ところで、俳聖松尾芭蕉は <
さまざまの ことを想い出す 桜かな> と詠んでいる。
岐阜県白川村の御母衣ダム(
堤高 131m、
堤頂長 405m、
総貯水容量 3億 2,965万m3)の水没から、桜を守った美しい話がある。神戸淳吉著、清水勝絵『
ふるさとのさくら』(岩崎書店・昭和52年)には、電源開発(株)の関係者によって、4百年生の荘川桜2本を
ダムサイトに移植させ、その移植が成功したときの、ふるさとを喪った人々の喜びの心情を描いている。
この書のあとがきに「このような移植は世界でも例がなくまことに至難のわざでした。それだけにダム完成と同じ年(昭和36年)の5月、ダムサイトに移されていた桜がみごとに根づき、芽ぶいたとき、人びとは奇跡だと驚きました。なんと、たくましい生命力でしょう。ふるさとを失った人たちのふるさとを慕う思いが、2本の桜の老樹−荘川桜にしっかりとうけつがれたからです。」と記してある。