JP 4446035 B2 2010年4月7日1020
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部と、演算部と、格納部と、出力部を有し、土木・建築構造物又は災害発生危険箇
所等の点検対象物における健全性劣化の要因(要因数をnとする。n≧2)に係るn次元
の要因データと前記点検対象物に対する前記要因毎に構成される点検データと前記点検対
象物に対する補修の有無データとを備える点検総合データと、前記点検データを用いて補
修の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を分離するための判別面を解析して得
るためのサポートベクターマシン(以下、単にSVMという。)と、を用いてある点検対
象物における危険度を算出して補修又は点検の必要性を評価するための健全性劣化評価シ
ステムであって、
前記格納部は、前記判別面を解析するためのSVMデータと、前記SVMに代入される
n次元の要因データと,前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成される学習用点
検データと,前記点検対象物における補修の有無データを正負又は負正に対応させた前記
SVMに対する教師値データと,を備える学習用点検総合データと、前記点検対象物に対
する前記要因データ毎に構成され熟練点検技術者による点検結果データであって前記学習
用点検データよりも確度の高いことが予め明らかなマスタ点検データとを格納する格納部
であって、
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因デー
タと前記要因データ毎の点検データを入力可能な手段であって、
前記演算部は、前記マスタ点検データ及び前記SVMデータを前記格納部から読み出し
(2) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050て前記マスタ判別面を解析する判別面演算部と、
前記学習用点検データを前記格納部から読み出して、前記マスタ判別面が、前記要因数
以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、
前記学習用点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成さ
れるマスタ判別面までの距離であって前記座標点が前記マスタ判別面に対して前記座標中
の原点側に存在するか否かで正負又は負正を考慮した距離を前記点検対象物の学習データ
危険度として演算する判別面距離演算部と、
前記点検対象物毎に前記学習用点検総合データの教師値データを前記格納部から読み出
して、前記判別面距離演算部で演算された点検対象物の学習データ危険度と比較して、教
師値データが表現する補修の有無データの正負に対して学習データ危険度の正負が反して
いる矛盾点検対象物を検出する学習用点検データ分析部と、
前記学習用点検データ分析部によって検出された矛盾点検対象物に関する学習用点検デ
ータ及び教師値データを前記学習用点検データ及び教師値データから削除し修正学習用点
検総合データを生成して前記格納部に格納する学習用点検データ修正部と、を備え、
前記判別面演算部は、前記修正学習用点検総合データ及び前記SVMデータを前記格納
部から読み取り前記判別面を解析する判別面演算部であり、
前記判別面距離演算部は、前記入力部から入力された前記点検データを読み取り、前記
判別面が、前記要因数以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多
次元空間の座標中に、前記点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元
空間中に形成される判別面までの距離を前記点検対象物の危険度として演算する判別面距
離演算部である手段であって、
前記出力部は、前記入力部から入力されるデータ、前記演算部で演算された結果に関す
るデータ又は前記格納部に格納されるデータを、それぞれ入力部、演算部、格納部から読
み出して出力可能な手段であることを特徴とする健全性劣化評価システム。
【請求項2】
前記格納部は、前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データの精度を
試験するために、前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるテスト点検デー
タと、
このテスト点検データを用いて演算された前記点検対象物の危険度を介して前記学習用
点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データを評価するために、前記危険度と,補
修有の点検対象物と補修無の点検対象物の組合せ及び/又は点検対象物の全数に対する補
修有の点検対象物の数である補修率のデータと,を図示する分離性評価関数データと、を
格納する手段であって、
前記演算部は、前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データ及び前記
SVMデータを前記格納部から読み取り判別面を解析する判別面演算部と、
前記格納部に格納された前記テスト点検データを読み取り、前記判別面が、前記要因数
以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、
前記テスト点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成さ
れる判別面までの距離を前記点検対象物のテスト危険度として演算する判別面距離演算部
と、
前記格納部から前記分離性評価関数データを読み出して、前記テスト危険度と、前記テ
スト点検データに含まれる補修有の点検対象物と補修無の点検対象物の組合せ及び/又は
点検対象物の全数に対する補修有の点検対象物の数である補修率のデータと,を表又は図
で示す学習用点検データ試験部と、を有し、
前記出力部は、前記表又は図を出力可能であることを特徴とする請求項1に記載の健全
性劣化評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば土木・建築構造物や災害危険箇所等の点検対象物における健全性劣化
(3) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050に関する点検データから得られる補修の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を
分離する判別面に基づいて算出される点検対象物における補修の必要度や対策の必要度を
高精度に評価する健全性劣化評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、トンネル、鉄塔、上・下水道・高層ビル等の土木・建築構造物や災害危険箇所は
、維持管理のために日常的に点検が行われ、損傷が認められた場合にはその程度を判断し
、必要な補修対策がとられるのが常である。この点検業務には現地で簡便に利用すること
ができるチェックシートが利用されている場合が多い。これらのシートでは、点検対象物
の損傷状況に応じて評点をつけ、さらに補修実施の実績データを加味することにより、現
況の安全性が評価されるように工夫されている。
このような点検業務は、高い見識と熟練した技術や判断力を備えた技術者が行うことが
望ましいが、全国の土木・建築構造物や災害危険箇所すべてにそのような卓越した技術者
を派遣することは現実的には不可能である。また、点検業務における損傷程度の判定は点
検技術者の経験に基づいた主観による部分が多くを占め、その判定データには経験の多少
が大きく影響し、経験の少ない点検技術者によればノイズとも考えられる内容のものが含
まれる可能性もあり、補修対策の方針を決定する基準に客観性を欠いていることは否めな
い。
また、点検を請け負う企業や点検技術者によって、同じ状況であっても判定が異なるこ
とがあるため、評価結果と実際の損傷状況に食い違いが生じることも多く、評価者が変わ
れば評価そのものが全く変わってしまう等、精度上の問題、客観性の課題が残されていた。 しかも、補修実施の実績データが全くない場合、又は極端に少ない場合には補修工事や
保守のための対応策を講じるための優先順位を客観的に決定することは困難である。
一方、補修実施の実績データが豊富な場合においても、前述のとおり、評価者の主観的
な判断に基づく評価は、矛盾点も多く、豊富な実績データをそのまま鵜呑みにして、将来
の補修や点検業務へ利用することにもリスクが生じていた。しかも、検査技術や評価技術
の進歩はもちろんのこと、評価基準や補修基準自体も時代変遷や経済状況などの影響を受
けることがあるため、過去の基準をそのまま踏襲することが困難な場合もあり、せっかく
蓄積された過去のデータがそのまま使用できない場合も生じており、このような事情から
も潜在的な非効率性やリスクが生じていた。
土木・建築構造物や災害危険箇所の維持管理による有効利用が求められる昨今にあって
、既存の社会資本の保守事業遂行は急務であるが、これをより効率的に実施するためには
一層高精度且つ客観性を有した損傷状況の評価手法の確立が不可欠であると考えられる。
土木・建築構造物や災害危険箇所に関する評価手法は、土木・建築構造物の他にも、例
えば土砂災害や陥没災害などの自然災害においても未然防止の観点から急峻な斜面に対し
て補強工事や排水工などの対策工を施すなどする際に、その危険度を評価するために必要
であり、本願発明者らは既に自然災害の未然防止の観点から様々な検討を実施している。
【0003】
例えば、防災事業計画の立案支援などのために実際の災害発生あるいは非発生に関する
データをコンピュータ処理することで精度の高い情報を得る研究に関しては、本発明者ら
が既に、がけ崩れの発生予測に用いられる発生降雨、非発生降雨の判別境界線であるがけ
崩れの発生限界線や、避難基準線、警戒基準線を設定する方法について非特許文献1に示
されるように発表している。
【0004】
非特許文献1では、複雑な自然現象を直線近似せず、高精度の発生限界線等を設定する
ことを目的として、非線形判別に優れた放射状基底関数ネットワーク(以後、RBFNと
略す場合がある。)を用い、地域毎の非線形がけ崩れ発生限界雨量線を設定する方法を提
案している。本非特許文献1に開示される技術では、RBFNを用いて、その学習機能を
利用して最適な中間層と出力層の重みを決定することによって非線形がけ崩れ発生限界雨
(4) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050量線を設定している。
その結果、例えば非特許文献1では、横軸に実効雨量、縦軸に時間雨量をとった判別境
界面が曲線の集合として描かれる。
この曲線は、いわば等高線を示したもので、これが非線形のがけ崩れ発生限界線を示し
ている。判別境界面は、災害の発生、非発生の実効雨量と時間雨量をプロットしながら、
その高さ方向として災害の発生の場合には教師値データを「−1」とし、非発生の場合に
は教師値データを「+1」とした放射状基底関数を考え、その重ね合わせによって演算さ
れたものである。従って、これらの等高線は、原点に近い方が高いもので、原点の存在す
る左下の角から対角方向に向かってなだらかに低いものとなっている。
このような災害の発生限界線や避難基準線、警戒基準線(以下、これらを総称してCL
という。)を定量的、客観的に描くことによって精度の高い防災事業の立案の判断が可能
であり、また、コンピュータ処理によって膨大なデータを短時間に処理できることから、
CLの陳腐化を防止して精度の高い情報を提供できるのである。
【0005】
また、特許文献1においては、「災害対策支援システム」として、災害発生時に実行す
べき災害対策を自動的に選択して表示し、その進捗状況を併せて示す手段を備えたシステ
ムが開示されている。
本特許文献1に開示される災害対策支援システムは、基本的にはif−then形式で
、予め発生する事象とそれに対応する対策を関連付けて格納された対策リストを読みだし
て、対応するものである。災害時に精神的、時間的、人的に余裕のない状況で、的確な判
断を可能とすべくなされたものである。また、標準的な作業時間と実働時に要した作業時
間及び対策可能な残り時間を表示することで、対策進捗状況をリアルタイムに把握するこ
とが可能であると同時に、重要度の高い対策と低い対策を取捨選択するためにも用いるこ
とができる。
【0006】
さらに、特許文献2においては、非特許文献1に開示される技術を警戒避難システムに
応用した発明が開示されている。本特許文献2に開示された発明では、災害に影響を及ぼ
す地形要因、地質・土質要因、環境要因及び地震要因を踏まえた上で、短期降雨指標とし
て、例えば発生時刻から3時間以内の最大時間雨量(以下、一定時間内の代表的な雨量を
「時間雨量」と略すことがある。)を、また、長期降雨指標として、例えばその時刻にお
ける半減期を72時間とした実効雨量を用いて、CLを演算するものである。
このようにして得られたCLを用いることで、信頼性の高い警戒避難支援システムを提
