月刊 経団連2018年1月号
特集 2018年世界経済・日本経済の展望 ―力強い経済再生に向けて
巻頭言
GDP600兆円経済に向けて邁進する年に
2014年の会長就任以来、経団連ビジョンに掲げた「『豊かで活力ある日本』の再生」の実現に向けて、政官との緊密な連携のもと、鋭意取り組んできた。今や雇用環境は大幅に改善し、緩やかながらも極めて長期にわたる景気拡大が実現している。
特集
2018年世界経済・日本経済の展望 ―力強い経済再生に向けて
現在、世界経済は拡大基調にあるものの、各地での反グローバリズムや保護主義的な動きは、いまだ鎮静化していない。わが国とともに自由貿易体制を推進してきた米国、欧州の動静は世界の関心事であり、トランプ政権の政策運営、Brexitの行方など、引き続き注視が必要である。また、中国やインドがグローバルビジネスにもたらす変化や影響も見逃せない。さらには、北朝鮮や中東の地政学的リスクも顕在化しており、世界情勢は不透明で不確実な様相を呈している。第2次世界大戦後の国際秩序が大きく変わりつつあり、わが国はそのなかで難しいかじ取りを迫られている。本座談会では、日本を取り巻く国際情勢を踏まえつつ、2018年の世界経済、日本経済を巨視的かつ子細に展望する。
座談会:2018年世界経済・日本経済の展望 ―力強い経済再生に向けて
- 宮永俊一 (経団連副会長/三菱重工業社長)
- 宮家邦彦 (キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
- 飯島彰己 (経団連副会長/三井物産会長)
- 永井浩二 (経団連経済財政委員長/野村ホールディングス社長)
宮永俊一(経団連副会長/三菱重工業社長)
欧米や中国などでは、少子高齢化社会を見据え、IoTやAIを活用した自動化を核とする設備投資が増えている。金融緩和により資金調達がしやすい状況にあるという条件に加え、日本のSociety 5.0やドイツのIndustrie 4.0などの動きが浸透してきたことが、その背景にあるのだろう。また、私たちが次の世代に残せるレガシーは、日本を世界のなかで尊敬され、信頼される国にすることだ。そのためには、利益追求だけで終わらない海外への投資を積極的に行うべきである。今後、経団連のなかでも議論し、提言していきたい。
宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)
欧米では、極右勢力の台頭のようにナショナリズムとポピュリズムの結合で生まれた現象が目立つ。その背景には排外主義的・人種差別的イデオロギーがある。日本でもポピュリズムは見られるが、幸いそうした傾向は見られない。しかし、若い世代が希望の持てる社会を目指さなければ、「醜いナショナリズム」にシフトするリスクは高まる。日本社会の健全な発展のためにも、経済成長が必要だ。北朝鮮、中国、サウジアラビアをめぐる状況も、世界情勢の不確実性を高めている。それぞれにリスクを見極め、対策を練っておく必要がある。
飯島彰己(経団連副会長/三井物産会長)
総合商社の仕事は、従来の「需要と供給をつなぐ仕事」から、世界的な共通課題、社会課題の解決のために、まだ世界中のどこにも存在しないソリューションを新たに「創造するためにつなぐ仕事」に進化している。米国がTPPを離脱し、中国が「一帯一路」の戦略を進めるなか、日本の通商政策は、ますます重要になってくる。その意味では、2017年中に、日本がリーダーシップを発揮して、日EU EPAの大枠合意、TPP11の大筋合意の実現に至ったことを高く評価したい。
永井浩二(経団連経済財政委員長/野村ホールディングス社長)
世界的な好況が約6年にわたり続いているが、このトレンドは2018年も継続すると見込む。また、好調な世界景気を背景に、輸出や設備投資が日本の景気をけん引しよう。国内の設備投資は好調な輸出環境に加え、人手不足の深刻化に伴う省力化の必要性も相まって2018年も勢いを維持するとみている。1800兆円に上る個人金融資産に関しては、今後、大規模な相続が発生し、地方から都市圏への「富」の移転が加速する見通しだ。地方の活性化に一層取り組まなければ、日本経済全体が縮小するおそれがある。現役世代の資産形成に対する支援も必要であろう。
