令和 6 年 8 月 29 日
地域における住民の防災意識の向上(災害教訓の伝承)に関する調査の結果
(注記) 調査結果の詳細を記載した結果報告書、他地域の事例については、総務省行政評価局ホ
ームページに掲載しています。URL:https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/hyouka_kansi_n/ketsuka_nendo/hyouka_2
40829000175924.html
<背景>
東日本大震災の教訓をいかすため、平成 24 年の災害対策基本法の改正で、住民の責務と
して災害教訓の伝承が、国及び地方公共団体の努力義務として住民の伝承活動への支援が
それぞれ規定されました。
一方で、気象災害が激甚化・頻発化し、大規模地震の発生が危惧されている中、過去の
災害の記憶等が年々風化している、住民の災害教訓の伝承活動が行われなくなってきてい
るとの指摘もなされています。
<調査結果>
住民による災害教訓の伝承活動を取りやめる地区が増えている市町村がある一方、過去
の災害教訓が大切に受け継がれたことで、災害時に住民の主体的な避難行動に結び付いた
事例がみられ、改めて災害教訓の意義・重要性が確認されました。
また、市町村における住民の災害教訓の伝承活動への支援状況を調査したところ、
1 新たな取組としてどのように支援を行えばよいか分からないとする市町村がある
一方、既存の取組に災害教訓を取り入れているものなど、他の市町村の参考となり得る
様々な支援例がみられました。
2 国土地理院が市町村による自然災害伝承碑の活用を促進している中、どのように活用
してよいか分からないとする市町村がある一方、他の市町村の参考となり得る様々な活
用例がみられました。
<神奈川行政評価事務所管内の事例>
調査の過程で把握した神奈川行政評価事務所管内における事例は、以下のとおりです。
No1 自然災害伝承碑が地理院地図等に掲載されたことなどを契機に、新たに次世代に災
害教訓を伝承する活動が始まった例(相模原市)
No2 自治会による避難経路を検討する図上訓練で、過去の被災箇所等を記載した地図の
作成を支援することにより、地区の災害教訓の伝承活動が促進された例(平塚市)
No3 住民団体の協力を得て自然災害伝承碑などの災害関連施設を巡るまち歩きイベント
を行うことにより、幅広い年齢層の参加者への災害教訓の伝承が促進された例(平塚市)(連絡先)
神奈川行政評価事務所
担 当:後 藤、奥 山
電 話:045-641-2832(代表)
E-mail:kanag10@soumu.go.jp
神奈川行政評価事務所管内の事例
事例No.件 名 市町村名1自然災害伝承碑が地理院地図等に掲載されたことなどを契機に、新たに次世代に災害教訓
を伝承する活動が始まった例(報告書 P7)
相模原市2自治会による避難経路を検討する図上訓練で、過去の被災箇所等を記載した地図の作成を
支援することにより、地区の災害教訓の伝承活動が促進された例(資料1-1 No12)
平塚市3住民団体の協力を得て自然災害伝承碑などの災害関連施設を巡るまち歩きイベントを行う
ことにより、幅広い年齢層の参加者への災害教訓の伝承が促進された例(資料1-1 No15,資
料1-2 No13)
平塚市1 自然災害伝承碑が地理院地図等に掲載されたことなどを契機に、新たに次世代に
災害教訓を伝承する活動が始まった例(神奈川県相模原市)
・ 神奈川県相模原市の緑区鳥屋地区では、大正12年9月の関東大震災で、山の斜面が崩れ落ちる山津波が発生し、
死者16人、埋没棟数9戸の被害を受けた。
・ 震災後、土砂が堆積してできた小高い山は「地震峠」と呼ばれるようになり、その地に慰霊碑や地蔵尊が建て
られ、遺族やその親戚等によって守られてきた。
・ 同地区では、令和3年12月に慰霊碑が自然災害伝承碑として地理院地図等に掲載されたことなどを契機に、翌4
年4月に住民の有志により「地震峠」を守る会を設立した。
経緯
・ 「地震峠」を守る会は、当該場所の維持管理、老朽化した説明板の改修、自然
災害伝承碑として認定されたことを示す標柱の設置(注)のほか、地区の文化祭
や学校等で関東大震災の教訓を紹介したり、高校生等と協力して地震峠を題材に
した漫画を制作したりするなど、同地区の被害や教訓を次世代に伝える活動を行
っている。
・ また、自治会長等で構成される「鳥屋地域振興協議会」では、鳥屋地区の被災
者の体験談などが記録された「よみがえる89年前の記憶」の映画制作者に承諾を
とり、各自治会、小中学校、希望する住民などにDVDを作成して配布したほか、
上記の文化祭等でも上映している。↓視聴した住民の意見:関東大震災により甚大な被害を受けた場所であることを
知らなかった。非常に勉強になった。
(注)説明板の改修及び標柱の設置に当たって、相模原市地域活性化事業交付金や、
鳥屋地域振興協議会の助成金が活用された。
さんかく 標柱(当省撮影)
さんかく 慰霊碑(当省撮影)
取組内容No.12
自治会による避難経路を検討する図上訓練で、過去の被災箇所等を記載した地図の作成
を支援することにより、地区の災害教訓の伝承活動が促進された例(神奈川県平塚市)
