アクティブ・レンジャー日記 [関東地区]
那須地域におけるオオハンゴンソウの駆除活動について報告します。またオオハンゴンソウ群落に生じている変化を紹介します。- 地方環境事務所
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【那須】オオハンゴンソウに異変有り
2024年01月15日
善養寺聡彦
みなさま、こんにちは。
日光国立公園 那須管理官事務所の善養寺聡彦です。
今回は那須地域でのオオハンゴンソウ駆除活動について紹介いたします。
<オオハンゴンソウ>
オオハンゴンソウは明治時代に北アメリカから観賞用として日本に持ち込まれました。
その後野生化し、今や全国に広がっています。
7月下旬から9月にかけて開花します。
花は大きく、黄色で目立ちます。反り返った花びらが特徴的です。
オオハンゴンソウ キク科 オオハンゴンソウ属
寒冷な気候を好むため、多くの国立公園が有する高原地域に侵入しています。
高原地域では希少な植物が多く、そうした希少植物の分布範囲は狭いので、
繁殖力の強い外来植物の侵入は重大な問題です。
環境省 自然環境局/ 侵略的な外来種
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/invasive.html#sec3
<特定外来生物>
オオハンゴンソウは環境省が定めている特定外来生物に指定されています。
特定外来生物とは、日本に侵入した外来生物の中で、
特に生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、
又は及ぼすおそれがあるものの中から指定されます。
指定された生物の取り扱いについては、
輸入、放出、飼養、譲渡し等の禁止といった厳しい規制がかかります。
オオハンゴンソウが特定外来生物に指定されるには、それなりの理由があります。
地下茎を発達させて新たな株を次々と増やして大きな群落をつくります。
またそれだけでなく、根から他の植物の成長を阻害する物質を出します。
そのため、他の植物を排除してオオハンゴンソウだけからなる大群落をつくってしまいます。
オオハンゴンソウの群落(八幡つつじ園地 栃木県那須町)
オオハンゴンソウの地下茎
オオハンゴンソウの大群落が広がってしまうと、
本来その場所にあった在来の植物(マツムシソウ、ウメバチソウなど)は姿を消してしまいます。
このように、日本の植生を変え、生物多様性に悪影響を与えてしまうのです。
そこで全国の多くの国立公園では、このオオハンゴンソウの駆除活動を行っています。
<オオハンゴンソウの駆除活動>
日光国立公園那須・甲子地域では、
以下のようなオオハンゴンソウの駆除活動を行っています。
那須町の中学校や公共機関、企業、一般ボランティアの方も参加しています。
一般ボランティアの方々も参加しています。
以上のように外来種駆除の活動が盛んに行われるようになってきています。
<オオハンゴンソウの駆除方法>
量的に多いところでは、刈払い機を用いています。
しかし、刈り払いでは根や地下茎が残ってしまいます。
するとまたすぐに芽が伸びてきます。
刈り払う時期によっては、その年に開花もしてしまいます。
これではオオハンゴンソウは減少しません。(株を小さくすることはできます)
そこでオオハンゴンソウを完全に除くには、根ごと抜き取る必要があります。
かなり大きな地下茎もありますし、隣の株とつながっていますので、
なかなかの重労働です。
オオハンゴンソウの駆除活動
抜き取ったオオハンゴンソウ
小さなエリアの群落の場合、数年駆除を続けるうちに群落は衰退し、
ほぼ完全に排除できるところもあります。
しかし広いエリアの大群落となると、限られた人力では群落の縮小になかなか至りません。
那須にはそうした大群落がいくつかあります。
それでも根気よく駆除活動を続けている中で、
株の勢いが弱ってオオハンゴンソウの背丈が低くなったり、
密度が低くなったりするところもあります。
そうしたことは活動する人の励みになります。
「来年はもう少し成果が見えてくるに違いない」と参加者同士励まし合っています。
このように地道で先の長い駆除活動ですが、
一昨年、オオハンゴンソウの大群落の一つで、思わぬ変化がありました。
<三斗小屋宿跡のオオハンゴンソウ大群落>
駆除活動を行っている場所の一つに、「三斗小屋宿跡」があります。
三斗小屋宿は、会津と関東を結ぶ会津中街道の宿場でした。
しかし戊辰戦争の折、戦場となり、全ての家屋は焼き払われてしまいました。
現在は史跡公園となっていて、開けた敷地の周りに、
鳥居や常夜灯など当時の面影を偲ばせる遺物を見ることができます。
ここは面積が大きく、ほとんどオオハンゴンソウのみでおおわれた大群落になっています。
