国立環境研究所の研究情報誌「環境儀」第30号
「河川生態系への人為的影響に関する評価−よりよい流域環境を
未来に残す」の刊行について(お知らせ)
(環境省記者クラブ、筑波研究学園都市記者会同時配付 )
要 旨
国立環境研究所の研究成果を分かりやすく伝える研究情報誌「環境儀」第30号「河川生態系への人為的影響に関する評価−よりよい流域環境を未来に残す」が刊行されました。この号では、河川横断構造物の築造、河川改修等が河川生態系に及ぼす影響を定量的に評価する手法を取り上げました。
人間は様々に川に手を入れ、最大限に川の恵みを享受しようとしてきました。その結果、川はその躍動・荒々しさ(ダイナミズム)を潜め、治水安全度は大きくなり、水利用効率は上がりましたが、生物の棲息域としての多様性が失われつつあるようです。地域の持続性を考える上での重要な要素である流域の健全性を考え、次の世代へどのような河川を引き渡すかを考える時、享受したものと失いつつあるものの両者について思いを馳せることが重要です。
本号では、河川への人間の働きかけとしてイメージし易く、その利得と喪失も想定しやすい河川横断構造物(例えばダム)を例に取りあげました。利得については特に言及せずに、劣化するものは河川生態系とし、魚にとっての川の棲みやすさ、魚類の種数で代表させました。これらの指標は、気象情報、河川情報、棲息場情報等の様々な影響要因GISを活用して統計モデルに組み込むことで評価されました。最終的な結果は地図上で表示され、視覚的に河川生態系への人為的影響が分かります。
洪水・土砂災害等への安全性確保、社会経済活動を支える水資源確保等と合わせて、人間と水を巡る葛藤を考える一つの契機となる内容になっています。
1 第30号の内容
国立環境研究所では、治水・利水・環境の三者の調和のとれた河川の姿を実現する上で、河川生態系の豊かさへの配慮が必要であるとの観点から、人為的な河川改変が河川生態系に及ぼす影響を定量的に評価する手法の開発研究を行っています。
定量的な評価を可能にするため、ある地点の魚類の種数は、緯度・経度、標高、流域面積などの地理的条件、気温・降水量などの気象条件などの様々な環境要因と、ダムの有無などの人為的要因によって決定されると仮定し、種数と要因との因果関係を表す統計モデルを作りました。モデルが含む定数を推定するため、まず北海道を対象に魚類データの収集と現地調査が行われました。その結果として、例えば、環境要因は既知であるが魚類調査が実施されていない地域の種の多様度推定が可能となりました。また、環境要因の経年変化が分かれば、魚にとって棲み易いか否かの指標となる生息確率をもって魚類にとっての河川環境の改善・劣化が計算することが可能となりました。
こうした研究成果と共に苦労話が担当研究者のインタビューで紹介されています。また、河川の人為的改変による河川生態系への影響についての欧米、メコン川流域、日本における取り組みについての基本的な考え方などを紹介しています。
[画像:環境儀第30号「ライダーネットワークの展開−東アジア地域のエアロゾルの挙動解明を目指して」]
内容は、
(1) 研究担当者へのインタビュー
- 亀山 哲(かめやま さとし)
アジア自然共生研究グループ流域生態系研究室主任研究員 - 福島 路生(ふくしま みちお)
アジア自然共生研究グループ流域生態系研究室主任研究員
(2) 『人為的な河川改変の影響』ほか、『Space for River』『河川横断構造物の現状』『ベニザケになるヒメマス』,『GISの活用と解析』などについてのコラム等
2 閲覧・入手についての問い合わせ先
連絡先:国立環境研究所環境情報センター情報企画室出版普及係
(TEL: 029-850-2343、E-mail:pub@nies.go.jp)
(参考)これまで「環境儀」で取り上げたテーマ
バックナンバーはホームページから閲覧できます。
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/