抄録
ホウレンソウ産地では,施設栽培下におけるホウレンソウケナガコナダニ(Tyrophagus similis Volgin;以下コナダニと略)の被害が近年拡大し,安定的な生産に支障をきたしている.本種はなたね油かすや乾燥酵母を餌として好むが,実際の土壌中での発生要因には不明な点が多い.本稿ではハウス土壌表面に発生する藻類に注目し,コナダニの定着性や定着条件についての観察から,本種の発生生態に関して若干の知見が得られたのでここに報告する.土壌を構成する主要な有機物に分けてコナダニ定着数を調べた結果,藻類に有意に多く定着が認められた.この現象が単に藻類が含む水分だけによるものではないことは,水分を保持した濾紙と藻類との比較試験で確認された.また,藻が繁茂した土壌では,藻を除去した土壌に比べ,コナダニの密度が大幅に増加することが確認された.コナダニは藻類の種類によって定着性が異なり,ボトリディオプシスやプロトシフォンなど粒状の藻類を好み,糸状のクレブソルミジウムではやや嗜好性が劣ると考えられた.また,湿度条件を変えた環境では,高湿度条件でのみコナダニの藻への定着が多かった.ハウスにおける藻類へのコナダニの定着は,湿度95% RH以上の高湿度になる降雨や灌水後の夜間から早朝にかけてと考えられた.ハウス土壌で発生する藻類はコナダニの餌として作用し増殖源となるため,土壌に発生する藻類を制御することで,コナダニによる被害を抑制できる可能性が示唆された.