供することが可能である。
【非特許文献1】倉本和正 他5名:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界
雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集のNo.672/VI−50,pp.117
−132,2001.3
【特許文献1】特開2002−230235号公報
【特許文献2】特開2003−184098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献2に開示された発明では、災害の発生限界線
や、避難基準線、警戒基準線を設定することに主眼を置いており、ある特定の地域あるい
は一定の条件毎にまとめられた地域グループにおいて、短期降雨指標や長期降雨指標がど
の程度に至れば災害の発生の危険性があるのかを客観的に評価することに留まっていた。
極端に言えば、同一地点において、蓄積された短期及び長期の降雨指標のデータを入力し
て、その地点で蓄積された降雨データに基づいて、どの程度の降雨で災害が生じることに
なるかという判断を行っていたのである。
これでは、客観的、定量的な評価であっても、地域毎あるいはグループ毎に個別具体的
な評価を行なうことはできるものの、特定の地域ではなく、地域全般に共通の一般的、普
(5) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050遍的な評価を行なうことが困難であるという課題があった。さらに、データ自身の信憑性
については疑いを挟む余地がなく、データとしては、広範な地域のデータを一律に取り扱
い、点検業務を実施した者の技術力の個人差などは考慮されず、過去のデータの信頼性に
関する評価を行うことなく、普遍的に高い精度で評価することが困難であるという課題が
あった。
従って、いずれの地域に対して優先的に補修工事を施すか、あるいは防災の対策を施す
かという判断を行うには、ばらつきが生じることで均一な判断を行うことが困難であった。【0008】
また、特許文献1に開示された発明では、基本的に複雑ではあるけれども予め定められ
たあるいは既知の条件とその対策をリスト状のデータ構造を備えたものを用いて、対策の
具体的な実施手順を示すものである。確かに対策リストは補正、更新が可能であるものの
基本的には入力されたデータを基に判断がなされ、コンピュータは、事象と対策を結合さ
せるという処理を行うに過ぎないものであり、データ自体の評価を実施したり、その精度
を向上させるという点では困難であるという課題があった。
【0009】
さらに、橋梁、トンネル、鉄塔、上・下水道・高層ビル等の土木・建築構造物等や災害
危険箇所等は、維持管理のために日常的に点検が行われ、損傷が認められた場合にはその
程度を判断し、必要な補修対策がとられるのが常である。この点検業務には現地で簡便に
利用することができるチェックシート(点検データシート)が利用されている場合が多い。
これらのシートでは対象物の損傷状況に応じて評点をつけることにより現況の安全性が評
価できるように工夫されている。ただし、シートの評点決定に関して明瞭な決定根拠が示
されているものはほとんどなく、最終的な判断は高度な技術者の判定に委ねられることも
少なくない。
これについて、既往の点検データと補修実施の実績データを修正しながら、SVMを用
いることにより、点検対象物の危険度を演算し、その演算結果に基づいて補修の要否や対
応策の要否を高精度に評価することが可能なシステムを発明した。このシステムを用いる
ことで、土木構造物や建築物の補修要否、あるいは災害危険箇所の災害防止対応策の要否
判断において高い精度を発揮しながら、客観性も確保することが出来、構造物や災害危険
箇所の維持補修事業の効率化・高精度化・客観化に大きな効果が期待できる。
また、土木・建築構造物の維持管理や災害危険箇所の監視にかかるコストの中でも特に
、「点検」に焦点を絞り、ライフサイクルコストを最小にするような効率的な維持管理手
法の確立を可能とするという効果も期待できる。
【0010】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたものであり、土木・建築構造物や災害
危険箇所などの点検対象物に対する補修の必要度あるいは災害発生に対する危険度の評価
を行なう際に、技術者や点検者による先入観や主観を排除しながら、点検された多数の項
目のデータに基づいて、これを修正しながら補修工事の必要度や災害危険箇所への災害防
止対応策の必要性について客観的で精度の高い定量的評価を可能としながら、その補修工
事や災害防止対応策の優先順位を客観的かつ高精度に定めることができる健全性劣化評価
システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である健全性劣化評価システムは、入力
部と、演算部と、格納部と、出力部を有し、土木・建築構造物又は災害発生危険箇所等の
点検対象物における健全性劣化の要因(要因数をnとする。n≧2)に係るn次元の要因
データと前記点検対象物に対する前記要因毎に構成される点検データと前記点検対象物に
対する補修の有無データとを備える点検総合データと、前記点検データを用いて補修の必
要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を分離するための判別面を解析して得るため
のSVMと、を用いてある点検対象物における危険度を算出して補修又は点検の必要性を
(6) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050評価するための健全性劣化評価システムであって、
前記格納部は、前記判別面を解析するためのSVMデータと、前記SVMに代入される
n次元の要因データと,前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成される学習用点
検データと,前記点検対象物における補修の有無データを正負又は負正に対応させた前記
SVMに対する教師値データと,を備える学習用点検総合データと、前記点検対象物に対
する前記要因データ毎に構成され熟練点検技術者による点検結果データであって前記学習
用点検データよりも確度の高いことが予め明らかなマスタ点検データとを格納する格納部
であって、
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因デー
タと前記要因データ毎の点検データを入力可能な手段であって、
前記演算部は、前記マスタ点検データ及び前記SVMデータを前記格納部から読み出し
て前記マスタ判別面を解析する判別面演算部と、
前記学習用点検データを前記格納部から読み出して、前記マスタ判別面が、前記要因数
以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、
前記学習用点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成さ
れるマスタ判別面までの距離であって前記座標点が前記マスタ判別面に対して前記座標中
の原点側に存在するか否かで正負又は負正を考慮した距離を前記点検対象物の学習データ
危険度として演算する判別面距離演算部と、
前記点検対象物毎に前記学習用点検総合データの教師値データを前記格納部から読み出
して、前記判別面距離演算部で演算された点検対象物の学習データ危険度と比較して、教
師値データが表現する補修の有無データの正負に対して学習データ危険度の正負が反して
いる矛盾点検対象物を検出する学習用点検データ分析部と、
前記学習用点検データ分析部によって検出された矛盾点検対象物に関する学習用点検デ
ータ及び教師値データを前記学習用点検データ及び教師値データから削除し修正学習用点
検総合データを生成して前記格納部に格納する学習用点検データ修正部と、を備え、
前記判別面演算部は、前記修正学習用点検総合データ及び前記SVMデータを前記格納
部から読み取り前記判別面を解析する判別面演算部であり、
前記判別面距離演算部は、前記入力部から入力された前記点検データを読み取り、前記
判別面が、前記要因数以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多
次元空間の座標中に、前記点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元
空間中に形成される判別面までの距離を前記点検対象物の危険度として演算する判別面距
離演算部である手段であって、
前記出力部は、前記入力部から入力されるデータ、前記演算部で演算された結果に関す
るデータ又は前記格納部に格納されるデータを、それぞれ入力部、演算部、格納部から読
み出して出力可能な手段であることを特徴とするものである。
【0012】
なお、本請求項1の記載も含めて本願における点検対象物とは、道路、橋梁、トンネル
、ダム、高層ビル、鉄塔、上・下水道など、建設工事を施すことによって建設される土木
・建築構造物、及び、がけ崩れ(土砂崩れ)、地面陥没、土石流などが発生する可能性の
ある災害危険箇所などを含む概念である。また、本願において、点検データとは、点検対
象物に対して実施される点検や試験において、点検対象物における劣化要因となりうる要
因毎に得られたデータをいい、学習用点検データとは、SVMにおいて学習データとして
取り扱うための点検データであり、劣化要因となりうる要因毎に得られたデータであるこ
とは共通している。また、点検総合データとは、要因データと点検データと点検対象物に
対する補修の有無データのデータセットを意味し、学習用点検総合データは、同様に、要
因データと学習用点検データと点検対象物に対する補修の有無データをSVMの教師値デ
ータとしたデータのデータセットを意味する。なお、点検総合データの補修の有無のデー
タは、教師値データとはしていないが、有無を表現するデータであればその形態は問わな
いため、例えば−1と+1のように教師値データと同値を用いてもよい。
さらに、判別面は、先の要因毎に得られたデータを多次元空間上の座標にプロットしな
(7) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050がら、多次元のうちの1次元の方向として災害の発生や補修工事の実施の場合には教師値
データを「−1」とし、非発生あるいは未補修の場合には教師値データを「+1」とした
SVMを考え、その重ね合わせによって演算されたものである。教師値データとしては、
−1と+1を選択しているが、特にこの数値に限定するものではなく、正負いずれかをそ
れぞれ取るのであれば、その絶対値の大小にはこだわるものではない。
なお、本願発明では、点検対象物の点検データを多次元空間中に座標点として入力し、
この座標点から多次元空間中に形成される判別面までの距離を点検対象物の危険度として
定義しているが、この危険度という語は、補修や対策工などを必要としている程度を示す
語であり、危険自体を定量的に図るものではない。従って、必要度などとしてもよく、語
句自体に拘泥するものではない。
【0015】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の健全性劣化評価システムにおいて、前記
格納部は、前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データの精度を試験す
るために、前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるテスト点検データと、
このテスト点検データを用いて演算された前記点検対象物の危険度を介して前記学習用
点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データを評価するために、前記危険度と,補
修有の点検対象物と補修無の点検対象物の組合せ及び/又は点検対象物の全数に対する補
修有の点検対象物の数である補修率のデータと,を図示する分離性評価関数データと、を
格納する手段であって、
前記演算部は、前記学習用点検総合データ又は前記修正学習用点検総合データ及び前記
SVMデータを前記格納部から読み取り判別面を解析する判別面演算部と、
前記格納部に格納された前記テスト点検データを読み取り、前記判別面が、前記要因数
以上の次元数で構成される多次元空間の座標中に形成され、この多次元空間の座標中に、
前記テスト点検データを座標点として入力し、この座標点から前記多次元空間中に形成さ
れる判別面までの距離を前記点検対象物のテスト危険度として演算する判別面距離演算部
と、
前記格納部から前記分離性評価関数データを読み出して、前記テスト危険度と、前記テ
スト点検データに含まれる補修有の点検対象物と補修無の点検対象物の組合せ及び/又は
点検対象物の全数に対する補修有の点検対象物の数である補修率のデータと,を表又は図
で示す学習用点検データ試験部と、を有し、
前記出力部は、前記表又は図を出力可能であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、土木・建築構造物や災害危険箇所等の点検対象物に対する学習用点検データ
