Fig 2
2022年の夜間潜水で、串本海中公園の平林勲主任(当時)が採集し、担当者にお恵み下さった2種のナマコに関する論文が出ました。 どちらも本州初記録で、写真の上の種がイサミナマコHolothuria (Thymiosycia) impatiens (Forsskål, 1775)で、下の種が(新称)カクレフジナマコHolothuria (Cystipus) inhabilis Selenka, 1868ということにしてありますが、実際にはイサミナマコの方は写真Bの腹面の管足(Pedicels)が原記載で述べられているように「明瞭な縦列」にならない事、種小名の由来である「impatiens」ではなく、キュヴィエ氏管を辛抱強く保持する事、世界から報告されているDNA分析の結果からなる樹形図と比較した時に枝の位置に大きな差がある事、から将来的には新種になることが予想されているものです。また、下のカクレフジナマコに関しては今回、Cystipusの新称亜属和名として「カクレフジナマコ亜属」を提唱しました。Cystipus亜属については過去にWoo et al. (2015)はCystipusの直訳で「フクロアシナマコ」の新称和名をHolothuria (Cystipus) dura Cherbonnier and Féral, 1981に与えています。今回の論文でフクロアシナマコ亜属としなかった理由として、次に発表を予定している和歌山県南部から発見された新種が今回のカクレフジナマコと形態学的にも分子生物学的にも近縁(DNA分析による系統樹の枝が隣接)で、手持ちの標本の沖縄県産の未記載種のCystipus亜属種や鹿児島県産のフクロアシナマコと形態学的にも分子生物学的にも大きな差が認められているという背景があります。担当者の入念な下調べに基づくと、将来的には、ドイツ連邦共和国のMuseums and Gardens of the University of Göttingenに収蔵されている模式種のタイプ標本の形態学的調査によって、カクレフジナマコ亜属が原記載のCystipusであることが証明され、フクロアシナマコ亜属は確かに袋状の側疣を備えるにも関わらず、別の新亜属名が必要になると予想されています。和歌山県からのナマコ類の記録は浅海、深海、干潟、サンゴ群集域から、既知種、既報種、未記載種、写真確認種、諸々含めてついに50種となりました。Cherbonnir (1988) の大著Faune de Madagascar 70 Échinodermes : Holothuridésでも42種だったことを考えると、まさに和歌山はナマコのワンダーランドと言えるでしょう。ワクワクでいっぱいですね!
TVでもおなじみの「ワカヤマソウリュウ」の常設展移行に伴い、開館以来43年間、第二展示室ガラスケース内に陳列されていた「小山安生氏寄贈貝類標本コレクション」は全て、引き出し展示に移行することになりました。折しも、「手で見る魚の国」で破損したスナメリの剥製が県内産の貴重なものと判明したため、これを登録標本にして補修するために「手で見る魚の国」から回収し、その台座135 cmの空きスペースには、開館当初存在したとされる「和歌山県とアラフラ海の真珠貝採取の歴史」を小規模に復活させて「和歌山県と海産貝類」と題した小コーナーを新設しました。
メインとなる標本は、日中戦争の最中かつ太平洋戦争の直前の数年間の「つかの間の日常」に串本町の小学校の校長先生が拾った貝類とその教え子たちが出稼ぎに行ったアラフラ海のお土産の貝となります。図鑑等もほとんどない戦前にもかかわらず、標準和名と学名の両方をラベルしているという事から、和歌山県に当時頻繁に採集に訪れていた専門家との交流があったことを推測させる貴重な資料です(同定ミスも、産地絶滅種もありますがそのまま展示しています)。過日に紹介したオキナエビスのハンズオン展示と同様、手元にある材料だけをつかって、「真珠貝採取の歴史」は各工程の白蝶貝と完成品の貝ボタンを触察、ハンズオン展示に供しました。「和歌山県と海産貝類」のタイトルパネルは第二展示室から引き揚げた「和歌山県の貝」のアクリルパネルをレストアして背景の開館以来のノスタルジックな海中景観の油彩画を損なわないように配慮しました。
意外と知られていない本県の漁業者にまつわるエピソード、ご来館の折には是非ともご観覧ください。
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明けましておめでとう御座います。大変めでたい事に、過去の頂き物のヒモイカリナマコ類のサンプルを再検討したところ、4種もの新種記載が出来ました。Zootaxa掲載ですので、
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別刷御入用の方はメールを下さい。

Topic : 生物学 - Genre : Study/Culture/Art

カブトガニ腹面

現在唯一となっている担当者の展示担当箇所は第一展示室西面の触察コーナー「手で見る魚の国」だけです。
この展示は当館設立年が「1982 世界、こども障害者年」だったために設置根拠の一つとして開館から今日まで42年の長きに渡って保存されている歴史あるものです。さすがに痛みが酷いものは入れ替えたりもしながらまわしているのですが、先月の末に腹脚と剣尾をもがれて、骨組みの針金が剥き出しになってしまったカブトガニのペアには替えがあるわけもなく、腹面を触れないように、かつ従来よりも触りやすいように壁面の低い位置に固定しました。
カブトは壁に
カブトガニの移設は次の日には終わりましたが、宿題となったのが、カブトガニが設置されていたもともとの台の空地です。
カブトガニは42年間の展示物かつ、この5年間に多言語表示パネルと点字パネルの決裁を得ていたので即座の移設が可能でしたが、全く新しいものを展示に出すとなると避けて通れないのがお役所お得意の「起案」「決裁」です。

空地

ちょうど隣が貝のエリアなので、貝を拡張する方針で文面をまとめて起案し、年末という事もあっていつ決裁が降りるかわから無い状況でアイデアを練っていましたが、意外にも年内、昨日に「決裁」が降りたので、有難く今朝から解説パネルと点字パネルを校了、製作して、閉館後に1時間の作業を実施してテラマチオキナエビス2つとチマキボラ2つを設置することが出来ました。

貝の拡張
これらの貴重な深海の貝は「子供たちの笑顔のために」と県内在住の女性より受贈させて頂いたものなので、ここに設置することで100点満点の対応が出来たと思います。また、固定式ではなく、六尺の可動範囲を設けて、記念撮影等にも対応できるようにしてみました(すべて中古か余剰の素材を使用し、総工費は0円で収まりました:担当者の時給と電気代を除く)。
可動式。
2015年から串本海中公園スタッフと協力して取り組んで来ましたLabidodemas(新称:トゲナマコ)属ナマコ類の本州初記録についてめでたく、ようやく公表することができました。この秋に出版された日本生物地理学会の英文誌Biogeographyで読むことが出来ます。本州というか和歌山県のナマコはさらに2種増えまして、日本産ナマコ類も2種の追加となりました。本当にありがたいことです。今年はこの後に日本産ヒモイカリナマコ属に4新種を追加する論文が受理されており、我々の把握する日本のナマコ相は一層解明に近づいており、そのナマコを取り巻く人の輪も一層大きくなり、過去に例を見ないほどにナマコ界隈は盛り上がって参りました。
Labidodemas from Kushimoto
A L. pertinax 新称:カタトゲナマコ麻酔状態
B 同上 酒精標本
C L. semperianum 新称:セムパートゲナマコ麻酔状態
D 同上 酒精標本
上2種が串本海中公園前で採集されたNEW FACEとなります。
カタトゲナマコは日本初記録となりました。
また、奇遇にも以前串本海中公園水族館の館長を務めておられた野村恵一先生(テッポウエビ類の専門家)が八重山諸島の黒島のイノー(礁原)で採集した40年前のナマコがLabidodemas rugosum 新称:ガビョウトゲナマコとして日本初記録となりました。


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