3 各指標
(1) 経営指標解説
「2経営指標の利用方法」では、代表的な指標を用いて各事業体の基礎的な経営状況の分析を行ったが、この章ではさらに詳しい分析を行うことができるように、その他の指標も含め116項目の指標について、「1.業務の概況」から「9.繰入金の状況に関する項目」までの9項目に分類し、給水人口規模、水源及び有収水量密度の区分による平均値を列挙している。まずここでは、前章までに取り上げられなかったその他の経営指標の利用方法について、簡単な解説を行う。
1.収益性を示す指標
営業収益−受託工事収益
(1) 営業収支比率(%)= ―――――――――――― ×ばつ100
営業費用−受託工事費用
営業収支比率は、収益性を見るための指標の1つであり、営業費用が営業収益によってどの程度賄われているかを示すものである。
したがって、この比率が高いほど営業利益率が良いことを表し、これが100%未満であることは営業損失が生じていることを意味する。
(流動負債−建設改良費等の財源に充てた企業債・長期借入金−
PFI法に基づく事業に係る建設改良費等のリース債務)−(流動資産−翌年度繰越財源)
(2) 不良債務比率(%)= ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ×ばつ100
営業収益−受託工事収益
(注)「翌年度繰越財源」とは、当該年度の資本的収入額のうち、当該年度において事業が完了しない等により、当該収入額を充当すべき支出が翌年度へ繰り越された場合の翌年度支出額に充てる財源である。
不良債務比率は、不良債務の有無と営業収益との対応関係から事業体の経営状況を見るものである。不良債務が生じている場合には、早急に経営健全化に取り組み、その解消を図る必要がある。
なお、当比率の算出に際して流動資産から翌年度繰越財源を控除するのは、当該繰越財源は予算繰越、逓次繰越の財源として特定化しており、自由に使用することができないからである。
営業収益−受託工事収益
(3) 自己資本回転率(回)= ――――――――――――――
期首自己資本+期末自己資本
――――――――――――――
2
(注)自己資本 = 資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益
自己資本回転率は、自己資本に対する営業収益の割合であり、期間中に自己資本の何倍の営業収益があったかを示すものである。この比率が高いほど投下資本に比して営業活動が活発であることを意味する。
ただし、自己資本が少なければ自己資本回転率は高くなるので、水道事業のように多額の借入金があるものについては、自己資本構成比率を考慮に入れるとともに、総資本回転率も併せて分析するのが適当である。
営業収益−受託工事収益
(4) 総資本回転率(回)= ――――――――――――
期首総資本+期末総資本
――――――――――――
2
(注)総資本 = 負債・資本合計
総資本回転率は、総資本に対する営業収益の割合であり、期間中に総資本の何倍の営業収益があったかを示すものである。
営業収益−受託工事収益
(5) 固定資産回転率(回)= ――――――――――――――
期首固定資産+期末固定資産
――――――――――――――
2
固定資産回転率は固定資産に対する営業収益の割合であり、期間中に固定資産の何倍の営業収益があったかを示すものである。水道事業は施設型の事業であることから、固定資産回転率は重要な指標であり、回転率が高い場合は施設が有効に稼働していることを示し、一方、低い場合は一般的に過大投資になっていることが考えられる。なお、未稼働資産が大きい団体では未稼働資産分について考慮する必要がある。
また、この比率を水源別に見た場合、「受水」の区分に属するものが高くなる傾向があるが、これは取水施設、浄水施設を有しないことによるものである。
営業収益−受託工事収益
(6) 未収金回転率(回)= ――――――――――――
期首未収金+期末未収金
――――――――――――
2
未収金回転率は、民間企業における受取勘定回転率であり、未収金に対する営業収益の割合を表す。一般的にこの率が高いほど未収期間が短く、早く回収されることを表している。
水道事業の場合、メータ検針期間の長短による調定日と料金の納期限との関係及び料金滞納者の多少によって未収金の額が影響を受けること等の事情があり、未収金回転率が低いことが、即、経営状態が悪いことを示すことにはならないが、年度ごとの推移を見ることにより、収益の回収が好転しているのか否かについての判断材料となる。
当年度経常損益
(7) 総資本利益率(%)= ―――――――――――― ×ばつ100
期首総資本+期末総資本
――――――――――――
2
