少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。
当番付添人制度の現在・未来(13・10月号)
一 当番付添人の現状
13年2月に全国で初めて「全件付添人制度」を福岡県弁護士会が導入して,早くも8か月が過ぎようとしています。この制度は,観護措置をとられた少年で,かつ,付添人の選任を希望する少年全員に付添人をつけようとする制度です。呼称を「当番付添人」とした上,裁判所の協力を得て,観護措置段階において積極的に少年に対して制度を告知してもらうとともに,名簿登録の各会員の協力により,非常にスムーズに運営されています。
福岡で500件,北九州で100件の予算を組んでいましたが,9月11日現在で福岡で238件,北九州で50件の決定件数となっており,若干予想を超える程度に収まりそうです。
二 福岡から全国へ
この福岡で息吹きを始めた当番付添人制度は,着実に全国に広がりつつあります。
まず5月には,和歌山弁護士会で,一定の重大事件に関して扶助付添人を選任する制度が導入されました。一定の事件に限りますが,扶助協会から15万円,費用として2万円が支出されるなど,弁護士の負担に比例させた報酬支出が注目されます。
また,鹿児島弁護士会でも,本庁事件の年齢14歳,15歳の少年事件の全件に付添人を選任する制度を導入準備中です。
熊本弁護士会でも全件付添人制度の導入を目指して,会内で議論を継続しています。
従来から熱心な付添人活動で知られる,東京弁護士会でも全件付添人制度導入を検討中であるほか,大阪弁護士会では被疑者援助制度の拡充という形で実質的な全件付添人の実施を目指しています。
このように,福岡における当番付添人制度の導入の反響は大きく,昨年実施された全国付添人経験交流集会においても,当番付添人制度が全体会でレポートされたほか,分科会も一番多数の弁護士が出席しました。
既にマスコミでも大きく取り上げられましたが,現在は,NHKが特番の取材を行っています。
三 課題
一方,課題としては,裁判所など関係機関との問題,各会員の負担の問題,財源問題の3点が指摘できます。
一 当番付添人の現状
この制度は家庭裁判所における「積極的な告知」がなければ実現不可能です。また,鑑別所における面会がスムーズに実施できなければ,各会員の待ち時間などの負担が大きいものとなりますし,調査官との意見交換も必要です。
そのため,家庭裁判所とは,2か月に一度のペースで意見交換会を実施するほか,鑑別所との協議会,調査官との協議会も実施しています。
鑑別所との協議会においては,「面会問題 」を中心に議論していますが,最近の協議においては,「付添人の面会室は1部屋から多くても2部屋に限る」と頑なだった鑑別所側が譲歩を見せ,「空いておれば柔軟に付添人との面会にも利用させる」と変化しています。
今後も9月28日の調査官との協議会,10月3日の鑑別所との協議会,11月29日の家裁との協議会などを通じて,問題点の解消や付添人活動の理解に努める予定です。
付添人名簿に登録してくださっている先生方には本当によく対応して頂いています。毎月の受任状況,扶助付添人の報告書を見ますと,年輩の先生方や中堅の働き盛りの先生方にも非常に多く受任して頂いています。
今後は,名簿を再整理し,さらにたくさんの会員に登録して頂き,できるだけ名簿登載者の負担感を少なくしていく必要があるでしょう。できれば会員1人あたり年間2件程度の受任,つまり「広く薄い負担」の実現が必要と思われます。
二 福岡から全国へ
扶助付添人には,1件につき報酬8万円と費用2万円の合計10万円が支給されており,全国的には決して多い方ではありません。むしろ,我が会では,試験観察の場合くらい成功報酬を払うべきとの意見も強く,実際導入も検討されていたのですが,当番付添人制度を導入することもあり見送りました。
の10万円は,扶助協会本部から3万円,日弁連から3万円,扶助協会福岡支部から4万円という内訳になっていますから,日弁からの件数制限が行われないような働きかけも必要だと思われます。
また,大阪などでは10万円や15万円で私撰として受任するケースも多いと聞いており,扶助協会の負担を少なくするために,金額の多寡を問わず,私撰で受任する工夫も必要でしょう。
四 最後に
当番付添人が派遣されたケースで,不処分となった親から,「弁護士さんを頼める制度があって心強かった。」と感謝されたり,調査官から「付添人が付いていなかったら,安心して試験観察にすることはできなかった。」と言われたり,皆さんの苦労に見合うだけの成果が少しずつではありますが,現れつつあるようです。
