晴れときどき展覧会

時を超えて輝き放つ"新時代"のデザイン アール・デコ100年展

ARTS & CULTURE
2025年12月09日

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ブシュロン 《ビーカーネールのマハラジャのバックルベルト》 1924年 ©Boucheron Private Collection

ブシュロン 《ビーカーネールのマハラジャのバックルベルト》 1924年 ©Boucheron Private Collection

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被害者になるのも怖いが加害者になるのも怖い。私は誰かを病ませていないか。そして私たちはなぜ病むのか。『弱さ考』

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2025年、大阪・関西万博が盛り上がりを見せましたが、時をさかのぼること100年。
1925年にパリで開かれた「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」は、「アール・デコ博」と呼ばれ、その様式はデザインや建築などに広がり、世界的に流行する一大ムーブメントとなりました。
そのアール・デコ博から100年を記念した展覧会「新時代のヴィーナス!アール・デコ100年展」が、大阪中之島美術館で2026年1月4日まで開催されています。テーマは「アール・デコと女性」。社会進出が進み、生き方が大きく変わっていった当時の女性像を多彩な作品で振り返ります。

展示室では、開放的できらびやかなアール・デコのファッションスタイルを堪能できる
展示室では、開放的できらびやかなアール・デコのファッションスタイルを堪能できる

20世紀前半に現れた美術様式 アール・デコ

「アール・デコ」は、フランス語の"Arts Décoratifs(装飾美術)"を略した呼び名です。同じく耳にする「アール・ヌーボー」も美術様式ですが、違いはなんでしょうか。

アール・ヌーボーは1890年頃に登場した様式で、華やかな色彩、植物のような曲線が特徴。日本でも人気の高い、ミュシャのポスターなどに代表されます。
いっぽうアール・デコはその後1920〜30年代に登場。直線や流線形を多用した幾何学的なデザインで、はっきりした色使いが印象的です。

展示室入り口。幾何学的で鮮やかなアール・デコのスタイルをイメージしたビジュアルが来場者を迎える
展示室入り口。幾何学的で鮮やかなアール・デコのスタイルをイメージしたビジュアルが来場者を迎える

アール・デコは特定の人物が提唱した運動ではなく、ヨーロッパだけでなくアフリカ、メキシコ、日本や中国などの東洋と、 古今東西多様な文化を取り入れ、国境を越えて広がった点も大きな特徴です。

ブシュロン 《日本の漆のコンパクトケース》 1921年 ©Boucheron Private Collection
ブシュロン 《日本の漆のコンパクトケース》 1921年 ©Boucheron Private Collection

本展の見どころの一つが、フランスの名門ジュエラー・ブシュロンによるアール・デコ期のコレクション26点です。1928年、インドのマハラジャが宝石の詰まった六つのトランクをパリの本店に持ち込み、149点のジュエリー制作を依頼した逸話が残っています。

この黄金色に輝くバックルも、別のインドのマハラジャのために作られた逸品。変わらぬ輝きでアール・デコ時代の美意識を現代に伝えます。

ブシュロン 《ビーカーネールのマハラジャのバックルベルト》 1924年 ©Boucheron Private Collection
ブシュロン 《ビーカーネールのマハラジャのバックルベルト》 1924年 ©Boucheron Private Collection

ロングからショートへ! 変わる女性の髪形とファッション

1918年まで続いた第1次世界大戦でヨーロッパは疲弊し、戦地へ赴いた男性に代わって女性の社会進出が進みました。 アール・デコの時代、女性のファッションスタイルに大きな変化が現れます。

アール・ヌーボー時代は、コルセットで体のラインを強調する窮屈なスタイル。しかしアール・デコでは、女性はコルセットから解放され、身体の線を強調しない、ゆったりとしたラインのドレスが登場します。ノースリーブからのぞく腕、短くなったスカートから出る脚には、バングルやファッショナブルな靴などが合わせられました。

コルセットから解放され、ゆったりとしたラインのドレスが並ぶ
コルセットから解放され、ゆったりとしたラインのドレスが並ぶ

髪形も、前時代のロングの巻き髪から一変して、アール・デコではショートヘアがトレンドに。首元に合わせるイヤリングやネックレスが流行しました 。

ショートカットの髪にメイクした女性が理想像として描かれたポスター。色彩がシンプルではっきりしているのもアール・デコ時代の特徴だ
ショートカットの髪にメイクした女性が理想像として描かれたポスター。色彩がシンプルではっきりしているのもアール・デコ時代の特徴だ

女性の外出の機会が多くなると、日常的なメイクの需要も増します。工業化により化粧品が普及し、つるんとした肌や、しっかりしたアイシャドーに口紅が流行しました。

また、大衆にも手の届くようになった香水も、 ネーミングのインパクトや瓶のデザインなどで競うようになります。当時の女性たちの理想像が描かれたポスターをはじめ、ドレス、ジュエリー、香水瓶、腕時計や懐中時計といった当時の流行アイテムが並びます。

