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カナダ:BC州知事、トランプ政権の関税に対抗し、米国産一般炭輸出に対する課税を要求

掲載日:2025年3月21日

3月12日付地元報道によると、トランプ米大統領の関税脅迫がカナダに引き続きかかる中、ブリティッシュコロンビア(BC)州のデイビッド・イービー州首相は、米ホワイトハウスに圧力をかける手段として、州外に輸出される米国産一般炭にカナダ連邦政府が課税することを望んでいるという。しかし、オンタリオ州知事が米国向け電力供給に課税する事を提案した際にトランプ大統領はカナダを激しく非難しており、今回の提案が裏目に出る恐れもある。

ウッド・マッケンジー社によるとBC州の港は、モンタナ州とワイオミング州からの石炭をアジア市場に輸送するために利用しており、米国西海岸には石炭を輸出できる港が少なく両州にとって「生命線」となっている。バンクーバー・フレーザー港湾局によると、2024年にバンクーバー港は1,740万トン近くの一般炭を取り扱っており、その約4分の3は米国産で、韓国や日本を含む海外市場に出荷された。

イービー州知事は10日、退任するトルドー首相に対し、米国炭輸出への課税又は全面的な制限という提案書を直接提出したと述べた。2021年、現在の連邦政府は2030年までに一般炭輸出を禁止する事を約束しており、同州知事は「これは退任する首相の価値観や優先事項に沿ったものだ」と述べた。また同様の提案はBC州野党党首のラスタッド氏も提案している。エネルギー専門家は今回の課税は米国石炭輸出業者に打撃を与え、トランプ大統領の注目を集める可能性があると指摘し、環境保護論者も気候変動との戦いにおける勝利としてこの課税を支持している。

ブリティッシュコロンビア大学ハリソン教授によると、カナダの米国炭輸出事業は、米国の天然ガス生産急増により国内電力消費が石炭火力に依存しなくなり、それ以降20年間で急成長した産業で、数十億ドルの事業規模となっている。更に米国は石炭をアジア市場に出荷するための近距離かつ十分な規模の港湾設備を国内太平洋岸に有していない。ワシントン州とオレゴン州は環境への懸念から石炭輸出施設の開発を阻止しており、カナダ経由で石炭を輸出する必要がある。「米国が一般炭をカナダ経由で輸出するのは、カナダが輸出に前向きだからだ」とハリソン氏は語った。現在、モンタナ州南東部とワイオミング州北東部のパウダーリバーベースンの石炭は、米国国内から鉄道で輸送され、その後BC州から出荷され、主にBC州デルタのウェストショアターミナルに送られている。

カナダの法制上、貿易規制目的による課税権は連邦政府の所管となっている。カナダ外務省は声明で「米国がカナダに対して不当な関税を課し続ける場合、政府は非関税措置を含む追加措置を検討しており、あらゆる選択肢が検討対象となっている」と述べた。首相官邸は、マーク・カーニー次期首相がまだ宣誓していないため、同氏に代わってコメントすることはできないと述べた。

一方、全米鉱業協会(The U.S. National Mining Association:NMA)は、米国の石炭輸出に対する課税はカナダの雇用に悪影響を及ぼす可能性があると述べている。一方、ハリソン氏は、石炭を輸送するBC州のターミナル以外では、カナダは石炭輸出から利益を得ていないと指摘し「カナダの炭鉱由来ではなく、ある意味、米国に恩恵を与えているだけだ」と語った。

カナダ環境法慈善団体であるEcojusticeの弁護士フレイザー・トムソン氏は「カナダの費用で時代遅れで環境に有害な産業を後押しすることは、南の隣国である米国と強い友好関係があった時代にもほとんど意味がなかったが、今やまったく意味がない。恩恵を受ける時間は終わった。」と語った。

ウッド・マッケンジー社は、石炭輸出税は米国石炭産業の利益を圧迫するため、トランプ氏は共和党系の州上院議員や米国石炭業者からの圧力に直面する可能性があるとし「産炭州にとってこれらの損失は非常に重要で認識しているはず」と語った。

トランプ大統領は大統領選に初めて出馬して以来、石炭産業の活性化を約束し、「Trump digs coal.」と書かれたプラカードを掲げるなど、石炭産業へのアピールに努めてきた。最近トランプ大統領は急増する電力需要を満たすために石炭が役立つと示唆している(2025年1月31日付:トランプ大統領、ダボス会議で石炭使用を推奨する発言https://coal.jogmec.go.jp/info/docs/250131_2.html参照)。

ハリソン氏は、米国の石炭輸出に課税すればトランプ大統領を怒らせ、さらに厳しい関税の脅しにつながる可能性があると述べた。「それが貿易戦争の本質であり、貿易戦争の各段階で両国を傷つけるのもまた事実だ。どちらの国が先に譲歩するかは国民の決意次第だろう」と語った。

トランプ大統領は11日、オンタリオ州が米国向け電気に25%の割増関税を課したことに対抗し、同日カナダの鉄鋼とアルミニウムに対する関税を50%に倍増するとし、これまでで最も強い言葉を使ってカナダを経済的に破滅させると宣言した。その後オンタリオ州は課税を一時停止している。「彼はとても予測不可能で、怒らせる可能性がある」とハリソン氏は述べた。

NMAもカナダ政府が課税を実施すれば、カナダは厳しい結果に直面する可能性があるとし、「カナダが米国産の石炭をターゲットにした場合、米国の輸出業者は他の輸出オプションを探さざるを得なくなり、カナダの雇用が損なわれ、両国にとって重要な成功例となってきた相互利益貿易の源泉が損なわれることになる」と声明で述べた。

(石炭開発部 宮崎 渉)

おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

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