総資本利益率は、経営する側から総資本(負債・資本合計)の収益性を見るもので、事業の経常的な収益力を総合的に表す指標である。この指標が高いほど、総合的な収益性が高いことになる。また、当年度経常損益を当年度純損益に置き換えることで、総資本に対する当年度処分可能利益がどれだけ生じたかを分析することもできるが、この場合特別損益の大きさにより差異が生じることに留意する必要がある。
2.資産の状態を示す指標
建設改良のための企業債償還元金
(1) 企業債償還元金対減価償却費比率(%)= ――――――――――――――――― ×ばつ100
当年度減価償却費−長期前受金戻入
企業債償還元金対減価償却費比率は、投下資本の回収と再投資との間のバランスを見る指標である。一般的に、この比率が100%を超えると再投資を行うに当たって企業債等の外部資金に頼らざるを得なくなり、投資の健全性は損なわれることになる。
当年度減価償却費
(2) 当年度減価償却率(%)= ―――――――――――――――――――――――――――――――― ×ばつ100
有形固定資産+無形固定資産−土地−建設仮勘定+当年度減価償却費
当年度減価償却率は、償却対象固定資産に対する平均償却率である。水道事業の施設は貯水施設、導水施設、浄水施設等比較的耐用年数の長いものによって構成されているので、一般にこの比率は低くなるものと考えられる。
また、平準化した設備投資や統一的な償却方法がとられている限り、この比率は年度によって極端な変動をすることはない。水道事業においては、当比率が3%前後を示しているものが多く、団体間、年度間であまり差異は見られない。
3.財務状態を示す指標
流動資産 現金預金+(未収金−貸倒引当金)
(1) 流動比率(%)= ――――― ×ばつ100 当座比率(%)= ――――――――――――――――― ×ばつ100
流動負債 流動負債
流動比率は、流動負債に対する流動資産の割合であり、短期債務に対する支払能力を表している。流動比率は100%以上であることが必要であり、100%を下回っていれば不良債務が発生していることになる。
また、流動比率と関連する指標として前述の当座比率があり、これは、流動負債に対する支払手段としての流動資産のうち、現金・預金、未収金といった当座資産をどれだけ有しているかを示す指標であり、事業体の支払能力をより厳密に計ることができる。これらの比率により支払能力を見る場合、単に数値の大小にとどまらず、その要因が流動資産(当座資産)の大小にあるのか、負債にあるのかを確かめることが大切である。
さらに、流動比率と当座比率の差は当座資産の割合の差を示すと同時に、貯蔵品の占める割合の差を示している。したがって、両比率間の乖離が著しい場合は、貯蔵品(たな卸資産)を持ち過ぎていないか、貯蔵品管理の在り方を検討すべきである。
営業収益−受託工事収益
(2) 流動資産回転率(回)= ――――――――――――――
期首流動資産+期末流動資産
――――――――――――――
2
流動資産回転率は、流動資産の経営活動における回転度を表すものである。したがって、この率が過大であるときは流動資産の平均保有高が過小であり、過小であるときは流動資産の平均保有高が過大であることを表している。
固定資産
(3) 固定資産構成比率(%)= ――――――――――――――― ×ばつ100
固定資産+流動資産+繰延資産
固定資産構成比率は、資産合計(固定資産+流動資産+繰延資産)中の固定資産の割合を示すものである。
一般に、この比率は低い方が柔軟な経営が可能となるが、水道事業は施設型の事業であり、かつ、減価償却費に近い額が固定資産取得のために借り入れた企業債の償還に充てられることにより(参照:企業債償還元金対減価償却費比率)、そのまま企業内部へ資金が留保される率も低く、固定資産構成比率は高くなっている。
固定資産
(4) 固定比率(%)= ――――――――――――――――――― ×ばつ100
資本金+剰余金+評価差額等+繰延収益
固定比率は、自己資本がどの程度固定資産に投下されているかを見る指標であり、100%以下であれば固定資産への投資が自己資本の枠内におさまっていることになる。100%を超えていれば借入金で設備投資を行っていることになり、借入金の償還、利息の負担などの問題が生じる。
ただし、水道事業の場合は、建設投資のための財源として企業債に依存する度合が高いため、必然的にこの比率が高くなっている。そのため、前述の固定資産対長期資本比率と併せて考える必要がある。すなわち、固定比率が100%を超えていても、固定資産対長期資本比率が100%を下回っていれば、長期的な資本の枠内の投資が行われているということで、必ずしも不健全な状態とはいえない。
固定負債
(5) 固定負債構成比率(%)= ――――――― ×ばつ100
負債・資本合計
固定負債構成比率は、前述の自己資本構成比率とは逆に総資本に対する固定負債の割合を示すものであり、事業体の他人資本依存度を示す指標であるため、自己資本構成比率とは逆の傾向を示す。
