図書館への返却期限ギリギリで読了。
今年刊行の書籍を翻訳して、刊行しているのがすごい。5月に刊行だけど、それから5ヶ月間の間でも、いろいろと状況が変わっているんだよな。ドローンと電子戦について一章が割かれているけど、ロシアは、電子戦とドローンのシーソーゲームに挑むより、手っ取り早く有線にして戦場を
光ファイバーで埋め尽くしているんだよなあ。未来予測は難しいと書いているが、なかなか世の中ア
イデアマンがいるというか。
ちょっと、情報量というか、ディテールが豊富すぎて、スパッとまとめるのが難しい。というか、まとめる時間がない...
とりあえず、敵から探知されない「
シグネチャー管理」が重要になる。これは、電波だけでなく、光学観測や音波なども含む。察知されれば、砲弾の雨が降り注ぐ。しかし、
シグネチャー管理の観点からすると、通信に電波を発信しまくる戦場のIT化、AI化の類いやレーダーを搭載する戦車のアクティブ防御システムなんかは、危険度が高いような気がするのだが。AIなどを使った戦場監視とシステム化によるキルチェーンの高速化。盾と矛、どちらが勝つかみたいな感じになっているなあ...
あと、ドローンにはドローンをぶつけるのが一番良い対策のような。
結局、実力が近い先進国同士の戦争は
泥仕合になる、と。
全体は、「
主力戦車」「装甲戦闘車両」「地上防空と近接航空支援」「間接射撃」「
無人プラットフォームと電子戦」「歩兵」「特殊作戦部隊」、最後に「将来の戦争」と分けられている。
戦車は、戦場の重要な要素であり続けるけど、
対戦車ミサイルやドローンの出現でアクティブ防御システムが必須という結論か。しかし、電波
シグネチャーを派手にまき散らすとか、歩兵がますます近づきがたくなるとか、課題は大きい感。晴天下ではレーザーが一番いいのかな。とはいえ、電力が課題になりそうな。あと、最大限まで肥大化した第三世代戦車から、より大きな砲とか、正面以外の防御力強化とか、なかなか厳しい感じが...
西側諸国は、ここ数十年強力な航空脅威を受けてこなかったので、前線近くで防空能力を提供するプラットフォームが衰退状態。しかし、ドローンがわんさと出てくる状況で、必要性が増している。ゲパルドが再び脚光を浴びたようにミサイルと砲を組み合わせた防御システムが必要、と。
アメリカも、M-LIDSやM-SHORADなどが開発配備されているという。一方、航空機による対地攻撃に関しては、ヘリコプターの活動範囲が大幅に狭まる一方、近接航空支援には各種の
無人機が主に担うことになりそう。一方で、
ウクライナの23年夏攻勢の失敗は、前線近くに防空ユニットを配置できなかったため、
攻撃ヘリコプターの長距離攻撃にさらされたのも一因であるという。新規
攻撃ヘリの開発はともかく、既存機種のアップデートは価値があるってことなのかねえ。
ウクライナ戦争でのロシアの
無人観測機との共同。部隊直轄の複数の観測機がいることに厄介さ。対砲兵戦のスピードが上がっているため、牽引砲の存在余地が小さくなっていると言う指摘。そういえば、ここのところ
ウクライナ軍の砲の撃破のニュースをあまり聞かないな。
GPS誘導弾が電子戦で有効性を一気に失った状況を考えると、結局、普通の砲弾が大量に必要になるというのは、確定的だよなあ。ろくな電子戦装備を持たない相手には効果的だけど。むしろ、レーザー誘導のほうが妨害されにくそう。
無人機による監視誘導能力が、非常に重要で、小隊レベルまでそれを利用できるようになりつつある。陸戦部隊の目として確実に育ちつつある。安いドローンを使い捨てにするような流れになるのかな。商用ドローンは電子戦に弱いそうだけど、数で押し込めると言うことだろうか。ドローンは非政府主体などを強化することにもなっている。車両型
無人機も言及されている。歩兵の荷物運びから
無人戦車まで。兵士との共同作戦が重要、と。「戦車」として使うとして、大きさを削りすぎると砲の土台として軽すぎということになるし、大きいと高価になるし、どこまでの車格を与えるかで試行錯誤が続きそう。あと、兵士が車両に乗って移動しているとき、UGVってどうやってついてくるのだろうか。結構大きいし、悩ましい感じだなあ。今時の電子戦、
スターリンクとの通信を邪魔したり、誘導弾の精度を下げたりもできるのか。
最後は歩兵。陸戦とは、畢竟、歩兵を目的地に送り込むこと。一方で、現代の歩兵は弾薬や防御装備などの個人装備が継続的に重くなっていて、歩き回る限界に達している。戦闘工兵の重要性。拡張現実が戦闘で役割を大きくしつつあること。歩兵戦術の重要性、というかロシアの訓練不足というか歩兵不足の状況など。
特殊部隊も
対テロ戦争で大活躍から、同格の相手との戦争に適応する必要がある、と。
結局、
ウクライナでドローンと電子戦がどこに、どの密度で展開されたかが明らかにされない限り、正しい戦訓は得られないんだよなあ。両軍、牽引式の火砲が結構生き延びて、依然として砲兵の骨格をなしていたりするし。
戦略国際問題研究所は将来戦の起こりうるシナリオを2通り仮定している。「ゆっくりとした燻り(slow smolder)」と「激しい爆発(hot blast)」だ。ゆっくりとした燻りは、銃弾を一発も撃つことなく勝つことを目的としている。諜報活動、競争行動、そしてハイブリッド戦が、戦う意思を失うまで相手の考えかたをゆっくりと変化させることにつながる」のにたいして、激しい爆発は「圧倒的な精密照準攻撃能力と通信の支配、そして指導部暗殺作戦にくわえ、巧妙に隠された戦争準備を必要とする」p.14
後者は、イスラエルがイランに対して披露した奴だな。本書刊行後の出来事だが、それ以前に起きていたら言及されていただろう。
本章で先に言及したように、ウクライナは反攻中、啓開(障害除去)部隊とともに短距離防空部隊を前線に送らず――おそらく啓開作業中に地雷で行動不能になるのを恐れたからだろう――その結果、部隊はロシアのヘリコプターの攻撃にさらされることになった。p.165
その紛争であきらかなのは、資金のとぼしい国家が諸兵科連合戦を遂行できるということである。アメリカやロシアである必要はない。諸兵科連合戦に参加する価格帯は最初に思っていたより低い。想定される局地空対地あるいは空対空活動を実施するのに、アメリカ空軍のようなすばらしく訓練された圧巻の能力は必要ない。したがって、それが無人航空システムであれ、艦艇であれ、地上ロボットであれ、無人機がもたらす難題は深刻である。p.216