土木学会論文集の完全版下投稿用


論文 河川技術論文集,第30巻,2024年6月
耳川水系ダム通砂による
アユ産卵環境への効果の推定
EXPECTED IMPACT OF SEDIMENT SLUICING AT DAMS ON THE AYU
(Plecoglossus altivelis)'S SPAWNING ENVIRONMEAT FOR MANAGEMENT PLAN OF
SEDIMENT SLUICING AT DAMS IN THE MIMIKAWA RIVER BASIN
井原高志1・齋藤剛2・大塚海斗3・山本秀平4・森遼太郎5・鬼倉徳雄6
Takashi IHARA, Tsuyoshi SAITO, Kaito OTSUKA, Shuhei YAMAMOTO, Ryotaro MORI and
Norio ONIKURA
1非会員 農修 九州大学附属水産実験所(〒811-3304 福岡県福津市津屋崎4-46-24)
西日本技術開発(株)環境部(〒810-0004 福岡県福岡市中央区渡辺通1丁目1番1号)
2非会員 学士 西日本技術開発(株)環境部(〒810-0004 福岡県福岡市中央区渡辺通1丁目1番1号)
3非会員 工修 九州電力(株) 土木建築技術センター(〒810-0004 福岡県福岡市中央区渡辺通2-11-82)
4 非会員 工修 九州電力(株) 耳川水力整備事務所(〒883-8533 宮崎県日向市北町 1-112)
5会員 工修 九州電力(株) 耳川水力整備事務所(〒883-8533 宮崎県日向市北町1-112)
6非会員 農博 九州大学附属水産実験所(〒811-3304 福岡県福津市津屋崎4-46-24)
宮崎県耳川水系では,2005年台風14号による未曾有の災害を契機に,河川管理者である宮崎
県が,耳川水系総合土砂管理計画を2011年10月に策定した.耳川水系内にダムと発電所を有す
る九州電力(株)は,耳川水系総合土砂管理計画の中核的な事業として,ダム通砂(上流からダムに
流れ込む土砂をダム下流に通過させる試み)を実施している.ダム通砂は,ダム下流の河床材料
の粒度組成が変化し,生物の生息場の変化につながることが想定される.通砂の影響や効果を
把握することは,今後の総合土砂管理を検討する上で有益となる.本研究では,環境改善が期
待されるアユ産卵環境に着目し,現地調査データから産卵ポテンシャル予測モデルを構築し,
物理環境条件からそのポテンシャルを推定し,ダム通砂によるアユ産卵環境への影響や効果を
推定した.その結果,ダムに近い上流側からアユ産卵環境の改善が進んでいると推定された.
Key Words : Plecoglossus altivelis, spawning environment, sediment sluicing, GLM, ROC analysis,
1. はじめに
九州南東部に位置する宮崎県耳川水系では,2005年の
台風14号により,河川やダム貯水池に大量の土砂が流れ
込み,流域市町村で甚大な浸水被害が発生した.この台
風14号による未曾有の災害を契機に,河川管理者である
宮崎県は,耳川水系総合土砂管理計画を2011年10月に策
定した1)
.耳川水系内に7つのダムと発電所を有する九州
電力(株)は,耳川水系総合土砂管理計画の中核的な事業と
して,ダム通砂を実施している2)
.台風による大規模出
水時に貯水池の水位を低下させ,河川状態をつくりだす
ことにより,上流からダムに流れ込む土砂をダム下流に
通過させる試みである3)
.2017年から西郷ダムと大内原
ダムの2ダムで,2021年からは上流の山須原ダムを加え
た3ダムで通砂を実施している2).ダム通砂を実施した場合,河川環境の主要な変化の一
つとして,ダム下流の河床材料の粒度組成が変化し,生
物の生息場の変化につながることが想定される4)
.既往
研究5)
では,通砂に伴う生態系変遷の指標種としてアユ
が挙げられているが,ダム通砂の影響や効果はまだ示さ
れていない.通砂の影響や効果を把握することは,今後
の総合土砂管理を検討する上で極めて有益となる.本研
究では,環境改善が期待されるアユ産卵環境に着目し,
耳川水系の現地調査データを使って産卵ポテンシャル予
測モデルを構築し,物理環境条件からそのポテンシャル
を推定し,ダム通砂によるアユ産卵環境への影響や効果
を推定することを目的とした.
