令 和 6 年 9 月 18 日
消 防 庁
令和6年度消防防災科学技術賞
受賞作品の決定記記
1 表彰式
(1)日 時 令和6年 11 月 22 日(金) 10 時から 11 時まで
(2)会 場 三鷹市公会堂(光のホール)東京都三鷹市野崎 1-1-1
2 添付資料
別紙 受賞作品概要
連絡先
消防庁消防研究センター研究企画部
担当:伊藤、木戸
電話:0422-44-8331
この度、令和6年度「消防防災科学技術賞」の受賞作品を決定しました。
本表彰制度は、消防防災機器等の開発・改良、消防防災科学に関する論文及
び原因調査に関する事例報告の分野において、優れた業績をあげた等の個人又
は団体を消防庁長官が表彰することにより、消防防災科学技術の高度化と消防
防災活動の活性化に資することを目的として、
平成9年度から実施しています。
令和6年度においては、全国の消防機関、大学、消防機器メーカー等から総
計 68 作品(消防防災機器等の開発・改良 32 作品、消防防災科学論文 23 作品、
原因調査事例 13 作品)の応募があり、選考委員会(委員長 山田實 元横浜国
立大学リスク共生社会創造センター客員教授)による厳正な審査の結果、別添
1の 30 作品を受賞作品として決定しました。
表彰式は、下記の日時・会場にて執り行う予定です。
また、表彰式終了後、受賞者による作品発表が第 72 回全国消防技術者会議
(消防研究センター主催、同日及び前日開催予定)において行われます。
同 会 議 の 詳 細 に つ い て は 、 消 防 研 究 セ ン タ ー ホ ー ム ペ ー ジ
( https://nrifd.fdma.go.jp/ ) にてお知らせいたします。
令和6年度
消防防災科学技術賞 受賞作品概要
本賞は、消防防災機器等の開発・改良、消防防災科学に関する論文及び原因調査に
関する事例報告の分野において、優れた業績をあげた等の個人又は団体を消防庁長官
が表彰する制度です。平成9年度(自治体消防 50 周年)にスタートし、本年度で 28
年目を迎えます。
作品は、消防職員・消防団員等の部における「A.消防防災機器等の開発・改良」
「B.消防防災科学論文」
「C.消防職員における原因調査事例」
、一般の部における
「D.消防防災機器等の開発・改良」
「E.消防防災科学論文」の5区分で募集して
います。
令和6年度は、全国の消防機関や大学、消防機器メーカーなどから、計 68 作品の
応募がありました。選考委員会(委員長 山田 實 元横浜国立大学リスク共生社会
創造センター客員教授)による厳正な審査の結果、優秀賞として 27 作品が、また奨
励賞として 3 作品が選ばれました。
区 分 応募数
優秀賞
受賞数
奨励賞
受賞数
消防職員・
消防団員等
の部
A. 消防防災機器等の開発・改良 26 53B. 消防防災科学論文 18 5
C. 消防職員における原因調査事例 13 10
一般の部
D. 消防防災機器等の開発・改良 6 4
E. 消防防災科学論文 5 3
合 計 68 27 3
受賞数計 30
消防職員・消防団員等の部の受賞作品には、現場のニーズに沿った提案が数多く見ら
れ、A区分の開発・改良では「カスタマイズ可能な模擬指令台の開発」や「胸骨圧迫補
助マット」などが、またB区分の科学論文では「火災現場で発生する有害物質の除染に
関する研究」、「年齢層の相違による暑熱環境の身体・認知機能への影響に関する研究」
などが選ばれました。
また、一般の部の受賞作品には、D区分の開発・改良として「静電気放電用クーロ
ンメータ」などが、E区分の科学論文では「粉体貯蔵設備で発生する静電気危険性の
新たな評価手法と複数の接地金属棒による充てん粉体の除電効果についての検討」な
どが選ばれました。
C区分の消防職員における原因調査事例は、応募される作品レベルが年々向上し、
検証が丁寧かつ科学的に行われていました。再発防止策も徹底してきていて、火災防
