・200001:2000年(平成12年) 有珠山噴火災害
【概要】
(1)被害の概要
有珠山噴火災害では、最大で15,815人が避難指示・勧告の対象となったものの、噴火前に迅速な避難が行われたこと等により人的被害はなかった。その後火山の活動状況を見ながら順次避難指示・勧告は解除され、7月28日には、202世帯378名を除き避難指示・勧告は解除された。
電気、水道、電話、下水道、道路、鉄道、文教施設等は、火山噴火による地殼変動や泥流等により、大きな被害を受けた。電気・水道・電話については、延べ3,065戸が停電、延べ5,085戸が断水となったほか、商用電源の停電によりNTTビルが運用停止するなどの被害が発生した。下水道については、下水道トンネルが破壊され、洞爺湖温泉地区の下水処理ができなくなるなどの被害を受けた。道路については、道央自動車道、国道230号、国道453号等が地殼変動や噴石・泥流等による被害を受けたほか、多数の主要幹線道路が通行止めとなった。特に一般国道230号は本線上に噴火口が発生するなど、大きな被害を受けた。鉄道も火山活動の影響により、室蘭本線が線路屈曲等の被害を受けたほか、運転休止や臨時ダイヤ運行を余儀なくされた。また、小学校、中学校、高等学校等の文教施設も亀裂や泥流流入等の被害を受けた。
表1 市町村別被害総額 [単位:千円]
写真1 西山火口(2000年3月31日13時07分噴火)
表2 項目別被害額 [単位:千円]
(2)災害後の主な経過
噴火後の主な経過と災害対策本部の設置状況を以下に示す。
表3 噴火の概要と経過
表4 北海道・市町村の災害対策本部の設置状況
【参考文献】
1)北海道『2000年有珠山噴火災害・復興記録』平成15年3月。
2)内閣府『平成13年版 防災白書』。
3)内閣府『有珠山噴火について』平成15年9月19日。
4)内閣府『有珠山噴火災害教訓情報資料集』。
○しろまる国・道・市町の推進体制
国・道・市町では、以下のような流れで復旧・復興対策が行われた。
○しろまる災害初動期は、避難所対応などの応急活動が中心になるため、本来復興業務を担当する部署もどうしてもその体制づくりなどが遅れがちになった。
○しろまるそのような状況の中で、職員の間で留意されたことは、避難所対応を行っている中でも、常に自分の問題意識や役割を自覚し、被災者が何を求めているかなどに注意し、その後の生活再建や復興業務への取り組みにも反映していけるよう心がけた。
○しろまる復興対策室の役割としては、単に被災した施設を復旧するだけではなく、将来の噴火においても被害が少なくてすむような災害に強いまちづくりを進めることであると考えている。
○しろまるそこで有珠山の特性である噴火の周期性(20〜30年周期の噴火)や、活火山のふところ内に形成されている市街地を将来の噴火に備え、被害をできるだけ少なくするため、火山防災マップに基づく危険度の高い地域から安全な地域へ移転していただくための仕組みづくりを検討している。
○しろまる特に、生活の基盤となる住宅を噴火災害から守ることを狙いとした住宅移転支援(住宅建設費等補助、住宅移転費補助、移転跡地の買上)を道と1市2町の独自単独事業として制度化する方向で進めており、この制度が移転希望者に広く活用されることにより、将来の噴火災害の軽減につながることを期待している。
○しろまるなお、病院、学校、社会福祉施設などの災害弱者施設については、既に安全な地域での再建が進んでいる。
○しろまる復興方針
復興に当たっては、具体的な復興計画の立案に先立ち、地域の現状などを整理し、有珠山周辺地域の復旧・復興に向けた基本的な方向性を明らかにした。
●くろまる2000年有珠山噴火災害復興方針(抜粋)(平成12年12月策定)
○しろまる復興計画基本方針の概要
平成12年12月に策定した復興方針に基づき、北海道が広域な観点から復興の方向性と施策の概要を示したもので、伊達市・虻田町・壮瞥町が策定した復興計画の基本となったものである。