1現地調査によるデータの取得
2調査箇所(瀬)の類似性と
箇所区分間の物理環境の比較
3アユ産卵ポテンシャル
予測モデルの構築(GLM)
4検証用現地調査データでの
モデルの精度検証(ROC分析)
5通砂運用前後のアユ産卵
ポテンシャルを瀬ごとに予測
図-1 予測の手順(フロー)
2.方法
(1) 予測の手順
予測の手順を図-1に示す.現地調査で取得したアユ産
卵場の物理環境データを用いて,調査箇所ごとの物理環
境条件の類似性を調べるとともに,産卵の有/無と物理
環境条件との関係性を調べた.次に,アユ産卵ポテン
シャル予測モデルを構築し,検証用データを用いてROC
分析6), 7)
にてAUC(曲線下面積, Area Under the ROC Curve)
を算出し,予測モデルの精度を検証した.最後に,精度
が高いと判断されたモデルを用いて,現地調査で取得し
た物理環境データを挿入することで,ダム通砂運用前後
におけるアユ産卵ポテンシャルを予測し,その評価を
行った.
(2) 研究対象地
現地調査実施箇所は,耳川本川の大内原ダム(河口か
らの距離:23k600)より下流の範囲とし,既往調査3)でア
ユの産卵が経年的に確認されている3k800-14k800(坪谷川
合流点下流まで)の区間に存在する瀬を対象(図-2)とした.
(3) 現地調査
現地調査は,2012年から2022年までの間,年1回,耳
川のアユ産卵盛期とされる11月3)
に,23〜30箇所で実施
した.まず,河床に付着する産着卵を目視で確認するこ
とで,アユの産卵の有/無を確認した.次に,産卵調査
を実施した瀬の中の最大流速・最大水深(瀬の中の流心
部の各3ポイントで計測してその平均値を最大流速・最
大水深と定義)および面積格子法(日本河川協会, 1997)に
よる粒度分布(礫分含有率)を計測した.有機物量につい
ては,既往調査3)
と同様に,瀬内で代表的な石礫を5個採
取し,それぞれから2c×ばつ2cmの面積の付着藻類をブラシ
で採取し,JIS K 0102 14.5_(2019)に準拠して強熱減量分
析を実施した.
ダム通砂運用が始まる2017年よりも前のデータでモデ
ル構築とその精度検証を行う必要があった.また,モデ
大内原ダム
西郷ダム
山須原ダム
七ッ山川
坪谷川
日向灘
耳川5 km:河川調査対象範囲
:河川
調査対象範囲
:ダム堤体
3k800
14k800
23k600
36k200
46k000
図-2 調査箇所
ルの精度を上げるには,より多くの構築用データを用い
ることが望ましいと判断した.そのため,2012年から
2015年までの4年間の延べ109箇所のデータをモデル構築
に使用し,2016年の26箇所を精度検証用データとして取
り扱った.そして,その後も継続的に産卵と物理環境の
調査を実施したものの,2017年以降のデータは通砂の影
響を受けている可能性があるため,物理環境のデータは
モデルを使った産卵ポテンシャルの予測用とし.産卵の
有/無はモデル構築と精度検証には使用しなかった.
(4) 調査箇所の類似性(クラスター分析)と物理環境条件
ダム通砂運用前の2012年から2015年における調査箇所
の環境の特徴を把握するために,物理環境データを用い
て,Bray-Curtis指数を算出し,クラスター分析(群平均
法)を行った.また,クラスター分析で類型化された調
査箇所のグループ間の物理環境について,Mann-Whitney
のU検定を用いて比較した.なお,これらの解析には,
「R ver.4.2.2(https://www.r-project.org/)」を用いた.
