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中国版「青春散歌 置けない日々」。監督の演出力はなかなかのものか。

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青の稲妻 [レンタル落ち]」趙濤(チャオ・タオ)/趙維威(チャオ・ウェイウェイ)
青の稲妻 dvd.jpg 2001年の山西省大同市。19歳の斌斌(ビンビン)(趙維威(チャオ・ウェイウェイ))は失業する。彼は恋人の圓圓(ユェンユェン)(周慶峰(チョウ・チンフォン))とデートを重ねていたが、圓圓が北京市の大学を受験することになる。斌斌は北京市へ行くために兵役検査を受けるが、肝炎を患っていることが判明して不合格となる。斌斌は小武(シャオウー)(王宏偉(ワン・ホンウェイ))から金を借りて、圓圓に携帯電話を買い与える。斌斌の親友である小済(シャオジイ)(呉〔王京〕(ウー・チョン))は、アルコール飲料「蒙古王酒」のキャンペーン・青の稲妻l04.jpgガールを務める巧巧(チャオチャオ)(趙濤(チャオ・タオ))と出会う。巧巧は喬三(チャオサン)(李竹斌(リー・チュウビン))というヤクザと交際しているが、小済は巧巧に惹かれていく。喬三と彼の部下から暴力を受けながらも、小済と巧巧は結ばれる。喬三は交通事故で命を落とすが、巧巧は小済のもとを去る。斌斌と小済は銀行強盗を計画する―。

青の稲妻 [DVD]
青の稲妻 [DVD].jpg 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督・脚本による2002年の中国・日本・韓国・フランス合作映画で、WTO加盟やオリンピック開催決定など、それまでにないほど社会情勢が急変した2001年の中国の地方都市が舞台です。賈樟柯監督としては「一瞬の夢」('97年)、「プラットフォーム」('00年)に続く長編第3作で、第1作・第2作は賈樟柯監督の故郷の山西省汾陽(フェンヤン)が舞台でしたが、この作品では同じ山西省の雲崗石窟で知られる大同(ダートン)が舞台となっています。第2作「プラットフォーム」は、第57回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞していますが、この「青の稲妻」も第55回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門出品作です。

[画像:青の稲妻es.jpg] かつて橋浦方人監督の劇映画第一作で「青春散歌 置けない日々」('75年)という日本映画がありましたが、そうしたタイトルが当て嵌まりそうな中国映画だと思いました。2001年頃の中国地方都市の、中国共産党によって監視され、若者たちにとっては「出口なし」の状況を、党の目が行き届かないアンダーグラウンドな世界も含めよく描いているなあと思ったら、前作「プラットフォーム」同様、この作品も中国政府の検閲を通すことなく撮られた映画のようです。

[画像:青の稲妻-5.jpg] 「プラットフォーム」の時より技術面で進歩している一方で、唐突な終わり方は、この監督の初期作品に共通の特徴のよう[画像:趙濤.jpg]に思います。「蒙古王酒」のキャンペーン・ガール巧巧(チャオチャオ)を演じた趙濤(チャオ・タオ)は、「プラットフォーム」での晩生(おくて)の女子劇団員役からかなり[画像:任逍遥 賈樟柯.jpg]の変貌ぶりで、やがて賈樟柯監督の妻となり、セレブ女優となっていくに際しての一歩を踏み出したという感じでしょうか(まだどこかアカ抜けないが)。金貸しの小武(シャオウー)を演じた王宏偉(ワン・ホンウェイ)は、前作では冴えない劇団員を主演で演じており、どんな役でもこなす俳優という感じ。一方、小済(シャオジイ)を演じた呉〔王京〕(ウー・チョン)は、監督にスカウトされた新人だそうですが、映画初出演とは思えないクールな存在感を醸しており、この監督の演出力はなかなかのものかもしれません。

その監督自身が出演して、オペラ「椿姫」の「ラ・トラヴィアータ」を調子っぱずれで歌っています。一方、主人公がラストで歌うのは、元々は台湾の歌曲ながら、台湾よりも中国でヒットしたリッチー・レンの「任逍遙」で、この曲のタイトルが映画の原題となっています。

[画像:青の稲妻-p.jpg] ストーリー的にちょっと弱いかなと思ったのは、主人公の斌斌(ビンビン)が銀行強盗をする動機で、巧巧に去られて自暴自棄になっているようにも見える小済の方はともかく、斌斌は新たな仕事に就いたばかりで、銀行強盗の罪が重罪とされる中で、そこまでやるかなあという気もしました。蓮實重彦氏がぴあが発行するカルチャー誌「Invitation」2003年3月号(創刊号)でこの作品を「ポストモダン中国のハードボイルド」として絶賛していましたが、個人的には、そこまでの完成度は感じられませんでした。ただ、90年代後半に登場した第六世代に属する監督の代表的存在として、陳凱歌(チェン・カイコー)や張藝謀(チャン・イーモウ)といった他の中国の監督の作品にはない独特の雰囲気が、この監督の初期作品にはあるように思います。

