・198601:1986年(昭和61年) 台風10号
【概要】
(1)被害の概要
昭和61年8月4日から5日にかけての、栃木県東部地域を中心とする「台風10号及びその後の低気圧」による集中豪雨は、栃木県内各地において中小河川の氾濫やがけ崩れ等をもたらした。特に茂木町においては、町の中心部を流れる一級河川逆川が5日未明に溢水氾濫し、市街部の大半が1.5mを越える濁流にのまれた。
台風10号被害は、茂木町をはじめ近隣の町を無残な姿に変え、未曾有の被害をもたらした。この災害による被害状況(確定)は以下のとおりである。
表1 台風10号の主な被害状況
台風10号による豪雨災害の特徴は、被害の集中した県東部の茂木町にみることが出来る。総雨量300ミリ以上の豪雨に見舞われた茂木町では、人口の集中している町中心部を流れる那珂川支流の逆川が急速に増水し、4日深夜溢水が始まり、5日未明には町全体が水没してしまった。このため、電気、水道、ガス、電話等のライフラインに壊滅的な被害をもたらし、死者も発生した。
このように予測しなかった豪雨により、中小河川が溢水し、町全体が水没し、町そのものの機能が完全に停止してしまい、外部から孤立してしまうという状態になったのが特徴といえる。
写真1 逆川の氾濫により水没した茂木町
(出典)栃木県『激流との戦い−昭和61年8月台風10号災害の記録−』昭和62年3月
(2)災害後の主な経過
8月4日、台風10号が関東地方に接近、5日午前中にかけて県内で大雨となる恐れがあるため、宇都宮気象台は13時10分「大雨・洪水注意報」を発表して注意を呼びかけた。
4日朝から降り続いた雨は、夜になって100ミリにも達し、5日朝までには平野部でも200ミリを超える所がある見込みとなったため、同気象台は20時30分「大雨・洪水警報」及び「強風注意報」を発表し、河川の氾濫、浸水、山崩れ、がけ崩れ等厳重な注意を呼びかけた。
これらを受けて栃木県は災害対策関係各課による警戒体制をとり、水防本部を設置して厳重な警戒にあたったが、被害の情報が続々と入り、ついに5日午前10時10分に災害対策本部を設置するに至り、第1非常配備により全庁をあげて災害対策を実施することになった。
表2 災害後の主な経過(栃木県の取組状況)
【参考文献】
1)栃木県『激流との戦い−昭和61年8月台風10号災害の記録−』昭和62年3月。
災害対策本部は、県が実施する復旧対策事業のガイドラインとして「栃木県台風10号災害復旧対策計画」を策定した。
表 災害復旧事業と担当部署(栃木県)
【参考文献】
1)栃木県『激流との戦い −昭和61年8月 台風10号災害の記録−』昭和62年3月。
○しろまる8月11日付け専決処分:緊急に措置すべき、災害救助法に基づく救助等、農業・商工業被害への融資等、道路・河川・農業用施設等の被害の内、早急に復旧が必要な工事等に要する経費について予算措置を行う。
○しろまる9月補正予算:本格的災害復旧のための所要経費を計上し、復旧に万全を期することとする。主要河川については、洪水痕跡、降雨解析等の調査を行うこととした。(94億1,770万6千円:補正予算の約53%を占めた)
○しろまる10月29日付け専決処分:天災融資法に基づく適用災害に指定されたことにより、これに要する経費を予算措置した。
○しろまる12月補正予算:昭和61年度中の災害復旧費がほぼ確定したことにより、補正を行った(55億1307万円:補正予算額の約71%を占める)
○しろまる2月補正予算:昭和61年度中の災害復旧額の確定により補正実施(6億9,197万6千円)
2) 市町村への普通交付税繰り上げ交付
○しろまる自治大臣(当時)宛に、被災市町村への普通交付税の9月交付額を繰り上げ交付できるよう申請。繰り上げ交付が決定されたことから、8月23日に現金交付を実施。
○しろまる計画概要
・全体計画延長L=5,800m(本川:逆川5,400m、支川:坂井川400m)
・計画高水流量510-390m3 /s、計画時間雨量78.9 mm/h
・逆川は、茂木町の市街地部を貫流するL=30.75kmの1級河川であり、栃木県では激特事業を初めて導入した河川改修事業である。河幅を約1.5倍に拡幅したため、用地買収は20,000m2 (地権者128人)、建物移転は約152件に上った。
・河川改修に合わせて、橋梁の改修や河川沿いの小公園の整備等、親水性の向上が図られており、また河川水の浄化活動等、河川を含めた様々なまちづくり活動が継続されている。
○しろまる計画作成/ 工事期間:昭和61年度〜平成元年度
○しろまる適用事業/ 事業費
・河川激甚災害対策特別緊急事業:84億2千万円
・河川災害復旧事業:42億8千万円
・小規模河川改修事業:10億円
・河川局部改良事業:9億円
・災害関連河川特別水害対策促進事業:4千万円 (計 146億4千万円)
○しろまる施工面積:5.76ha(河川を除く3.94ha)
○しろまる減歩率:28.24% 総事業費:15億円
○しろまる遊水池:宅地、水田等耕地160haを堤防で囲み、50万m3の貯留量を確保した。
○しろまる宅地:水田より5m嵩上げし、一箇所に集団移転を行った。水田等の耕地はそのまま地復権を補償している。まちづくりとして「環境協定」をつくり、ブロック塀の高さや花壇の作り方を規制し、調和のとれたまちなみとした。