●くろまる2000年有珠山噴火災害復興計画基本方針(平成13年3月策定)
復興事業の実施 ○しろまる復興方針:北海道が策定する復興計画基本方針の基礎となるもので、伊達市、虻田町、壮瞥町が策定する復興計画の方向性を示すもの(北海道が策定) ○しろまる復興計画基本方針:北海道が広域的な観点から復興の方向性と施策の概要を示すもので、伊達市、虻田町、壮瞥町が策定する復興計画の基本となるもの(北海道が策定) ○しろまる復興計画:復興対策のための市町が策定する計画 (2)施策体系地域が有する火山資源、優れた景観を生かした、災害に強い、活力のあるまちづくりを進めるため、次の5つの目標を施策の柱として施策を体系化し、それぞれの施策の推進を図ることとする。 <目標> 1より安全を目指した土地利用を図り、将来の噴火による被害が最小限になるように努める 2土砂災害の防止を図るとともに、過去の噴火から将来の噴火を想定し、災害に強い地域づくりを進める 3住民と行政が手を携えて、安全で快適なまちづくりに取り組む 4噴火を繰り返す「有珠山」を日頃からよく理解し、自らが行動できる環境づくりをより一層進める 5安全性を確保しながら、火山資源などを生かし、地域産業の再生を図る
【参考文献】
1)北海道『2000年有珠山噴火災害・復興記録』平成15年3月。
・災害広報臨時号は噴火の年の10月2日まで105号が発行された。
・避難所が30数ヶ所、7市町村に及び、本部からの通信網はFAXでの対応となった。
・報道関係への記者発表と同時に避難所へのFAXで通信されたが、FAX1台で30数ヶ所へ順に送信されるので時間がかかり、本部からの情報がマスコミより遅くそのトラブル対応で、他の業務に支障をきたした。
・2000年有珠山噴火で大きな被害を受けた虻田町では、道庁・金融機関・ハローワーク・社会保険庁などの関係機関が一ヶ所に常駐する相談窓口が開設された。
・災害時においては商売が出来なくなり資金繰り、返済などの金融問題が発生する。これらの問題解決に既往借入金の借り換え対策と低利融資施策が必要である。また、融資対策だけではなく雇用問題・社会保険などといった関連問題も発生する。これらに対応するため、道庁・金融機関・ハローワーク・社会保険庁などの関係機関が一ヶ所に常駐する相談窓口が開設された。
・これは当初、被災者の相談業務なども各種あり、その窓口が分散していると非常に不便を強いられるため、町が道に要望し、設置されたものである。
・その現場で決断できるよう各機関の管理職クラスが来ていたことも良かったとされる。
○しろまる噴火災害により避難を余儀なくされ、失業状態にある住民の雇用不安、生活不安の解消を図るため、緊急地域雇用特別交付金の弾力活用を図って臨時応急の雇用創出に努めた。
○しろまる緊急雇用事業は、とくに各種対策の中でも大きなウェートを占めており、ホテル・旅館の従業員などの需要が大きかった。
○しろまる災害が長引くにつれ洞爺湖温泉での雇用者のカットが始まりだすなど、避難所では多くの住民が失業状態となった。そこで、徐々に海上に指定された避難指示区域内での作業が認められ始めたホタテ養殖の作業に、国の失業対策である緊急地域雇用特別対策事業の活用を要請した結果、1漁家に5人の雇用が認められ失業対策とホタテ漁業の存続が可能となった。
○しろまる高級菜豆については把種作業の期限が迫ったことから、農作業の遅れを取り戻すために、避難指示の解除された農家に緊急地域雇用特別対策事業による雇用者と、援農ボランティアが活用された。
○しろまる上記の緊急地域雇用特別対策事業の他、酪農については、農協などが主体となって避難指示区域からの牛馬など延べ91頭の移動が行われた。酪農家は隣町の離農農家の畜舎を借りての飼育を行った。また、噴石や埋没農地では、復旧が進められたが、営農形態を変える必要が生じた。早急な復興を図るため、北海道の中では温暖な気象条件を活用した苺栽培に共同で取り組んだ。