止に真摯に取り組んでいることがうかがえました。
別紙
1 / 11
(都道府県順)
1 優秀賞(27 作品)
A. 消防職員・消防団員等の部/消防防災機器等の開発・改良(5作品)
(1)胸骨圧迫補助マット
(東京消防庁)市原祐輔
バイスタンダーが効果的な胸骨圧迫を行うためには、バイスタンダーを血液など
の感染危険や危険物から身を守り、胸骨圧迫を行う際の身体への負担を軽減するこ
とが必要である。
胸骨圧迫を行うことに抵抗感がある方が胸骨圧迫を行いやすくすることで心肺蘇
生法の実施率向上が期待できる。
駅やデパートなどに設置されているAED収納ボックスに備え付け、胸骨圧迫の際
に実施者の足元に当該資器材を設定して内部のマスクと手袋で感染防止を行う。床と
接する膝を緩衝材で保護し、つま先を滑り止めの付いた傾斜に乗せることで胸骨圧迫
の姿勢を補助して力強く効果的な胸骨圧迫を行うことができる。
(2)救急隊コミュニケーションアプリの開発
(志太広域事務組合志太消防本部)河野拓也
救急隊として活動している中で、聴覚障がい者に対するコミュニケーションに困
難さを感じたため、救急現場における情報収集及び伝達手段の一方策として、誰で
も簡単に症状を迅速且つ詳細に伝えられるスマートフォンアプリ「救急隊コミュニ
ケーションアプリ」を開発しました。
スマートフォンを数回タップするだけで、症状や訴えを救急隊に伝達する事が出
来ます。
さらに、昨今の外国人旅行者の増加に伴い、外国語を要する救急現場も増加して
いるため、このアプリに多言語モードを搭載し、他言語話者の傷病者とのコミュニ
ケーションも容易に行えるよう工夫しました。
(3)半自動式除細動器等固定アタッチメント
(東近江行政組合消防本部)里西祐紀
重症症例や心肺停止症例の場合、通常の活動以上に扱う資器材が増え、
搬送時に傷
病者の足の間等に一時的に除細動器や輸液ライン一式を置くことがあります。
そのた
め、愛護的な活動ができておらず、不安定な場所へ除細動器を置くため、落下や誤作
動の可能性があり、また、心電図モニターによる継続観察が困難となり、輸液ライン
穿刺部の抜けが危惧されます。本考案作品は単純な使用法ですが、
傷病者の足の間等
に資器材を乗せることなく、除細動器や輸液ライン固定が可能です。それにより、愛
護的な活動に繋がり、活動を円滑にし、誤作動や落下防止といった事故を防げる非常
に有用なものです。
(4)カスタマイズ可能な模擬指令台の開発
(堺市消防局)竹村郁明、島尾賢
指令センターで 119 番通報を受信する際に使用する指令台の訓練用の模擬指令台
を開発したもの。当指令台は、パソコンの画面に指令台を再現するもので、指令台で
入力する災害地点や地図表示、出場指令、指令書など各項目を、実事案と同様に通報
受信しながら入力操作することが可能である。また、汎用性の高い Excel でプログラ
ミングしており、入力操作は文字入力のみで、
全国消防本部の各指令台の仕様に容易
に変更できる。導入コストも不要で実用性が高くすぐに導入が可能であり、
各種訓練
での活用により全国指令員の通報技術の向上とともに、
市民の安全安心に寄与するこ
とが期待されている。
2 / 11
(5)展開型指揮シート及びトリアージタグファイルの開発
(倉敷市消防局)石井健
当市では、災害現場で情報を管理する指揮ボードなどは指揮車以外の車両には積
載していません。そのため、ポンプ隊や救急隊などが少数の隊で現場対応する際、
情報管理に苦慮することがあります。
そこで、マグネットシートを活用した、コンパクトに積載でき、操作も簡単な情
報管理ツールを開発しました。
展開型指揮シートは、展開して車両側面などに貼付け、迅速に災害情報を管理す
ることができます。
また、多数傷病者事案では、トリアージタグファイルを併用することで、トリアー
ジタグを確実に固定し、傷病者の緊急度や位置情報などの視認性を高め、円滑な情報
管理が可能となります。
A. 消防/消防防災機器等の開発・改良