(5) アユ産卵ポテンシャル予測モデルの構築
アユ産卵ポテンシャルの予測のために,産卵の有/無
を1/0変数に置き換えて目的変数,物理環境データを説
明変数として,一般化線形モデル(GLM)を構築した.そ
の際,目的変数は二項分布に従うと仮定した.
説明変数の総当たり全てのモデルを構築し,赤池情報
量規準(AIC, Akaike 1973)8)
を算出した.さらに,モデル
の推定値を連続変数,産卵の有/無を二値変数とした
ROC分析を行い,AUCを算出するとともに,アユ産卵
の有/無の閾値を算出した.なお,これらの解析には,
「R ver.4.2.2(https://www.r-project.org/)」を用いた.
(6) アユ産卵ポテンシャル予測モデルの精度検証
構築したモデルの精度検証のために,ダム通砂運用前
の2016年に現地調査で取得した検証用の物理環境データ
を,(5)で構築したモデルに当てはめて,各調査箇所の産
卵ポテンシャルを計算した.これらの計算結果を連続変 283383275356624774218229803777870007739522812922649791953854943891369046755637548964430105265058723242557886178764269083472024190324366693986800964945597135588420514952659979064085868463073703146003
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4
グループA
57箇所中32箇所で産卵あり
グループB
52箇所全てで産卵なしグループB(52箇所)グループA(57箇所)
図-3 クラスター分析に基づく調査箇所の類似性
数,現地調査で取得したアユ産卵の有/無の実測データ
を二値変数としてROC分析を行い,AUCを算出した.
(7) ダム通砂運用前後のアユ産卵ポテンシャルの予測
構築した産卵ポテンシャル予測モデルを用いて,ダム
通砂運用前の2012年から2016年及びダム通砂運用後の
2017年から2022年の延べ286箇所について,アユ産卵ポ
テンシャルを予測した.なお,2017年からは西郷ダムと
大内原ダムの2ダムでの通砂を,2021年からは上流の山
須原ダムを加えた3ダムでの通砂を実施している.ここ
では,2017年以降をダム通砂運用後とし,2019年および
2021年は,ダム通砂運用が途中で中止されているが,前
年までの通砂の影響を考慮し,ダム通砂運用後として位
置付けた.
3.結果
(1) アユの産卵と物理環境
2015年までの延べ109箇所で現地調査を実施した結果,
32箇所でアユの産卵が確認された(2012年:7箇所,2013
年:7箇所,2014年:7箇所,2015年:11箇所).
調査箇所の環境の特徴を把握するため,物理環境デー
タを用いてクラスター分析を行ったところ(図-3),109箇
所は概ね2グループに区分された(Bray-Curtis指数による
相対距離0.4を基準とした).グループA は57箇所が含ま00.511.522.53A B
最大流速
(m/s)00.511.522.53A B
最大水深(m)ba(a>b, p<0.05)020406080100A B礫分含有率(%)ba020406080100A B
河床軟度(貫入深mm)ba01020304050A B
有機物量(mg)ba図-4 調査箇所区分A,B間の物理環境の比較
れ,アユの産卵が確認された32箇所は全てこのグループ
に分類された.グループB は52箇所で,全て産卵が確
認されなかった場所であった.
グループA とB の物理環境を比較したところ(図-4),
最大流速を除く4項目について,有意な差がみられた.
グループA は,最大水深が浅く,礫分含有率が高く,
河床軟度が軟らかく,有機物量が少ない環境であるのに
対し,グループB は,最大水深が深く,礫分含有率が
低く,河床軟度が硬く,有機物量が多い環境であった.
