罠猟師デビュー

借りている田んぼの谷、七窪の谷にイノシシが出没して困っている話は、これまで散々書いてきた。最近も荒らしまくっている。道端の掘り返しは見慣れた光景だが、田んぼの畦が酷くやられたところもある。うちはまだ無事だが、そのうちに破壊されるだろう。

主のいなくなった田んぼを勝手に耕して、大根、小松菜などの種を蒔いた。芽が出て、だんだん大きくなって楽しみにしていた。
知ってる? 秋冬野菜の種は、9月20日ごろの彼岸の前までに種を蒔けってこと。遅ければ、成長する前に子供のまま花が咲いてしまうのさ。亡くなった親父が、うるさく言っていた。で、言い付けをちゃんと守って9月の頭に蒔いた。

ところが、昨日の朝見たら、見事に掘り繰り返されていた。無惨! これじゃあ収穫ゼロだ。見渡すと周りの荒れ地は無事で、耕した畑だけを狙っている。イノシシも、硬く根を張ったところより、柔らかい畑が掘りやすく、おいしいミミズがたんと取れることを知っているのだ。

やられるばかりではいられない。今年の春、狩猟免許を取ろうと思い立った。8月試験。参考書を買い込んでお勉強。見事合格した。自動車の学科試験より簡単。でも勉強しなければ落ちる。受験料 6000円。
猟期は 11月1日から3月15日。その前に、県に狩猟者登録が必要だ。こいつが 9000円。ついでに猟友会に入会 1万5000円。派手なベストと帽子が支給された。ここまで都合 3万円、結構な出費だ。
イノシシの罠も買わねば。こいつは 2個で1万2000円、ふう。

いよいよ、明後日の日曜日に罠を仕掛ける。イノシシの通勤路はこれまでの捜査で完全に把握している。
人と仕事をするときもそうだが、うまくやるためには、どれだけ相手の気持ちを考えるか、が大事だ。罠を仕掛けるときも、どれだけイノシシになりきれるかが勝負だと思う。俺がイノシシなら、ここは大丈夫だ、ここは人間のよこしまな気配がある、とか。

子供の頃からメジロ、スズメ、ヒヨドリとかの小鳥はいっぱい獲ってきた。魚も色んな種類を釣った。いつも、俺が鳥なら、俺が魚なら、と餌や仕掛けを工夫した。今度は、相手が少し大きいだけだ。うまくいくだろう。

ずっと昔から、ご先祖様たちは自然と付き合ってきた。鳥や魚、獣たちばかりでなく、稲、野菜、草や木に至るまで、彼らが今何を思い、何が心地いいか、何が気に入らないか、そんなことをいつも気に留めてきたのだろう。

それが、自然の中で生きていく流儀だと、いまさらながら思う。


無残に掘り繰り返された畑。


猟友会のベストと帽子を試着。七窪の谷で


イノシシの「くくり罠」。2個で1万2000円


旧制大島中ハヂチ本

かつて、奄美から沖縄、宮古、八重山、与那国島に至るまで、琉球弧の女性は入墨(ハヂチ)をする習俗があった。

針で刺して墨を入れるから当然痛い。だが、嫌々ながらハヂチをしたのではない。娘の頃から強い憧れを抱いていた。実際、民謡(島唄)の中にハヂチを歌ったものが多く残されている。

くろまる形見買て呉れれ ハヂィキ墨買て呉れれ うれが後生がれぬ形見さらめ
(解)形見を下さい。私のからだにハヂィキ墨を入れてやって下さい。それがあの世までの形見であります。

くろまる夫欲しやも一とき 妻欲しやも一とき あやはじき欲しやや命まぎり
(解)夫欲しさも一とき、妻欲しさも一ときで、綾ハジキ(入墨)欲しさこそは命がけである。

そのハヂチ、奄美群島では、明治9年5月15日に入墨禁令が発布された(明治政府発布は明治5年3月29日。沖縄では日本併合後の明治32年)。それでも長年の習俗、明治中後期までは密かに施されていた。だが、法には逆らえず次第に消えていく。

そこで一躍奮起したのが、旧制大島中学校(現大島高校)の社会科の教師たち。昭和11(1936)年のことだ。当時、60歳以下の女性にはほとんどハヂチは見られず、消滅は時間の問題だった。
旧制中学校は、当時奄美群島に大島中学校しかなく、生徒は各島から集まっていた。また、沖縄からも就学した生徒がいた。
教師たちは、夏季休暇で各島、各集落に帰省する生徒に、祖母らの入墨を記録するように指示した。入墨の模写をはじめ、費用、日数、方法、動機など。この記録をまとめたのが、名著『奄美大島婦人の入墨研究 付 入墨の図』である。