4.施設の効率性を示す指標
1日最大配水量
(1) 最大稼働率(%)= ―――――――― ×ばつ100
1日配水能力
1日平均配水量
(2) 負荷率(%)= ―――――――― ×ばつ100
1日最大配水量
*最大稼働率、負荷率と施設利用率とは、次のとおり相互に関連している。
1日平均配水量 1日最大配水量 1日平均配水量
(施設利用率)= ―――――――― = ―――――――― ×ばつ ――――――――
1日配水能力 1日配水能力 1日最大配水量
= (最大稼働率)×ばつ(負荷率)
施設利用率は、1日配水能力に対する1日平均配水量の割合を示すもので、施設の利用状況を総合的に判断する上で重要な指標である。施設利用率はあくまでも平均利用率であるから、水道事業のように季節によって需要変動のある事業については、最大稼働率、負荷率と併せて施設規模を見ることが大切である。
施設利用率が低い原因が、負荷率ではなく最大稼働率が低いことによる場合には、一部の施設が遊休状況にあり、投資が過大であることを示している。一方、最大稼働率が100%に近い場合には、安定的な給水に問題を残しているといえる。
年間総配水量
(3) 固定資産使用効率(m3/万円)= ―――――――
有形固定資産
固定資産使用効率は、有形固定資産に対する年間総配水量の割合である。この率が高いほど施設が効率的であることを意味し、数値の低い場合は、遊休資産、未稼働資産についての検討を要する。固定資産使用効率は、水源別の「受水」、「その他」に属するものについて高くなっている。
「受水」区分については、取水・浄水施設を有しないため、「その他」区分は地下水・伏流水を水源としているため、それぞれ比較的固定資産の取得に要する経費が低く、使用効率が高くなるものと考えられる。
1日平均取水量
(4) 取水量対水利権(%)= ――――――――― ×ばつ100
水利権(m3/日)
1日平均取水量
(5) 取水量対取水能力(%)= ―――――――――― ×ばつ100
取水能力(m3/日)
取水量の水利権に対する割合(取水量対水利権)は、主にダム及び表流水を水源とする団体の水源施設への投資の効率を、施設能力の面から示す指標である。この数値が低ければ、余剰の水利権を抱えていることになり、先行投資の妥当性が問題となる。取水量の取水能力に対する割合(取水量対取水能力)についても同様である。
なお、これらの指標は各事業体において、水源あるいは取水施設ごとにそれぞれの取水能力と取水量とを対応させて見ると一層効果的である。
現在給水人口
(6) 配水管100m当たりの給水人口(人)= ―――――――
配水管延長
配水管100m当たりの給水人口は、配水管の敷設延長に対する給水人口の割合であり、施設の効率性を示す指標の1つである。
5.生産性を示す指標
職員給与費
(1) 職員給与費対営業収益比率(%)= ―――――――――――― ×ばつ100
営業収益−受託工事収益
損益勘定職員数
(2) 有収水量1万m3/日当たり(損益勘定)職員数(人)= ――――――――
有収水量
浄水関係職員数
(3) 1浄水場当たり職員数(人)= ――――――――
浄水場設置数
配水関係職員数
(4) 1配水池当たり職員数(人)= ――――――――
配水池設置数
職員給与費対営業収益比率は、営業収益に対する職員給与費の割合を示す指標である。
職員給与費については、適正な職員の数と配置がされているかどうかが問題となり、そのための指標として、有収水量1万m
3/日当たり職員数を見る必要がある。この指標は原水部門、浄水部門など部門ごとに分析すると一層効果的であり、さらに、1浄水場当たり職員数や1配水池当たり職員数といった施設ごとに要する職員数についても検討する必要がある。
なお、効率的な経営を推進するには、PPP/PFI手法を含む業務の委託化や複数団体による事業の広域化等、または施設・管路のダウンサイジング等が考えられる。
ただし、業務の委託化に当たっては、人件費の軽減の一方で委託料の増加をもたらすので、委託による費用対効果を勘案することが必要である。
6.費用に関する指標
支払利息+企業債取扱諸費
(1) 利子負担率(%)= ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ×ばつ100
建設改良費等の財源に充てるための企業債・長期借入金+その他の企業債・長期借入金
+再建債+一時借入金+リース債務
利子負担率は有利子の負債に対する支払利息の割合であり、外部利子の平均利率を示すものである。企業債利息等は金融情勢の影響を受け年々変化するものであるが、高金利の企業債を借り入れて事業を行った場合は、利子負担率は高くなり、その後の経営を圧迫する要因の一つとなるものである。
平成29年度水道事業経営指標