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2024年 | プレスリリース・研究成果

免疫制御に関わる生理活性脂質リゾPS受容体の立体構造とシグナル選択性の解明 〜Gα12とGα13のシグナル識別に関わる構造基盤〜

2024年9月17日 11:00 | プレスリリース・研究成果

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科 分子細胞生化学分野
教授 井上飛鳥
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • リゾホスファチジルセリン(以下、リゾPS)(注1)は、免疫応答を抑制する作用を有し、炎症性疾患のクローン病の発症への関与が知られている生理活性脂質です。
  • リゾPSが結合したP2Y10受容体(注2)およびGα13タンパク質(注3)からなるシグナル複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡解析(注4)を用いて明らかにしました。
  • リゾPSがP2Y10受容体に特異的に認識される構造基盤を解明したことで、シグナル伝達を選択的に引き起こす薬の開発への貢献が期待されます。

【概要】

リゾPSは生理活性リゾリン脂質の1種であり、P2Y10受容体やGPR174受容体を含むGタンパク質共役型受容体(GPCR)(注5)を介して様々な細胞応答を引き起こします。

今回、東北大学大学院薬学研究科の鎌倉希大学院生、井上飛鳥教授、ハルビン工業大学のYuanzheng He教授らの研究グループは、リゾPSが結合したP2Y10受容体およびGα13タンパク質からのなるシグナル複合体の立体構造を決定しました。このP2Y10受容体(Gα12タンパク質とGα13タンパク質の両方と相互作用する)の構造を、研究グループが以前に解明したGPR174受容体(Gα13タンパク質に指向性を有する)の構造と比較し、さらにP2Y10受容体の変異体実験を行うことで、P2Y10受容体がGα12タンパク質とGα13タンパク質の両者を結合する構造基盤を明らかにしました。

以上の研究成果は、P2Y10受容体を標的とした薬剤の開発に貢献するとともに、シグナル伝達の選択性の理解に役立つことが期待されます。

本研究の成果は、日本時間2024年9月12日にケミカルバイオロジーの専門誌Cell Chemical Biologyに掲載されました。

図1.リゾPSの機能 A. リゾPSの構造式。リゾPSはグリセロール骨格に極性頭部としてホスホセリンを有し、疎水性尾部として1本の脂肪酸鎖を有する生理活性脂質である。 B.P2Y10受容体はリゾPSの結合によって活性化され、細胞内シグナル伝達経路を活性化することでT細胞の機能を制御する。 C.P2Y10とGPR174のシグナル伝達経路の相違点。P2Y10とGPR174はどちらもリゾPSによって活性化されるが、シグナルを伝達するGαタンパク質は異なることが知られる。

【用語解説】

注1. リゾホスファチジルセリン(リゾPS)
生理活性物質の一種。両親媒性を示し、脂質膜中にも水溶液中にも分布する。「リゾ」は細胞膜を溶解する物性から名付けられているが、受容体に対する作用は膜溶解活性よりもはるかに低い濃度で発揮する。ホスファチジルセリンは細胞膜に存在するリン脂質の一種である。

注2. P2Y10受容体
GPCRの一種であり、リゾリン脂質受容体である。リゾPSと結合し、G12/13シグナルを伝達する。

注3. Gα13タンパク質
s、Gαi、Gαq、Gα12の4つのファミリーに大別されるGタンパク質の一種であり、Gα12ファミリーに含まれる。Gα12ファミリーにはGα12タンパク質とGα13タンパク質が含まれ、この2つのタンパク質は類似している。

注4. クライオ電子顕微鏡解析
サンプルを極低温下で電子顕微鏡によって撮像し、像に含まれる2次元粒子の像から3次元の立体構造を再構成する手法。

注5. Gタンパク質共役型受容体(GPCR)
細胞表面の細胞膜に発現する受容体であり、細胞膜を7回貫通する特徴的な構造を有する。4種に大別されるヘテロ三量体Gタンパク質と相互作用することで細胞内に異なるシグナルを伝達する。ヒトにおいて約800種類存在し、それぞれが特異的な細胞外のホルモンや代謝物と結合する。

【論文情報】

タイトル:Structural insight into lysophosphatidylserine binding and Gα13 - coupling selectivity of P2Y10.
著者:Han Yin, Nozomi Kamakura, Yu Qian, Manae Tatsumi, Tatsuya Ikuta, Jiale Liang, Zhenmei Xu, Ruixue Xia, Anqi Zhang, Changyou Guo, Asuka Inoue*, Yuanzheng He*
*責任著者:東北大学 大学院薬学研究科 教授 井上飛鳥
掲載誌:Cell Chemical Biology
DOI:https://doi.org/10.1016/j.chembiol.202408005

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科
教授 井上飛鳥
TEL:022-795-6861
Email: iaska*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部
総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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