の精度を向上させるべく修正し、その修正されてデータとしての精度が高まった学習用点
検データを用いて判別面を演算し、この高い精度を維持した判別面を用いて、点検データ
の多次元座標空間における座標点から判別面までの距離を危険度として点検データを解析
し、点検対象物における補修工事あるいは対応策の必要性を高精度かつ客観的に評価する
ことができる。
また、最初に学習用点検データの精度を向上させるので、補修や保守工事などの実績デ
ータあるいは点検データがある程度まとまってあるものの、これまで使用されていない場
合においても、判別面を形成可能であるので、これまで使用できずに放置されていた実績
データや点検データ、あるいは低い精度で運用されていた実績データや点検データを高い
精度で利用することができ、より客観的な解析を実行することが可能である。従って、補
修工事や災害危険箇所に対する対応策の優先順位などを、より確度と客観性をもって決定
することができ、限られた社会資本を適切に投入・処理することが可能である。
【0017】
特に、請求項2に記載の発明では、修正後の学習用点検データの評価を行うことが可能
であるため、修正された学習用点検データの精度を確認することができ、さらに修正を行
うべきか、点検データの解析に用いることができるか、あるいは修正をあきらめるかの判
(8) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る健全性劣化評価システムについて説明する前に、まず
、SVMについて説明を行う。
本実施の形態に係る健全性劣化評価システムにおいては、点検結果を評価するための手
段として、SVMという数理的手法を用いている。
SVMは1992 年にVapnik らによって提案された手法で、現在、最も強力なパター
ン分類手法として注目されている。一般的なパターン分類問題では、線形分離可能な問題
よりも線形分離不可能な問題の方が圧倒的に多いとされている。SVMでは、図1の基本
概念に示すように、線形分離不可能なパターン分類問題では、ある非線形写像によって、
特徴空間と呼ばれる高次元空間にマッピングすることによって、線形分離可能な状態とな
り、最適な分離超平面を求めることができる。
【0019】
SVMによる点検結果評価の基本的な概念を2次元のイメージ図として図2に示す。
本図では、点検対象物として橋梁を例にとり、橋梁下から目視で行う「はり上点検」で
の伸縮継手の点検結果を要因データとし、過去の補修履歴を教師値データとしてSVMに
よるパターン分類を行なうと、図中に示すような判別面によってデータが分離される。こ
こで、はり上点検の結果のデータはその判別面によって補修必要度の高いもの(判別面の
外側、すなわち判別面を挟んで原点が含まれない側)と低いもの(判別面の内側、すなわ
ち判別面を挟んで原点が含まれる側)に分類された状態にある。そこで、本実施の形態で
は各データの判別面からの距離f(x)を算出し、それを危険度の指標とすることを基本
とした。
なお、ここで言う伸縮継手の「はり上点検」とは、床版・橋桁下面からの検査であり橋
脚はり上から主に目視で点検するもので、交通を妨げずに行なえ比較的小規模で容易に実
施可能である。また、「上・下部工点検」とは、路上からの点検で損傷を的確に確認でき
るものの交通規制を要し多大な費用と労力を必要とするものである。なお、図2中に示す
とおり、本実施の形態において判別面からの距離f(x)は、判別面上で0、判別面の外
側では負、判別面の内側では正となるものであるが、正負は逆としてもよいことは言うま
でもない。
また図2ではX軸Y軸とも値が大きくなる方を危険側としたが、逆にX軸Y軸が大きく
なる方を安全側としてもよいことは言うまでもない。
【0020】
次に、点検に関する種類について説明する。道路構造物を例に取ると、以下のような種
類があり、目的により使い分けを行なう。
a) 初期点検
構造物の新設、または改築にあたって、以後の維持管理を行なう上での基礎資料となる
構造物完成後の初期状態を把握することを目的としている。
b) 日常点検
道路構造物を常に良好な状態で保全し、安全かつ円滑な交通の確保および第三者に対す
る障害の防止を図ることを目的としている。
c) 定期点検
長期点検計画に基づいて、一定の期間ごとに構造物に接近して行なう点検で、機能低下
の原因となる損傷を早期に発見し、構造物の損傷度を把握するとともに、補修計画作成の
ための資料を得ることを目的としている。
d) 臨時点検
初期点検、日常点検、定期点検を補完するため、適宜必要に応じ実施する点検で、災害
時点検(自然災害の事後対策等)、事故時点検(重量物の落下等、突発的事項による損傷
対応)、追跡・詳細点検(日常・定期点検などで発見された損傷の対応策)を検討するに
あたり、より詳細な損傷状況の把握、原因の究明並びに損傷状態の継続的な観察などを目
(9) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020
的としている。
なお、今回の実施の形態において用いる「はり上点検」及び「上・下部工点検」は、上
記のc)の定期点検に分類されるものである。
【0021】
高速道路を例に取り、その点検方法について説明を加える。
高速道路の点検は、まず目視による点検から始める。接近して目視点検を行なうためには
,足場が必要になるため検査路のない箇所での点検は、路下から接近できる場合は高所作
業車を使用し、接近できない場合は高速道路上からオーバーハング車によって道路下面に
接近する。また、海上の長大橋などは、建設時に設置された検査車を利用した点検を実施
している。
はり上点検および上・下部工点検が分類される定期点検は、数年に一度といった頻度で、
対象構造物に接近し、目視,たたき,または簡単な計測により行なう。
今回の実施の形態における解析は、国内の高速道路の伸縮継手を対象にSVMを用いて行
ったものである。伸縮継手に関するデータベースとして、資産データ、点検データ、補修
データが存在する。資産データとは、土木構造物を主体に構造・部位別の諸元情報を示し
た台帳データである。点検データとは、日常点検と定期点検の結果を文字データおよび写
真データとしてデータベース化したもので、1985年以降のデータが蓄積されている。また
、補修データとは、補修工事に関するデータをデータベース化したもので、こちらも1985
年以降のデータが蓄積されている。すなわち、補修の有無に関するデータである。
以上の3データの中から、はり上点検データとして、1985年、1987年、1990年、1992年
、1995年、1999年、2004年に行なわれた点検データおよび、1985年〜2003年に行なわれた
補修データを用いた。また、上・下部工点検データとして、1994年、2000年に行なわれた
点検データを用いた。はり上点検と上・下部工点検の実施年を表1にまとめ示す。
【0022】
(10) JP 4446035 B2 2010年4月7日10203040
【表1】
【0023】
表1にまとめられたデータのうち、本実施の形態では、はり上点検の点検項目とその結
果による処置方針を2004年の点検データの一例を用いて、表2に示す。
【0024】
(11) JP 4446035 B2 2010年4月7日10203040
【表2】
【0025】
解析に用いる要因は、9個の損傷項目(ボルトのゆるみ、ボルトの欠損、異常音、排水
樋のつまり、排水樋の損傷、漏水、止水工、伸縮本体の損傷、その他)とした。各損傷項
目の損傷度合を示す指標として、A・B・Cの3つのランクがあり、Aが最も損傷度合が
大きく、以下B、Cの順に小さくなっている。SVMを用いて検討をするにあたって、数
値化を行なう必要があり、Aを3、Bを2、Cを1とし、記載なしのもの(損傷のないも
の)については0とした。また、解析に用いる教師値データとして、処置方針(補修要否
判定)を用い、補修不要を1、要補修を−1とした。以上を数値化し、表2を表3のよう
に変換した。
なお、本願発明及び実施の形態においては、このような数値化したものや、その前の例
えばA,B,Cの3つのランクの状態であっても点検データに含まれる。
【0026】
【表3】
【0027】
同様に、2004年以前のデータについても数値化を行なう。例として1995年の点検データ
の一例を表4に示す。
【0028】
(12) JP 4446035 B2 2010年4月7日10203040
【表4】
【0029】
表4を含め2004年以前の点検データには処置方針が記載されていない。そこで、2004年
以前の点検データにおける教師値データは、表5に示す補修データを用いることとした。
教師値データの設定は、はり上点検の翌年から、次回のはり上点検の前年までの補修の有
無により決定した。
【0030】
【表5】
【0031】
例えば、表4に示す1995年のはり上点検における教師値データは、表1にあるように次
のはり上点検が1999年であるため、表5の1996年〜1998年に補修されたものを教師値デー
タ−1とし、補修のなかったものを教師値データ1とする。表4と表5を集約し、さらに
数値化を行ない、表6のように変換した。2004年以前のデータにおいて、本実施の形態の
説明では、この教師値データの考え方を用いた。
【0032】
(13) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050【表6】
【0033】
次に、このようなSVMを用いて、本実施の形態に係る健全性劣化評価システムによっ
て点検対象物の健全性劣化を評価するが、その評価の基本的な考え方について説明を加え
る。
図3にSVMを用いて、補修有無を分離させた場合の2次元イメージ図を示す。補修履
歴のデータ群は、f(x)=0(実線)によって分離される。さらに、f(x)=−1、
f(x)=1で区切り、各範囲におけるデータの個数および補修率の関係を図で示すと、
図4のように示される。この図4のデータは、表1に示される1985年から1999年までのは
り上点検データ結果及び補修履歴(1,152データ)を用いて、図示したものである。
横軸にf(x)をとると、f(x)>0は安全領域、f(x)<0は危険領域となる。
この図から判断すると、危険領域で高い補修率、安全領域で低い補修率となっており、S
VMにより補修の有無を分離させることができたと考えられる。
そもそも本願発明の開発の発端は、過去の蓄積されたデータを用いて補修の要否を高精
度で評価可能とすることであり、そのために、まず、過去の蓄積されたデータによって、
補修の有無を予測できるものかどうかの検証を行った。
学習用点検データとしては、表1に示される1985年から1995年までのはり上点検データ
結果及び補修履歴(896データ)を用い、1999年のはり上点検(256データ)における補修
有無が予測可能か否かの検討を行った。
【0034】
a) 点検データ
1985年〜1995年のはり上点検データを学習用点検データ、1999年のはり上点検データを
テスト点検データとした。
b) 教師値データ
前述の考え方の通り、学習用点検データおよびテスト点検データにおける教師値データ
は、補修の有無にて設定した。
c) 予測結果
SVMを用いて、補修有無を分離させた結果を図5(a)に示す。横軸にf(x)をと
ると、f(x)>0は安全領域、f(x)<0は危険領域となる。この図から判断すると
、危険領域で高い補修率、安全領域で低い補修率となっており、SVMにより学習データ
に関しては補修の有無を分離させることができた。
この結果で得られた判別面上に、1999年のデータを入れて、判別面からの距離f(x)
を求め、それらのデータを補修有・補修無別にf(x)値に対して示したものを図5(b
)に示す。この図から判断すると、危険領域(f(x)<0)にもかかわらず低い補修率
、安全領域(f(x)>0)にもかかわらず高い補修率となっており、過去の点検結果お
よび補修履歴より1999年のテスト点検データの補修の有無を予測することは難しいことが
(14) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050わかった。
【0035】
本願発明者は、このようにSVMに、過去に蓄積された学習用点検データを用いて判別
面を解析し、学習用点検データとは別個に評価対象たる点検データを分離して評価する際
の精度を向上させるための健全性劣化評価システムを鋭意努力の結果開発し、この程特許
出願するに至ったものである。
【0036】
本願発明者は、まず、上述の予測結果において過去の点検結果及び補修履歴より1999年
のテスト点検データの補修の有無を予測することが難しい理由を検討したところ、判別面
の解析に用いられる学習用点検データにノイズと思われるデータが存在し、このノイズが
判別面の形成の精度を劣化させていることがわかった。そこで、この学習用点検データの
修正を行う機能を持たせた健全性劣化評価システムを開発したのである。
【0037】
以下、本願実施の形態に係る健全性劣化評価システムについて、図6乃至図13を参照
しながら説明する。
図6は、本発明の実施の形態に係る健全性劣化評価システムの構成図であり、図7(a