3 / 11
B. 消防職員・消防団員等の部/消防防災科学論文(5作品)
(1)年齢層の相違による暑熱環境の身体・認知機能への影響に関する研究
(東京消防庁)佐々木航、三村納都、笠見優一
定年引上げを受け、熱中症の観点で 60 歳以上の消防職員が安全に活動できるかが
課題となるが、消防活動中の深部体温及び主観的暑さ感覚等(以下「熱中症リスク」
という。
)に加齢が与える影響を研究した事例はない。そこで、20〜60 歳代の消防職
員に、暑熱環境において運動してもらい、深部体温や主観的な暑さ感覚等を年代別に
比較した。
本研究の結果、
加齢による熱中症リスクの差は確認できず、深部体温は、全年代とも
に防火衣を離脱した状態でも 20 分以上上昇し続けた。また、深部体温が 38 °C以上と
なっても、
主観的暑さ感覚や認知機能等では、
自身の熱中症リスクを判断することは困
難だと分かった。
(2)火災現場で発生する有害物質の除染に関する研究
(東京消防庁)榎本佑太朗、戸田博章、笠見優一、佐々木航、岩瀬弘樹
近年、火災現場で発生する発がん性物質が消防隊員における長期的な健康被害のリ
スクを高めることが問題視されている。2022 年には国際標準化機構における消防隊
員用個人用防護装備のクリーニング、検査及び修理に関する項目が改訂され、健康被
害のリスクを低減する基準が示された。
本研究では、消防隊員の長期的な健康被害を防ぐことを目的として、実際の火災現
場で活動後の防火衣に付着する有害物質の状況の調査、防火衣に付着した有害物質の
洗浄による除染効果、火災現場引き上げ前に実施する防火衣の簡易除染方法及び効果
について検討した。(3)「消す・消える」ことに着目した消火訓練用疑似炎デバイスの研究
(白山野々市広域消防本部)松林大司、西村健治、中川康史、坂田拓、麻田外作
(北陸先端科学技術大学院大学)佐藤俊樹
消防隊が行う消火訓練は、板に描いた炎(静的な炎)を見て判断する消火訓練が多
く、実際の炎や煙を見て状況を判断する現場活動と、日頃の訓練とでは大きく状況が
かけ離れている事が問題と考える。
そこで、霧発生装置で発生させた霧にフルカラーLED ライトを照射し、炎の演出を
可能とした(動的な炎)ものに、酸化反応で起こる炎の変化を表現し、さらに、消火
に使用する水に反応する冷却消火体験が可能な疑似炎を研究する。
この疑似炎デバイスを使用した消火訓練を、
消防隊員に体験してもらい、
効果の高い
消火訓練が可能か検証する。
(4)デジタル技術を活用した出前型 DX 広報による効果の検証について
(岡山市消防局)渡邉太之、繪面暢利、可児達也、日髙尊行、柞磨祐介
火災予防広報における対面型広報には大きく分けて「講話型」と「体験型」の 2 種類
がある。
多くの消防本部では、
「講話型」を主として広報を行っているが、
「講話型」は「体験
型」と比較して、学習効果が低いとされている。
一方で、
「体験型」は、資機材等の準備が必要で、場所や場面が限定される。
それらの課題を克服するため、場所や場面に制限のない「体験型」広報として、デジ
タル技術を活用した出前型 DX 広報を考案した。
今回、令和 2 年から令和 5 年にかけて行った出前型 DX 広報の実施結果を整理し、そ
の効果を検証した。
4 / 11
(5)畑地かんがい施設の有効活用について
(倉敷市消防局)髙橋陽亮、妹藤祐貴、三宅悠太、岩佐充敏、川野泰久
気候や特性により、その土地特有の施設が存在する。当局が管轄する地域の一部に
は畑地かんがい施設がある。
畑地かんがい施設とは、ダムや配水池からパイプラインを経由し、畑地にスプリン
クラーなどで散水できるように整備したものである。
当局が管轄する地域は、国内有数の生産量を誇る桃やぶどうをはじめ、多くの質の
高い果物を育てている。これを支えているのが生産地の広範囲を網羅する畑地かんが
い施設である。
この畑地かんがい施設を、火災の際、有効に活用できないか、調査、検証を行った。
