[画像:循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!]
2010年7月20日号

続・使用済みの携帯電話

村上(鈴木)理映

2009年6月8日号「使用済みの携帯電話」では、日本で使用済み携帯電話がどのように回収され、リサイクルされているかを紹介しました。また、2010年1月12日号「使用済み製品の下取りと回収に関する取り組み」では、携帯電話や小型家電を回収するモデル事業について簡単に紹介しました。携帯電話を回収する経済産業省の事業には、量販店を含む全国1800の店舗が参加し、携帯電話端末を持ち込んだ消費者は、商品券があたるクジを引くことができる、という回収キャンペーンが行われました。当選確率が比較的高いという当選者の口コミも手伝ってか、3ヶ月で57万台弱の端末が回収され、既存のリサイクルプラントで分解処理の後、再生資源業者がレアメタルを取り出す、というリサイクルが行われました。

その一方で、ここ数年、中古端末市場が拡大する動きもあります。リサイクルについては「環環」でも度々触れられてきましたので、今回は、リユース(中古)に焦点をあてましょう。

[画像:環環ナビゲーター:たけ]

最近は、通信事業者と契約する時に電話番号ごとのSIMカードが割り当てられ、そのカードを差し替えれば、携帯電話端末を「着せ替えて」利用することができます。中古端末市場の拡大は、販売方式がSIMカード方式になったこと、そうした販売方式の変更により端末価格が上昇したことに後押しされていると言えるでしょう。中古端末は、手軽に機種変更したい人、「着せ替え」のために2台目の端末がほしい人、端末が壊れた時に同じ機種に交換したい人等のニーズに、安価で、手早く応えることができます。

しかし中古端末には、古本や古着等とは違うリスクもあります。中古店は、通信事業者や製造事業者とのつながりはないので、「製品」つまり端末自体に関する情報を持っていません。たとえば、端末の割賦支払いが完了しているか否かを確かめることができません。支払いが未完了であった場合、それを知らずに購入した消費者が、突然通話を止められた事件もありました。製造番号をたどればわかるはずですが、そのような個人が特定できてしまう情報を、つながりのない中古店に、通信事業者が教えることはできません。

非正規のイメージが残る日本の中古端末市場とは異なり、欧米では、携帯電話業界自体が積極的にリユースを進めています。例えば、欧州では、通信事業者のSIMカードは、端末とは別に自動販売機でも販売しています。そして、SIMカードがどの通信事業者にでも対応できるようにするSIMロック解除サービスがあり、消費者は、SIMカード、通信事業者、端末を自由に組み合わせることができるのです。

そして欧米で中古端末市場が盛んである理由は、中古店が、製造業者や通信事業者(生産者とします)と結びついていることです。生産者の知らないところで、つながりのない中古店に自社製品を取り扱われ、部品を利用して偽物を再製造されたり、個人情報が残っていた場合にその情報が流出したりすれば、生産者が責任を負わされるリスクがあります。そのようなリスクを回避しつつも、リユースを経た上で、再使用不可能なものはきちんとリサイクルして廃棄物を削減し、環境負荷を減らす「生産者の責任」(2007年10月15日号「生産者の責任」参照)の遂行をアピールするためにも、生産者が中古に関与するのは得策と判断しているためです。生産者は、製造番号等に関するデータも、契約中古店に「販売」しており、適正な中古販売ができるように後押ししています。とくに通信事業者にとっては、国内で中古のニーズがない端末を、途上国に無償や安価で提供することにより、固定電話よりも携帯電話が普及し始めている途上国で、自社の通信事業を拡大する、というビジネスチャンスにもつながるのです。

話を日本に戻しましょう。携帯電話の電波利用等を管理している総務省は、通信事業者同士を競争させ、通話料を引き下げることを狙って、SIMカードをどの通信事業者にも対応できるようにすることを検討しています。そうすれば、通信事業者と端末の関係は、従来のように固定化したものではなくなり、同じ端末で通信事業者を替えることもできるようになります。

これに対して多くの通信事業者は、現在の端末は一台で周波数の異なる複数事業者のサービスを利用することを想定しておらず、互換性がないため、消費者の利便性が制約されるので、消費者にとってデメリットの方が大きい、という意見を示していましたが、1社だけは来年4月以降に発売する全機種のSIMロックを解除することを今月発表しました。

総務省の意見が全ての通信事業者に受け入れられ、通信方式も統一されれば、欧州のように中古端末市場がさらに拡大する可能性があります。そして中古端末市場が拡大すれば、欧米のように、自社の活路を見出すために、各通信事業者が、自らまたは正規委託で中古端末を販売する日が来るかもしれません。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 村上進亮、NTTドコモモバイル社会研究所:使用済み携帯電話に対する責任の在り方とリユースを中心にした 3R 政策導入の可能性、2009
  2. 村上(鈴木)理映ほか:使用済み携帯電話のリサイクル、リユースの現状と課題、第19回廃棄物資源循環学会研究発表会論文集、pp.173-174、2009
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