)は、本実施の形態に係る学習用点検総合データの構成を示す概念図、(b)は同じく修
正学習用点検総合データの構成を示す概念図、(c)は同じく点検総合データの構成を示
す概念図である。
図6において、健全性劣化評価システムは、入力部1と演算部2と出力部10及び格納
部として複数のデータベース12,16,18,20,24,27,31,34から構成
される。
入力部1は、これらのデータベース12,16,18,20,24,27,31,34
に格納されるデータ11a(具体的には、学習用点検総合データ13、マスタ点検データ
14、テスト点検データ15、点検総合データ17、修正学習用点検総合データ19、判
別面距離データ21、学習用判別面距離データ22、試験用判別面距離データ23、SV
Mデータ28、矛盾データ検索関数データ29、分離性評価関数データ30、判別面デー
タ32、マスタ判別面データ33、分離性評価データ35)や解析条件11b(解析条件
データ25、パラメータデータ26)を予め入力したり、あるいは演算部2の作業時にデ
ータ11aや解析条件11bを入力するために使用されるものである。入力部1としての
具体例には、キーボード、マウス、ペンタブレット、光学式の読み取り装置あるいは、コ
ンピュータ等の解析装置や計測機器等から通信回線を介してデータを受信する受信装置な
ど複数種類の装置からなり目的に応じた使い分け可能な装置が考えられる。
【0038】
演算部2は、モード選択部3、学習用点検データ分析部4、学習用点検データ修正部5
、学習用点検データ試験部6、点検データ評価部7、判別面演算部8及び判別面距離演算
部9から構成されるものである。
演算部2は、各データベースから読み出されたり、入力部1から入力されるデータ11
aや解析条件11bを用いて、土木・建築構造物や災害危険箇所等の点検対象物における
健全性劣化に関する点検データから得られる補修や対応策の必要性の有無あるいは災害発
生の可能性の有無を分離する判別面を演算する判別面演算部8、また、その判別面に基づ
いて算出される点検対象物の危険度を演算する判別面距離演算部9を備えている。また、
学習用点検データ分析部4及び学習用点検データ修正部5は判別面を解析するための学習
用点検データの精度を向上させるために用いられる構成要素であり、学習用点検データ試
験部6は、学習用点検データの精度を試験するための構成要素である。さらに、点検デー
タ評価部7は、学習用点検データの精度が十分担保される場合に、判別面を形成させて評
価対象たる点検データを評価するための構成要素である。
なお、モード選択部3は、本実施の形態に係る健全性劣化評価システムの操作時に演算
のモードを選択するための構成要素である。モード選択部3としては、押しボタン式のも
のでもよいし、出力部10にボタンのアイコンを表示してタッチボタン方式で、手で触れ
(15) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050ることでモードの選択が可能なものとしてもよい。
演算部2として具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピュータ等のコンピ
ュータが考えられる。
【0039】
また、データベースとしては、土木・建築構造物や災害危険箇所において実施された点
検で取得された点検総合データ17を格納する点検データベース16をはじめとして、点
検総合データ17の評価を実施するために用いられる判別面を解析するためにSVMに学
習用データとして使用される学習用点検総合データ13や、この学習用点検総合データ1
3を修正して精度を向上させるために用いられるマスタ点検データ14、あるいは学習用
点検総合データ13又はこれを修正した修正学習用点検総合データ19の精度をテストす
るために用いられるテスト点検データ15を格納するデータ修正用点検データベース12
がある。
【0040】
学習用点検総合データ13は、図7(a)に示されるとおり、点検対象物における劣化
要因となりうる要因に関する要因データ40、この要因毎に点検された結果であり、それ
を学習用として用いるための学習用点検データ41、さらに前述のとおり、点検対象物に
対して補修が実施されているか否かを示すための教師値データ42のデータセットである
。この学習用点検総合データ13は、元々点検によって得られるデータであるため、点検
対象物毎に存在し、例えば1年毎に定期点検を行うような場合であれば、毎年生成され、
半年周期の定期点検であれば、半年毎に生成されるものである。なお、要因データ40は
、例えば橋梁であれば、その橋梁の健全性劣化に係る要因として、「ボルトのゆるみ」、
「ボルトの欠損」、「異常音」、「排水樋のつまり」、「排水樋の損傷」、「漏水」、「
止水工」、「伸縮本体の損傷」、「その他(さび・腐食)」などが該当し、これらを文字
データの集合として捉えたものが要因データ40となるので、点検対象物によっては通常
異なる。学習用点検データ41は、それぞれの要因に対して点検によって得られた数値や
レンジを持って評価される場合には、その該当レンジやそのレンジが示すレベル値のよう
な指標が該当する場合もある。
【0041】
修正学習用点検総合データ19は、図7(b)に示されるとおり、要因データ40と同
様の要因データ43、学習用点検データ41から矛盾するデータを削除することで修正し
精度を向上させた修正学習用点検データ44、教師値データ42の中から不要な教師値デ
ータを削除することで修正し精度を向上させた修正教師値データ45のデータセットであ
る。
さらに、点検総合データ17は、図7(c)に示されるとおり、要因データ40や要因
データ43と同様な要因データ46、評価対象となる点検対象物に対する点検データ47
、点検対象物における補修の有無データ48のデータセットである。点検総合データ17
のみが教師値データではなく補修の有無データ48となっているが、補修の有無に関する
データは、そのまま教師値データとすることも可能であるので、本願では教師値データを
含む概念として考えてもよい。
【0042】
また、SVMを用いて実施される解析のための解析条件データ25やパラメータデータ
26を格納する解析条件データベース24を備え、また、SVMを用いた解析を実行させ
るためのSVMデータ28や学習用点検総合データ13から矛盾したデータを取り除くた
めの検索関数に関するデータである矛盾データ検索関数データ29、さらには、点検デー
タや学習用点検データの評価を行う際に使用されるデータ分離性の評価のための関数デー
タである分離性評価関数データ30を格納する解析関数データベース27を備えている。
また、分離性評価関数データ30を用いて実行された結果得られた分離性評価データ35
は、分離性評価データベース34に格納される。
判別面演算部8において演算される学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検
総合データ19を使用して得られる判別面を構成する判別面データ32及び、マスタ点検
(16) JP 4446035 B2 2010年4月7日10203040
データ14を用いて得られるマスタ判別面を構成するマスタ判別面データ33を格納する
判別面データベース31を備え、また、それらの判別面を用いて演算された結果得られる
判別面距離データ21、学習用判別面距離データ22、試験用判別面距離データ23を格
納する判別面距離データベース20を備えている。
【実施例1】
【0043】
以下、図6乃至図8を参照しながら、本実施の形態の実施例1に係る健全性劣化評価シ
ステムについて説明する。図8は本実施例1に係る健全性劣化評価システムを用いて、学
習用点検データから修正学習用点検データを生成するための方法を示すフローチャートで
ある。
利用者は、本実施の形態に係る健全性劣化評価システムを起動するが、予め入力部1を
利用して、各データベースには解析や評価に必要なデータ11aや解析条件11bは、入
力、格納されている。
起動時には、出力部10に、モード選択部3によって、これから実行されるべきモード
がいくつか表示される。具体的には、学習用点検データから修正学習用点検データを生成
するための修正モード、学習用点検データ又は修正学習用点検データの精度をテストする
ための試験モード、また、未評価の点検データを評価するための評価モードである。
利用者は、学習用点検総合データ13の修正を行う場合には、修正モードを選択する(
ステップS1)。その際には、出力部10に表示されるモードを示すボタンや出力部10
をタッチパネルとして、その画面(アイコン)自体を手で触れると修正モードが選択され
るようにしておくとよい。修正モードが選択されると、さらに、矛盾教師値削除モード、
矛盾点検値削除モード、マスタ点検データ利用モードの3種類のモードがモード選択部3
によって出力部10に表示される。
利用者は、それぞれ希望するモードに対して、ボタンを押したりあるいはタッチパネル
のアイコンに触れるなどして選択する。
本実施の形態においては、矛盾教師値削除モードを選択し、(ステップS2)他の修正
モードを選択する場合については後述する。
モード選択部3は、選択されたモードに関する信号を学習用点検データ分析部4に送信
する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、学習用点検データ分析部4は、
まず、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出す。
表7に読み出された学習用点検総合データ13の一部を示す。学習用点検総合データ1
3としては、表の上欄に記載されるもので、劣化に影響のある要因である「ボルトのゆる
み」から「伸縮本体の損傷」に加えて「その他」も含めている。また、それらの要因デー
タ40に対応するように、学習用点検データ41としてそれぞれのレベル値が記載されて
いる。また、右欄には、教師値データ42として、補修の有無に相当する数値が、−1,
+1として記載されている。
学習用点検データ分析部4は、読み出した学習用点検総合データ13に含まれる要因デ
ータ40毎に、学習用点検データ41を読み出し(ステップS3)、その教師値データ4
2を読み出す(ステップS4)。学習用点検総合データ13は、対象点検物毎に例えば表
7に示されるように、管理番号及び点検年を付した上で、格納されると、それらをキーと
して学習用点検データ分析部4などによって読み出し易くなるので望ましい。
【0044】
(17) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050【表7】
【0045】
学習用点検データ分析部4は、読み出した点検対象物毎の学習用点検データ41と教師
値データ42の組合せで、同じ要因データ40に係る学習用点検データ41の組合せにお
いて、矛盾を生じている教師値データ42を検索する(ステップS6)。この矛盾を生じ
ている学習用点検データ41の検索には、学習用点検データ分析部4が、解析関数データ
ベース27に格納されている矛盾データ検索関数データ29を用いて実行される。
具体的には、表7に示されるように、橋梁No.がP‐390とP‐391として管理される点検
対象物とP‐392で管理される点検対象物では、それぞれ同じ要因データの「漏水」におい
て、その学習用点検データがレベル1で共通するものの、その教師値データはP‐390とP‐3
91ではそれぞれ−1で、P‐392では+1となっており矛盾している。
このように矛盾する教師値データを検索した後には、学習用点検データ分析部4はその
矛盾教師値データを有する学習用点検データ41を抽出する(ステップS6)。そして、
学習用点検データ分析部4は、この抽出した学習用点検データ41と矛盾を生じている教
師値データ42を含めて、学習用点検総合データ13を学習用点検データ修正部5に送信
する。
学習用点検データ修正部5では、矛盾を生じている教師値データ42及び学習用点検デ
ータ41を学習用点検総合データ13から削除することで修正学習用点検総合データ19
を生成する(ステップS7)。本実施例では、当初896データであったものが、このよう
な矛盾を生じているデータを削除することで、199データに減らせることができた。生成
された修正学習用点検総合データ19は、学習用点検データ修正部5によって、修正学習
用点検データベース18に格納される。
なお、学習用点検データ修正部5における矛盾データの削除方法については、特に限定
するものではないが、例えば、矛盾を生じているいずれが正しいかなどの判断を省略して
安全側にすべてを削除する方法や、教師値データなどで、保守的な方のデータ、すなわち
安全側に判断されるデータ(データ自身が危険なデータ)を残して、削除する方法がある
。データが安全側か危険側か等の判断をさせる場合には、その判別式を学習用点検データ
修正部5内部に設けて矛盾データを読み出して、その判別式にかけて抽出して削除する必
要があると考えられる。
【実施例2】
【0046】
次に、図6、図7及び図9を参照しながら、本実施の形態の実施例2に係る健全性劣化
評価システムについて説明する。図9は本実施例2に係る健全性劣化評価システムを用い
