少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。
付添人日誌(22・5月号)
1 少年からの手紙
先日、自分が付添人として審判を担当した少年からの手紙が届きました。私は、弁護士業務をはじめて1年半、今まで5件の少年事件を担当しました。しかし、事件が「終わって」少年から手紙をもらうのは初めてでした。私は、内心「先生、あのときはお世話になりました。」という手紙かな?と期待したのですが、開けてみると内容は、「被害者に謝りたい」「手紙を出したいが連絡を取れないだろうか」というものでした。少年の手紙には、「反省」「後悔」「償い」の文字が何度も並べられ、負のエネルギーに充ち満ちていました。
2 事件の記憶
この少年は、私が付添人を担当し、初めて少年院送致処分になった子でした。 事件は、少年が、元妻とその友達に対し暴力を振るって軽傷を負わせたという事案でした。私には、少年が、事件当初から真摯に反省しているように思え、この過ちで少年院に行かなくてはならないような子ではないように思えました。
しかし、少年には「前科」があるからなのか、調査官の少年の処遇に関する見解は最初から厳しいものでした。調査官は、面談で、少年に対し、「どうして少年院に行くのがそんなに嫌なの?」とまで言っていました。私は、少年から調査官のこの言葉を聞いて「この調査官はバカなのか?」と腹が立ちましたが、感情的になって調査官と必要以上に対立し、調査官を自己の意見に固執させてはいけないと思い、「少年も充分反省しているみたいですし、暴力沙汰での家裁送致は初めてですから・・・」と努めておだやかに調査官に訴えました。しかし、調査官の「少年院行き」の「信念」は固く、途中、「先生、用件はこのお電話で伺いますけど?」と言われたこともありました(しつこいのが嫌われただけかもしれません)。 被害弁償も試みましたが被害者から拒否されたので、私を通じて謝罪の手紙を受け取ってもらうのが精一杯でした。一方で、少年は、住み込みでの仕事を始めたばかりでしたので、仕事と身元引受人は、何とかなりました。私は、住み込みの仕事で環境が変わること、仕事場の上司が少年を指導監督すると誓約してくれていること、粗暴犯での家裁送致がはじめてであることなど、若干寂しい手持ちの武器を駆使して少年の保護観察処分を主張しました。
しかし、結局は自分の付添人としての力不足で、調査官の「信念」を全く揺るがすことができず、少年は、そのまま少年院送致にされてしまったのでした。審判の日、私に泣きながら「ありがとうございました」と言う少年を思い出すと、今でも心が痛みます。
3 手紙への返事
自分は、弁護士業務を始めてもう1年半が過ぎましたが、日々の業務の中で、昔の事件のことを忘れるようになってしまっています。もちろん、弁護士業務は、ストレスの大きい仕事でもあると思いますので、「忘れる」ことも重要なのでしょうが...「少年のなかでは、事件は終わっていない。」自分は、手紙を受け取ったとき安易に事件が「終わった」ものと判断した自分の事件に対する認識の甘さに、戒めを受けたような気がしました。
今思い返すと、この少年にはもっとできることがあったような気がします。確かに、それで、少年院送致を免れていたかどうかは分かりません。しかし、この少年の手紙からは、あの事件から「上向き」になっている少年の姿を想像することができません。あのとき、この少年に、どんな言葉をどんなことをしてあげていれば良かったのか。そして、今、この少年にどんな言葉をかけてあげれば良いのか...まだ、手紙の返事は出せていません。
篠原 一明
目次
- 付添人日誌 (連続掲載第3回)(7・7月号)
- 付添人日誌 (連続掲載第2回)(7・4月号)
- 付添人日誌 (連続掲載第1回)(7・1月号)
- 付添人日誌 移送前の少年事件(被疑者国選)でできること(6・10月号)
- 付添人日誌 審判で一言もしゃべることができなかった少年(6・7月号)
- 付添人日誌 審判で一言もしゃべることができなかった少年(6・7月号)
- 付添人日誌(6・4月号)
- 付添人日誌(6・1月号)
- 付添人日誌(5・10月号)
- 付添人日誌(5・1月号)
- 付添人日誌 特定少年に関する付添人活動の報告(4・10月号)
- 付添人日誌(4・7月号)
- 付添人日誌(4・1月号)
- 付添人日誌(3・7月号)
- 付添人日誌(3・4月号)
- 付添人日誌(3・1月号)
- 付添人日誌(2・10月号)
- 付添人日誌 「受け子」にされた少年(2・7月号)
- 付添人日誌 付添人実務研修(2・4月号)
- 付添人日誌 伝わらなかった思い 伝えたい思い(1・10月号)
- 付添人日誌(30・9月号)
- 付添人日誌 すべての少年に国選付添人を!(30・8月号)
- 付添人日誌(30・7月号)
- 付添人日誌 〜迅速な初動対応と環境調整により保護観察処分を得た一例〜(30・3月号)
- 付添人日誌(30・1月号)
- 付添人日誌(29・12月号)
- 付添人日誌(29・10月号)
- 付添人日誌(29・9月号)
- 付添人日誌(29・8月号)
- 付添人日誌(29・7月号)
- 付添人日誌(29・6月号)
- 付添人日誌(29・2月号)
- 付添人日誌 初めての少年付添人事件を担当して(28・1月号)
- 付添人日誌(27・11月号)
- 付添人日誌 保護者の悩み(27・10月号)
- 付添人日誌 初めての付添事件(27・8月号)
- 付添人日誌 法テラス「子どもに対する法律援助」制度の活用−触法・否認事件−(27・7月号)
- 付添人日誌 少年が広げてくれる就労支援の輪(27・6月号)
- 付添人日誌(27・5月号)
- 付添人日誌 非行前の付添人活動(27・3月号)
- 付添人日誌(27・2月号)
- 付添人日誌 国選付添人としての活動報告(26・10月号)
- 付添人日誌(26・9月号)
- 付添人日誌(26・8月号)
- 付添人日誌 はじめての付添人活動(26・7月号)
- 付添人日誌「初めての少年付添人活動」(26・6月号)
- 付添人日誌(25・10月号)
- 付添人日誌(25・5月号)
- 付添人日誌「子離れ親離れ」(25・3月号)
- 付添人日誌(25・1月号)
- 付添人日誌(24・11月号)
- 付添人日誌 〜子どもシェルターを始めます〜(24・1月号)
- 付添人日誌 被害弁償と親の思い(23・12月号)
- 付添人日誌 逆送少年(23・6月号)
- 付添人日誌(23・5月号)
- 付添人日誌(22・9月号)
- 付添人日誌(22・5月号)
- 付添人日誌(20・2月号)
- 付添人日誌(18・8月号)
- 付添人日誌(18・7月号)
- 付添人日誌(17・10月号)
- 付添人日誌〜やってはいないけど・・・〜(17・8月号)
- 雨上がりには虹を(15・4月号)
- 不処分事件から見えてくる少年事件の問題(その3)(14・7月号)
- 処分事件から見えてくる少年事件の問題(その2)(14・6月号)
- 女の子からのラブコール(14・5月号)
- 不処分事件から見えてくる少年事件の問題(その1)(14・5月号)
- 盾としての付添人(14・4月号)
- 少年院送致処分が、抗告審で差戻後、保護観察処分に(14・3月号)
- 付添人日誌(14・2月号)
- 被害者に少年の気持ちが通じた!の巻(14・1月号)
- 少年のパートナーとして(13・12月号)
- 少年付添人を経験して(13・11月号)
- 当番付添人制度の現在・未来(13・10月号)