[画像:青の稲妻6.jpg]「青の稲妻」くろまる原題:任逍遥くろまる制作年:2002年くろまる制作国:中国・日本・韓国・フランスくろまる監督・脚本:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)くろまる製作:市山尚三/リー・キットミンくろまる撮影:余力為(ユー・リクウァイ)くろまる時間:112分くろまる出演:趙濤(チャオ・タオ)/趙維威(チャオ・ウェイウェイ)/呉〔王京〕(ウー・チョン)/李竹斌(リー・チュウビン)/周慶峰(チョウ・チンフォン)/王宏偉(ワン・ホンウェイ)くろまる日本公開:2003/02くろまる配給:ビターズ・エンド=オフィス北野くろまる最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-11-14)(評価:★★★☆)

[画像:青の稲妻-2.jpg] [画像:青の稲妻-3.jpg] [画像:青の稲妻-9.jpg] [画像:青の稲妻-8.jpg] [画像:青の稲妻-10.jpg]

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1980年代中国地方都市に生きる4人の若者像。もう少し説明的であってもいいのでは。

[画像:プラットホーム 2000.jpg][画像:プラットホーム 2000 00.jpg] [画像:プラットホーム 賈01.jpg]
プラットホーム [DVD]」趙濤(チャオ・タオ)・王宏偉(ワン・ホンウェイ)/楊天乙(ヤン・ティェンイー)

[画像:プラットホーム13.jpg][画像:プラットホーム 賈 .jpg] 1979年、中国山西省の地方都市・汾陽(フェンヤン)。明亮(ミン・リャン)(王宏偉(ワン・ホンウェイ))ら幼馴染みの4人は文化劇団で活動し、いつも一緒の時間を過ごしていた。張軍(チャン・ジュン)(梁景東(リャン・チントン))と鐘萍(チョンピン)(楊天乙(ヤン・ティェンイー))の二[画像:プラットホーム 2000 01.jpg]人は親公認の仲だが、明亮と瑞娟(ルイジュエン)(趙濤(チャオ・タオ))は恋人とはいえない曖昧な仲。張軍は親戚のいる広州へ旅立ち、やがてサングラスをかけラジカセを持って町へ戻ってくる。明亮は瑞娟との仲をはっきりさせようとするが、ふられてしまう。一方、張軍の子供を身籠ってしまった鐘萍は中絶。80年代半ば、自由化の波が押し寄せ、劇団への補助金が打ち切られると4人の関係も不安定になり、瑞娟以外は旅回りに加わる。80年代後半、明亮と張軍らはロック・バンドを結成して活動。しかし89年の天安門事件の頃になると、彼らの音楽は流行から遅れはじめ、彼らはバンドを解散して田舎へ戻る―。

[画像:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督.jpg][画像:プラットホーム 20001ef.jpg] 賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の2作目となる2000年の香港・日本・フランス合作映画で、1980年代の中国で生きる4人の若者の姿を描いていて、第1作「一瞬の夢」('97年/中国・香港)と同じく賈樟柯監督の出身地である山西省の地方都市・汾陽(フェンヤン)(煉瓦で出来た田舎町という印象)を舞台としています。北京電影学院の卒業制作だった「一瞬の夢」は、1998年・第48回ベルリン国際映画祭の新人監督賞であるヴォルフガング・シュタウテ賞と最優秀アジア映画賞(NETPAC AWARD)を受賞し、釜山国際映画祭、ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞していますが、この第2作「プラットフォーム」も、第57回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀アジア映画賞(NETPAC AWARD)を受賞し、ナント三大陸映画祭、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭のグランプリも受賞しています。

[画像:プラットホーム 19.jpg] 前半部分では、主人公らの属する劇団は毛沢東主席を賛美する劇を上演したりしていますが、そうした地方にも「改革開放」の波が押し寄せたことを、若者たちがラッパズボンやパーマといった都市部の流行りの文化に影響されていくことで表現しています。と言っても、その都市文化のマネをする若者たちもどこかまだ垢抜けずにいて、地方と都市の文化格差を表しているように思いました。さらにそれを強く感じさせるのが、そうした文化を嫌う大人たちと若者たちの世代間ギャップで、この辺りは、新たな文化の波が押し寄せたからと言って地方が一気に変わったのではないことが分かります。

旅芸人の記録(映画パンフ.jpg旅芸人の記録5.jpg 中盤以降は、劇団への補助金が打ち切られると、劇団員の一人が自ら劇団の運営を請け負い(マネジメント・バイアウトみたいなものか)、劇団員たちはあちこちへ公演の旅に出向くことになり、その状況の中で主人公らのドラマが展開され、まるでテオ・アンゲロプロス監督の「旅芸人の記録」('75年/ギリシャ)のようなロードムービーとなっていきます。