広いため、主に刈払い機による刈り払いを行ってきました。
平成27年の駆除活動の様子
この場所は山中深くにあるために通うのが難しく、駆除活動は年1回のみです。
それだけでは、株の背丈は低くなっても、株の数は減りません。
令和2年の駆除活動の様子
(H27年に比べてオオハンゴンソウの背丈は低くなっていますが、数は減っていません)
今後どうやって駆除して行くべきか苦慮していました。
ところが、一昨年(令和4年)7月、駆除活動の下見に現地へ行ったところ、
なんと! オオハンゴンソウの大群落がありません。(この年の駆除活動はまだ行っていません)
側によってオオハンゴンソウを探してみると、
10〜30cmほどに小さくなっていました。
しかもまばらで、一面を覆う群落はなくなっていました。
よく見ると何者かに食べられたと思われる跡があります。
どうやらシカがオオハンゴンソウを食べたようです。
シカがオオハンゴンソウを食べることは以前から知られていましたが、
量的にはとても少ないと見ていました。
ところが、昨年まで宿場跡全域に広がっていたオオハンゴンソウ群落を、
ほとんど食べてしまったのです。
シカは食性を変えて、植生を変えてしまったようです。
そして今年、
令和5年7月(伸びている草はシカが食べない他の植物)
ついにオオハンゴンソウの群落はなくなり、
10cm以下の株がまばらになっていました。
かつて人の背丈よりも高かったオオハンゴンソウは衰退した
もはや刈払い機を使う状況ではなくなり、
オオハンゴンソウは、移植ごて等で抜き取りました。
しかしこの広い敷地です。
取り切るには何年くらいかかるのやら・・・。
それでも、一面のオオハンゴンソウ群落はここまで衰退しました。
なんとシカの駆除力の大きいことか。
オオハンゴンソウ駆除という面では、極めて大きい助力(主力?)です。
しかし、シカが植生に与える影響力をまざまざと見せつけられました。
この力が、今全国の多くの森林で発揮されているのです。
シカのこの力が、那須の森の守るべき植生に向けられるとすると、恐ろしいことです。
それが近々現実のものとなる可能性は大きいのです。
日光周辺では、今までシカが食べないとされていた植物(キオン、コバイケイソウ)が
シカによって食べられるようになっているようです。
シカの動向が、環境の保全に思わぬ角度で関わってくるようです。
野生生物と人の関係は、まだまだ思わぬ展開があるのかもしれません。
日光国立公園 那須管理官事務所の善養寺聡彦です。
今回は那須地域でのオオハンゴンソウ駆除活動について紹介いたします。
<オオハンゴンソウ>
オオハンゴンソウは明治時代に北アメリカから観賞用として日本に持ち込まれました。
その後野生化し、今や全国に広がっています。
7月下旬から9月にかけて開花します。
花は大きく、黄色で目立ちます。反り返った花びらが特徴的です。
オオハンゴンソウ キク科 オオハンゴンソウ属
寒冷な気候を好むため、多くの国立公園が有する高原地域に侵入しています。
高原地域では希少な植物が多く、そうした希少植物の分布範囲は狭いので、
繁殖力の強い外来植物の侵入は重大な問題です。
環境省 自然環境局/ 侵略的な外来種
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/invasive.html#sec3
<特定外来生物>
オオハンゴンソウは環境省が定めている特定外来生物に指定されています。
特定外来生物とは、日本に侵入した外来生物の中で、
特に生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、
又は及ぼすおそれがあるものの中から指定されます。
指定された生物の取り扱いについては、
輸入、放出、飼養、譲渡し等の禁止といった厳しい規制がかかります。
オオハンゴンソウが特定外来生物に指定されるには、それなりの理由があります。
地下茎を発達させて新たな株を次々と増やして大きな群落をつくります。
またそれだけでなく、根から他の植物の成長を阻害する物質を出します。
そのため、他の植物を排除してオオハンゴンソウだけからなる大群落をつくってしまいます。
オオハンゴンソウの群落(八幡つつじ園地 栃木県那須町)
オオハンゴンソウの地下茎
オオハンゴンソウの大群落が広がってしまうと、
本来その場所にあった在来の植物(マツムシソウ、ウメバチソウなど)は姿を消してしまいます。
このように、日本の植生を変え、生物多様性に悪影響を与えてしまうのです。
そこで全国の多くの国立公園では、このオオハンゴンソウの駆除活動を行っています。
<オオハンゴンソウの駆除活動>
日光国立公園那須・甲子地域では、
以下のようなオオハンゴンソウの駆除活動を行っています。