この結果は,アユが産卵場として利用する河床は小礫
を主とした河床材で貫入深が大きい(河床が軟らかい)浮
き石状態で存在する9)
といった生態的な知見と一致した.
(2) 産卵ポテンシャル予測モデルの構築
産卵の有/無を1/0変数に置き換えて目的変数に,最
大流速・最大水深・礫分含有率・河床軟度・有機物量の
5項目を説明変数とし,産卵ポテンシャル予測モデルを
構築したところ(表-1),AICが最も低かったモデルに選
択された変数は,礫分含有率,河床軟度,有機物量で
あった.上位5モデル全てで礫分含有率及び有機物量が,
4モデルで河床軟度が,3モデルで最大流速及び最大水深
が選択された.上位5モデルのAUCはいずれも0.9を超え
ており,モデル構築用データ内での精度は極めて高い6)
と判断された.
河床材料との関係性をみると,上位5モデルにおいて,
河床材料に関わる変数の選択頻度が高く,産卵の有/無
と河床材料との関係性が深いことが判断された.上位5
モデルの精度はいずれも高かったものの,AICが最も低
く,ダム通砂の影響を大きく受けると予想される河床材
料に関わる変数(砂礫分含有率,河床軟度,有機物量)
が多く選択されたModel 1(表-1)を産卵ポテンシャル予測
用とした.なお,Model 1におけるアユ産卵の有/無の
閾値は0.25であった.A B産卵あり 産卵なし
最大流速 - - -
最大水深 浅い 深い ***
礫分含有率 高い 低い ***
河床軟度 柔らかい 硬い ***
有機物量 少ない 多い ***
*:有意水準5%未満 ***:有意水準1%未満P値検定結果全調査箇所を物理環境データの類似性から分類 表-1 アユ産卵ポテンシャル予測モデル(109箇所で構築)に関する統計値
Model AIC ΔAIC wi AUC Intercept (切片) CV (最大流速) WD (最大水深)
CE SE |CE/SE| CE SE |CE/SE| CE SE |CE/SE|
1 45.07 0.00 0.243 0.976 -11.535 3.605 3.200***
2 45.59 0.53 0.187 0.976 -14.462 4.891 2.957*** 1.173 0.984 1.192
3 46.78 1.72 0.103 0.975 -12.792 4.526 2.826*** 0.588 1.116 0.527
4 47.43 2.36 0.075 0.975 -13.889 4.932 2.816*** 1.546 1.351 1.144 -0.633 1.545 0.409
5 48.26 3.19 0.049 0.972 -16.547 5.141 3.218*** 1.578 1.254 1.258 -0.298 1.411 0.211
Null 133.96 88.89 0.000 0.500 -0.878 0.210 4.175 ***
Model AIC ΔAIC wi AUC GR (礫分含有率) RF (河床軟度) IL(有機物量)
CE SE |CE/SE| CE SE |CE/SE| CE SE |CE/SE|
1 45.07 0.00 0.243 0.976 0.139 0.044 3.195*** 0.074 0.046 1.600 -0.163 0.063 2.569*
2 45.59 0.53 0.187 0.976 0.158 0.051 3.092*** 0.065 0.044 1.465 -0.172 0.064 2.675***
3 46.78 1.72 0.103 0.975 0.149 0.050 3.009*** 0.069 0.045 1.510 -0.163 0.063 2.581***
4 47.43 2.36 0.075 0.975 0.151 0.052 2.897*** 0.068 0.046 1.486 -0.176 0.065 2.686***
5 48.26 3.19 0.049 0.972 0.190 0.053 3.584*** -0.150 0.058 2.586***
Null 133.96 88.89 0.000 0.500
CE:係数推定値
SE:係数推定値の標準誤差
|CE/SE|:標準化係数
Significance levels of coefficients (係数の信頼性):***p<0.01, *p<0.05
(3) モデルの精度検証
精度検証用データ(2016年調査分)を使って,対象の実
測値(1/0変数)とModel 1の予測値(連続変数)でROC分析
を行ったところ,AUCが0.938であった.一般に,AUC
が0.9を超えると極めて高い予測精度,0.7を超えると適
度な精度といわれており6)
,アユ産卵の有/無を予測可
能な高い精度のモデルが構築できたと判断できた.