「旅芸人の記録」

[画像:プラットホーム 2000 05.jpg] 彼らが行く先々の雄大な自然が美しく撮られていますが、彼らにとってはバスやトラックに揺られて無舗装の道や荒野を行き、鰻の寝床さながらの寝所で寝る結構キツそうな日々の連続。でも、元々が県の劇団であるためか、主人公の明亮などはちょくちょく母親の元へ里帰りしているし(父親は家を出て別の所で別の女性と商売を始めたようだ。明亮はそこへも行ったが、父には会わなかった)、若い彼らにとっては、旅のキツさよりもむしろ、恋愛や家族のことの方が気[画像:プラットフォーム_r.jpg]になる問題といった感じでしょうか。但し、公民館みたいな施設で公演をさせてもらうために鐘萍と瑞娟が居合わせた人たちの前で言われるがままに試しに踊ってみせたら、踊るだけ踊らせておいて施設の関係者ではなかったりして、これにはさすがに2人もキレてストライキを起こしそうになるし、道路わきにトラックを停めて荷台の上で2人が踊っている前をクルマがぶんぶん通り過ぎていくのも侘しかったです。

[画像:プラットホーム 20007ff.jpg] 時代がさらに80年代半ばになると、明亮と張軍らはロック・バンドを組んでいたりするわけで、演劇に人民思想を込めていた何年か前とはすっかり様変わりし、但し、エレキギターを奏でても明亮が相変わらずパッとしないのは前と同じで、かなりイモっぽいです。やがて彼らの演奏も飽きられ、最後どうなってしまうのかと思いましたが、これってハッピーエンドなのでしょうか。かつて尖がっていた明亮、フツーの長閑そうなオッサンになっていました。

[画像:プラットホームge.jpg] カメラを定位置に据え、その前を役者が行ったり来たりするのを長回しで撮るなど、ちょうどテオ・アンゲロプロス監督の作品と同じように長回しが多く、一方で説明的な描写は省いているため、やや観るのに根気がいるかもしれません。瑞娟は劇団を離れて何やってたのでしょうか(郵便局員? 税務署員?)。当時の政治的文化的状況を直接的に描くのは(国家当局の検閲上)困難であるとして、劇団の若者たちを通して間接的に観る側に伝えようとするならば、もう少し説明的であっても良かったのではないかと思いました。

[画像:プラットフォーム .jpg]王宏偉(ワン・ホンウェイ).jpg 明亮を演じた王宏偉(ワン・ホンウェイ)は、「一瞬の夢」('97年/中国・香港)に続いての主演で、賈樟柯監督の第63回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作「長江哀歌(エレジー)」('06年/中国)にも出ています(戴思杰(ダイ・シージエ)監督の「小さな中国のお針子」('02年/仏・中国)にも「メガネ」という綽名の男の役で出ていた)。それよりもブレイクしたのが、同じ劇団の女性同士でも、派手で発展家の鐘萍に比べ地味でやや晩生(おくて)の瑞娟の方を演じた趙濤(チャオ・タオ)で、賈樟柯監督の第55回カンヌ国際映画祭出品作「青の稲妻」('02年/中国・日・韓・仏)、第61回[画像:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督 2.jpg][画像:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督 3.jpg]ヴェネツィア国際映画祭出品作「世界」('04年/日・中国・仏)、そして第63回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作「長江哀歌」でそれぞれ主役を務め、更には同監督の「四川のうた」('08年/中国・日)、「罪の手ざわり」('13年/中国)でそれぞれ重要な役を演じ、最近では第68回カンヌ映画祭パルム・ドールノミネート作「山河ノスタルジア」('15年/中国・日・仏)でも主役を務めています(その前、2012年に賈樟柯監督と結婚していて、そっかーというのもあるが、映画監督と女優との間でよくありそうなことか)。

[画像:プラットホーム 2000 07.jpg][画像:プラットホーム 2000 0.jpg]「プラットホーム」くろまる原題:站台/PLATFOMEくろまる制作年:2000年くろまる制作国:香港・日本・フランスくろまる監督・脚本:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)くろまる撮影:余力為(ユー・リクウァイ)くろまる音楽:半野喜弘くろまる時間:154分くろまる出演:王[画像:プラットホーム 2000ed.png]宏偉(ワン・ホンウェイ)/梁景東(リャン・チントン)/楊天乙(ヤン・ティェンイー)/趙濤(チャオ・タオ)/韓三明(ハン・サンミン)くろまる日本公開:2001/12くろまる配給:ビターズ・エンドくろまる最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-03-04)(評価:★★★☆)

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