て、学習用点検データから修正学習用点検データを生成するための方法を示すフローチャ
ートである。本実施例2では、矛盾点検値削除モードを選択するものである。
利用者は、先の実施例1と同様に修正モードを選択する(ステップS1)。修正モード
が選択されると、さらに、矛盾教師値削除モード、矛盾点検値削除モード、マスタ点検デ
ータ利用モードの3種類のモードがモード選択部3によって出力部10に表示されるが、
今回は矛盾点検値削除モードを選択する(ステップS2)。
モード選択部3は、実施例1と同様に、選択されたモードに関する信号を学習用点検デ
ータ分析部4に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、学習用点検
データ分析部4は、まず、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ
(18) JP 4446035 B2 2010年4月7日102030405013を読み出す。
表8に読み出された学習用点検総合データ13の一部を示す。学習用点検総合データ1
3としては、表7と同様に要因データ40、学習用点検データ41、そして教師値データ
42も含まれている。
学習用点検データ分析部4は、読み出した学習用点検総合データ13に含まれる要因デ
ータ40毎に、学習用点検データ41を読み出し(ステップS3)、その教師値データ4
2を読み出す(ステップS4)。
【0047】
【表8】
【0048】
学習用点検データ分析部4は、読み出した点検対象物毎の学習用点検データ41と教師
値データ42の組合せで、同じ要因データ40に係る学習用点検データ41の組合せにお
いて、矛盾を生じている学習用点検データ41を検索する(ステップS5)。この矛盾を
生じている学習用点検データ41の検索には、学習用点検データ分析部4が、解析関数デ
ータベース27に格納されている矛盾データ検索関数データ29を用いて実行される。
具体的には、表8に示されるように、橋梁No.がP‐88において、1995年に要因データ
である「排水樋のつまり」の学習用点検データで、レベル2とあるものが、その年から19
99年の前年までに補修がなかったにもかかわらず1999年の点検では、レベル0となってお
り、損傷度合が小さくなるという矛盾を生じている。さらに、橋梁No.P‐132では、198
7年の「排水樋のつまり」、「排水樋の損傷」、「漏水」という3つの要因データで、そ
れぞれレベル2,3,1の状態にあったものが、P‐88と同様にその年から1990年の前年ま
でに補修がなかったにもかかわらず、1990年にはいずれもレベル0となっており矛盾を生
じている。
このように矛盾する学習用点検データ41を検索した後には、学習用点検データ分析部
4はその矛盾学習用点検データを有する学習用点検データ41及びその教師値データ42
を抽出する(ステップS6)。そして、学習用点検データ分析部4は、この抽出した矛盾
を生じている学習用点検データ41と教師値データ42を含めて、学習用点検総合データ
13を学習用点検データ修正部5に送信する。
学習用点検データ修正部5では、矛盾を生じている学習用点検データ41及び教師値デ
ータ42を学習用点検総合データ13から削除することで修正学習用点検総合データ19
を生成する(ステップS7)。本実施例では、当初896データであったものが、このよう
な矛盾を生じているデータを削除することで、616データに減らすことができた。生成さ
れた修正学習用点検総合データ19は、学習用点検データ修正部5によって、修正学習用
点検データベース18に格納される。
【実施例3】
【0049】
次に、図6、図7及び図10を参照しながら、本実施の形態の実施例3に係る健全性劣
化評価システムについて説明する。図10は本実施例3に係る健全性劣化評価システムを
用いて、学習用点検データから修正学習用点検データを生成するための方法を示すフロー
チャートである。本実施例3では、マスタ点検データ利用モードを選択するものである。
(19) JP 4446035 B2 2010年4月7日10203040
(本実施例は、特に請求項1に対応する。)
利用者は、先の実施例1や2と同様に修正モードを選択する(ステップS1)。修正モ
ードが選択されると、さらに、矛盾教師値削除モード、矛盾点検値削除モード、マスタ点
検データ利用モードの3種類のモードがモード選択部3によって出力部10に表示される
が、本実施例ではマスタ点検データ利用モードを選択する(ステップS2)。
モード選択部3は、実施例1、2と同様に、選択されたモードに関する信号を学習用点
検データ分析部4に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、学習用
点検データ分析部4は、まず、データ修正用点検データベース12からマスタ点検データ
14を読み出す(ステップS3)。
【0050】
マスタ点検データとは、熟練した点検技術者が点検した結果に関するデータであり、精
度が高く信頼できるデータを意味するものである。マスタ点検データ14を読み出した学
習用点検データ分析部4は、そのマスタ点検データ14を判別面演算部8に送信し、判別
面演算部8では解析関数データベース27に格納されたSVMデータ28を読み出して、
SVMにマスタ点検データ14を用いて判別面を演算する(ステップS4)。判別面演算
部8は、この判別面をマスタ判別面として演算するが、複数の要因データに対応したマス
タ点検データ14であるため、マスタ判別面は多次元空間に形成される判別面となる。こ
のマスタ判別面は要因データの要因数(本願ではこの要因数をnと表現している。)以上
の次元数の多次元空間に形成される。
判別面演算部8は、マスタ判別面に関するマスタ判別面データ33を判別面データベー
ス31に格納する。
このマスタ判別面の演算が終了すると、学習用点検データ分析部4は、データ修正用点
検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出す(ステップS5)。読み出
された学習用点検総合データ13は、判別面距離演算部9へ送信され、判別面距離演算部
9は、マスタ判別面データ33を判別面データベース31から読み出して、先の要因デー
タの要因数n以上の次元数の多次元空間に形成される座標中に形成させると同時に、学習
用点検総合データ13の学習用点検データ41を点検対象物・点検年毎に、それぞれの要
因データを対応させた座標軸に座標点としてプロットする。このようにしてプロットされ
た学習用点検データ41の座標点から、先のマスタ判別面までの距離を演算する(ステッ
プS6)。但し、この「距離」は、座標点が判別面に対して多次元空間の原点側にある場
合を正と概念するものである。
演算されたマスタ判別面までの距離は、判別面距離演算部9によって学習用判別面距離
データ22として判別面距離データベース20に格納される(ステップS6)。
【0051】
次に、判別面距離演算部9が学習用点検データ41の座標点からマスタ判別面までの距
離の演算を終えると、学習用点検データ分析部4は、データ修正用点検データベース12
から読み出した学習用点検総合データ13からそれぞれの学習用点検データ41に対応す
る教師値データ42を読み出す(ステップS7)。
そして、この教師値データ42と、先に判別面距離演算部9において演算された学習用
判別面距離データ22を判別面距離データベース20から読み出して比較しながら矛盾す
る教師値データ42及び判別面距離データを検索する。
この教師値データ42と学習用判別面距離データ22の比較の様子をデータで示したも
のが表9である。
表9に読み出された学習用点検総合データ13に学習用判別面距離データ22を加えた
ものの一部を示す。学習用点検総合データ13としては、表7,8と同様に要因データ4
0、学習用点検データ41、そして教師値データ42も含まれており、さらに、f(x)
で表現されている学習用判別面距離データ22が含まれている。
【0052】
(20) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050【表9】
【0053】
表9において、矛盾する教師値データ42及び学習用判別面距離データ22として具体
的には、橋梁No.がP‐62の点検年1995年において、教師値データが−1(補修有り)と
、正として安全であることを示すf(x)の値が矛盾している。また、橋梁No.がP‐64
の点検年1995年においては、逆に教師値データが+1(補修無し)と、負として危険性が
あることを示すf(x)の値が矛盾している。
このように矛盾する教師値データ42と学習用判別面距離データ22を検索した後には
、学習用点検データ分析部4はその矛盾する教師値データ42と学習用判別面距離データ
22を有する学習用点検データ41を抽出する(ステップS8)。そして、学習用点検デ
ータ分析部4は、この抽出した矛盾を生じている教師値データ42と学習用点検データ4
1を含めて学習用点検総合データ13を学習用点検データ修正部5に送信する。
学習用点検データ修正部5では、矛盾を生じている学習用点検データ41及び教師値デ
ータ42を学習用点検総合データ13から削除することで修正学習用点検総合データ19
を生成する(ステップS9)。生成された修正学習用点検総合データ19は、学習用点検
データ修正部5によって、修正学習用点検データベース18に格納される。
以上説明したとおり、実施例3をはじめ、実施例1及び実施例2に関する共通の効果と
しては、修正学習用点検総合データ19を生成することによって、これまで存在していた
ノイズを含む学習用点検データの精度を向上させることができ、この修正学習用点検総合
データを用いることで、点検データをより精度高く評価することができるという点がある
。すなわち、その点検データを取得した地域、地点、箇所、あるいは構造物や建造物(以
下、地域等という。)における対策の必要性、対策を施す優先順位の策定、あるいは点検
の必要性に関する評価を精度高く実施することができるのである。
【実施例4】
【0054】
次に、図6、図7及び図11を参照しながら、本実施の形態の実施例4に係る健全性劣
化評価システムについて説明する。図11は本実施例4に係る健全性劣化評価システムを
用いて学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検総合データ19の精度を確認す
るための方法を示すフローチャートである。本実施例4では、健全性劣化評価システムに
おいて試験モードを選択するものである。(本実施例は、特に請求項2に対応する。)
利用者は、試験モードを選択する(ステップS1)。試験モードが選択されると、モー
ド選択部3は、他の実施例と同様に選択されたモードに関する信号を学習用点検データ試
験部6に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、学習用点検データ
試験部6は、データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出
すか、あるいは修正学習用点検データベース18から修正学習用点検総合データ19を読
み出す。(ステップS2)。
このデータの選定は、学習用点検データ試験部6がデータ修正用点検データベース12
及び修正学習用点検データベース18にアクセスして、試験可能な学習用点検総合データ
13及び修正学習用点検総合データ19のデータセット名を出力部10に表示して、ボタ
ン操作やタッチパネル化した出力部10を用いて選択可能としておくとよい。
【0055】
学習用点検データ試験部6は、読み出した学習用点検総合データ13又は修正学習用点
(21) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050検総合データ19を判別面演算部8に送信し、判別面演算部8では解析関数データベース
27に格納されたSVMデータ28を読み出して、SVMに学習用点検総合データ13あ
るいは修正学習用点検総合データ19を用いて判別面を演算し(ステップS3)、判別面
に関する判別面データ32を判別面データベース31に格納する。この判別面も要因デー
タの要因数n以上の次元数の多次元空間に形成される。
この判別面の演算が終了すると、学習用点検データ試験部6は、データ修正用点検デー
タベース12からテスト点検データ15を読み出す(ステップS4)。このテスト点検デ
ータ15は、先に説明したとおり、1999年のはり上点検(256データ)を用いている。但
し、本実施の形態においては、予めテスト点検データ15においても実施例3において示
した修正モードによって修正し、これをテスト点検データ15として用いている。このよ
うにテスト点検データ15も修正モードによって修正してもよいし、しなくともよい。
読み出されたテスト点検データ15は、判別面距離演算部9へ送信され、判別面距離演
算部9は、判別面データ32を判別面データベース31から読み出して、先の要因データ
の要因数n以上の次元数の多次元空間に形成される座標中に形成させると同時に、テスト
点検データ15を点検対象物・点検年毎に、それぞれの要因データを対応させた座標軸に
座標点としてプロットする。このようにしてプロットされたテスト点検データ15の座標
