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大西 宏のマーケティング・エッセンス

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マーケットは、生産者側の視点で見るのか、生活者側、ユーザー側の視点で見るのかでずいぶん違ってくることがあります。その典型のひとつが音楽の市場かもしれません。売る側と聴く側で景色が違ってみえているのではないかと思います。

売る側からすれば、音楽CDや音楽DVDの市場はまさに冬の時代となってきました。ミリオンセラーとなるアルバムが姿を消してもう久しいのですが、ミリオンセラーが生まれなくなっただけでなく、2000年には5400億円もあった市場が、2009年には2500億円程度と半減してしまいました。
インターネットや携帯を通じての音楽ダウンロード市場は伸び続けていたのですが、景気の問題か、携帯機器の販売数量の落ち込みが災いしたのか900億円で頭を打っています。

しかし、聴く側にとっては、自宅でも、外出先でも自由に聴ける、しかもたくさんの音楽を持ち運べ、気分によって、聴く音楽を変えることもできるようになり、音楽は生活のなかに溶けこんできています。たくさんの音楽を持ち運べるようになって、好きなときに、その気分にあわせて、聴きたい曲が聴けるようにもなりました。
ジャーナリストの佐々木俊尚さんは、音楽のアンビアント化、つまり環境音楽化と指摘されていましたが、生産者がつくった流行よりも、自分の気分や趣味のほうが聴く曲を選ぶ基準になってくるにつれ、ミリオンセラーが減るのは当然です。

聴く側のデータはあまり見つからなかったのですが、レジャー白書では、どのような余暇活動を行っているかどうかの活動率で参加人口を推定し、そのランキングを出していますが、それまではほぼ10位あたりで4000万人を切っていた音楽鑑賞が、2009年では、5000万人を超え第5位にランクアップしてきています。単純に比較はできませんが、音楽を聴くという生活が衰退してきているとは到底思えないのです。

だからiPod、iPhoneでデバイスを供給し、またプラットフォームで音楽を売っているアップルは急成長し、時価総額でもトップのエクソンに並ぶところまでなりました。つまり、業界の主役が変わっただけではないでしょうか。それに人気アーティストのコンサートには今でも人は一杯になります。
さらにネットを通した違法コピーといわれる音楽の流通は、ダウンロード市場よりもはるかに大きいので、実際の音楽流通量はさほど変わっていないのかもしれません。

なぜこんなことを書くのかというと、電子書籍に関する議論のなかで、デジタル化は産業を破壊する、だからそのことを理解せず、手放しで電子書籍に浮かれていてはとんでもない、デジタル化で音楽産業がどうなったかを見ればそこのとが分かると、電子書籍への警鐘ともいえる記事があったのですが、どうも今ある業界の視点に偏りすぎだと感じたからです。業界が右肩上がりに売上を伸びることと、人びとが音楽をいかに楽しめる環境にあるのかは別問題です。

デジタル化が音楽の世界を破壊してきたという話も、CDや音楽DVDもデジタルなので問題の立て方が違います。デジタル化が音楽産業を破壊してきたのではなく、音楽流通が通信に移行し始めてきたことで、モノの流通で支えられていたビジネスが衰退しはじめただけのことです。それを嘆いていてもしかたありません。

技術イノベーションが起こったり、社会の変化が起これば、産業にも栄枯盛衰、主役の交代が起こってくるのは時代の常であり、そんな変化にどう適応するかのほうがビジネスでは重要なのです。

さて、電子書籍で、本の手触り感をおっしゃる人がいます。それも疑問に感じます。それなら、活版印刷は、写植よりも手触り感や印刷の品格では優れていたと思うのですが、手で活版を拾っていく非効率な活版印刷は衰退していきました。また本の装丁もかつてはもっと手触り感があり、美術品としての価値もありました。そのかわり価格も高かったことはいうまでもありません。

それと比べると、現代の書籍のほとんどは、手触り感は落ち、コンテンツを伝えるツールでしかなくなってしまっています。紙の書籍も、一部の書籍を除くと、ほとんどは、音楽で言えばCDやDVDのようになってしまっていて、それより手触り感のあったレコードではなくなったというのが本当のところでしょう。しかし出版数は飛躍的に伸びました。

あとは書籍を手でめくるという習慣とか、やはり鉛筆やペンで書き込む習慣にこだわるかどうかだけです。それは個人の好みであり、今でも、レコードで音楽を聴く人も、フイルムの写真の画質でなければ満足できない人もいらっしゃいます。それを否定することはできないように、デジタル音楽を聴くことや電子書籍で読むことを否定してもなんの意味もありません。

現在の業界の立場に立って、産業の今後を憂うことは、業界関係の人や業界の御用学者の人ならそれでいいのですが、生活者にとっては、音楽も、電子書籍も、狭い日本の住居でもたくさんのアルバムや書籍をもつことができる、いつでもどこでも持ち運べ、自由な時間に音楽を聴いたり、書籍が読めるようになります。しかも紙の書籍よりは安い価格で流通するなどのメリットは大きく、あとはそのコンテンツの流通がどう整備されるかや、快適に読めるデバイスの発展の問題だけ、つまり売り手側の力量にかかっているだけではないでしょうか。

時代の変化の先を見るときには、業界の視点からだけではなく、生活者やユーザーの視点からも眺めてみると、さまざまなヒントが見えてくることがあります。変化の激しい時代には、そんな複眼で眺めてみることをおすすめします。

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