ルネ・ラリック 香水瓶、パウダーボックス《ダリア》(手前) 1931年 ポーラ美術館 ドレスとともに、光を反射してきらめく
ルネ・ラリック 香水瓶、パウダーボックス《ダリア》(手前) 1931年 ポーラ美術館 ドレスとともに、光を反射してきらめく
ブシュロン 《懐中時計》 1930年 ©Boucheron Private Collection
ブシュロン 《懐中時計》 1930年 ©Boucheron Private Collection

スピードの時代と女性たち

また、この時代は自動車、飛行機、鉄道、船舶などの新しい交通手段や、電話やラジオなどの通信手段が誕生・発達したスピードの時代といえます。会場ではBMW社のクラシックカーが優美な曲線を描くボディーを輝かせ 、時代の新たな担い手となった女性たちの姿が宣伝広告のポスターを賑(にぎ)わせます。

優美な曲線を描くBMW社のクラシックカーも並ぶ展示室 ヒストリックカー BMW 315/1《ロードスター》(手前) 1935年 堺市 堺市ヒストリックカー・コレクション
優美な曲線を描くBMW社のクラシックカーも並ぶ展示室 ヒストリックカー BMW 315/1《ロードスター》(手前) 1935年 堺市 堺市ヒストリックカー・コレクション
鉄道会社やリゾート地などのポスター。交通機関の発達とともに人々の行動範囲が広がった
鉄道会社やリゾート地などのポスター。交通機関の発達とともに人々の行動範囲が広がった

アール・デコは、装飾様式を超え、人々に意識の変化ももたらしました。経済的な自立を果たした女性たちは、活動の幅を広げ、様々な趣味にも打ち込むようになります。

第4章では、乗馬やゴルフ、スキー、海水浴、テニス、スケートなど新たなレジャーを楽しむ女性を描いたポスターを中心に展示します。 水彩画のような柔らかな色づかいのマリー・ローランサンのポスターも人気です。

マリー・ローランサン 《パリの夜会》 1924年 サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)(右手前)
マリー・ローランサン 《パリの夜会》 1924年 サントリーポスターコレクション(大阪中之島美術館寄託)(右手前)
ゴルフや海水浴など、レジャーに誘う鉄道会社などのポスター。活動的な女性が描かれる
ゴルフや海水浴など、レジャーに誘う鉄道会社などのポスター。活動的な女性が描かれる

時代のスーパースター! ミスタンゲット

アール・デコ時代、パリのミュージックホールを沸かせた歌手で女優のミスタンゲット。 パリの街角を再現するかのように大型ポスターが展示室の壁にずらりと並ぶ光景は見応えがあります。

パリの街角を飾ったミスタンゲットの大型ポスターがずらりと並ぶ
パリの街角を飾ったミスタンゲットの大型ポスターがずらりと並ぶ

世界に広がるアール・デコ

アメリカはアール・デコ博には不参加でしたが、同時代に建てられていったニューヨーク・マンハッタンの摩天楼と呼ばれる高層ビル群は、アール・デコ様式のひとつの完成形ともいえます。
それはジュエリーデザインにも影響し、国境やジャンルを超えたアール・デコの広がりへつながります。第6章では、同時代のジュエリーと摩天楼の写真や映像を並べて展示し、共通する様式美を比べることができます。

ニューヨークの摩天楼の映像や写真とジュエリーが並ぶ第6章の展示
ニューヨークの摩天楼の映像や写真とジュエリーが並ぶ第6章の展示
壁一面にきらびやかなニューヨークの摩天楼の映像が映し出され、展示されたジュエリーのきらめきと呼応する
壁一面にきらびやかなニューヨークの摩天楼の映像が映し出され、展示されたジュエリーのきらめきと呼応する

アール・デコ100年を記念し、他にも三菱一号館美術館(東京・丸の内) や東京都庭園美術館(東京・白金台) でもそれぞれ服飾やジュエリーに焦点をあてた展覧会を開催しています。100年経っても色あせず輝きを放つアール・デコの世界。ぜひこの機会に浸ってみてはいかがでしょうか。

【開催概要】
新時代のヴィーナス!アール・デコ100年展
会期:2026年1月4日(日)まで、大阪中之島美術館(大阪市北区)で開催中 (注記)月曜と2025年12月30日(火)〜2026年1月1日(木)は休館
開場時間:午前10時〜午後5時(入場は午後4時30分まで)
観覧料:一般2,000円、高大生1,600円、小中生600円
問い合わせ:大阪市総合コールセンター(なにわコール) 06-4301-7285
展覧会公式サイト
展覧会公式SNS(X)

主催 大阪中之島美術館、朝日放送テレビ、朝日新聞社
協賛 ブシュロンジャパン

(文:朝日新聞社 メディア事業本部 大阪事業部)

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