点から、先の判別面まので距離を演算する(ステップS5)。但し、この「距離」の概念
も前述のとおり、座標点が判別面に対して多次元空間の原点側にある場合を正とするもの
である。
演算された判別面までの距離は、判別面距離演算部9によって試験用判別面距離データ
23として判別面距離データベース20に格納される。
【0056】
次に、判別面距離演算部9がテスト点検データ15の座標点から判別面までの距離の演
算を終えると、学習用点検データ試験部6は、データ分離性の評価を行う(ステップS6)。 このデータ分離性の評価は、解析関数データベース27から分離性評価関数データ30
を読み出しつつ、先の試験用判別面距離データ23を判別面距離データベース20から読
み出して、これをその分離性評価関数に入力することで実行されるものである。
分離性評価関数は、試験用判別面距離データ23のうち、横軸に試験用判別面距離デー
タの数値をとるように処理され、縦軸に点検対象物の箇所数、あるいは補修率の平均値を
示すことが可能である。また、点検対象物の箇所数は、補修済のものと未補修のものに分
けて表示することができる。
【0057】
このような分離性評価関数を用いて処理された例を、図12、図13及び図14を参照
しながら説明する。図12は、先の実施例1で説明した修正学習用点検総合データ19を
用いてデータ分離性の評価を実施する際の出力結果を示すものであり、図13は同様に先
の実施例2で説明した修正学習用点検総合データ19を用いたものである。また図14は
、先の実施例3で説明した修正学習用点検総合データ19を用いてデータ分離性の評価を
実施する際の出力結果を示すものである。
図12、図13及び図14の横軸には、判別面距離演算部9によって演算された試験用
判別面距離データ23のうち、試験用判別面距離として演算されたf(x)がとられてい
る。本実施の形態では、距離の概念として方向を含めて検討しており、数値は正となる方
が安全側であり、負となる方が危険側となっているが、このような正負に限定するもので
はなく、逆の方向について距離を概念する場合には数値の正負は逆となることもある。
図12、図13及び図14の縦軸には、箇所数とあるのは点検対象物の箇所数を示して
おり、補修率は補修済の点検対象物の数を点検対象物の全体数で除したものである。また
、図12、図13及び図14では、箇所数については補修済と補修無の場合に分けて表示
している。
図12、図13及び図14の横軸に示されるf(x)は、修正学習用点検データ44を
用いて演算される距離であり、基準となる修正学習用点検データ44の精度が高いと、判
(22) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050別面が精度高く形成され、演算されるf(x)も精度の高いものとなると考えられる。そ
して、そのf(x)に基づいて、補修率や補修の有無による箇所数を縦軸に表示して、一
致すれば、演算と現実の危険度(安全度)が一致することになり、逆に、修正学習用点検
データ44の精度が検証できるということになる。本実施の形態においては、図に示した
が表に示してもよいことは言うまでもない。他の実施例においても同様である。
本実施例のように、学習用点検データ試験部6を備えて点検データのデータ分離性評価
を行うことで、補修の有無を予測することは可能であると理解できる。
ここで、図5(b)には修正前の学習用点検データ41を用いて判別面を解析し、テス
ト点検データ15を用いて評価した結果を示す。
図5(b)に示されるとおり、修正前の場合には、危険領域(f(x)<0)にもかか
わらず低い補修率、安全領域(f(x)>0)にもかかわらず高い補修率となっており、
修正前の学習用点検データ41を用いる場合には、データ分離性は悪いことが理解される。 実施例1の修正方法から得られた図12および実施例2の修正方法から得られた図13
と、図5(b)を比較すると,補修の有無の予測はほとんど改善されていないと理解され
る。
しかしながら,実施例3の修正方法から得られた図14では、危険領域(f(x)<0
)で100%の補修率、安全領域(f(x)>0)で低い補修率となっており、実施例3
に示されるような方法で、学習用点検データを修正して不一致を削除した補修履歴を用い
ることで、テスト点検データ15の補修の有無を予測することは可能であることがわかっ
た。
つまり、本実施例1および本実施例2というデータ修正方法もあるが,本実施例3にお
いて行われたデータ修正方法が最も妥当な修正方法であることが理解される。
なお、本願明細書の実施の形態の説明においては、モード選択部3を備えて修正モード
、試験モード、評価モードを選択可能としたが、モード選択部3を備えることなく、これ
らの中から1つのモードのみ、あるいはいくつかのモードがシーケンシャルに自動的に実
行されるように予めプログラムされているようなシステムであってもよい。また、修正モ
ードでは、さらに3種類のモードが選択可能となっているが、これも予め定めた1つのモ
ードが自動的に選択されるようにされてもよいし、必ずしも3つのモードではなく、これ
らの中から2つのモードが選択されるようにしてもよい。
【0058】
一方、図5(b)には修正前の学習用点検データ41を用いて判別面を解析し、テスト
点検データ15を用いて評価した結果を示す。
図5(b)に示されるとおり、修正前の場合には、危険領域(f(x)<0)にもかか
わらず低い補修率、安全領域(f(x)>0)にもかかわらず高い補修率となっており、
修正前の学習用点検データ41を用いる場合には、データ分離性は悪いことが理解される
。これに比べて図14に示す先の実施例3によるデータ修正が妥当であり、このデータ修
正によって、学習用点検データ41の精度が大きく向上したと考えることができる。
本実施例によれば、実施例1乃至3に係る健全性劣化評価システムの効果に加えて、学
習用点検データ41の精度が向上することを確認可能なシステムを提供することができ、
修正学習用点検総合データ19を用いて実施される点検データを取得した地域等における
評価の前に、妥当性を確認して精度を担保することができる。
【実施例5】
【0059】
次に、図6、図7及び図15を参照しながら、本実施の形態の実施例5に係る健全性劣
化評価システムについて説明する。図15は本実施例5に係る健全性劣化評価システムを
用いて点検で得られた点検総合データ17を評価するための方法を示すフローチャートで
ある。本実施例5では、健全性劣化評価システムにおいて評価モードを選択するものであ
る。(本実施例は、特に請求項1及び請求項2に対応する。)
利用者は、評価モードを選択する(ステップS1)。評価モードが選択されると、モー
(23) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050ド選択部3は、他の実施例と同様に選択されたモードに関する信号を点検データ評価部7
に送信する。モード選択部3から送信される信号を受信すると、点検データ評価部7は、
データ修正用点検データベース12から学習用点検総合データ13を読み出すか、あるい
は修正学習用点検データベース18から修正学習用点検総合データ19を読み出す。(ス
テップS2)。
このデータの選定は、点検データ評価部7がデータ修正用点検データベース12及び修
正学習用点検データベース18にアクセスして、利用可能な学習用点検総合データ13及
び修正学習用点検総合データ19のデータセット名を出力部10に表示して、ボタン操作
やタッチパネル化した出力部10を用いて選択可能としておくとよい。
点検データ評価部7は、読み出した学習用点検総合データ13又は修正学習用点検総合
データ19を判別面演算部8に送信し、判別面演算部8では解析関数データベース27に
格納されたSVMデータ28を読み出して、SVMに学習用点検総合データ13あるいは
修正学習用点検総合データ19を用いて判別面を演算し(ステップS3)、判別面に関す
る判別面データ32を判別面データベース31に格納する。この判別面も要因データの要
因数n以上の次元数の多次元空間に形成される。
この判別面の演算が終了すると、点検データ評価部7は、点検データベース16から点
検総合データ17を読み出す(ステップS4)。点検総合データ17は、この健全性劣化
評価システムを利用して実際に評価されるべき対象である。
読み出された点検総合データ17は、判別面距離演算部9へ送信され、判別面距離演算
部9は、判別面データ32を判別面データベース31から読み出して、先の要因データの
要因数n以上の次元数の多次元空間に形成される座標中に形成させると同時に、点検総合
データ17の点検データ47を点検対象物・点検年毎に、それぞれの要因データ46を対
応させた座標軸に座標点としてプロットする。このようにしてプロットされた点検総合デ
ータ17の座標点から、先の判別面までの距離を演算する(ステップS5)。但し、この
「距離」の概念も前述のとおり、座標点が判別面に対して多次元空間の原点側にある場合
を正とするものである。
演算された判別面までの距離は、判別面距離演算部9によって判別面距離データ21と
して判別面距離データベース20に格納される。
【0060】
次に、判別面距離演算部9が学習用点検データ41あるいは修正学習用点検データ44
の座標点から判別面までの距離の演算を終えると、点検データ評価部7は、データ分離性
の評価を行う(ステップS6)。
このデータ分離性の評価は、実施例4と同様に、解析関数データベース27から分離性
評価関数データ30を読み出しつつ、先の判別面距離データ21を判別面距離データベー
ス20から読み出して、これをその分離性評価関数に入力することで実行されるものであ
る。但し、本実施例では、このデータ分離性の評価は、点検データ評価部7において実行
される。
分離性評価関数は、判別面距離データ21のうち、横軸に判別面距離データの数値をと
るように処理され、縦軸に点検対象物の箇所数、あるいは補修率の平均値を示すことが可
能である。また、点検対象物の箇所数は、補修済のものと未補修のものに分けて表示する
ことができる。
【0061】
このような分離性評価関数を用いて処理された例を、図16を参照しながら説明する。
図16は、表(a)に示すデータ例を用いてデータ分離性の評価を実施する際の出力結果
を示すものである。図2を用いて説明したように(a)をSVMにて分析した結果、(b
)表の右列に示すf(x)が得られる。これを(c)に示すような形式で整理がなされ、
(d)に示したような出力結果が得られるというものである。
なお、本実施例では、学習用点検総合データ13をデータ修正用点検データベース12
から、あるいは修正学習用点検総合データ19を修正学習用点検データベース18から読
み出して、判別面を演算し、その判別面に対して点検総合データ17を用いて判別面距離
(24) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050を演算し、これを用いて点検データ評価部7で、データ分離性の評価を実施したが、この
点検データ評価部7では、学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検総合データ
19自身のデータ分離性も評価可能である。
【0062】
この学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検総合データ19自身のデータ分
離性の評価について、以下に説明を加える。
本実施例では、点検データ評価部7が、ステップS4において点検データベース16か
ら点検総合データ17を読み出したが、ここで、データ修正用点検データベース12から
学習用点検総合データ13あるいは修正学習用点検データベース18から修正学習用点検
総合データ19を読み出し、さらに、この中の学習用点検データ41あるいは修正学習用
点検データ44を読み出す。読み出された学習用点検データ41あるいは修正学習用点検
データ44は、判別面距離演算部9へ送信され、判別面距離演算部9は、判別面データ3
2を判別面データベース31から読み出して、多次元空間に形成される座標中に形成させ
ると同時に、学習用点検データ41あるいは修正学習用点検データ44を点検対象物・点
検年毎に、それぞれの要因データを対応させた座標軸に座標点としてプロットする。この
ようにしてプロットされた学習用点検データ41あるいは修正学習用点検データ44の座
標点から、先の判別面まので距離を演算する。
演算された判別面までの距離は、判別面距離演算部9によって学習用判別面距離データ
22として判別面距離データベース20に格納され、点検データ評価部7は、データ分離
性の評価を行う。この評価方法は、先に説明した内容と同様であるので省略する。
【0063】
次に、本実施例5の健全性劣化評価システムのうち、修正学習用点検データを得るため
の修正モードとして実施例3を採用する健全性劣化評価システムが発揮し得る有用で優れ
た効果について、さらに詳細に説明を加える。
図17(a)乃至(f)は、それぞれ学習用点検データ41あるいは修正学習用点検デ
ータ44を用いて点検データ47を評価する工程を模式的に表現する概念図である。図中