久保田政一(司会:経団連事務総長)
- ■しかく 2018年の内外情勢の展望
- 米国の国際的関与が低下するなかで
- 2018年も世界的な好況は継続する
- 「変革」のための設備投資が各国経済を支えている
- 中国、インドにおけるビジネス環境の変化に注目
- 楽観視できない金融情勢
- 北朝鮮、中国、サウジアラビアの動向に注意せよ
- ■しかく 長期にわたる経済成長の継続に向けた企業の取り組みと今後の課題
- 総合商社のビジネスは、ソリューションの創造
- グローバル化とローカル化を組み合わせるビジネスが増えていく
- 構造的な変化を乗り越える
- ■しかく 今後の経団連としての取り組みや政府への提言
- 2020年の東京オリ・パラ以降を見据えた投資を
- 現役世代の資産形成を支援するべき
- 経済連携の推進を期待する
- 世界から尊敬され、信頼される国になるために
日本経済の再生と人づくり革命
茂木敏充(経済再生担当大臣、人づくり革命担当大臣)
- アベノミクスの成果と最優先で取り組む2つの政策
- 人生100年時代の「人づくり革命」
- 成長戦略の核となる「生産性革命」
- 経済連携の推進
トランプ政権と中東
藤原帰一(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
- 中東政策の大きな転換
- サウジアラビア北部における政治的・軍事的脅威
- 中東は米国の対外政策を脅かす火薬庫
現実的な目標に基づく経済論議を
門間一夫(みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミスト)
- 「1%成長」だって甘くはない
- 物価を上げる方法もわかっていない
- 本当の知恵の使いどころ
好調な日本経済と大きな変化が予感される世界環境
白井さゆり(慶應義塾大学総合政策学部教授)
- 2018年に注視すべき3つの世界的リスク
- 懸念される貿易保護主義の本格化
- 米国長期金利の急上昇のリスク
- 2018年は英国のEU離脱交渉の最終年
基礎的財政収支黒字化の早期達成を
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)
- 財政健全化目標達成の事実上の先送り
- 医療改革の効果で2023年度にはPB黒字化
- 早期のPB黒字化は歳出改革とセットで
一般記事
自由貿易推進の重要性、日本企業による米国経済社会への貢献実績等を発信
―訪米ミッションを派遣
榊原定征(経団連会長)
- オハイオ州コロンバス(10月29日〜31日)
- ワシントンDC(10月31日〜11月1日)
【提言】
今後のエネルギー政策に関する提言
―豊かで活力ある経済社会の実現に向けて
http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/090.html
高橋恭平(経団連審議員会副議長、資源・エネルギー対策委員長/昭和電工相談役)
加藤泰彦(経団連資源・エネルギー対策委員長/三井造船相談役)
- 豊かで活力ある経済社会を支えるエネルギー政策のあり方
- 各エネルギー源・政策課題に対する考え方
- 2050年とその先を見据えて
SDGs達成に向けた企業の社会貢献活動
―2016年度社会貢献活動実績調査結果に見る
http://www.keidanren.or.jp/policy/2017/091.html
三宅占二(経団連企業行動・CSR委員長/キリンホールディングス名誉相談役)
二宮雅也(経団連企業行動・CSR委員長/1%クラブ会長/損害保険ジャパン日本興亜会長)
津賀一宏(経団連企業行動・CSR委員長/パナソニック社長)
- 1社平均支出額は5億9700万円、調査開始以来最高額
- 35%が東京オリンピック・パラリンピックに関する社会貢献活動を実施・検討
- 7割の企業がSDGsの考え方を社会貢献活動に導入
連載
-
これからのヘルスケア (3)
うたと音楽の力で地域社会をつなぐ
(第一興商) -
経営者のひととき
現場から見つめる未来
平井一夫(ソニー社長 兼 CEO) -
Essay「時の調べ」
「洋楽」の先達
外山雄三(作曲家・指揮者)