B. 消防/消防防災科学論文
5 / 11
C. 消防職員における原因調査事例(10作品)
(1)ゴムプラグから出火した火災事例について
(秋田市消防本部)柴田航
本火災はメッキ工場で発生し、メッキ液を保温するために設置したヒーターのゴ
ムプラグから出火し、電源コード等を焼損したものである。
鑑識を行ったところ、ゴムプラグ内の配線が半断線状態になり出火したものと特
定できた。
半断線状態になったのはゴムプラグの劣化が原因で、同様に劣化しているゴムプラ
グが他に存在している可能性があるため調査したところ、多数の劣化したゴムプラ
グを確認し、即時交換が行われたことで、類似火災の防止に繋がった。
(2)同型品の全数回収に至ったポータブルバッテリーの出火事例調査について
(千葉市消防局)大矢洋太、行木信彦、池田翔喜、山崎雅哉、渡邉祥太郎、谷尻孝之
本事例は、
福祉器具の非常用電源として購入したポータブルバッテリーから出火し
て負傷者が発生した建物火災である。
当該火災の出火原因は、
バッテリーセルの製品不良によるものと推測されたことか
ら、火災発生後に同型品の購入者に対して速やかに注意喚起を実施した。さらに、鑑
識結果を踏まえて当該製品の危険性を当市関係部署と連携して輸入販売事業者に指
導した結果、輸入販売事業者により当該製品のリコールが実施され、販売した同型品
の全数を回収することができた。
なお、当該製品は、主に市内の福祉事業所及び在宅看護が必要な個人に販売され
ており、仮に同型品から出火した場合、避難が困難な方への被害が想定されたた
め、再発防止対策の徹底を強く意識して指導を実施した事例である。
(3)ロボット掃除機のリチウムイオンバッテリーから出火し、早期にリコール対象となった事例について
(相模原市消防局)鈴木仁、大谷剛広
本火災は、共同住宅の居室内において、購入して間もないロボット掃除機を使用
中に、内部に搭載されたリチウムイオンバッテリーから出火した火災である。
当該ロボット掃除機を収去し、当局において、販売・製造業者と合同鑑識を行った
結果、リチウムイオンバッテリーから出火した可能性が極めて高いとの見解で一致し
た。この合同鑑識から約2週間後、販売・製造業者は、当該リチウムイオンバッテリ
ーを搭載した全ての製品について、消費者庁に「重大製品事故」の届け出を行い、製
品リコールに至った事例である。
(4)ガスコーヒー焙煎機から出火した火災について
(川崎市消防局)秋田勇紀、小榑大、平井翔大、明石仁、鈴木晶子、武本直樹
本火災は、飲食店舗内で稼働中であったガスコーヒー焙煎機から出火した火災で
ある。鑑識の結果から、製品は珈琲豆焙煎前の暖機運転中、排気ダクト管内に堆積
した珈琲豆のくずから出火したものであり、当該くずの分析結果から酸化発熱も本
火災の発生に関与していることが分かった。さらに詳細な情報収集の結果、清掃頻
度等が記載されている取扱説明書は改訂され、新旧複数存在することが判明し、本
事案製品所有者が参考としていた取扱説明書記載の清掃頻度では、ダクトから出火
する可能性があることが分かった。調査結果を受け製造業者からの注意喚起等、火
災予防対策が図られた事案である。
6 / 11
(5)スプリンクラー設備が起因する消防用設備点検時の爆発火災
(東近江行政組合消防本部)奥村嘉則、植田慎司、井上和也、村田健
消防用設備の点検業者がスプリンクラー設備を点検するため、建物2階にある末
端試験弁を開放したところ、消火配管内で発生した水素ガスが消火用水とともに、
建物1階消火ポンプ室内の消火水槽内に還流し、水槽内の気層部に滞留。埋め戻し
がされていない消火ポンプの電源ケーブル貫通部からプルボックスを経由し、電線
管を伝ってスプリンクラー設備の制御盤内に水素ガスが充満。また、同制御盤内で
は減圧に伴う消火ポンプ始動により、スター回路用マグネットスイッチが開閉。こ
の接点間でスパークし火花が発生したことにより、水素ガスと空気の混合気に引火
