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鳥インフルエンザの最近の動向
2022年から2023年にかけて、国内で鳥インフルエンザが猛威を振るっています。野鳥やその糞便等で28道県236件、家きんで26道県83件、飼養鳥で6都県10件のウイルス検出事例が発生しています。マスコミでも養鶏場での殺処分のニュースや鶏卵の価格高騰のニュースをしばしば目にします。(2023年4月7日現在)
出典:農林水産省 令和4年度 鳥インフルエンザに関する情報について
鳥インフルエンザウイルスは、鳥類に感染するA型インフルエンザの総称です。
一方、報道される高病原性鳥インフルエンザはOIE(国際獣疫事務局)の診断基準によるニワトリの致死率、ウイルスの表面のタンパク質によって分類される型であるH5またはH7の亜型のウイルスの特定部位のアミノ酸配列により決まります。高病原性鳥インフルエンザウイルスが見つかった場合、ウイルスの拡散を防ぐためにその農場の家きんは全て殺処分となります。
鳥インフルエンザは水鳥を自然宿主としており、水鳥(特にマガモ属)は高病原性のウイルスに罹患しても症状を示さない場合が多いです。ウイルスは古くから水鳥を中心に自然界に存在していましたが、家きん等の被害はまれであったと考えられます。では、ニワトリを死亡させる高病原性のウイルスはどうして発生したのでしょうか。野鳥が保有していたウイルスが養鶏場などに侵入すると、狭い鶏舎の中では容易に感染の連鎖がおこります。ニワトリ等の間で感染を繰り返すうちに変異し高病原性になると考えられます。
そうしたなか、2004年1月に国内では79年ぶりに高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されていました。山口県、大分県、京都府の養鶏場で発生し、野鳥ではハシブトガラス9羽で確認されました。当時、韓国や中国、東南アジアでの発生がありましたが、国内で死亡した野鳥が留鳥であるハシブトガラスであることから、国内にウイルスが入ってきた経路は不明でした。
その後、2007年1月から2月にかけて、また2010年度に再び高病原性鳥インフルエンザの発生がありました。特に2010年度の発生では、9県で約183万羽が殺処分され、16道府県で15種60羽からウイルスが検出されています。2010年度に分離されたウイルスは2009年から2010年にかけてモンゴルや中央アジア、韓国で確認されたウイルスと近縁でしたが、2004年、2007年に国内で確認されたものとは異なっていました。また、2010年10月に北海道の稚内大沼で野鳥の糞便よりウイルスが確認されており、渡り鳥との関連が示唆されました。
野鳥で見ると国内で二桁以上の件数が確認された流行は、2003年〜2004年、2010年〜2011年、2014年〜2015年と数年おきでした。それが2016年度、2017年度と2年続けて発生し、今年の発生は2020年から3年続けての流行です。人のインフルエンザ発症の大流行が毎年ではなく数年おきに起きるのは、抗体を持つ人が一定の割合いるから【感染が起こっても大流行には至らないため】と考えられます。鳥インフルエンザも、数年おきの流行だったものが連続して起きているのは、ウイルスの変異が頻繁に起きているのか、海外の別の地域にあった別系統のウイルスが侵入して【抗原特異性を持つ抗体が反応しないためである】可能性があります。
また野鳥で見ると、高病原性鳥インフルエンザに感染した種にも変化が見られます。
過去の大規模発生を比較すると、2010年〜2011年のときはオシドリやスズガモ属での感染確認が多かったのですがここ3シーズンではスズガモ1例のみです。一方、ハシブトガラスは昨年今年と確認が相次いでおり、オジロワシでの確認も増えています。マガモ属は感染しても症状が現れず、確認数以上にウイルスを持った個体がいて、それを食べた猛禽類やカラス類が感染したものと考えられます。また、ナベヅルやマナヅルでの感染が多いのも今シーズンの特徴です。
確認される種類が変化していることからもウイルスの変異が起きていることが考えられます。
過去の野鳥の高病原性鳥インフルエンザ感染確認数との比較
[画像:過去の野鳥の高病原性鳥インフルエンザ感染確認数との比較 表]
農林水産省 2021年〜2022年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生にかかる疫学調査報告書に加筆
注)今シーズンの数値は、令和5年4月7日現在 疑い事例3件を含む
最近、高病原性鳥インフルエンザの発生が、全世界的に起きています。野鳥でも2021年にイスラエルで約8000羽のクロヅルが死亡しました。2022年には東欧で2400羽以上のハイイロペリカンが、また2022年の繁殖期には北大西洋の海鳥コロニーでシロカツオドリ、サンドイッチアジサシ、アジサシ、キタオオトウゾクカモメが死亡しました。また。11月以降ペルーとチリでペルーペリカン約17,000羽を含む発生が起きています。
[画像:過去の野鳥の高病原性鳥インフルエンザ感染確認数との比較 表]
出典:農林水産省 高病原性鳥インフルエンザの発生状況(2022年7月以降)(PDF)
現在は、冬の間に発生した高病原性ウイルスを保持したままカモ類等が北の繁殖地に持ち込み、そこで遺伝子再集合が起こり変異が発生し、それが次のシーズンに国内に持ち込まれたり、別のフライウェイに侵入したりしていると考えられます。
世界各地で確認されている高病原性鳥インフルエンザウイルスにどのような関連があるかは、今後の解析や今シーズンの疫学調査報告書を待たなければわかりませんが、今や高病原性鳥インフルエンザは世界的な問題になりつつあります。今シーズンに他の地域で猛威を振るったウイルスが変異し、次のシーズンには国内に侵入することも考えられます。畜産業だけでなく絶滅危惧種も直面する問題にもなりつつあります。
[画像:令和2年度における高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書より]
’20〜’21シーズンにおけるHPAI(H5N8亜型)のユーラシア全域における発生(経路等は推測を含む)
令和2年度における高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書より
世界のフライウェイ