月刊 経団連2013年5月号
特集 わが国経済外交の再構築に向けて
巻頭言
世界に誇る健康増進・予防先進国を目指して
安倍政権は、三本目の矢となる「成長戦略」の具現化に向けた重点課題の一つとして、「健康長寿社会の実現」を取り上げた。こうした社会の実現には、革新的な医療技術の開発といったハード面の戦略が重要であるが、同時に「セルフメディケーション」、つまり自らが健康増進や予防に取り組むといったソフト面での身近な対応も欠かせない。
特集
わが国経済外交の再構築に向けて
グローバル化の時代、もはや政治・外交と経済は不可分である。経済力が国家のパワーの源泉と認識されるなかで、新興国の急成長を背景としてアジア太平洋地域のパワーバランスは変化している。また、日本経済の低迷に伴い、ルールメーキングや国際機関等における日本の影響力やプレゼンスの低下が懸念されている。そこで、日本の経済外交のあり方を検証し、新政権のもとで再構築するべき経済外交について議論した。
座談会:わが国経済外交の再構築に向けて
- 石原邦夫 (経団連副会長・アメリカ委員長/東京海上日動火災保険会長)
- 田中 均 (日本総合研究所国際戦略研究所理事長)
- 矢野 薫 (経団連審議員会副議長・国際協力委員長/日本電気会長)
- 田中明彦 (国際協力機構(JICA)理事長)
- 久保田政一 (司会:経団連専務理事)
石原邦夫 (経団連副会長・アメリカ委員長/東京海上日動火災保険会長)
アジア太平洋地域のパワーバランスが変化するなか、日米関係を再び強化することが、この地域の安定的発展にとって不可欠である。安倍政権になって日米関係が改善に向かっていることは歓迎すべきだ。また、米国が、TPP交渉を軸として、経済面でもアジア太平洋地域への関心を高めていくなかで、日本も早期に交渉に参加することで、米国と共に通商ルールづくりをリードすることが、喫緊の課題である。
田中 均 (日本総合研究所国際戦略研究所理事長)
今や政治と経済を切り離して論じることに意味はなく、トータルな戦略が求められている。日米欧という三つの先進地域が、高度な経済連携で結ばれていく可能性、あるいは東アジア地域の連携の可能性が高まるなかで、TPPをめぐる議論は、日本をどう改革していくかという観点でなされるべきだ。経済外交を支える体制としては、米国の国家安全保障会議、外交問題評議会に相当する二つの機関が日本でも必要である。
矢野 薫 (経団連審議員会副議長・国際協力委員長/日本電気会長)
戦後、日本は、対外援助等を通じて、相手国の経済成長、貧困の撲滅に貢献してきた。ウィン・ウィンの関係をつくることが日本の経済外交における基本である。今後も、例えばCO2削減に向けて二国間オフセットメカニズム等を活用すれば、相手国の課題解決に貢献できると考える。また、6月には、横浜で「第5回アフリカ開発会議(TICAD V)」が開催される。今後アフリカは、資源だけでなく、マーケットとしても重要な地域となっていくだろう。
田中明彦 (国際協力機構(JICA)理事長)
世界的に開発途上国の発展が目覚ましい。サハラ以南のアフリカは、この10年間、年平均5%以上の成長を続けており、アジア、南米を含めた「南」の台頭は著しい。新興国、開発途上国が、いわゆる先進国と共に望ましい国際秩序を構築していけるかが課題。日本は、これまでの経済協力(ODA)に自信を持ち、従来からのアジア諸国に加えて、これからの成長地域であるインド洋以西の国々へも同様の協力を行っていくべき。それが日本の平和・繁栄と国際社会における長期的利益にもつながる。
久保田政一 (司会:経団連専務理事)
- ●くろまる日本を取り巻く国際環境の変化とわが国経済外交のあるべき姿
- この20年のアジア太平洋地域の変化
- 南の台頭 ―成長するアフリカ・南米
- アジア太平洋地域の安定と日米同盟
- ウィン・ウィンの関係をつくる経済外交を
- ●くろまる経済外交の主要課題への対応
- 今こそ包括的な外交戦略が必要
- 国際ルールづくりに積極的に参加し存在感を示す
- 日本型経済協力をアフリカで展開すべき
- エネルギーの安定確保が経済外交の中心課題