、符号A及びXで表現されるのは、学習用点検データ41で、A 及びX で表現される
のは修正学習用点検データ44であり、符号Mで表現されるのはマスタ点検データ14で
ある。
また、Aを用いてBを評価する(a)乃至(c)は、学習用点検データであるAあるい
は修正学習用点検データであるA の取得箇所は、マスタ点検データであるMと同一の取
得箇所であるものの、データの取得時期が異なる場合を意味しており、Xを用いてYを評
価する(d)乃至(f)は、学習用点検データであるXあるいは修正学習用点検データで
あるX の取得時期の異同はともかく、取得箇所が、マスタ点検データMと異なっている
場合を意味するものである。
図17(a)は、本実施例によって学習用点検データ41を修正することなく点検デー
タ47を評価する場合、(b)は、本実施例によってマスタ点検データ14を用いてマス
タ判別面を構築し、修正学習用点検データ44を生成して、それを用いて、点検データ4
7を評価する場合、(c)は、マスタ点検データ14を用いて点検データ47を評価する
場合である。
さらに、(a)〜(c)とは異なる地域で得られた学習用点検データ41を修正するこ
となく、点検データ47を評価する場合を(d)とし、(e)は異なる地域のマスタ点検
データ14を用いて、学習用点検データ41を修正して修正学習用点検データ44を生成
し、そしてそれを用いて点検データ47を評価する場合、(f)は、異なる地域のマスタ
点検データ14を用いて点検データ47を評価する場合である。
【0064】
このような6つのケースについて点検データ47を評価した結果により、本実施例3に
係る修正モードを採用する健全性劣化評価システムが優れた効果を発揮することを説明す
るものである。
この優れた効果とは以下のような効果である。ある地域、地点、箇所、あるいは構造物
(25) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050や建造物において、過去に蓄積された点検データが存在するものの、その過去の時点では
ノイズも含まれていることが予想される場合には、その点検データをそのまま健全性劣化
評価のための学習データとして用いると精度上リスクが大きいと考えられる。このような
場合には、この学習データを、その地域等において精度高く実施された点検によって得ら
れた点検データ、すなわち、マスタ点検データを用いて修正して、あるいはマスタ点検デ
ータの量が十分であれば、そのマスタ点検データを用いて、先の学習データの取得時期と
異なる時期に取得された点検データを評価することが考えられる。しかしながら、マスタ
点検データを取得するためには熟練した技術者が必要であることから、そのマスタ点検デ
ータが取得されている地域等はまだまだ少ないのが現状である。しかしながら、本実施例
によれば、評価したい地域等で取得されたマスタ点検データでなくとも、すなわち、点検
データを取得した地域で、学習用点検データが存在しさえすれば、他地域等で取得された
マスタ点検データを用いて、この学習用点検データを修正して修正学習用点検データを取
得し、この修正学習用点検データをあたかもその地域等のマスタ点検データとして点検デ
ータを評価することが可能である。
この効果が優れているのである。この効果を発揮し得ることを図17乃至図23を参照
しながら説明するものである。
【0065】
図18は、図17(a)に示されるケースの評価結果を示すものである。すなわち、図
18(a)では、図17(a)においてAとして示される学習用点検データをそのまま用
いて判別面を形成して、そのAとして示される学習用点検データの分離性について評価し
た結果をグラフと表に示すものである。また、(b)では、Aの学習用点検データを用い
て形成された判別面を用いてBで示される点検データを評価した場合に、点検データが分
離可能であるか否かをグラフと表で示すものである。
図18(a)において、グラフの見方は図14を用いて説明したとおりであるので省略
するが、その下の表について説明を加える。表では、横軸のf(x)に対して、右欄にそ
れぞれ補修済の箇所と補修無の箇所の数を示し、そのさらに右欄に補修率を計算している
。さらに下表には、f(x)が負の場合に補修済である箇所数と、f(x)が正の場合に
補修無である箇所数を加え、全体の箇所数で除した数値が記載されている。これは、すな
わち、相対的に危険と評価される箇所で補修済の箇所、安全と評価される箇所で補修無の
箇所の和であり、適切な処理が施されている箇所の割合を示すものである。従って、本願
ではこの数値を「的中率」と呼ぶことにする。
図18(b)においては、前述のとおり、Aの学習用点検データ、すなわち、マスタ点
検データを用いることなく、そのままの学習用点検データを用いて形成された判別面を用
いてBの点検データを評価した結果を示すが、先の的中率は、27%と低い値を示してい
る。従って、未修正データの判別面を用いた場合には、あまりよく点検データを分離でき
ておらず、過去(1985年〜1995年)に取得された同じ箇所でのデータ(学習用点
検データ)を用いて、別時点(1999年)に取得された同じ箇所でのデータ(点検デー
タ)を評価することに無理があることが理解される。
【0066】
次に、図19を参照しながら、Mのマスタ点検データを用いてAの学習用点検データを
修正してA とし、それを用いて同じ箇所で取得されたBの点検データを評価した結果を
説明する。図19(a)では、図17(b)においてAとして示される学習用点検データ
を、Mのマスタ点検データを用いて形成された判別面を用いて修正して、A の修正学習
用点検データを生成して、そのA の分離性を評価したグラフと表を示すものである。
その結果はもちろん的中率100%となる。また、(b)では、そのA の修正学習用点
検データを用いて形成された判別面を用いてBで示される点検データを評価した場合に、
点検データが分離可能であるか否かをグラフと表で示すものである。
図19(a)において、修正済のA では、図18(a)に示される修正前の場合に比
較して分離が進み、その的中率は当然100%になっている。一方、(b)では、的中率
が56%と図18(b)の27%に比べると大幅に向上しており、この修正学習用点検デ
(26) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050ータによって形成される判別面を用いる場合には、取得時点が異なる点検データを分離す
ることができるものと理解される。
【0067】
さらに、図20を参照しながら、Mのマスタ点検データを直接用いてBの点検データを
評価した結果について説明する。図20(a)では、図17(c)においてMとして示さ
れるマスタ点検データを用いて形成された判別面でマスタ点検データ自身の分離性を評価
したグラフと表を示すものである。また、(b)では、そのMのマスタ点検データを用い
て形成された判別面を用いてBで示される点検データを評価した場合に、点検データが分
離可能であるか否かをグラフと表で示すものである。
図20(a)において、Mのマスタ点検データでは分離性が高く、その的中率も100
%となっている。一方、(b)では、的中率が58%と、図19(b)に示されるケース
に比較してほぼ同等であり、また、図18(b)に示されるケースに比較すると大幅に向
上している。このことから、このマスタ点検データによって形成される判別面を直接用い
た場合(図20(b))に対して、マスタ点検データを用いて学習用点検データを修正し
て修正学習用点検データを生成してから、その修正学習用点検データを用いて点検データ
を評価する場合(図19(b))ではほぼ同等の分離性が得られることが理解される。
【0068】
次に、図21を参照しながら、別の地域等で取得されたマスタ点検データを用いて学習
用点検データを修正して修正学習用点検データを生成し、その修正学習用点検データを用
いて点検データを評価する場合について、分離性を向上させることができるか否かについ
て説明を追加する。
図21は、図17(d)に示されるケースの評価結果を示すものである。すなわち、図
21(a)では、図17(d)においてXとして示される学習用点検データをそのまま用
いて判別面を形成して、そのXとして示される学習用点検データの分離性について評価し
た結果をグラフと表に示すものである。また、(b)では、Xの学習用点検データを用い
て形成された判別面を用いてYで示される点検データを評価した場合に、点検データが分
離可能であるか否かをグラフと表で示すものである。これらのデータを取得した箇所は、
図中にH路線と記載されるとおり、いずれも図18に示される箇所とは異なる箇所で得ら
れたデータに基づくものである。
図21(b)においては、Xの学習用点検データ、すなわち、マスタ点検データを用い
ることなく、そのままの学習用点検データを用いて形成された判別面を用いてYの点検デ
ータを評価した結果を示すが、先の的中率は、78%とかなり高い値を示している。従っ
て、図18で示した結果とは異なり、本H路線では、未修正データの判別面を用いた場合
でも同じ箇所でのデータ(点検データ)を評価することが可能であることが理解される。
【0069】
次に、図22を参照しながら、Mのマスタ点検データを用いてXの学習用点検データを
修正してX とし、それを用いて同じ箇所で取得されたYの点検データを評価した結果を
説明する。図22(a)では、図17(e)においてXとして示される学習用点検データ
を、このXを取得した地域等とは異なる地域等で取得したMのマスタ点検データを用いて
形成された判別面を用いて修正して、X の修正学習用点検データを生成して、そのX
の分離性を評価したグラフと表を示すものである。また、(b)では、そのX の修正学
習用点検データを用いて形成された判別面を用いてYで示される点検データを評価した場
合に、点検データが分離可能であるか否かをグラフと表で示すものである。
図22(a)において、修正済のX では、図21(a)に示される修正前の場合に比
較して分離が進み、その的中率も99%と高い値を示している。一方、(b)においても
、高かった的中率が更に90%と向上しており、この修正学習用点検データによって形成
される判別面を用いる場合には、取得した地域等が異なる点検データを分離することがで
きるものと理解される。
【0070】
さらに、図23を参照しながら、Mのマスタ点検データを直接用いてYの点検データを
(27) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050評価した結果について説明する。図23(a)では、図17(f)においてMとして示さ
れるマスタ点検データを用いて形成された判別面でマスタ点検データ自身の分離性を評価
したグラフと表を示すものである。また、(b)では、そのMのマスタ点検データを用い
て形成された判別面を用いてYで示される点検データを評価した場合に、点検データが分
離可能であるか否かをグラフと表で示すものである。
図23(a)において、Mのマスタ点検データでは分離性が高く、その的中率も100
%となっている。一方、(b)では、的中率が86%と、図21(b)に示されるケース
に比較すると向上しているのが認められるが、図22(b)に示されるケースに比較する
と若干低下していることが理解される。
このことから、このマスタ点検データによって形成される判別面を直接用いた場合(図
23(b))よりも、マスタ点検データを用いて学習用点検データを修正して修正学習用
点検データを生成してから、その修正学習用点検データを用いて点検データを評価する場
合(図22(b))の方がより高い分離性が得られることが理解される。
すなわち、マスタ点検データを用いてそのデータが取得された地域等以外の地域等にお
いて取得された学習用点検データを修正して修正学習用点検データを生成することによれ
ば、その修正学習用点検データを、あたかもその地域等のマスタ点検データとして取り扱
うことで、他地域等で取得されたマスタ点検データを用いるよりもより優れた効果、すな
わち、点検データの高い分離性を発揮させることが可能であり、健全性劣化評価をより精
度高く実施することが可能である。
本実施の形態に係る健全性劣化評価システムを用いることで、他地域等で取得されたマ
スタ点検データを用いて、当該地域のマスタ点検データを生成することが可能となり、数
少ないマスタ点検データの利用局面が増えることで、多数の地域において、これまでノイ
ズを含んで利用が抑制されていた過去の点検データ(学習用点検データ)を修正学習用点
検データとして活用することが可能となり、健全性劣化評価の精度の飛躍的な向上とコス
ト削減を同時に実現することができるという優れた効果を発揮することができるのである。【0071】
以上説明したとおり、本実施の形態に係る健全性劣化評価システムにおいては、過去に
蓄積された点検データが熟練していない点検技術者による判断を含んでいることで、ノイ
ズとなってしまい、そのままその蓄積された点検データを学習データとして、判別面を構
築するには精度上問題が生じてしまうような場合に、ノイズを含む点検データを修正する
ことで、学習データの精度を向上させつつ、点検データの評価精度を向上させることがで