(4) 産卵ポテンシャルと産卵の有無
2012年から2022年に現地調査で取得した物理環境デー
タ(計286箇所)を用いて,各調査箇所のアユの産卵ポテン
シャルを予測した.なお,産卵ポテンシャルが閾値以上
となった調査箇所を産卵可能箇所,閾値未満を産卵不可
箇所と判断した.予測の結果,286箇所のうち129箇所で
産卵可能と予測され,そのうち82箇所では実際に産卵が
確認された.また,157箇所で産卵不可と予測され,そ
のうち実際は産卵していたのは2箇所だけであった.予
測に使用したModel 1は,通砂後においてもアユ産卵の
有/無を高い精度で予測可能と判断できた.
(5) 産卵ポテンシャルのダム通砂運用前後の比較
2012年から2022年の期間で10回以上調査が実施できた
22箇所における,各年の産卵可能箇所数の推移を図-5に
示す.ダム通砂運用前後の産卵可能箇所数を比較したと
ころ,通砂後の数が通砂前よりも有意に多かった(通砂
後平均箇所10.2,通砂前平均箇所6.6,p<0.05).
2012年から2022年の期間で10回以上調査が実施できた
22箇所における,産卵の有/無及び産卵ポテンシャルの
推移および実際の産卵の有無を図-6に示す.潮汐の影響
を受ける調査箇所1(河口からの距離:3k800),淡水域の
最下流である調査箇所2(4k700)および3(4k900)は,通砂
の有無にかかわらず概ね毎年産卵が行われている場所で
あり,産卵ポテンシャルも通砂前から高い予測値が継続
していた.051015202012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵可能箇所数
産卵可能箇所数
通砂前 通砂後
図-5 産卵可能箇所数の推移
他に通砂前から産卵の実績があった調査箇所は,
7(7k000),9(8k000),10(8k200)の3箇所で,通砂前も通砂
後も,産卵ポテンシャル及び実際の産卵実績が不安定で
あった.これらの3箇所は,安定して瀬が形成されてい
る場所であった.いずれの箇所も産卵ポテンシャルが低
い調査年は,礫分含有率が低い値であり,河床材料の年
変化にその産卵が影響される箇所であると考えられる.
なお,通砂前後での変化は認められず,通砂の影響はこ
のエリアにはまだ及んでいないと判断された.そして,
延べ17回の産卵のうち,16回は産卵ポテンシャルが高い
年と場所で産卵が確認されており,モデルの予測の正答
性を示すものと判断できる.
その他については,産卵ポテンシャルが通砂前から
2022年まで低い状態が継続している調査箇所(6,8,18,
21,22),ポテンシャルに変動を伴う箇所(4,5,11〜17,
19,20)に大別されるが,通砂後にポテンシャルが大幅
な減少傾向を示した箇所はなかった.また,低いポテン
シャルの箇所の幾つかについては直線的で幅が狭い河道
であった.そして,変動を伴う箇所のうち,通砂後に産
卵ポテンシャルが大きく上昇している調査箇所(19と20)
が2箇所あり,これらの箇所では2022年の調査で産着卵
も確認されている.調査範囲の中では上流側であり,大
内原ダムからの距離が近い箇所で,通砂によってアユに
適した砂礫が達し始めた可能性が示唆される. 020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所1 (3k800m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所2 (4k700m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所3 (4k900m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所4 (5k000m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所5 (5k300m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所6 (6k800m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所7 (7k000m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所8 (7k300m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所9 (8k000m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所10 (8k200m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所11 (8k300m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所12 (8k400m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所13 (9k100m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所14 (10k000m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所15 (10k700m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所16 (11k000m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所17 (11k600m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所18 (11k800m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所19 (13k200m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所20 (13k600m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所21 (14k000m)
通砂前 通砂後020406080100
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
産卵ポテンシャル(%)調査箇所22 (14k800m)
通砂前 通砂後
図-6 卵の有/無及び産卵ポテンシャルの推移
4.考察と今後の展望
本研究で構築した予測モデルは,アユ産卵の有/無を
高い精度で予測可能であった.また,予測結果より,大
内原ダムより下流の調査箇所(瀬)では,ダム通砂運用後
に,産卵ポテンシャルが低下することはなく,また産卵
不可箇所の一部で産卵ポテンシャルが上昇すると予測さ
れた.この結果は,耳川のダム通砂がアユ産卵場の形成
に対し,正に寄与する可能性を示している.そして,実
際に,通砂運用以前に産卵の実績がない2箇所で,産卵
ポテンシャルの大きな上昇に加えて,2022年には実際に
産着卵が確認されていることが,通砂の効果を裏付けて
いると考えられる.
