統計委員会横断的課題検討部会
2017 年 2 月 23 日
神奈川大学経済学部
飯塚信夫
1. 精度向上の取組についてのコメント
 見える化状況検査については、各統計の比較が容易になり、問題点も明らかにで
きることから評価できる。しかし、項目の一つの「他統計との比較・分析」につ
いてはスコアリングの対象からは除外すべきと考える。すべての統計についてこ
の項目が当てはまるとは限らず、回答者負担の見地からも似通った趣旨の複数の
統計は整理・統合すべきと考えるためだ(後述)。 欠測値、
外れ値に関する原則的な対応について実態の整理を行うことは望ましい。
平成 29 年度は、企業・事業所を対象とする基幹統計調査が対象とのことだが、順
次、他の統計にも拡大して欲しい。
 「建築着工統計調査」の「補正調査」の「標本設計」に関する検査も是非進めて
いただきたい。なお、こうした補正は他の統計にもありうることと思われる。今
後、実態調査を進めていただきたい。
 オプション検査の中の「シミュレーション検査」
「総合検査」については、早期に
「法人企業統計調査」を対象に行っていただきたい。同調査はGDP速報推計に
用いられ、1次速報に間に合うようにかねてより公表の早期化が望まれているが
実現していない。例えば、大企業だけで速報集計して公表し、後に全体を含めた
確報集計を発表した際にどの程度の誤差が起こりうるのか。そして、それは現状
のGDP推計における時系列分析手法を用いた仮設値とどちらの精度が高いのか
を検証すれば意義のあるものになると考える。
2. 改善すべき統計の要望などその他
 公的統計全体についての整理を統計委員会が主体になって行っていただきたい。
例えば消費関連、投資関連など項目ごとにどのような公的統計があり、役割やカ
バレッジに違いがあるのか、それとも重複しているのか、そして項目ごとに現在
の公的統計では何が不足しているのかを整理していただきたい。例えば、回答者
負担の観点からかねて、日銀短観と法人企業景気予測調査のいずれかを廃止して
欲しいという要望がある。景況感に関する両統計の概念が違う点は理解している
が、本当に両統計が併存する必要があるのであれば説得的な材料を回答者に示す
べき。
 公的統計に関する各省庁のホームページの使い勝手についても調査が必要ではな
いか。かねて省庁によって使い勝手の差が指摘されているが、解消されていない
資料3 飯塚審議協力者 提出資料
(表面だけきれいだが、たどっていくとごちゃごちゃのページも存在する)
。ユー
ザー調査を行い、見える化検査のスコアリングの対象に加えても良いのではない
だろうか。
 新指標の開発を競うより、既存統計の精度向上に資源を投入していただきたい。
猫も杓子も「ビッグデータ」で、似通った委員会が複数の省庁で別々に開かれる
のは資源の無駄ではないかと考える。
 財政統計の速報化、見える化を進めていただきたい。飯塚(2017)にも書かせて
いただいたが、GDP速報に関する課題は、前述の「法人企業統計季報」の速報
化と、財政統計、特に公共事業費に関する統計にある。例えば、公共事業費の発
注、支払い状況を国、地方公共団体で月次(少なくとも四半期)集計して、GD
P速報推計に利用できないものだろうか。現在の公共投資の推計は速報段階で建
設総合統計が用いられているが、政府自身のことを民間に聞かなければわからな
いというのはおかしな話である。
 訪日外国人消費に関する供給側統計の整備を進めていただきたい。飯塚(2016)
にも書かせていただいたが、現在の「訪日外国人消費動向調査」には問題がある。
この消費額は、サンプル調査された平均消費額に訪日旅客数を乗じて算出してい
る。この平均消費額の標準誤差率は「バイアスがある」とかねて批判が投げかけ
られている家計調査よりも大きい。サンプル数を増やす方針もあると聞くが、現
在でも目標サンプル数に届いていない中で現実的であろうか。そもそも、このよ
うな実態でありながら目立った批判が見受けられないのは、家計調査のように供
給側統計が存在しないためと考える。しかし、批判がないといって実態が不明で
は、観光立国を標榜する国としては望ましくないのではないか。例えば、販売側
に免税売上高などの調査を行い、供給側統計としての整備が望まれる(すでに百
貨店協会は取り組んでいるが、全小売店ベースのものにはなっていない)。<参考文献>
飯塚信夫(2016) 「実態を把握できていない、訪日客の「爆買い」」、週刊東洋経済 2016
年 12 月 3 日号。P27、東洋経済新報社
飯塚信夫(2017) 「GDP速報改定の特徴と、現行推計の課題について」、『日本経済研
究』
、近刊、日本経済研究センター

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