1. トップ
  2. 会長コメント/スピーチ
  3. 記者会見における会長発言
  4. 定例記者会見(12/8)における筒井会長発言要旨

会長コメント/スピーチ 記者会見における会長発言 定例記者会見(12/8)における筒井会長発言要旨

2025年12月8
一般社団法人 日本経済団体連合会

【コーポレートガバナンス】

本日の会長・副会長会議にて、意見書「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」について審議し、取りまとめた。これは、積極的な成長投資に向けて舵を切ることを宣言したものである。「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」を実現するというコーポレートガバナンスの本質を踏まえ、企業と株主・投資家がそれぞれ直面する課題と果たすべき役割について、経団連の考え方を整理した。

コーポレートガバナンス・コードの制定から10年が経ち、日本企業のコーポレートガバナンス改革は大いに進捗した一方、ガバナンスの形式は整ったものの実質が伴っていないこと、利益の還元が株主に偏っており、従業員や取引先等への還元を通じた、実質的な成長に繋がっていないことなどが指摘される。

中長期の企業価値向上を実現すべく、企業は、目先の資本効率改善に囚われたマインドを転換し、設備、研究開発、人的資本、新規事業等への成長投資に本格的に舵を切り、積極的に進めることが求められる。また、事業活動を通じて得た付加価値を、従業員や消費者、取引先、地域社会、投資家へ適切に還元し、それが企業のさらなる付加価値につながるという「投資けん引型」の好循環が生まれると考えている。

そのために、経営者は、資本配分の基本方針と優先順位の明確化、株主・投資家への丁寧な説明が求められる。また、株主・投資家は、経営側の方針を十分に理解し、最大限尊重した上で、企業の価値創造をともに進める「共創者」として、建設的に対話する姿勢が重要である。ガバナンス改革の目的は、規範遵守それ自体ではなく、持続的な成長を支える企業行動を根付かせることであり、企業・投資家・政府がそれぞれの役割を果たし、実質的な改革を進めていくことが期待される。

本意見書では、経営者のマインドセットを変革し、企業への積極的な投資の呼びかけや投資家への説明を行うことを呼びかけるとともに、アセットオーナー・アセットマネージャー、議決権行使助言会社、ESGデータ提供・評価機関の役割、そしてこれら市場のプレーヤーの活動を支えるコードや法制度のあり方について提言している。今後、政府・与党関係方面に働きかけを行っていく。

〔コーポレートガバナンス改革が一定の成果をあげてきた一方、企業が利益を中長期的な成長に資する投資に十分振り向けられてこなかったことについて問われ、〕企業の経営に対する姿勢や、主体性・自立性の問題だと認識している。過去30年間、デフレ経済が定着する中で、企業はコストカット型経営を進め、短期的な資本効率の最大化を目指す、縮み志向の経営に陥っていたことや、賃金引上げより雇用維持を優先してきたことが、短期的な株価形成への意識につながっていったと反省している。

内部留保については、それ自体、企業にとって不測の事態があったときのリスクバッファーとして、非常に重要な意味合いがある。マルチステークホルダーを意識しながら、経営資源の配分をバランスよく実施していくことが重要であり、そこには内部留保への配分も含まれてしかるべきである。ただし、全体的なバランスの中で、この数十年間、内部留保が蓄積されてきた面はあると考えている。

〔ここ10年のコーポレートガバナンス改革の中で、企業の対応が形式的なものにとどまった原因について問われ、〕情報開示の充実や資本効率を意識した経営の浸透が進展する中、社外取締役の増加、政策保有株式の縮小など、形式的に対応されてきた面もあると考えている。株主還元が拡大してきたことは大きく評価すべきだが、経営者が短期的な株価を意識する中で形式に流れてきた面があると思う。

