研究において大切なことはすべて『瑠璃の宝石』の中にある
『瑠璃の宝石』『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』『フードコートで、また明日。』は、2025年夏クールのダークホース的存在だと思う。その中でも『瑠璃の宝石』は、文字通り珠玉の作品になりつつある。
宝石が大好きな女子高生・谷川瑠璃は、山の中で水晶を探している最中に偶然、鉱物の研究をしている大学院生・荒砥凪と出会う。凪と同じ研究室の後輩・伊万里曜子も交えて鉱物探索に行くようになった瑠璃は、やがて未知のサファイアの産地を探す研究をスタートさせる。
山の鉱物は風化して川によって流され砂となる。だから、川底の砂を調べれば上流にどんな鉱物があるかが分かる。この原理を使って瑠璃たちは川の砂を下流から上流へと遡って調べていく。各支流から砂を採ってきてサファイアの粒が見つかるかどうかを丹念に調べていくという気の遠くなるような作業。膨大な砂を前にしてうんざりしながらも、磁石を使って関係ない砂を除けるなど作業を効率化していき、ついにサファイア産地のおおよその位置の目星をつける。だが、過去の調査に漏れがあることが判明。自分のミスに落ち込む瑠璃だったが、そこから追加の調査をすることで、候補地点をさらに絞り込むことに成功。ついに、山の中でサファイアの結晶を発見する。
自然科学における研究の進め方を、これほどまでに丁寧に描いているアニメがかつてあっただろうか。
綿密な理論に基づいて仮説を立て、適切な実験計画を立てること。対象をじっくりと観察して、それを正確に記録に残すこと。常に効率化を意識して研究を進めること。でも、重要な場面では決して手抜きをしないこと。たとえ失敗してしまったとしても、それが新しい発見のきっかけになるということ。
たった数話しかないのに、研究において大切なことが全部描かれている。そしてこれは、単なる地学の研究に留まらず、あらゆる学問の研究、ひいては、人間的な活動全てにおいて、大切なことでもある。
『瑠璃の宝石』が凄いのは、研究とは直感やバイアスのような曖昧なものを排除し、事実だけを積み上げていく作業である、という芯の部分をきちんと描いている点にある。
ある作品で「科学者にとって一番大切なことは直感だ」という台詞があったのだが、私はそれは全く科学の実像からかけ離れてると思う。少なくとも直感が科学者にとって「一番」大切というのは間違っていると思う。むしろ、直感からくる思い込みやバイアスは、研究において負の作用をもたらす。「地球は動かない」とか「重い物は軽い物より速く落ちる」というような人間の直感を排除することで、近代科学は発展してきたとも言える。
『瑠璃の宝石』では、直感のような曖昧な何かに立脚することは決してしない。研究の出発点にあるのは、下流で見つかるサファイアの粒という揺るぎない事実である。そこを出発点にして上流へと遡り、一歩一歩確実に事実を積み上げていく。瑠璃たちは実際に下流から上流へと進んでいくわけだが、これは科学研究のメタファーにもなっている。
もちろん実際の地学の研究はこれほどスムーズに進むわけではないのかもしれないが、研究者を志す中高生に是非見てほしいアニメだと思う。