月刊 経団連2015年9月号
特集 企業活力の発揮と新たな社会経済の変化への対応を目指した社会資本の構築
巻頭言
地方創生に想う
福岡県大牟田市は、私が生まれ育った街である。かつて大牟田は三池炭鉱を中心に「炭鉱のまち」として栄え、20万人を超える人が暮らす地方中核都市であった。しかし、時代は移り、炭鉱も閉山し、私の故郷はすっかり寂れてしまった。現在の人口は12万人を割り、かつての約半分の人口規模となっている。故郷を想うと寂しくなるが、これが現実である。
特集
企業活力の発揮と新たな社会経済の変化への対応を目指した社会資本の構築
国民生活の維持・向上および企業活動の円滑な遂行には、さまざまな社会資本がそれぞれの機能を十二分に発揮することが期待されている。しかし、社会資本の多くは高度成長期に整備されており、老朽化問題は時間とともに確実に深刻化している。また、厳しい財政事情のもと、少子高齢化・人口減少や、地域経済を支える産業動向の変化など、経済社会の変化にも適切に対応していくことが求められている。利用者、管理者、事業者それぞれの立場から、社会資本の望ましいあり方について議論する。
座談会:企業活力の発揮と新たな社会経済の変化への対応を目指した社会資本の構築
- 工藤泰三 (経団連副会長/日本郵船会長)
- 林 文子 (横浜市長)
- 宮本洋一 (経団連審議員会副議長、都市・住宅政策委員長/清水建設社長)
- 根本祐二 (東洋大学経済学部総合政策学科教授)
工藤泰三 (経団連副会長/日本郵船会長)
グローバルな物流に占める日本発着貨物の比重が低下するとともに、相対的に日本の港湾のプレゼンスは低下している。ソフト面ではサービスと効率性ともに高いレベルを維持しつつ、ハード面では選択と集中を進めていく必要がある。人口減少が進むなかで、物流の担い手確保は喫緊の課題となっている。トラックから内航船へのモーダルシフトを含め、人口減少下におけるインフラ、物流のあり方を考えるべきである。
林 文子 (横浜市長)
基礎自治体は、市民の皆様の暮らしの安全・安心をお守りしながら、持続的な都市の成長を成し遂げていかなければならない。超高齢社会の到来や人口減少を踏まえ、日々の暮らしに直結するインフラの保全と更新に向け、長期的な戦略を立てて取り組んでいる。同時に、経済活性化のため、文化芸術、観光・MICEといったソフト、道路や港湾整備といったハード、双方のインフラ整備に向けた投資をダイナミックに進める必要がある。
宮本洋一 (経団連審議員会副議長、都市・住宅政策委員長/清水建設社長)
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や社会保障費の増加などによる財政制約が想定される一方、インフラの老朽化に伴う維持更新費用は増大する。社会資本投資においては、投資の誘発や、生産性の向上に寄与するインフラに戦略的に投資する必要がある。他方、PPPやPFIなど、民間の技術・ノウハウを活用することで、コスト削減や工期短縮を図ることも重要である。建設業界の担い手確保・育成については、処遇改善と生産性向上の2つの方針により対処していく。
根本祐二 (東洋大学経済学部総合政策学科教授)
これまで公共投資はピラミッド型で行われてきた。日本の場合、1回目の頂点は1970年前後であり、インフラの耐用年数を考えると、2020〜30年に2回目の頂点をつくる必要がある。財政的な余裕がまったくないなかで、これまで「聖域」とされてきた学校や公営住宅の統廃合にも着手する必要がある。公共投資に民間の知恵を活用するためのPPP・PFIの推進や、固定費型から変動費型へのモデルチェンジも不可欠である。
根本勝則 (司会:経団連常務理事)
- ●くろまる企業の活力を高めるために社会資本に求められる役割
- サービス・効率性で高い水準にある日本の港湾
- 老朽化したインフラの維持更新が課題
- 2020〜2030年に公共投資のピークをつくる
- ●くろまる競争力を支えつつ、人口減少下に適したインフラ整備
- インフラ更新は行財政改革のチャンス
- 聖域に手をつける戦略的マネジメントを
- 国際競争力のある港湾を
- 民間企業の技術・ノウハウの活用
- 港湾も選択と集中が不可欠
- ●くろまる諸課題の解決に向けた方向性