既往の検討10)
では,ダム通砂における大内原ダム下流
の河床形状及び河床粒度への影響が最も大きく現れる流
量条件は,大内原ダム地点のピーク流量が2,100m3
/s程度
(1/5確率流量)とされている.本研究における調査では,
ダム通砂運用後の2018年に,約2,100m3
/s程度のピーク流
量でのダム通砂を経験している11)
.そして,2022年には
さらに大きな出水での通砂運用も行われている(ピーク
流量:約5,800m3
/s程度)11)
.これらの出水でのダム通砂で,
大内原ダム下流の河床形状及び河床粒度が変化し,結果
として産卵ポテンシャルの上昇と新たな2箇所での産卵
が行われたと推察される.
ただし,1アユ産卵環境の形成には河床地形の変動履
歴が重要な要素となる12)
点,2中規模出水では礫分の移
動距離は2km程度に留まると推定13)
されている点,そし
て,3通砂前と通砂後で出水の規模が異なる点(通砂
前:1,000〜1,700m3
/s程度,通砂後:800〜5,800m3
/s程
度)11)
を考慮すると,ダム通砂よりも出水の規模や履歴
の方が産卵環境の改善に影響した可能性もあり,それら
の効果とダム通砂の効果(産卵環境改善にどの程度寄与
したのか)を切り分けるのは難しいのが現状である.そ
して,ダム通砂運用の目的である土砂をダム下流に通過
させること自体も,出水規模に影響される.それゆえに,
今後,ダムを通過した土砂の量と質について,ダム通砂
運用のケースと通砂を行わなかったケースのシミュレー
ション結果を比較するなど,通砂の効果を裏付ける客観
的なデータを集積したい.
通砂後に産卵ポテンシャルが上昇し,2022年に実際に
産卵が確認された場所が,調査地の中では上流側に位置
し,大内原ダムに近いことにも注目したい(図-7).
上述したように,土砂の移動には時間を要するため,
改善効果は上流側から認められると予想できる.今回の
結果は,ダム下流域において,よりダムに近いエリアか
ら通砂による場の改善が進んでいることを裏付けるもの
といえる.
産卵あり
産卵なし
閾値
通砂前後とも
高いポテンシャル
以前から産卵場
通砂前後とも
高いポテンシャル
以前から産卵場
通砂前後とも
低いポテンシャル・不安定
産卵なし
通砂前後とも
低いポテンシャル・不安定
産卵なし
通砂後
高いポテンシャルに変化
新しい産卵場
通砂前後とも
低いポテンシャル・不安定
産卵なし
感潮域上端
大内原ダム4k6k8k10k12k14k
図-7 耳川4〜15kにおける通砂前後の
アユ産卵ポテンシャルと産卵場の概略図
今後,大内原ダムより下流域のアユ産卵環境が徐々に
下流側へと広がっていくことが期待される.今後も,継
続的にモニタリング調査を行う必要があろう.