○しろまる避難生活が長期化する可能性を懸念し、また、雲仙普賢岳災害で実施された食事供与事業に代わるものを実施すべきだという指摘も道議会でも出ていた。そこで、以下の「有珠山噴火災害生活支援事業」を実施した。(次頁参照)
表 有珠山噴火災害生活支援事業
○しろまる観光産業を中心とした地域経済が噴火前の状態に戻るには、しばらく時間がかかると思われることから、早期に地域経済の再生、復興を助長するため、「事業用に供する固定資産」について、一定の条件下において平成12年度に限り減免措置を実施する方針を固め、9月開催の第3回定例会で「平成12年有珠山噴火災害に伴う町税の減免に関する条例の一部を改正する条例(事業用固定資産税の減免)」の制定を行うこととした。
○しろまる減免は、事業収入の減収額に応じそれぞれ4/10及び7/10の軽減、並びに全部の免除を行うもので、17事業所3,497.1万円の減免が実施された。
○しろまる学校の再開
・4月7日には小中学校児童生徒870名のほぼ全員の所在を確認
・4月17日 豊浦町、長万部町の空き教室を借りて虻田町の学校として新学期をスタート
○しろまる再開に向けて生じた問題
・児童生徒の机、いすの用意(室蘭市教育委員会からの提供及び室蘭市トラック協会による搬入)
・学校の設備、備品の整備
・教科書・学用品の調達
・新1年生のランドセル
・スクールバスの用意
・就学援助
・学校給食
・教職員の住宅確保
・他市町村に避難している児童生徒の転入学
1)事業導入の経緯
○しろまる火山活動に伴う地殻変動により、家屋や公共施設に被害が発生し始めたことから、住宅移転が必要とされ、事業が導入された。その後の泥流の発生により移転の必要性の認識が高まった。
2)手続き等
○しろまる集団移転促進計画の策定にあたっては、地籍に変化があったが、再調査結果を待つ時間がないため、被災前のデータに基づき移転計画の策定を行った。実施計画にあたっては、その後地積調査を実施した。
3)事業対象者への対応
○しろまるまず初めに個別訪問による被災者の移転意向を把握し、その後、防災集団移転事業に関する計画案を住民へ提示した。計画案は住民の意向が反映された形であったため、その後の意向の集約は比較的容易にできた。
○しろまる高齢者からは経済的な問題から移転意向がほとんど得られなかった。
○しろまる移転促進地域からの移転戸数は21戸、その内、住宅団地へ移転したのは15戸。
○しろまる実施事業
1)農地等の買取り:畑、宅地、原野、山林の買取り
泉地区 畑 5,477.00m2
宅地 60,871.40m2
その他11,152.23m2
2)移転費助成
移転戸数152戸に対して助成
○しろまる事業費等
総事業費 355,697千円(補助対象354,805千円)
国庫補助 266,103千円(補助率3/4)
○しろまる被災箇所の調査
・下水道トンネルについて災害査定のための被害調査が必要だったが、調査ができない区間が残った。その区間については、温泉側入り口から試料を流し、出口側まで流れるかを調査した。調査用の試料には、無害で大量の水に希釈されても反応を確認できるものとして、蛍光染料のフロエッセンを用いた。
○しろまる仮想設計による査定
・調査の結果、現位置での復旧が困難なことから、変更について協議を進め、復旧期間を5年とし、また、調査設計・積算の時間がないことから仮想設計により査定を受けた。
○しろまる査定の留意点
・査定現場での対応、次の現場の準備、連絡係、査定設計書の指示事項の確認聞き取り等の作業があり、多めの人数を確保しておく。
○しろまる被災者の相談業務なども各種あり、その窓口が分散していると非常に不便を強いられるため、町は道に対して、できるだけ各分野の機能を集中させて欲しいと要望した。その結果、各種の相談が可能な窓口(金融や雇用など各分野の担当者による構成)が設置された。
