続・源氏物語今に遊ぶ

巻1・5

吉永哲郎

平安王朝時代の婚姻は政略結婚で、家の権力増大と政界勢力拡大と密接なかわりをもっていました。ですから女(ムスメ)は帝へ入内させ、帝の外戚としての地位を獲得することでした。しかし桐壼更衣には後見役の父君はすでに世にいません。無力な母のみが後見役としているだけです。
昔物語のような裕福な何も難問をかかえていない主人公ではなく、当時の社会的通念に挑む主人公を帝に据えて、紫式部は物語を描いています。つまり、制度としての結婚(一夫多妻・政略結婚)ではなく、制度外の結婚(人間の根源的な純粋精神としての愛をもとにした結婚)のもとで誕生した物語の主人公です。愛情を優先させる生き方を描きます。この生き方は、閉鎖的な貴族社会にあっては、愛情を前面にうちだした結婚は問題外でした。
帝の苦悩は、いわば貴族社会にあっては不謹慎な、桐壼更衣一人のみに愛情をいだくことが、己の宮中における絶対的な存在を維持することへの困難さです。制度内で生きるのではなく制度外で生きることへの挑戦です。

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