- 固定費から変動費に切り替えるようなモデルチェンジが必要
- 対話の重視、官民の連携で成功モデルを
- 小さくても機能を発揮できるインフラの開発を
- 人口減少下での社会インフラのあり方を検討するべき
- 建設業における担い手確保・育成と生産性の向上
- 費用対効果の計測が不可欠
- 官と民が交流する機会を増やすことが大切
ICTによる新たな社会資本の構築
篠原弘道 (日本電信電話副社長)
- 社会的課題の解決
- 新たな価値創造に向けて
社会資本の維持更新におけるPFI/PPPの活用と課題
土屋雅裕 (大成建設営業総本部執行役員プロジェクト創造部長)
- 維持更新コストの縮減
- 官業から民業への転換
日本橋の街づくりについて
上田隆康 (三井不動産日本橋街づくり推進部長)
- 日本橋の街づくりの考え方
- 日本橋の街づくりにおける具体的なテーマ
- これからの日本橋
成田空港の国際競争力強化に向けた取り組み
夏目 誠 (成田国際空港社長)
- 成田空港の現況
- 中期経営計画の着実な推進
- 今後の成長に向けて
人口減少下におけるインフラ整備
宇都正哲 (野村総合研究所グローバルインフラコンサルティング部上席コンサルタント)
- 実現化した社会インフラクライシス
- インフラ維持管理・更新における財源不足と民間資金活用のジレンマ
- 的確にタイミングをとらえて、需要見合いのサービス水準に変えていく
今後のインフラの考え方
久田 真 (東北大学大学院工学研究科教授)
- インフラに関する東北地方の現状
- 今後のインフラのあり方について
- おわりに
希薄化社会におけるインフラを考える
〜求められる発想の転換
木村俊介 (一橋大学法学研究科教授)
- 負担層の規模は変動しないという観念からの脱却
- インフラ等は単一目的でなければならないという観念からの脱却
- ライトサイジングを見出す工夫を
- インフラ等をコンパクトにしても利便性を高めることは可能
今後の社会資本整備のあり方について
〜社会資本整備重点計画の見直しの方向性
毛利信二 (国土交通省総合政策局長)
- 社会資本のストック効果とは
- 経済再生に貢献する社会資本整備への重点化
一般記事
訪米ミッション
日米関係の重要性を広く共有
〜総勢約100名の訪米ミッションを派遣
榊原定征 (経団連会長)
- 日米経済関係の重要性を説明。TPP交渉をめぐり連邦政府閣僚と意見交換
〜ワシントンD. C. - 州政府要人との交流を通じて日系企業の貢献をアピール
〜メリーランド州/バージニア州/サウスカロライナ州
米国との協力拡大に向け草の根レベルで交流深める
〜テキサス、テネシー、カリフォルニア/総行程5000kmミッション
岩沙弘道 (経団連審議員会議長/三井不動産会長)
- TPPやエネルギー問題等で日米連携の重要性を確認
〜テキサス州 - 南部の心温まる"おもてなし"を実感
〜テネシー州 - 日本の技術との互恵的協力関係の拡大に期待
〜カリフォルニア州
米国経済における日本企業のプレゼンスの高さと期待を実感
〜イリノイ、インディアナ、オハイオ、ニュージャージー
石原邦夫 (経団連副会長・アメリカ委員長/東京海上日動火災保険相談役)
- 強力に州経済改革を推進
〜イリノイ州 - 一層の投資誘致に注力
〜インディアナ州 - 民営化組織により雇用創出に努力
〜オハイオ州 - 巨大マーケットに隣接する立地優位性をアピール
〜ニュージャージー州
連載
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未来を創る企業力 (13) 〜100年経営の真髄に迫る〜
伝統と革新を併存させながら、次の100年に向けて走り続ける。
ヤナセ- 大幅な業績アップを導いた原点回帰の中長期ビジョン
- 顧客の満足と社員の意欲を徹底追求して革新を続ける
- 脈々と受け継がれる伝統を恒久的な経営の礎として
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経営者のひととき
My Favorite Things
岩城 修(イワキ社長) -
Essay「時の調べ」
10年ぶりに研究者に戻ったところで、ふと思う、グローバル市場と日本人
小林 至(江戸川大学教授)