○しろまる教訓:この相談窓口の体制ができただけでも被災者にとっては安心感を与えることになった。また、その現場で決断できるよう各機関の管理職クラスが来ていたことも良かった。
○しろまる虻田町が商工会を経由して委託した事業に、月浦の仮設住宅入居者を対象にした仮設店舗「Go Back 洞爺湖」の開設がある。商工会の照会を受けた「洞爺湖ニュースタンプ会」の業者16店が出資して、140戸の仮設住宅入居者の利便を考慮し、利益を度外視して開設した。プレハブの店舗は町が、陳列棚や冷蔵庫、レジ・カウンターなどは本町地区の商店が格安で提供した。店舗前にはベンチを置いて仮設住宅入居者の交流の場としたほか、月浦地区の利用者には商品の配達も行い、高齢者から喜ばれた。
○しろまる緊急雇用対策において北海道キャラバン隊派遣事業が実施された。
○しろまる道は、とくに観光誘致活動に力点をおき、宣伝活動を実施している。観光エージェントを呼んだりもしている。
○しろまる観光客数も戻りつつあるが、修学旅行については、まだ回復はおそい。また、観光客数は戻っても、客単価の落ち込みもあり経営的にはまだきびしい状況にあるといえる。
○しろまる北海道観光への影響緩和を目的とした観光キャンペーンの実施
・感動市場2000開催
・「温泉」冬季キャンペーン
・北海道デスティネーション(「ごちパラ北海道」)の実施
○しろまる修学旅行誘致
・道知事及び教育長連名による文書要請
・旅行エージェント修学旅行関係者の道内招聘
・修学旅行誘致団の本道派遣
○しろまる壮瞥町では、有珠山噴火非常災害現地対策本部の閉鎖にあたって次のような観光安全宣言を出した(平成12年8月11日)。
○しろまる壮瞥町(昭和新山・洞爺湖温泉・壮瞥温泉)観光安全宣言
・当町の観光産業再開にあたり、観光客の皆様に安心して来遊いただけるよう平成12年5月23日に「観光客の安全確保に関する指針(ガイドライン)」を策定し、避難マップの作成、避難誘導看板の設置をはじめ、各宿泊施設では避難訓練を実施する等「火山と共生する新しい防災観光地」づくりに取り組んできたところです。
・有珠山の活動は終息に向かいつつあり、壮瞥町昭和新山地区、洞爺湖温泉地区、壮瞥温泉地区については、ガイドライン策定時よりも、より一層、観光客の皆さまに安心して来遊いただける状況となりました。
・火山という自然エネルギーを体感していただける今が、有珠山周辺観光の魅力のひとつでもあります。ここに改めて安全を宣言し、多くの皆さまの来遊をお待ちいたしております。
〈エコミュージアム構想〉
・レイクトピア21推進協議会が、「洞爺湖周辺地域エコミュージアム構想」を平成14年3月に策定、6月に承認・公表
・西山火口散策路及びその周辺の整備
・壮瞥温泉にある噴火遺構旧病院跡を保存・活用した都市公園「1977年火山遺構公園」を計画
・西山川砂防施設に観光客等に防災施設の意義や火山噴火災害の脅威を伝えるための砂防えん堤を利用した展望広場等を計画
・洞爺湖周辺地域エコミュージアム構想における「火山の恵み」エリアの火山学習サテライトである旧国鉄胆振線鉄橋跡と壮瞥市街を結ぶ国道453号壮瞥歩道を計画〈国立公園等〉
・支笏洞爺国立公園に関する公園計画の変更による西山火口周辺地域の公園区域の拡張(平成15年2月28日告示)
・学識経験者及び関係行政機関による検討会を設置し、国立公園利用地域全体の構想基本計画について検討
・環境省では、全国で9番目の長距離自然歩道として「北海道長距離自然歩道」の検討を進めており、道も路線選定において関係機関と協議
〈壮瞥町弁景温泉地区〉
・新たな地域間交流の拠点となる施設「オロフレほっとピアザ」を整備(平成14年12月オープン)
〈新たな泉源開発〉
・虻田町が月浦地区で泉源開発。41.1°C、毎分36リットルの温泉が湧出しており、現在虻田町において利用計画を検討