し爆発した火災である。
(6)電気自動車用充電設備の一部である屋外キュービクルの配線から出火した事例
(京都市消防局)斉原拓真、柴垣佳秀
電気自動車の充電設備を構成する屋外キュービクルから出火した事例で、今後、
同様の事故が増加することも予想されるなか、キュービクル製造業者、施工業者、
配送業者、取扱事業所など、様々な関係者の連携・協力を得て、類似事案を未然に
防いだ事案。
(7)府県を越えて 2 つの消防本部が連携した火災原因調査事例について
久御山町消防本部
三田市消防本部
本事例は、専用住宅に設置された太陽光発電システム用ケーブルからの出火が疑
われる火災において、久御山町消防本部と三田市消防本部が府県を越えて連携し、
火災原因調査を進めた事例である。
組織規模の小さな消防本部が共同で原因調査を進めた結果、両市町で発生した火災
の出火原因を特定することができ、類似火災防止対策としてハウスメーカーの施工
手順の改善、施工済み建物の自主点検及び改修工事に繋げることができたことか
ら、消防機関同士の連携・協力の有用性を実感できた事例となった。
(8)車両鑑識からリコールへと繋がった火災事例について
(大阪市消防局)宮原一也、田中博朗
本火災事例は,走行中の 10tトラックから出火した車両火災である。メーカーと
の合同車両鑑識から、キャビン内の運転席左側に設置された PDM
(PowerDistributionModule:ヒューズ&リレーボックス)の電源用プラス側配線が
誤配索され、その結果、当該配線が PDM ブラケットとの干渉により損傷して短絡し
出火したものと判定。同種の火災発生が危惧されることをメーカーに訴え,安全対
策の実施を強く要望することにより,メーカー独自でも調査した結果,当該誤配索
により出火する危険性があると判断したことから,同車種計 13,762 台のリコールに
繋がった事例である。
7 / 11
(9)デッキオーブンからの出火事例の調査報告
(岡山市消防局)秋岡志郎、中山裕司、小西由哲、藤井義輝、内山大成
本火災は、大型ホテルの 3 階ペストリー室で使用しているデッキオーブン内部の電
気部品が焼損したものである。
デッキオーブン内部、接続器(リレー)付近のみの焼損であることから、出火箇所
をデッキオーブン内部の接続器付近と判定する。
接続器の鑑識を実施し、端子接触部が経年劣化により表面が不均一な状態であるこ
とを確認する。また、接続器は、本来、縦向きに設置しなければならないが、横向き
に設置されていたため、接点の摩耗及びアーク放電により金属粉が堆積、接触不良が
発生し、電気部品を溶融及び炭化させた事例である。
(10)電気ドリル内部の電気的火花により灯油に着火した事例
(福岡市消防局)川越怜史
耐火造2階建て、1階の作業所が全損した建物火災では、
「ブレーキシュー再生の
ためにブレーキライニングを剥離後、洗浄する行程で洗油に火が入った」との供述が
あった。作業に使用していた古い電気ドリルは内部で火花が散っており、洗油は灯油
を使用していたとのことである。
灯油は、電気的スパークなどの小さな着火源では着火しにくいという印象があった
ことから、洗油にガソリン等を混ぜていた可能性や他の火源から出火した可能性を疑
ったが、実験を繰り返すことで、現場の状況が、電気的スパークによって灯油に着火し
やすい条件を満たしていたことが判明した事案である。
C. 消防/原因調査事例
8 / 11
D. 一般の部/消防防災機器等の開発・改良(4作品)
(1)静電気放電用クーロンメータ
(労働安全衛生総合研究所)崔光石
(春日電機株式会社)長田裕生、宮林善也、鈴木輝夫
産業現場では可燃性ガスまたは粉じんなどが扱われており,
これらの帯電による静
電気放電で着火することがある.このような事故を未然に防ぐために,CR 並列回路
にピークホールド回路を組み合わせることで静電気放電の電荷量を測定できるクー
ロンメータを開発した.
