「とりあえず相続」にも注意が必要
総務省の調査によれば、平成25年の全国の空き家数は820万戸に達し、住宅戸数に締める割合が13.5%と過去最高となりました(※(注記)1)。この空き家問題の背景には、地方に住む親の家の相続があります。多くの子ども世代が都市部に移っているため、相続そのものが難しくなっているためです。
では、そういう状況では具体的にどのような選択肢があるでしょうか。
まずはとりあえず相続をして、その後,どうするかは検討するというケース。ただし、その時点で相続税と固定資産税が発生します。
相続税は、法定相続人が1人の場合、3600万円までの基礎控除があります。土地と家屋にそれだけの資産価値がなくても、相続は預貯金などを含めたすべての資産が対象となりますので、そこは注意が必要です。
また、固定資産税は土地家屋を手放さない限り毎年課税されます。加えて、空き家のままの放置は何かと不安ですが、それを避けるため更地にすると、その費用に加え、固定資産税の優遇措置が外れ、税額が最大6倍に跳ね上がってしまいます(※(注記)2)。現在の税額だけでも、ご実家に確認すべきでしょう。
地方ほどハードルが高い土地の再利用
次に、相続後すぐに売却するという選択肢。2016年の税制改正(※(注記)3)により、それまで対象外だった空き家も、売却益から3000万円が特別控除されることになりました。ただし、「昭和56年5月31日以前の建築家屋であること」など適用条件が細かく設定されているほか、地方の土地家屋は売却そのものが難しいのが現状です。
多少手を入れて家屋を人に貸す、あるいは建替えてアパート経営といった土地活用も可能でしょうが、それだけのニーズがあるかどうかを見極める必要があります。その場合の建築コストや固定資産税を考えれば、資金面でのリスクも無視できません。
相続そのものを放棄すれば、税金やその他のコストを抑え、かつ相続にかかる時間も手間も省けます。ただし、その場合、それ以外のすべての資産を放棄することになります。また、土地家屋を市区町村へ寄付するという例も見られますが、維持管理費がかかるため、自治体から断られるケースも少なくないようです。
どのような選択肢も一長一短あり
さらに言えば、まったく考えていなかった田舎暮らしも、何かのキッカケで魅力を感じ、定年後は自分の育った土地で生活したいと思うかもしれません。そうなれば、それなりに手間やコストはかかりますが、現在住んでいる都内の自宅を人に貸すといった方法もあります。
つまりは、どの選択肢も一長一短があるということです。
今はいろいろな選択肢を用意しながら、実家が利用されている地元金融機関や司法書士、税理士、不動産業者などに幅広く相談し、情報収集をしてみるといいでしょう。
(※(注記)1)総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」
(※(注記)2)敷地面積が200平方メートル以下の住宅用地の敷地面積の課税標準額は、固定資産税評価額の6分の1、敷地面積が200平方メートルを超える部分は3分の1となるというもの。また、2015年度の税制改正により、それまで優遇措置を受けられた「空き家」はその対象から除外。
(※(注記)3)「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」。2016年4月1日から2023年12月 31日までに売却された敷地等が対象。