- ●くろまるわが国経済外交推進のための体制・取り組みについて
- 外交や安全保障に関してオールジャパンで議論する場を
- 政府の意思決定機関と広く国益を議論する場が必要
- 民間がPPPを活用するためにナレッジセンターの設立を
- 政官財オールジャパン体制で経済外交に当たる
日米関係のさらなる強化に向けた課題
村瀬治男 (経団連アメリカ委員会共同委員長/キヤノンマーケティングジャパン会長)
- 日米同盟の再構築
- TPP参加を通じた日米経済関係の深化
- 関係強化の基礎は「人と人との関係」
日・EU関係に見るわが国経済外交の課題
横山進一 (経団連ヨーロッパ地域委員会共同委員長/住友生命保険会長)
小林喜光 (経団連ヨーロッパ地域委員会共同委員長/三菱ケミカルホールディングス社長)
- EU・韓国FTA交渉開始が契機
- 「経済統合」でウィン・ウィンを模索
- 欧州経済界との共同声明を公表
- 欧州経済界との対話を促進
- まずは先進国共通のルールづくりを目指せ
日本の経済外交に求められる自覚と覚悟
伊藤一郎 (経団連日タイ貿易経済委員会共同委員長/旭化成会長)
- 大きなうねりとなる自由貿易交渉
- ASEAN発展への期待と日本の役割
- 戦後成長モデルからの転換
〜課題解決型科学技術立国へ
わが国経済外交の課題
〜重要性を増すアジアへの対応
小林 健 (経団連日本ミャンマー経済委員会共同委員長/三菱商事社長)
- 日本の経験をフル活用しミャンマーの発展を
- 事業展開の多様化を踏まえた支援を
対外政策の基本的方向
白石 隆 (政策研究大学院大学学長)
- 多国間ルールは多国間で共同でつくるべき
- 東南アジアを世界に開かれた地域に
アジア外交の終わり?
〜アジア外交の変遷と将来展望
藤原帰一 (東京大学大学院法学政治学研究科教授)
- アジア外交の重心の変化
- アジア経済外交の成果と衰退
海洋国家日本の国家戦略
細谷雄一 (慶應義塾大学法学部教授)
- 国際社会に背を向ければ国富と国力を失う
- 長期的視野から自由貿易のルールづくりを
求められる中東・北アフリカ型の体系的経済外交の推進
畑中美樹 (国際開発センターエネルギー・環境室研究顧問)
- 基本は人づくり支援と産業育成
- 今後の柱は「パッケージ型インフラ事業」の展開
一般記事
サブサハラ・アフリカの持続可能な成長に貢献する
〜第5回アフリカ開発会議(TICAD V)に向けて
坂根正弘 (経団連副会長/TICAD V 推進官民連携協議会共同座長/小松製作所相談役)
- 潜在力に富んだアフリカ
- インフラ整備の推進に向けて
- 貿易投資の活性化のために解決すべきこと
- 持続的成長をもたらす農業開発への貢献
- TICAD V の成功に向けて
循環型社会の形成に向けた産業界の取り組み
〜環境自主行動計画〔循環型社会形成編〕2012年度フォローアップ調査結果
http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/021.html
天坊昭彦 (経団連環境安全委員会共同委員長/出光興産相談役)
- 環境自主行動計画〔循環型社会形成編〕の概要
- 2012年度フォローアップ調査結果の内容
- これまでの取り組みの評価と今後の課題
申珏秀駐日韓国大使に聞く
国をあげて観光振興に取り組む韓国
〜日韓観光交流の強化に向けて
(PDF形式にて全文公開中)
申 珏 秀 (駐日韓国大使)
大塚陸毅 (聞き手:経団連副会長・観光委員長/東日本旅客鉄道相談役)
- 観光の三つの役割
- 東日本大震災以降の日韓観光交流の概況
- 韓国における観光振興
- 韓国から見た日本の魅力と観光振興に向けたアドバイス
- 未来志向的で成熟したパートナーシップ構築に向けた日韓観光交流の意義
連載
- あの時、あの言葉
君は儲け方を知らないね
中嶋洋平(日油相談役) - エッセイ「時の調べ」
ナビゲーションの勧め
村越 真(静岡大学教授・オリエンテーリング競技者) - 翔べ!世界へ―奨学生体験記
チャレンジ精神豊かな技術者の育成
谷口研二(奈良工業高等専門学校校長/大阪大学名誉教授)