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2025年12月10日17時07分掲載
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入管
指宿昭一弁護士が語る「入管制度の構造的問題とウィシュマ裁判」──アムネスティ日本 全国研修会レポート1
国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルの日本支部であるアムネスティ・インターナショナル日本(AIJ)は11月29日、名古屋市内で「ウィシュマさんはなぜ十分な治療を受けられなかったか?─名古屋入管事件から考える─」と題した全国研修会を開催した。
研修会では、2021年に名古屋入管で亡くなったウィシュマさんの遺族が争う国家賠償訴訟で代理人を務める指宿昭一弁護士が、日本の入管制度に内在する構造的な問題と裁判の現況を報告。さらに、市内で難民支援に取り組むNPO法人「名古屋難民支援室」スタッフの羽田野真帆さんが、支援現場から見える日本の難民制度の課題を語った。
議論の全体像を丁寧に伝えるため、内容を2回に分けて紹介する。第1回目は、移民・難民の法的支援や市民運動に長年携わってきた指宿弁護士の報告をお届けする。(岩中健介)
──マクリーン事件判決が刻んだ「入管優位」の構造──
講演の冒頭、指宿弁護士は1978年の最高裁判決「マクリーン事件判決」を取り上げ、「日本において外国人の人権は本当に保障されているのだろうか」と問いを投げかけた。この判決は、日本における外国人の権利保障を語る際、必ずと言っていいほど引用される代表的な判決だ。
政治活動を理由に在留更新を拒否されたアメリカ国籍のマクリーン氏が処分は違法として国を訴えた裁判で、最高裁は「基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象とするものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ」と認めつつも、それらの人権保障は外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎず、在留の許否などについては法務大臣の広い裁量に委ねられているとの判断を下した。
指宿弁護士は、これを 「在留制度(入管制度)が憲法よりも上位に置かれているに等しい」 と説明し、日本の外国人政策の根本問題だと強調した。
「この判例がその後の入管事件に大きな影響を及ぼしている。法務大臣の裁量が事実上、無限大に拡大し、ほとんどのケースが『裁量の範囲内だから問題ない』という理屈になっている」(指宿弁護士)
この判決については近年、元最高裁判事を含む法曹関係者からも批判が強まっている。しかし、実務は大きく変わらず、依然として「入管の裁量がほぼ絶対」という状況が続いている。指宿弁護士はまた、日本の入管行政を象徴する"言葉"として、法務省入国参事官を務めた池上努氏が「法的地位200の質問」(1965、京文社)で述べた一節を紹介した。
「(外国人は)煮て食おうが焼いて食おうが自由」
法務省はこの文言を明確には否定も撤回もしておらず、指宿弁護士は「この価値観が今も入管に根付いており、ウィシュマさんの死亡事件にもつながった」と指摘した。
──ウィシュマさんはなぜ点滴を受けられなかったのか──
2021年3月6日、名古屋入管に収容中のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が亡くなった。講演では、収容中の深刻な体調悪化が見過ごされ、必要な医療が提供されなかった経緯が詳細に語られた。
ウィシュマさんが亡くなる約1ヶ月前。食事を満足に摂れないほど衰弱が進んでいた2月15日の尿検査では、飢餓状態(糖不足)の程度を示すケトン体数値が最高レベルの「3+」を示した。通常であれば直ちに点滴・血液検査が行われるべき所見だという。しかし、そのいずれも実施されることはなかった。入管側は、この「3+」の数値を当初の中間報告書で伏せていたとされ、指宿弁護士は「入管法の改正審議の時期だったため、意図的に隠された可能性もあり得る」と述べた。
さらに指宿弁護士は、「入管には帰国に応じない人の治療を意図的に遅らせたり情報を隠したりする傾向がある」と指摘。実際、ウィシュマさんが亡くなる前に受診した外部の精神科医に「3+」の情報は伝えられておらず、ここでも必要な点滴等の処置は施されなかった。
──「長期収容は帰国の圧力として使われている」──
ウィシュマさんは体調が悪化する中、治療を受けるために仮放免を希望していた。しかし、入管側はこれを不許可とした。この理由について、入管庁は21年8月に公表した事件の最終報告書で"本音"を示した。
「置かれた立場を理解させ、帰国の意思を強く持たせるため」
「仮放免すれば在留希望が強固になる」
この点について指宿弁護士は「こうした表現を報告書に記載してしまう感覚が恐ろしいが、入管に通底する価値観をよく表している。長期収容が帰国を促すための"拷問的な圧力"として使われているということだ」と批判した。
──証人尋問がはじまり、裁判は正念場へ──
2022年の提訴から3年半が経ち、12月から証人尋問が開始された。4日には、当時ウィシュマさんの診療を担当していた名古屋入管の非常勤医・新美医師の証人尋問が行われた。11日には同医師の2回目の尋問が予定されており、今後、原告・被告がそれぞれ求める医師の尋問へと続く。ただし、原告が求める入管看護師や職員の証人採用は現時点では認められていない。
指宿弁護士は「普通に考えればこの事件は国の責任が否定できないはずだ。しかし、入管訴訟はその"普通"が通用しない」と緊張感を語った。
一方、裁判には19回連続で市民が多数傍聴に詰めかけており、「市民の目」が裁判所に一定の抑制を働かせているとの見方も示した。
「裁判官は傍聴席の様子から、社会が事件をどのように見ているのかを感じ取るものだ。今後とも是非、傍聴をお願いしたい。この事件を知って、声を上げていただくことが何よりも大切なことだ」(指宿弁護士)
──「忘れさせてはならない」 事件が照らす差別の歴史──
講演の最後、指宿弁護士はウィシュマ事件を「現代日本の排外主義の象徴」と位置づけ、次のように呼びかけた。
「日本のアジア侵略と植民地主義の歴史、関東大震災の朝鮮人虐殺、現在の排外主義的な政治キャンペーン。こうした歴史的背景が日本市民の外国人差別と無関心を生み、入管制度の差別的体質を許してしまっているのではないか。その責任とともに事件を注視し続け、声を上げることこそ『制度を変える力』になるはずだ」(指宿弁護士)
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指宿昭一弁護士
羽田野真帆さん
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