電荷量測定の基礎特性と実用性を検討し,
帯電した金属容器,
絶縁性シートまたはフィルムからの放電電荷量を正確に測定できることが実証され
た.さらに,粉体貯蔵用サイロに粉体を連続投入する過程で発生する面状放電の電荷
量も測定できることが明らかとなった.これらのことから,静電気放電による火災防
止の機器として期待できる.
(2)感染症対策コーティング技術ナノバイオシールドの開発
大栄産業株式会社
新型コロナウイルス感染症に関連し、
感染症という自然災害とは違った災害が出て
きた事で、救命救急の最前線にいる救急隊員は、常に感染症のリスクを考えなければ
ならない。市民生活や経済活動も含めリスク軽減技術やサービスが必須となった。特
に救急搬送や救急出動には、
患者や隊員同士からのエアロゾルや飛沫なども含めた接
触感染リスクを軽減させる事は最重要課題である。今回群馬大学と共同研究し、短時
間で感染症リスクを軽減させ、抗ウイルス効果の持続化を可能にした。感染症対策コ
ーティング技術ナノバイオシールドを開発しました。
(3)吸管簡易水抜き器具の開発
(大阪北港地区共同防災組合)木村昌浩
消防車や可搬式ポンプに装着されている吸管の排水作業は排水口より高く両手で
持ち上げながら、上下の高低差を利用し排水するので、身体の負担も大きく危険で
あった。
この器具は、ロープとタイヤとローラーで構成し、軽量で自由に形を変えること
が出来る。
曲がっている状態の吸管でも、
ロープとサイドのタイヤが柔軟に吸管を沿いながら
動き、下部のローラーは吸管を支える事で、片手でも安全に吸管内の排水作業が出来
る。
(4)自動ホース巻取機(MAKIMAS)の開発
株式会社ナベル
近年、救急出動件数が増加している中、少子高齢化により消防職員、消防団員の
人材不足が深刻な問題となっている。この様な中で弊社は、消防ホース巻きが与え
る身体的負担に着目し、自動ホース巻取機(MAKIMAS)の開発に着手した。
例えば1〜2 本のホースを手動で巻取る事は身体的に問題とならないが、一度に
30 本以上巻く様な状況下では大きな負担となってくる。
MAKIMAS は、老若男女問わずボタン操作 1 つでホースの巻取りが出来、身体的な負
担の軽減を可能とした。
D. 一般/消防防災機器等の開発・改良
9 / 11
E. 一般の部/消防防災科学論文(3作品)
(1)ウォーターミストによる火災熱輻射の遮蔽の高機能化
(山形大学大学院理工学研究科)江目宏樹、城野雅斗、川井喜与人
(八戸工業高等専門学校)古川琢磨
(東北大学流体科学研究所)岡島淳之介
火災輻射は火災の拡大を助長している。ウォーターミストは、消火技術として広く
用いられてきた。しかし、消火性能は着目されているが、輻射による延焼を防ぐ用途
としては実用化されていない。本研究の目的は、輻射を効果的に遮蔽するために、輻
射伝熱解析を用いてウォーターミスト中の水滴の最適なサイズを決定することであ
る。ミスト層の輻射伝熱解析を行い、ミスト層の反射率は水滴径によって制御できる
ことが実証された。また、熱放射からの遮蔽機能を最大化するためにミスト層の水滴
サイズを最適化することの有効性を、
ミストの輻射遮蔽性能を評価する実験によって
検証した。
(2)粉体貯蔵設備で発生する静電気危険性の新たな評価手法と複数の接地金属棒による充てん粉体の除電効果
についての検討
(労働安全衛生総合研究所)庄山瑞季、崔光石
(春日電機株式会社)長田裕生、鈴木輝夫
複数の接地金属棒を取り付けた産業規模のサイロに樹脂粉体を連続的に充てん
し、サイロ内の静電気現象の観察、および接地金属棒から検出される放電電荷量を
測定した結果、接地金属棒の取り付けが蓄積電荷による静電気放電エネルギーの分
散に影響するため、充てん粉体表面で発生する高エネルギー放電や壁面のブラシ放
電を緩和できることが明らかになった。また、静電気危険性を評価する新たな手法