家裁や鑑別所という限られた「村社会」で処理されてきた少年事件が,極めてオープンになったことは非常に喜ばしいことです。今まで鑑別所や少年審判に赴いても,弁護士と顔を合わせることなどほとんどありませんでしたが,現在は,弁護士と会わないことの方が珍しく,非常に頼もしく感じられるのは私だけでしょうか。何よりも,少年や家族が頼もしく思ってくれているのではないでしょうか。
「当番弁護士」,民事における「福岡方式」など全国をリードする画期的な制度を導入してきた福岡県弁護士会からスタートした,この「当番付添人制度」。
全国に波及し,被疑者国公選にも影響してくると思われるこの制度をいかに充実させ,そして被疑者国公選に連動させていくか,弁護士会全体で前向きに議論していただけると幸いです。
名簿に登録してくださっている各会員はもちろん,財源の問題など各会員の皆さんにはご負担をかけますが,現場としては「被疑者国公選,国選付添人制度」を目指して,さらにこの制度を充実させ,そして全国に広めていくつもりです。今後も,さらなる様々なご支援をよろしくお願いします。
弁護士 古賀克重
目次
- 付添人日誌 (連続掲載第3回)(7・7月号)
- 付添人日誌 (連続掲載第2回)(7・4月号)
- 付添人日誌 (連続掲載第1回)(7・1月号)
- 付添人日誌 移送前の少年事件(被疑者国選)でできること(6・10月号)
- 付添人日誌 審判で一言もしゃべることができなかった少年(6・7月号)
- 付添人日誌 審判で一言もしゃべることができなかった少年(6・7月号)
- 付添人日誌(6・4月号)
- 付添人日誌(6・1月号)
- 付添人日誌(5・10月号)
- 付添人日誌(5・1月号)
- 付添人日誌 特定少年に関する付添人活動の報告(4・10月号)
- 付添人日誌(4・7月号)
- 付添人日誌(4・1月号)
- 付添人日誌(3・7月号)
- 付添人日誌(3・4月号)
- 付添人日誌(3・1月号)
- 付添人日誌(2・10月号)
- 付添人日誌 「受け子」にされた少年(2・7月号)
- 付添人日誌 付添人実務研修(2・4月号)
- 付添人日誌 伝わらなかった思い 伝えたい思い(1・10月号)
- 付添人日誌(30・9月号)
- 付添人日誌 すべての少年に国選付添人を!(30・8月号)
- 付添人日誌(30・7月号)
- 付添人日誌 〜迅速な初動対応と環境調整により保護観察処分を得た一例〜(30・3月号)
- 付添人日誌(30・1月号)
- 付添人日誌(29・12月号)
- 付添人日誌(29・10月号)
- 付添人日誌(29・9月号)
- 付添人日誌(29・8月号)
- 付添人日誌(29・7月号)
- 付添人日誌(29・6月号)
- 付添人日誌(29・2月号)
- 付添人日誌 初めての少年付添人事件を担当して(28・1月号)
- 付添人日誌(27・11月号)
- 付添人日誌 保護者の悩み(27・10月号)
- 付添人日誌 初めての付添事件(27・8月号)
- 付添人日誌 法テラス「子どもに対する法律援助」制度の活用−触法・否認事件−(27・7月号)
- 付添人日誌 少年が広げてくれる就労支援の輪(27・6月号)
- 付添人日誌(27・5月号)
- 付添人日誌 非行前の付添人活動(27・3月号)
- 付添人日誌(27・2月号)
- 付添人日誌 国選付添人としての活動報告(26・10月号)
- 付添人日誌(26・9月号)
- 付添人日誌(26・8月号)
- 付添人日誌 はじめての付添人活動(26・7月号)
- 付添人日誌「初めての少年付添人活動」(26・6月号)
- 付添人日誌(25・10月号)
- 付添人日誌(25・5月号)
- 付添人日誌「子離れ親離れ」(25・3月号)
- 付添人日誌(25・1月号)
- 付添人日誌(24・11月号)
- 付添人日誌 〜子どもシェルターを始めます〜(24・1月号)
- 付添人日誌 被害弁償と親の思い(23・12月号)
- 付添人日誌 逆送少年(23・6月号)
- 付添人日誌(23・5月号)
- 付添人日誌(22・9月号)
- 付添人日誌(22・5月号)
- 付添人日誌(20・2月号)
- 付添人日誌(18・8月号)
- 付添人日誌(18・7月号)
- 付添人日誌(17・10月号)
- 付添人日誌〜やってはいないけど・・・〜(17・8月号)
- 雨上がりには虹を(15・4月号)
- 不処分事件から見えてくる少年事件の問題(その3)(14・7月号)
- 処分事件から見えてくる少年事件の問題(その2)(14・6月号)
- 女の子からのラブコール(14・5月号)
- 不処分事件から見えてくる少年事件の問題(その1)(14・5月号)
- 盾としての付添人(14・4月号)
- 少年院送致処分が、抗告審で差戻後、保護観察処分に(14・3月号)
- 付添人日誌(14・2月号)
- 被害者に少年の気持ちが通じた!の巻(14・1月号)
- 少年のパートナーとして(13・12月号)
- 少年付添人を経験して(13・11月号)
- 当番付添人制度の現在・未来(13・10月号)