「たばこ規制枠組み条約」が採択された2003年ごろから、WHOではアルコールをめぐる議論が高まり始めました。
2004年にまとめられた報告では、本人の健康だけでなく、交通事故や暴力、自殺などにも注目。
「世界で250万人がアルコールに関連した原因で死亡(32万人の15〜29歳の若者を含む)」「アルコールの有害な使用は、すべての死の3.8%を占める」とされました。
2005年には、有効な戦略とプログラムを、開発・実施・評価するよう加盟国に要請。
以来、加盟国間で話し合いが重ねられ、スウェーデンが他の42カ国とともに、たばこのような国際基準を求める共同提案を提出。
危機感をもった世界の大手酒類メーカーは連携して、自主規制による対策で十分であるとアピール。日本でも国際シンポジウムが開かれました。
結局、アメリカ・日本など消極派の反対で、国際基準づくりには合意が得られず、「アルコールの有害な使用」を低減するためのさまざまなレベルの行動指針を打ち出したうえで、選択は各国にゆだねる方式をとることになりました。
こうして、「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」は、2010年5月の第63回WHO総会において全会一致で採択されました。
広告規制や、安売りや飲み放題の禁止や制限、課税や最低価格制による酒の価格引き上げなどを含む、幅広い対策を求めています。「たばこ規制枠組み条約」と違ってWHO加盟国への法的拘束力は持ちませんが、各国は地域性や宗教、文化などに合わせて対策を選び積極的に取り組むこと、その進展について定期的に報告することが求められています。
国が国民を守るために適切な行動をとれば、「アルコールの有害な使用」は低減できる。
加盟国は、公共政策を策定・実施・監視・評価する主要な責任を担っている。国家戦略や適切な法的枠組みを持つことは、国にとって利益となる。
政策は医療保健セクターだけでは対応できず、開発・運輸・司法・社会福祉・財政政策・通商・農業・消費者政策・教育・雇用などのセクターや、市民社会、アルコール関連事業者との適切な関わりが絶対に必要である。
政府は、アルコール政策に首尾一貫したアプローチをとり、調整を図るため、多くの省庁や協力組織の経験豊富な代表者からなる国レベルの「アルコール対策会議」を設置する必要がある。
加盟国がとりうる「政策オプション」と「介入施策」は、10分野に分類される。
加盟国は、状況に合わせて「政策オプション」と「介入施策」を適切に採用・実行し、国のモニタリング・システムに反映させ、WHO に対して定期的に報告する。
WHO事務局は、世界戦略の進捗状況をモニターし、2013年の第66回世界保健総会で報告する。
国や自治体の包括的な戦略/財源確保/所轄部署の決定/関連省庁の連携/定期報告
家族への支援と治療・自助活動への支援/予防・治療・ケアシステムの強化/ブリーフインタベンションの推進/胎児性アルコール・スペクトラム障害の予防・発見・介入・ケア/うつ・自殺・HIV/AIDS・結核などとの重複障害の予防・治療・ケア戦略・効果的な連携
対策を優先すべき集団(未成年者・若者など)の特定、対策/環境づくり/NGOとのパートナーシップ
呼気濃度の最低基準値の設定/飲酒検問/違反者の免許停止・取消/インターロックの利用/違反者への強制教育・カウンセリング・治療プログラム/代替交通手段の奨励/効果的なキャンペーン
小売販売免許/店舗数や場所の制限/営業日と営業時間の制限/飲酒可能法定年齢の引き上げ/未成年の入手を防止する対策/公共の活動や行事での飲酒ルール
内容・量・媒体の規制/スポンサーシップ活動の規制/ソーシャルメディアなど新手法の規制/監視システム
効果的な課税システム/標準価格の定期調査/値引き販売・飲み放題の規制/最低価格の設定
酩酊者へのアルコールの提供を規制し、酩酊の結果生じた損害に対して提供者に法的責任を課す/酩酊者への対応に関する従業員教育/酩酊者の保護/消費者教育、警告ラベル
アルコール消費と被害について定期的な全国調査を実施/報告書の刊行/収集データの評価