1 経営指標の趣旨
1.経営指標の意義
工業用水道事業の経営は、設置された目的や地理的条件により様々である。また、会計としては各団体に1つとなっているが、複数の施設を有する場合には、会計全体(団体別)と施設別と2つの視点からの分析が必要となる。
このような観点から、本書は、施設ごとの分析と会計での分析とに大別し、その上で、施設ごとの分析については現在配水能力規模、水源及び給水開始年度による分類を行うとともに、類型ごとに決算の平均値を指標化して示している。また、会計での分析では現在配水能力規模による分類を行い、同様に指標化をする。
個々の事業体が、自らの施設能力の中で目標となるべき姿を求める場合には、現在配水能力規模区分、水源区分及び供用開始年度別区分により比較対象施設の類型を求め、自らの数値と比較・検討することにより、それぞれの問題点や特殊性を明らかにし、健全経営を行っていく上での参考とすることができると考える。
このような趣旨に基づき、本書では資産、職員、費用、繰入金等の経営に関する9項目について経営指標をまとめることとした。
第一に「2経営指標一覧」及び「3経営指標の利用方法」では、各指標の内容を解説するとともに、各指標を用いて9項目にわたる経営分析の一例を示すこととした。なお、その中で、現在配水能力規模別と水源別に各分析比率等の傾向をグラフ化し、その分析を行っている。
第二に「4現在配水能力規模別累年比較」において、各指標の平成23年度から平成25年度の数値を現在配水能力規模別に比較したものを掲載した。
第三に「5類型別事業数」及び「6各指標」において、各類型における指標の平均値等を掲げているので、自らの団体と平均値等を比較分析してみることが望ましい。
なお、「7施設別・団体別類型一覧表」において、各事業体の類型を一覧で示してある。
以上の分析項目のどれをとっても、健全経営のための絶対的な基準として設定することは困難である。しかし、個々の工業用水道事業または各施設を経営規模等により類型化し、類型ごとに経営状況の良好な事業を把握し、それを目標値として位置付けることは可能であろう。また、各事業体における経営上の問題点を明らかにし、今後の具体的改善策の検討に資するものと考えられる。
2.分類区分とその考え方
1で述べたように、工業用水道事業については施設ごと及び会計全体について、指標を用いた経営状況の分析に当たって全ての項目が網羅されることが望ましい。
しかし、地方公営企業決算状況調査において施設ごとの区分によって把握しているものは、いわゆる施設概要項目と損益計算書項目のみであり、施設の稼動効率を財務諸表から求めるために必要な貸借対照表項目については、各施設の合計値、つまり団体(会計)合計値のみ調査しているため、次のとおり「施設別」については3区分、「団体別」については現在配水能力規模別区分により分析を行うこととする。
(1) 現在配水能力規模(施設別、団体別)
経営規模の基準になるものは、配水能力、配水量、所有する資産額等が挙げられるが、水道事業のように施設建設に当たり目安とする給水人口規模のような指標がないことから、本書では客観的な施設規模を示す現在配水能力を経営規模の区分として採用した。 なお、本書における現在配水能力は、年度中の施設能力を指す。
[現在配水能力規模別区分]
1.現在配水能力200,000m3/日以上 ・・・・・・・(大規模)
2.同50,000m3/日以上200,000m3/日未満 ・・(中規模)
3.同10,000m3/日以上50,000m3/日未満 ・・・(小規模)
4.同10,000m3/日未満 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(極小規模)
(2) 水源(施設別のみ)
各事業における資本費の規模を決定する大きな要因として、水源の種類を挙げることができる。
ここでは、各事業体の水源を次の区分に基づき分類した。
[水源別区分]
1.表流水、伏流水、湖沼水のみを水源とする事業
2.地下水のみを水源とする事業
3.ダム・せき等の水源施設を有する事業
4.その他(表流水と地下水の組み合わせ、下水処理水等)を水源とする事業
(3) 供用開始年度別(施設別のみ)
供用開始年度による区分は、建設単価の増嵩が著しい昭和50年度前後で二分することとし、
経営に与える影響を測るための分類を行った。
[供用開始年度別区分]
1.昭和50年度以前の事業
