は「み・な・で・ん」です。これからも市民の「み・ん・な・で」つくり上げていける博物館でありたいと考えています。

ふるさと文化伝承館

山梨県南アルプス市野牛島2727「湧暇李の里」内

https://www.city.minami-alps.yamanashi.jp/sisetsu/shisetsu/bunkazai-densyokan/別ウィンドウが開きます

利用時間
午前9時30分〜午後4時30分
休館日
毎週木曜日(この日が祝日の場合は開館し、翌平日が休館)、年末年始
利用料金
無料
アクセス
【車利用】 高速道路利用の場合
・中部横断自動車道「白根インター」下車。国道52号線(側道)を北上。
・「湧暇李の里西」交差点を右折して300m。「湧暇李の里」内。
甲府方面から一般道利用の場合
・県道甲斐・芦安線の信玄橋を渡り、山梨中央銀行前の信号を右折。
・600m先「樹園」案内板を右折してすぐ。「湧暇李の里」内。

【公共交通機関利用】
・JR中央線甲府駅下車。山梨交通バスターミナル芦安方面行きバス「野牛島」下車、徒歩10分
・JR竜王駅よりタクシーでおよそ10分

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