長野市教育委員会 学芸員
飯島 哲也
善光寺さんの裏山ともいえる地附山に、地元の愛護会の皆様によりトレッキングコースが整備されました。防災メモリアル公園からのコース「つづらトレイル」 ですと山頂まで約40分の山歩きを楽しむことができます。山頂には「いにしえトレイル」が設定されており、古墳や山城を見学することができます。山頂から は住宅地の広がる浅川扇状地を見下ろすことができ、なんとも雄大に気分にさせてくれます。
1号古墳は直径約18m、高さ約2mの円墳で、溝を掘って尾根を切断し、旧地表面を削って墳丘をつくりだしています。埋葬施設としては3基の石棺が並らぶ めずらしいものでした。中央の1号石室は、大きな平石を三角屋根のように合掌形にした、いわゆる「合掌形石室」であり、他の2石棺は平天井の箱形石棺でし た。出土遺物は、過去の調査で2号石室から長さ85cmの刀身が出土していますが、今回の調査では墳丘から出土した20片ほどの埴輪の破片だけでした。
2・3号古墳は、それぞれ直径約14m、10mの盛土円墳で、埋葬施設はどちらもはっきりしませんが、おそらく平天井の箱形石棺だったと考えられていま す。墳裾からは、多量の土器を遺棄・埋納したと考えられる土坑が見つかりました。5世紀後半ごろの、土師器と須恵器という種類の土器で、意図的に細かく破 砕された痕跡や、整然と並べた後に一気に土をかぶせた痕跡が観察されました。いわゆる「墓前祭祀」とか「供献儀礼」などとよばれている古墳にまつわる儀式 の痕跡と考えられています。
4・5号古墳は、比較的平坦部に立地している他の古墳とは異なり、斜面につくられています。それぞれ直径約9mほどの円墳で、拳くらいの大きさの石で覆わ れていました。5号墳の埋葬施設は天井が三角屋根形になる合掌形石室で、石室内からは鉄剣1、鉄鏃(矢じり)8、刀子(小さなナイフ)2、馬の口にはませ る馬具の轡1が出土しました。
残念ながらこれらの古墳の被葬者が誰なのかは謎につつまれたままですが、トレッキングコースを散策して汗をぬぐいながら、眼下に広がる浅川扇状地を眺めつつ、古代のロマンに想いを寄せてみるのも、きっと楽しいと思いますよ。
(平成24年7月)