若い男子生徒たちが、祖母と向き合い、入墨を模写し、図柄の意味を尋ねる。なんと豊かな時間だったことだろう。魔除けの渦巻き模様(ゴロマキ)、長寿を願う亀首(カメクビ)、ティダ(太陽)、月(ツキ)、やどかり(アマン)、鎌、鋏、鳥の羽、魚の尾など様々な図柄がある。本書収録の各島の入墨の図42図は貴重な記録だ。

ガリ版刷りで少部数刊行され、さらに、この本の重要性を認識した新制大島高等学校社会科により、昭和39(1964)年に、やはりガリ版刷りで一度復刻されている。琉球弧の入墨研究の書としては、1962年刊・小原一夫『南嶋入墨考』、2003年刊・山下文武『奄美の針突 消えた入墨習俗』等があるが、はるかに先行した重要な資料である。

名瀬の古書店、あまみ庵の森本さんから昭和39年版を見せてもらった。これは凄い!復刻だ、と思ったが何せガリ版。欠け字が多い。
あちこち探し回って、どうにか昭和11年の大島中学版を複数手に入れることができた。そしてこの度、南方新社版として復刻。売れるかどうか? そんなことはどうでもいい。心を残すのだ。


南方新社版『琉球弧の入墨 針突 ―復刻 奄美大島婦人の入墨研究 付 入墨の図―』
旧制鹿児島県立大島中学校編
B5判(大型本)、119ページ
定価3,080円(本体2,800円+税)


フジツボで大チヌ

8月の夏休み、名古屋にいる小学4 年生の孫が一人で帰省してきた。ジュニアパイロットというやつだ。こっちは遊び相手と期待されているから、早速釣り支度。

ほとんど知られていないのだが、磯海水浴場には夏場、キスが寄ってくる。というわけで、帰省2日目、磯へ。
海水浴場だからブイが張ってある。以前、泳ぐ人がいないからいいだろうと、ブイの内側で釣っていたら監視員に叱られた。孫の前で叱られたら爺さんのメンツ丸つぶれだ。今回は行儀よくブイの外側で釣ることにした。

案の定、1投目から3本針に3匹ついてきた。岸に寄っているから、遠くまで投げられない孫でも釣れる。2時間ほどで二人合わせて 30 匹。外道のアメやシマイサキなども同じくらい。

晩飯はキスの天ぷら。これはうまい! たらふく食った。外道たちは唐揚げ。これもいける!
味をしめて、盆明けに再度二人で行くことにした。

まず、餌のゴカイを買いに亀屋へ。ところが大雨の影響で入荷していないときた。プラスチックのワーム(疑似餌)を勧められたので、800円払って買った。

さあ、釣るぞと磯海水浴場へ。投げてみる。ビクンと当たりがあるが、かかってこない。次もダメ、その次も。プラスチックだから、なんか変、と吐き出したのだ。でも、勇んでやってきて手ぶらでは帰れない。

岩場に移動して餌になりそうなものを探す。巻貝のイボニシとフジツボがあった。イボニシはパープル腺から苦い汁を出す。魚に食べられないように、俺は美味しくないよとアピールしているわけだ。フジツボは食べるところは少ないが、前に茹でたら極上の出汁が出た。私が魚だったら、と迷わずフジツボを選ぶ。

フジツボを石で潰すと小さい身がある。それを2個分ずつ釣り針につけて投げ込んだ。待つこと20分。ググッ、大きく竿がしなった。大物だ。ブチッ。糸が切れた。キス釣りの仕掛けで糸が細いから仕方ない。
孫の竿にも来た。これも大物。必死でリールを巻いている。岸まであと1 m。手ですくおうと海に入る。おお!でかい。40cmほどのチヌだ。これもあと少しでブチッ。逃げていった。

ちょっと太めの糸に変えて投げる。終わり間際に孫の竿に来た。20cm と小ぶりだが、立派なチヌ。孫は大喜び。
そこにいる餌で釣る。釣りの基本だ。エッヘン。見たか爺さんの知恵。

孫は名古屋へ帰って行ったが、フジツボで大物のチヌという新たな目標ができた。これは必ず実現させなければ。 わくわく。


1. 小さいけどチヌをゲット。チビも自慢げだ


2. クロフジツボ


3. フジツボの吸い物。出汁が最高にうまい


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南方新社
鹿児島市の郊外にある民家を会社にした「自然を愛する」出版社。自然や環境、鹿児島、奄美の本を作っています。

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