- 地域ボランティアの方々による定期的な活動(年4回程度)
- 奥那須の森ボランティア協議会による活動(年2〜3回)
- 那須町と那須高校共催の活動
那須町の中学校や公共機関、企業、一般ボランティアの方も参加しています。
- 那須高原ビジターセンターとセブンイレブン記念財団主催の活動
一般ボランティアの方々も参加しています。
- 那須塩原市と環境省(那須管理官事務所)共催の活動
以上のように外来種駆除の活動が盛んに行われるようになってきています。
<オオハンゴンソウの駆除方法>
量的に多いところでは、刈払い機を用いています。
しかし、刈り払いでは根や地下茎が残ってしまいます。
するとまたすぐに芽が伸びてきます。
刈り払う時期によっては、その年に開花もしてしまいます。
これではオオハンゴンソウは減少しません。(株を小さくすることはできます)
そこでオオハンゴンソウを完全に除くには、根ごと抜き取る必要があります。
かなり大きな地下茎もありますし、隣の株とつながっていますので、
なかなかの重労働です。
オオハンゴンソウの駆除活動
抜き取ったオオハンゴンソウ
小さなエリアの群落の場合、数年駆除を続けるうちに群落は衰退し、
ほぼ完全に排除できるところもあります。
しかし広いエリアの大群落となると、限られた人力では群落の縮小になかなか至りません。
那須にはそうした大群落がいくつかあります。
それでも根気よく駆除活動を続けている中で、
株の勢いが弱ってオオハンゴンソウの背丈が低くなったり、
密度が低くなったりするところもあります。
そうしたことは活動する人の励みになります。
「来年はもう少し成果が見えてくるに違いない」と参加者同士励まし合っています。
このように地道で先の長い駆除活動ですが、
一昨年、オオハンゴンソウの大群落の一つで、思わぬ変化がありました。
<三斗小屋宿跡のオオハンゴンソウ大群落>
駆除活動を行っている場所の一つに、「三斗小屋宿跡」があります。
三斗小屋宿は、会津と関東を結ぶ会津中街道の宿場でした。
しかし戊辰戦争の折、戦場となり、全ての家屋は焼き払われてしまいました。
現在は史跡公園となっていて、開けた敷地の周りに、
鳥居や常夜灯など当時の面影を偲ばせる遺物を見ることができます。
ここは面積が大きく、ほとんどオオハンゴンソウのみでおおわれた大群落になっています。
広いため、主に刈払い機による刈り払いを行ってきました。
平成27年の駆除活動の様子
この場所は山中深くにあるために通うのが難しく、駆除活動は年1回のみです。
それだけでは、株の背丈は低くなっても、株の数は減りません。
令和2年の駆除活動の様子
(H27年に比べてオオハンゴンソウの背丈は低くなっていますが、数は減っていません)
今後どうやって駆除して行くべきか苦慮していました。
ところが、一昨年(令和4年)7月、駆除活動の下見に現地へ行ったところ、
なんと! オオハンゴンソウの大群落がありません。(この年の駆除活動はまだ行っていません)
側によってオオハンゴンソウを探してみると、
10〜30cmほどに小さくなっていました。
しかもまばらで、一面を覆う群落はなくなっていました。
よく見ると何者かに食べられたと思われる跡があります。
どうやらシカがオオハンゴンソウを食べたようです。
シカがオオハンゴンソウを食べることは以前から知られていましたが、
量的にはとても少ないと見ていました。
ところが、昨年まで宿場跡全域に広がっていたオオハンゴンソウ群落を、
ほとんど食べてしまったのです。
シカは食性を変えて、植生を変えてしまったようです。
そして今年、
令和5年7月(伸びている草はシカが食べない他の植物)
ついにオオハンゴンソウの群落はなくなり、
10cm以下の株がまばらになっていました。
かつて人の背丈よりも高かったオオハンゴンソウは衰退した
もはや刈払い機を使う状況ではなくなり、
オオハンゴンソウは、移植ごて等で抜き取りました。
しかしこの広い敷地です。
取り切るには何年くらいかかるのやら・・・。
それでも、一面のオオハンゴンソウ群落はここまで衰退しました。
なんとシカの駆除力の大きいことか。
オオハンゴンソウ駆除という面では、極めて大きい助力(主力?)です。
しかし、シカが植生に与える影響力をまざまざと見せつけられました。
この力が、今全国の多くの森林で発揮されているのです。
シカのこの力が、那須の森の守るべき植生に向けられるとすると、恐ろしいことです。
それが近々現実のものとなる可能性は大きいのです。
日光周辺では、今までシカが食べないとされていた植物(キオン、コバイケイソウ)が
シカによって食べられるようになっているようです。
シカの動向が、環境の保全に思わぬ角度で関わってくるようです。
野生生物と人の関係は、まだまだ思わぬ展開があるのかもしれません。