きる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
自治体をはじめとして道路、トンネル、ダム、高層ビル、鉄塔などを管理する管理団体
、検査団体あるいは設計会社、建設会社、コンサルティング会社など建築構造物、土木構
造物あるいは災害危険箇所に関係するあらゆる団体、企業において、構造物の建設から構
造物や危険箇所の補修計画の立案、補修工事の施工後の管理まで幅広い用途がある。また
、教育機関などにおいて構造物における事故や災害危険箇所における事故や災害の未然防
止や避難訓練用の教材としても活用が見込まれる。さらに、建設・土木事業を営む企業に
おいては、補修工事事業のニーズ掘り起こしや事業提案のためのツール、あるいは公的機
関との連携を図るための共有ツールとして活用が可能であり、企業の補修工事技術に関す
る研究開発や設計事業などの用途にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】SVMの基本的概念を模式的に示す図である。
【図2】SVMによる点検結果評価の基本的な概念を表現した2次元イメージ図である。
【図3】本実施の形態に係る健全性劣化評価システムにおける点検対象物の健全性劣化の
評価において、SVMを用いて点検対象物の補修有無を分離させた場合の2次元イメージ
(28) JP 4446035 B2 2010年4月7日1020304050図である。
【図4】表1に示される1985年から1999年までのはり上点検データ結果及び補修履歴(1,
152データ)を用いて、f(x)の値で区切って各範囲におけるデータの個数および補修
率の関係を図で示したものである。
【図5】(a)は、1985年〜1995年のはり上点検データを学習用点検データとしてSVM
を用いて判別面を形成してf(x)を演算し、図4と同様にf(x)の値で区切って各範
囲におけるデータの個数および補修率の関係を図で示したものであり、(b)は、(a)
の判別面を用いて、1999年のはり上点検データを入力してf(x)を演算し、図4と同様
にf(x)の値で区切って各範囲におけるデータの個数および補修率の関係を図で示した
ものである。
【図6】本発明の実施の形態に係る健全性劣化評価システムの構成図である。
【図7】(a)は、本実施の形態に係る学習用点検総合データの構成を示す概念図、(b
)は同じく修正学習用点検総合データの構成を示す概念図、(c)は同じく点検総合デー
タの構成を示す概念図である。
【図8】本実施例1に係る健全性劣化評価システムを用いた修正学習用点検データを生成
するための方法を示すフローチャートである。
【図9】本実施例2に係る健全性劣化評価システムを用いた修正学習用点検データを生成
するための方法を示すフローチャートである。
【図10】本実施例3に係る健全性劣化評価システムを用いた修正学習用点検データを生
成するための方法を示すフローチャートである。
【図11】本実施例4に係る健全性劣化評価システムを用いて学習用点検総合データある
いは修正学習用点検総合データの精度を確認するための方法を示すフローチャートである。【図12】本実施の形態に係る健全性劣化評価システムの点検データ評価部によって、先
の実施例1で説明した修正学習用点検総合データを用いてデータ分離性の評価を実施する
際の出力結果を示すものである。
【図13】本実施の形態に係る健全性劣化評価システムの点検データ評価部によって、先
の実施例2で説明した修正学習用点検総合データを用いたデータ分離性の評価を実施する
際の出力結果を示すものである。
【図14】本実施例4に係る健全性劣化評価システムを用いて、先の実施例3で説明した
修正学習用点検総合データでデータ分離性の評価を実施する際の出力結果を示すものであ
る。
【図15】本実施例5に係る健全性劣化評価システムを用いて点検で得られた点検総合デ
ータを評価するための方法を示すフローチャートである。
【図16】データの分離性を評価する際の出力結果についてデータ例を用いて示したもの
である。
【図17】(a)乃至(f)は、それぞれ学習用点検データ41あるいは修正学習用点検
データ44を用いて点検データ47を評価する工程を模式的に表現する概念図である。
【図18】(a)は、図17(a)においてAとして示される学習用点検データをそのま
ま用いて判別面を形成して、そのAとして示される学習用点検データの分離性について評
価した結果をグラフと表に示すものであり、(b)は、Aの学習用点検データを用いて形
成された判別面を用いてBで示される点検データを評価した場合に、点検データが分離可
能であるか否かをグラフと表で示すものである。
【図19】(a)は、図17(b)においてAとして示される学習用点検データを、Mの
マスタ点検データを用いて形成された判別面を用いて修正して、A の修正学習用点検デ
ータを生成して、そのA の分離性を評価したグラフと表を示すものであり、(b)は、
そのA の修正学習用点検データを用いて形成された判別面を用いてBで示される点検デ
ータを評価した場合に、点検データが分離可能であるか否かをグラフと表で示すものであ
る。
【図20】(a)は、図17(c)においてMとして示されるマスタ点検データを用いて
(29) JP 4446035 B2 2010年4月7日102030形成された判別面でマスタ点検データ自身の分離性を評価したグラフと表を示すものであ
り、(b)は、そのMのマスタ点検データを用いて形成された判別面を用いてBで示され
る点検データを評価した場合に、点検データが分離可能であるか否かをグラフと表で示す
ものである。
【図21】(a)は、図17(d)においてXとして示される学習用点検データをそのま
ま用いて判別面を形成して、そのXとして示される学習用点検データの分離性について評
価した結果をグラフと表に示すものであり、(b)は、Xの学習用点検データを用いて形
成された判別面を用いてYで示される点検データを評価した場合に、点検データが分離可
能であるか否かをグラフと表で示すものである。
【図22】(a)は、図17(e)においてXとして示される学習用点検データを、この
Xを取得した地域等とは異なる地域等で取得したMのマスタ点検データを用いて形成され
た判別面を用いて修正して、X の修正学習用点検データを生成して、そのX の分離性
を評価したグラフと表を示すものであり、(b)は、そのX の修正学習用点検データを
用いて形成された判別面を用いてYで示される点検データを評価した場合に、点検データ
が分離可能であるか否かをグラフと表で示すものである。
【図23】(a)では、図17(f)においてMとして示されるマスタ点検データを用い
て形成された判別面でマスタ点検データ自身の分離性を評価したグラフと表を示すもので
あり、(b)は、そのMのマスタ点検データを用いて形成された判別面を用いてYで示さ
れる点検データを評価した場合に、点検データが分離可能であるか否かをグラフと表で示
すものである。
【符号の説明】
【0074】
1...入力部 2...演算部 3...モード選択部 4...学習用点検データ分析部 5...学習用
点検データ修正部 6...学習用点検データ試験部 7...点検データ評価部 8...判別面演
算部 9...判別面距離演算部 10...出力部 11a...データ 11b...解析条件 12
...データ修正用点検データベース 13...学習用点検総合データ 14...マスタ点検デー
タ 15...テスト点検データ 16...点検データベース 17...点検総合データ 18...
修正学習用点検データベース 19...修正学習用点検総合データ 20...判別面距離デー
タベース 21...判別面距離データ 22...学習用判別面距離データ 23...試験用判別
面距離データ 24...解析条件データベース 25...解析条件データ 26...パラメータ
データ 27...解析関数データベース 28...SVMデータ 29...矛盾データ検索関数
データ 30...分離性評価関数データ 31...判別面データベース 32...判別面データ
33...マスタ判別面データ 34...分離性評価データベース 35...分離性評価データ
40...要因データ 41...学習用点検データ 42...教師値データ 43...要因データ
44...修正学習用点検データ 45...修正教師値データ 46...要因データ 47...
点検データ 48...補修の有無データ
(30) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図1】
【図2】
(31) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図3】
【図4】
(32) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図5】 (33)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図6】 (34)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図7】
(35) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図8】
(36) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図9】
(37) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図10】
(38) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図11】
(39) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図12】
【図13】
(40) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図14】
(41) JP 4446035 B2 2010年4月7日
【図15】 (42)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図16】 (43)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図17】 (44)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図18】 (45)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図19】 (46)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図20】 (47)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図21】 (48)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図22】 (49)JP 4446035 B2 2010.4.7
【図23】
(50) JP 4446035 B2 2010年4月7日10203040
フロントページの続き
(73)特許権者 592000886
八千代エンジニヤリング株式会社
東京都新宿区西落合2丁目18番12号
(74)代理人 100111132
弁理士 井上 浩
(72)発明者 古川 浩平
山口県宇部市常盤台2丁目16番1号 山口大学工学部内
(72)発明者 篠崎 嗣浩
山口県宇部市常盤台2丁目16番1号 山口大学工学部内
(72)発明者 大石 博之
福岡県福岡市中央区渡辺通1丁目1番1号 西日本技術開発株式会社内
(72)発明者 円田 竜太
福岡県福岡市中央区渡辺通1丁目1番1号 西日本技術開発株式会社内
(72)発明者 松本 幸太郎
香川県高松市牟礼町牟礼1007番地3 株式会社四電技術コンサルタント内
(72)発明者 荒木 義則
広島県広島市南区出汐2丁目3番30号 中電技術コンサルタント株式会社内
(72)発明者 佐藤 丈晴
岡山県岡山市津島京町3丁目1番21号 株式会社エイトコンサルタント内
(72)発明者 菊池 英明
東京都新宿区西落合2丁目18番12号 八千代エンジニヤリング株式会社内
審査官 宮地 匡人
(56)参考文献 特許第3975406(JP,B2)
特開2007−219769(JP,A)
特表2003−500766(JP,A)
特開2005−092253(JP,A)
特開2005−198970(JP,A)
特開2007−249955(JP,A)
特開2005−181928(JP,A)
垂水清治、その外3名,サポートベクタマシンの学習における教師データのフィルタリング手法
,第10回インテリジェント・システム・シンポジウム講演論文集,2000年10月28日,
P.225‐228
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
G06Q 50/00
G06F 19/00
JSTPlus(JDreamII)
JST7580(JDreamII)

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