本研究では,ダム通砂による河床材料の変化に着目し,
ダム通砂運用前に取得したデータからアユ産卵ポテン
シャル予測モデルを構築し,アユ産卵ポテンシャルの通
砂前後の予測結果から,ダム通砂によるアユ産卵環境へ
の影響や効果を考察している.モニタリング調査の継続
や土砂動態を加味したダム通砂の効果の検証等は今後の
課題であるが,ダム通砂による生物の影響予測評価手法
のモデルケースとして,また河川整備や河川管理におけ
る評価手法・保全目標の設定等に本研究が少しでも寄与
することを期待する.
謝辞:現地調査の実施及びデータ分析にあたり,ご指
導・ご協力を頂いた流域関係漁協,電力中央研究所,(株)
ベントスの関係各位に深く感謝の意を表します.
参考文献
1) 耳川流域における総合土砂管理について. 宮崎県
HP(http://www.pref.miyazaki.lg.jp/kasen/shakaikiban/kasen/page00
135.html). 2024. 1月閲覧.
2) 耳川水系ダム通砂関連情報. 九州電力(株)宮崎支店
HP(https://www.kyuden.co.jp/company_outline_branch_miyazaki_
initiative_mimikawa.html). 2024. 1月閲覧.
3) 川上馨詞, 吉村健, 新屋裕生:耳川水系ダム通砂に向けた河
川環境調査結果に基づくモニタリング計画の概要, 河川技術
論文集, 第22巻, pp.115-118,2016.6月.
4) 川上馨詞, 吉村健, 新屋裕生:耳川水系ダム通砂基本操作策
定に係る河川環境面からの検討アプローチ, 電力土木,
No.381, pp.31-35, 2016.1月.
5) 大中臨, 赤松良久, 佐藤領星, 山口皓平, 小室隆, 乾隆帝:耳
川におけるダム通砂が土砂動態及びアユ現存量に及ぼす影響
の検討, 土木学会論文集B1(水工学), 第75巻2号, pp.409-414,
2019.8月.
6) Metz C. E.:Basic principle of ROC analysis, Seminars in Nuclear
Medicine, No.8(4), pp.283-298,1978.10月.
7) Akobeng A. K.:Understanding diagnostic tests 3: Receiver
operating characteristic curves, Acta Paediatrica, No.96, pp.644-
647,2007.5月.
8) Akaike, H.,:Information theory and an extension of the maximum
likelihood principle", Proceedings of the 2nd International
Symposium on Information Theory, Petrov, B. N., and Caski, F.
(eds.), Akadimiai Kiado, Budapest: 267-281, 1973.
9) 藤田朝彦, 横山良太, 加藤康充, 井上修, 原田守啓:アユの産
卵環境はどこまでわかったのか, 応用生態工学, 第24巻2号,
pp.217-234,2022.3月.
10) 井原高志, 川上馨詞, 坂田賢亮, 鬼倉徳雄:耳川水系ダム通
砂実施計画の策定に向けたダム通砂による魚類への影響予測,
河川技術論文集, 第23巻, pp.663-668, 2017.6月.
11) 耳川流域における総合土砂管理について(第12回耳川水系総
合 土 砂 管 理 に 関 す る 評 価 ・ 改 善 委 員 会 ). 宮 崎 県
HP(https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kasen/kurashi/shakaikiban/page
00135.html). 2024. 1月閲覧.
12) 兵藤誠, 泉公祐, 竹門康弘, 角哲也:天竜川におけるアユ産
卵床の河床地形特性と変動履歴の関係, 河川技術論文集, 第
20巻, pp.67-72, 2014.6月.
13) 角哲也, 中島佳奈, 竹門康弘, 鈴木崇正:アユの産卵に適し
た河床形態に関する研究, 京都大学防災研究所年報, 第54巻,
pp.719-725,2010.6月.
(2024年4月3日受付)

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