を用いて粉体層を含むサイロ内部の静電場を評価した結果、接地金属棒の数が増え
るにつれて局所的な電荷蓄積が緩和され、エネルギーの拡散効果が増加することが
示された。(3)3 軸加速度計とウェアラブル心拍計を用いた消防隊員のエネルギー消費量と消防関連活動種別毎の時間あた
りの標準推定値の検討
(広島大学大学院人間社会科学研究科)緒形ひとみ
(筑波大学人間総合科学研究科)小泉奈央、根岸祐太朗
(東京消防庁)赤野史典
(大阪大学大学院基礎工学研究科)清野健
(筑波大学体育系)麻見直美
消防隊員は重装備や資器材などの荷重負荷や、
一定の姿勢を保持する状態での活動
など特殊な身体活動伴う作業に従事する。本研究では、侵襲性が低く実活動を測定す
ることが可能である加速度計(Accelerometer : AC)法と AC 法では評価が困難であ
る身体活動に従事した隊員に対しては AC 法と心拍数(Heart late : HR)法の組み合
わせを用いて個別に推定式を作成し、大規模災害想定訓練に参加した消防隊員 30 人
を対象にエネルギー消費量を推定した結果、TEE は 4,871 ± 486 kcal だった。さら
にこの結果を基に消防関連活動種別の標準推定値を算定した。
E. 一般/消防防災科学論文
10 / 11
2 奨励賞(3作品)
(1)石油コンビナート災害での安全な部隊配置についての研究
(姫路市消防局)吉田祥也、今田和利、濱田周作
平成 24 年 9 月、管内の化学プラント工場において高純度アクリル酸製造プラント
でアクリル酸の一時貯蔵タンクが爆発し、ゲル化したアクリル酸が燃焼しつつ広範
囲へ飛散、一気に火災が拡大した災害が発生した。
この火災を教訓に最も被害があった発災場所から 50m範囲内を「爆発危険区域」、被害がなかった 100m範囲外を 1 つの基準として「危険区域外」と定義し、活動制限
を図り、
発災危険物施設の状況から大型高所放水車等の部署位置を決定するとともに
泡消火薬剤の継続的な補充を可能とする集液管を開発するなど、
石油コンビナート災
害での安全な部隊配置についての研究を行った。
(2)災害体験メタバースシステム「T-Meta JINRYU」の開発
(大成建設株式会社技術センター)田中俊成、池畠由華、馬場重彰、道越真太郎
災害時の避難計画を含む施設内の人流計画においては,
対象エリア内での混雑の発
生や集中などによる人的被害を抑えるために,高齢者や障がい者を含む年齢,性別,
歩行能力の異なる様々な利用者の動きを考慮して対策を講じることが重要である.そこで,
本研究では建物 BIM データと人流マルチエージェントシミュレーションを用い
た群集の避難状況および火災時の煙流動などの解析結果を 3 次元仮想空間内で統合
させて臨場感のあるメタバース空間を構築し,VR デバイスを介して複数の参加者が
互いに会話しながら避難行動を体験できる災害体験メタバースシステム「T-Meta
JINRYU」を開発した.
(3)国宝姫路城大天守における防火対策について
姫路市
国宝姫路城は、平成 5 年 12 月日本で初の世界遺産となった。大天守は地上 6 階地
下1階で 1609 年に建築され、400 年以上が経過した現在でもその美しい姿を残し多
くの来城者がある。
このような大規模な木造建築物を保全するうえで最も留意する点
は火災による焼失である。そのため一般建築物より増して早期発見・初期消火が重要
で、炎、煙、熱感知器、スプリンクラー設備、屋内・屋外消火栓設備、連結送水管、
放水砲、監視カメラ、情報・指揮命令一元化のための防災センターを整備、大天守独
自の避難誘導要領を定め、
繰り返し消防訓練を実施してスタッフが迷いなく活動でき
る防火対策を図っている。
奨励賞
11 / 11

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /