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鳥を知らない人に「知っている鳥を挙げて」と聞くと,たいていはスズメ,カラス,ハトといった答えが返ってきます。一方,多少なりともバードウォッチング経験のある人に「身近な鳥といえば?」と聞くと,ほぼ確実に入ってくる鳥の1つが今回の主役ヒヨドリです。あまりにも身近,姿形が地味,大きくてけたたましい声といった特徴から,バードウォッチャーにあまり相手にされない,ちょっとかわいそうな鳥ですが,意外性も含めて見どころの多い鳥です。今回はこのヒヨドリについて,深く見てみましょう。
日本のバードウォッチャーにはあまり人気のないヒヨドリですが,その分布はかなり特殊で,日本周辺の東アジアだけでしか見られません。固有種に準ずる鳥と考えてもいいくらいで,特に海外からくるバードウォッチャーにとってヒヨドリは「日本に来たらぜひ見たい鳥」の1つになっています。分類の面では「スズメ目ヒヨドリ科」とされ,国内では現在,以下の8亜種(形態はある程度違うけど,別種にするほど違わない分類単位,前回の記事を参照)に分けられています。
・ヒヨドリ(北海道〜九州,伊豆諸島)
・オガサワラヒヨドリ(小笠原群島)
・ハシブトヒヨドリ(硫黄列島)
・ダイトウヒヨドリ(大東諸島)
・アマミヒヨドリ(トカラ列島,奄美群島)
・リュウキュウヒヨドリ(沖縄諸島,宮古諸島)
・イシガキヒヨドリ(八重山諸島)
・タイワンヒヨドリ(与那国島)
実はヒヨドリの亜種には興味深い話があります。1つはこの8亜種のDNAを調べると,大きく3つのグループ(ダイトウ/アマミ&リュウキュウ/その他)に分けることができ,それぞれが別種に近いくらいに離れています。将来的にヒヨドリは3種に分かれるかもしれません。
もう1つ,オガサワラヒヨドリとハシブトヒヨドリの2亜種は南北に連なる小笠原群島と硫黄列島にそれぞれ分布し地理的には近いのですが,より細かく見るとオガサワラヒヨドリは八重山諸島,ハシブトヒヨドリは本州や伊豆諸島の亜種に近いことがDNAによりわかっており,起源が全く異なります。それぞれ異なる場所から別々に飛来し,交流がないまま今に至っているようです。(地理的に距離が近い亜種でも起源は離れていることがある。)
多くの場合,細かく亜種に分かれている鳥はあまり大きな移動をしません。先のオガサワラヒヨドリとハシブトヒヨドリの例でも,両者の分布は互いに約160kmしか離れていません。この話と矛盾するようですが,亜種ヒヨドリは渡りをします。特に北海道や東北に暮らす亜種ヒヨドリは秋に南の地域へと移動しますし,本州の亜種ヒヨドリが奄美大島など南西諸島で冬に記録されることも珍しくありません。亜種ヒヨドリは渡る際,数百〜数千の大きな群れをつくります。海上を1つの塊になって移動する様子や,襲撃してくるハヤブサを避けるためにまるで1つの生き物のように動くさまは,秋の渡り観察のハイライトの1つです。
身近に見られる鳥だからこそ,いろいろなシーンを観察できるのもヒヨドリの魅力です。実はヒヨドリが一年中,市街地などこんなに身近に観察されるようになったのは,1960〜70年代といわれています。それまでは夏は標高の高いところにいて,冬になると平地に降りてくる「漂鳥」という扱いだったのです。ヒヨドリの市街地への進出を支えているのが,さまざまな食物と考えられています。ヒヨドリは水分の多い木の実を好んで食べるほか,サクラやツバキの花の蜜,ヤナギの花芽や新芽を食べて嘴や頬を黄色くするなど,さまざまな植物質のものを食べています。そして人とのかかわりで重要なのが,果物や野菜を食べることです。果物であればカキやミカン,野菜であればキャベツや白菜といった葉物野菜をよく食べています。植栽されたサクラ並木から木の実を付ける街路樹,郊外で栽培される野菜や果樹まで,街なかには一年中,ヒヨドリの食を支えるものがあるのです。
こうして市街地で一年中食を満たせることになると,次は住,つまり繁殖場所の確保になります。この点も市街地にある豊富な食物を支えに,人家の庭先などで繁殖するケースがよく見られるようになりました。条件が整えば,年に2〜3回は繁殖でき,巣材には枝や植物の繊維のほか,ビニールやプラスチックといった人工の材料もよく使っており,周りにあるものをうまく使ってたくましく生きていることがわかります。
最後に1つ,日本には「ヒヨドリ」の名をもつ別の鳥,イソヒヨドリ
がいます。ヒヨドリが「スズメ目ヒヨドリ科」であるのに対し,イソヒヨドリは「スズメ目ヒタキ科」と分類はかなり違いますし,体形や食性,鳴き声も違います。何より雌雄の外見上の違いがないヒヨドリに対して,イソヒヨドリは雌雄で見た目がはっきり異なります。実はこの雌雄の外見の差が名前に由来になったといわれています。イソヒヨドリの雌は全身が褐色の地味な姿をしており,これを昔の人は「磯に暮らすヒヨドリっぽい見た目の鳥」としてイソヒヨドリと名付けたそうです。このイソヒヨドリは現在急速に市街地へと進出している鳥で,ヒヨドリと同じ場所で見る機会もあります。全く違うのに似た名前をつけられた鳥として,違いを観察してみるのもおもしろいのではないでしょうか?