2.昭和51年度以降の事業
(注) 供用開始年度には、「一部供用開始」と「全部供用開始」の2つがあるが、ここでは次のように分類している。
一部供用開始年度 全部供用開始年度 供用開始年度区分
昭和50年度以前 昭和50年度以前 → 昭和50年度以前
昭和50年度以前 昭和51年度以降 → 昭和51年度以降
昭和51年度以降 昭和51年度以降 → 昭和51年度以降
昭和50年度以前 なし → 昭和50年度以前
なし 昭和50年度以前 → 昭和50年度以前
昭和51年度以降 なし → 昭和51年度以降
なし 昭和51年度以降 → 昭和51年度以降
なお、分析の対象は現に経営を行っている工業用水道事業であるが、類型別の施設数及び団体数については、5類型別事業数を参照されたい。
3.本書の活用方法
「2.分類区分とその考え方」における(1)〜(3)の分類区分の組み合わせに沿って、「施設別区分」としては類型区分をA1〜d4 と名付け、また、「団体別区分」としては1〜4と名付けた上で、これらの関係を示したのが次項に示された類型区分一覧表である。本指標利用に先立ち、まず,自らの事業体がどの類型区分に該当するのか「7施設別・団体別類型一覧表」で確認した上で,該当する類型区分ごとに分類された「6各指標」と比較分析されたい。また、自らの事業体が属する類型区分以外のものや合計についても参照されたい。さらに、本書と『地方公営企業年鑑』を利用することにより、同一類型に分類される事業の他に特定の事業との比較も行うことができる。
類型区分一覧表
【施設別区分】
現在配水能力規模別 水源種類別 供用開始年度別 類型区分
A 大規模──────┬─1 表流水・伏流水・湖沼水のみのもの──┬─昭和50年度以前の事業 A1
現在配水能力 │ └─昭和51年度以降の事業 a1
200,000m³日以上 ├─2 地下水のみのもの ──┬─昭和50年度以前の事業 A2
│ └─昭和51年度以降の事業 a2
├─3 ダム・せき等の水源施設を有するもの─┬─昭和50年度以前の事業 A3
│ └─昭和51年度以降の事業 a3
└─4 その他のもの(表流水+地下水、等)──┬─昭和50年度以前の事業 A4
└─昭和51年度以降の事業 a4
B 中規模──────┬─1 表流水・伏流水・湖沼水のみのもの──┬─昭和50年度以前の事業 B1
同50,000m³/日以上 │ └─昭和51年度以降の事業 b1
200,000m³/日未満 ├─2 地下水のみのもの ──┬─昭和50年度以前の事業 B2
│ └─昭和51年度以降の事業 b2
├─3 ダム・せき等の水源施設を有するもの─┬─昭和50年度以前の事業 B3
│ └─昭和51年度以降の事業 b3
└─4 その他のもの(表流水+地下水、等)──┬─昭和50年度以前の事業 B4
└─昭和51年度以降の事業 b4
C 小規模──────┬─1 表流水・伏流水・湖沼水のみのもの──┬─昭和50年度以前の事業 C1
同10,000m³/日以上 │ └─昭和51年度以降の事業 c1
50,000m³/日未満 ├─2 地下水のみのもの ──┬─昭和50年度以前の事業 C2
│ └─昭和51年度以降の事業 c2
├─3 ダム・せき等の水源施設を有するもの─┬─昭和50年度以前の事業 C3
│ └─昭和51年度以降の事業 c3
└─4 その他のもの(表流水+地下水、等)──┬─昭和50年度以前の事業 C4
└─昭和51年度以降の事業 c4
D 極小規模─────┬─1 表流水・伏流水・湖沼水のみのもの──┬─昭和50年度以前の事業 D1
同10,000m³/日未満 │ └─昭和51年度以降の事業 d1
├─2 地下水のみのもの ──┬─昭和50年度以前の事業 D2
│ └─昭和51年度以降の事業 d2
├─3 ダム・せき等の水源施設を有するもの─┬─昭和50年度以前の事業 D3
│ └─昭和51年度以降の事業 d3
└─4 その他のもの(表流水+地下水、等)──┬─昭和50年度以前の事業 D4
└─昭和51年度以降の事業 d4
【団体別区分】
現在配水能力規模別
1 大規模 (現在配水能力200,000m
3/日以上)
2 中規模 (同50,000m
3/日以上200,000m
3/日未満)
3 小規模 (同10,000m
3/日以上50,000m
3/日未満)
4 極小規模(同10,000m
3/日未満)
平成25年度工業用水道事業経営指標