• 平塚市は、防災まち歩きの途中、住
民から過去の風水害による被害状況
を聴いた住民から「こうした被害が
あったことを初めて聞いた」といっ
た声が聴かれたとしている。
• 平塚市は、過去の風水害による被害
箇所や前兆現象を記載した地図を作
成する訓練を支援することで、各住
民が把握していた災害教訓が地域内
で共有されるなど、地区の災害教訓
の伝承活動が促進されたとしている。
市町村、参加者等からの意見
• 吉沢地区((注記))は、多数の土砂災害警戒区域が点在し、災害リスクが高い地域
• 平塚市は、吉沢地区自治会連合会から、災害時の避難経路を検討し地区防災計画を策定するため、地区内の危険箇所の確
認・整理等を行う図上訓練を実施したいとの要望があり、同訓練の支援を実施
• 同地区のめぐみが丘自治会から、図上訓練の実施に当たり、事前に現地を確認し、地区の危険箇所を把握しておきたいと
の要望があったことから、平塚市と同自治会で防災まち歩きを実施
((注記))吉沢地区には上吉沢、中吉沢、下吉沢、めぐみが丘の4自治会が所在し、4自治会が連合して吉沢地区自治会連合会を組織している。
経緯No.2• 市が作成したハザードマップを参考に、住民が防災マップを自ら作成する
ことで、より防災意識の向上につながる。
• 実際に、住民に話を聞くことで、過去の災害による被害など、市が把握す
ることが困難な情報を把握することができた。
取組を行う上でのポイント
しろまる防災まち歩き
• 防災まち歩きは、地区自治会館から、指定緊急避難場所である小学校ま
での経路について、往路は最短経路を、復路は地区住民が考案した土砂
災害警戒区域を避けた経路を往復
• その道中で、危険箇所を確認するとともに、地区住民からが過去の自然
災害による被害箇所や前兆現象を聴取し、これらの情報を地区内で共有
しろまる図上訓練
• 吉沢地区自治会連合会を構成する4自治会に分かれ、各地区における危
険箇所や過去の自然災害の被害状況、前兆現象について話し合い、白地
図に整理し、指定緊急避難場所への安全な避難経路について検討
⇒作成した地図を基に4地区ごとの防災マニュアルを作成し地区内で共有
取組内容3 自治会による避難経路を検討する図上訓練で、過去の被災箇所等を記載した地図の作成
を支援することにより、地区の災害教訓の伝承活動が促進された例(神奈川県平塚市)
参考No.2(作成した地区の防災マニュアル)4 住民団体の協力を得て自然災害伝承碑などの災害関連施設を巡るまち歩きイベントを
行うことにより、幅広い年齢層の参加者への災害教訓の伝承が促進された例(神奈川県平塚市)
• 平塚市は、参加した住民からは、関東大震災の被害を受けた遺構に驚
く様子が見られたり、「今まで知らなかった過去の災害を知る契機と
なった」といった意見が聴かれたとしている。
• 平塚市は、観光的な要素を取り入れた「防災さんぽ」によって、ふだ
ん防災に特化したイベントに参加しないような年齢層の住民にも参加
してもらうことができ、災害教訓の伝承につながったとしている。
市町村、参加者等からの意見
• 平塚市は、令和5年に関東大震災100年を迎えるに当たり、新たな防災に係る普及啓発の取組を模索していたところ、自然災
害伝承碑が市内で初めて地理院地図等に掲載されたことから、当該伝承碑の周知も兼ねて「防災さんぽ」を企画
• 「防災さんぽ」では、以前から自主的に災害教訓を伝承する石碑や遺構、避難施設等を徒歩で巡る「防災まち歩き」を行っ
ており、ノウハウの蓄積があった住民団体「ひらつか防災まちづくりの会」に、防災さんぽの先導・解説を担うガイド役を
依頼
経緯No.3• 市の魅力を再発見するという観光的視点を取
り入れることで、ふだん防災への関心が高く
ない年齢層の住民にも参加してもらうことが
できた。
• 住民団体の協力を得ることで、防災に関する
知見の高い地域の人的素材を効果的に活用で
き、また、市が行う災害伝承活動の一部を住
民に担ってもらうことにより、市の業務負担
の軽減につながっている。
取組を行う上でのポイント
• 「防災さんぽ」は、市内の災害関連施設を徒歩で巡るガイドツアー
型のまち歩きイベントであり、関東大震災の自然災害伝承碑「大震
災殃死者供養塔」や遺構「陸軍架橋記念碑」を巡り、同会から同震
災当時の写真などを用いて、これらの伝承内容や同震災の被害の状
況などを解説
• また、市が設置しているポンプ場や河川ライブカメラなどの防災設
備を見学するとともに、市職員から、ハザードマップを活用した避
難方法などを併せて説明
• 当該イベントの最終的な目的地を地元の漁港に設定するなど、ふだ
ん防災にあまり関心の高くない層の参加も意識したプログラム構成
⇒高齢者や家族連れ、若年層など、幅広い年齢層の住民約30名が参加
し、これらの参加者に災害教訓が伝承
取組内容5 住民団体の協力を得て自然災害伝承碑などの災害関連施設を巡るまち歩きイベントを
行うことにより、幅広い年齢層の参加者への災害教訓の伝承が促進された例(神奈川県平塚市)
参考No.3(防災さんぽで巡る災害関連施設の例)6

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