【地域経済活性化】

〔高市総理が、産業クラスターを促進するための政策パッケージについて、2026年5月頃目途にまとめる方針を示したことへの期待や、地方創生に向けた問題意識について問われ、〕高市政権が掲げる「地域未来戦略」において、各地域の自主的な計画に基づきつつも、国が一歩前に出て、産業クラスターの形成や地場産業の成長に向けた戦略的な支援を行っていく方向性を示されており、評価している。

これまでの各地域経済懇談会では、地域産業の持続的な成長やDX(デジタル・トランスフォーメーション)・GX(グリーン・トランスフォーメーション)の推進、人材育成等に向けて議論を重ねてきた。産業クラスターの形成を含め、地域経済の活性化において今後重要な視点は、「広域連携」である。経団連では、都道府県レベルを超えた柔軟な広域連携の考え方として、「新たな道州圏域構想」を提唱してきた。

各地域の経済団体は人口減少等の課題への危機感も非常に強く、自治体や大学等の様々なステークホルダーと連携し、地域経済の発展に向けた独自ビジョンを策定しており、まさに広域連携の中で発展のきっかけとなる動きである。経団連としては、各地域の独自ビジョンを後押ししていきたい。

今般、政府が「地域未来戦略」で掲げた産業クラスターの形成も、都道府県をまたがるものと認識している。各地域の独自ビジョンと、政府が本年9月に整備した「広域リージョン連携」の制度、さらに高市政権の「地域未来戦略」が、大きなベクトルの合致する形で進展していくことが重要である。

経団連としては、政府の掲げる政策の理念と実践を常に意識の根底に置きながら、「新たな道州圏域構想」のコンセプトの認知度向上と社会への浸透を図っていく。

【今治造船視察】

〔12月4日に今治造船西条工場の視察をした感想を問われ、〕わが国の貿易量は99%以上を外航海運に頼っており、海運・造船といった海事産業は、国民生活、経済活動、国家安全保障を支える上で極めて重要であるということを改めて強く感じた。

視察では、組み立て工程のスケールの大きさに感銘を受けるとともに、製造工程のDX化や人材育成等、様々な観点から造船業の国際競争力を強化することの重要性を再認識した。日本の造船業の世界シェアが大きく低下する中、安全保障等の観点でも、自国で造船を行っていくことは極めて重要である。

その意味で造船業の生産基盤強化が急務となる中、今般の補正予算案には、国内造船業の再生に向けた基金の創設などの予算が計上され、今後10年間で1兆円規模の官民投資の実現が掲げられており、期待している。

【長期金利の上昇】

〔新発10年物国債の利回りが一時1.97%まで上昇し、2%に迫っていることの受け止めを問われ、〕2%という水準は一つの節目だと思っており、今後の推移を注視していく。

長期金利の上昇は、財政運営や、米国と日本の金融政策に対する市場の思惑も大きく影響しているのではないか。高市総理も、市場の信認が重要であるということを繰り返し発信されており、中長期の財政健全化によって、財政の持続可能性を確保し、市場の信認を維持し続けてほしい。同時に、市場を意識した発信、説明を継続的に行っていただきたい。

日銀には、為替の影響も含めた物価の動向や、2026年の春季労使交渉における賃金引上げの見通しも影響してくるだろうが、いずれにせよ2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向け、適時・適切な金融政策運営を期待する。

【為替】

〔為替が円安方向に推移する中、現在の為替水準や為替介入の可能性について考えを問われ、〕為替は本来、経済のファンダメンタルズを反映すべきものであり、急激な変動は望ましくないが、現実的には、投機筋の売買等による短期的な動きを避けることは難しい面もある。そうした短期間かつ急激な為替変動があった場合に為替介入が行われるかどうかは、今後の推移を見極めつつ、政府が適切に判断されるものと認識している。

為替は様々な要因で動くものであり、時々の国内外の経済情勢を反映しているものであるため、現在の水準が適正かどうかの判断は難しい。ただし、過度な変動は望ましくない。また、トレンドとして円安が続いていくことは避けなければならない。円安トレンドの是正には、市場の信認を維持するような財政の持続可能性の確保、加えてファンダメンタルズの強化、つまり中長期での潜在成長力の強化が重要である。まさに今取り組もうとしている、官民連携での成長投資の促進や労働改革等が潜在成長力の強化につながっていくと考えている。

【防衛費のあり方】

〔世界的に防衛費が増加傾向にある中でのわが国の防衛費のあり方について問われ、〕わが国を取り巻く安全保障環境が複雑化し、厳しさを増す中、防衛関係費のあり方については、国益の観点から最適な判断をしていただきたい。基本的に、防衛費は外国から要請されて増額するものではなく、安全保障環境に照らし、財源確保の視点も含め、国益の観点から自律的に判断すべきものだと考えている。

自国を守り、地域の平和と安定の確保に貢献していくためには、防衛生産・技術基盤の維持強化を図っていくことが重要である。このため、防衛企業における事業の予見性を高める観点が極めて重要であり、防衛装備品の調達などについて、長期間にわたる適正な予算を確保することが、予見性確保の重要なポイントである。

防衛力強化に係る財源については、令和5年度税制改正大綱で法人税、所得税およびたばこ税に対して課税を行う枠組みが決定済みである。法人には、2026年4月より防衛特別法人税が課税されることとなっており、所得税については、税制調査会において、具体的な内容が議論されていると理解している。

【日中関係】

〔日中関係の悪化による対中ビジネスへの影響や、1月に予定する日中経済協会合同訪中代表団の意義を問われ、〕観光も含め、人的交流の縮小につながるものであり、対中ビジネスに様々な影響が出ていることを憂慮している。影響が拡大しないよう、両国政府間で対話を通じた意思疎通が図られていくことが重要である。企業は常に冷静に状況を把握し、対応していくことが必要であろう。

経済・ビジネスの世界においても、対話を通じた意思疎通の機会を探っていくことは重要であり、その意味で、日中経済協会合同訪中代表団の重要性を認識している。同訪中団は、コロナ禍を除き、日中関係が厳しい時でも継続してきた歴史があり、両国にとって大きな財産であろう。同訪中団が予定通り派遣されることを強く期待している。

〔先日の呉江浩駐日中国大使との面会にて1月の訪中団の重要性に言及したことに対し、その後、先方からの連絡があったのかを問われ、〕特に連絡はきていない。

【旧姓使用の法制化・選択的夫婦別姓】

〔政府が旧姓の通称使用を法制化する方針を固めたとの報道を受け、選択的夫婦別姓の実現を掲げる経団連の考えの変化の有無を問われ、〕選択的夫婦別姓についての経団連の考え方は変わっていない。今後の議論の動向を見守っていきたい。

旧姓の通称使用の法制化について、詳細がわからずコメントは難しいが、女性の活躍推進に向けて、社会生活のあらゆる場面における、改姓による負担や不利益などの解消に資する方策を検討いただいているものと評価したい。

【おこめ券】

〔政府が経済対策で食料品の購入支援策として地方自治体に配布を推奨する「おこめ券」について考えを問われ、〕消費者の得られる効用、行政のコスト、ビジネスへの効果を総合的に考えると、プラス・マイナスの両面があり、一刀両断には判断しにくい。

食料安全保障の確保を図る中で、国民が毎日の食料を安定的に購買できる環境を整備することが農政の根幹であろう。その中で、生産者と消費者への目配り、行政の実務の問題等、様々な点を考慮しながら、今後のコメ価格の安定、コメの安定供給に対してバランスのとれた施策を展開することが重要である。「おこめ券」はその中でどのような位置付けなのかを考えながら、PDCAを回し、今後の物価高対策のあり方や、コメ価格の上昇対策といった大きな課題への対応を検討いただきたい。

以上

「会長コメント/スピーチ」はこちら

会長コメント/スピーチ

バックナンバー

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /