地方公務員災害補償基金
地方公務員の
災害時における
メンタルヘルス
マニュアル
対策
はじめに
目次
近年、
大型台風、
集中豪雨、
地震等の大規模災害が頻発しています。
この結果、
災害対応に
追われる被災地方公共団体の職員および他の地方公共団体から派遣される職員は心身に大きな
負担が生じており、
職員の
「メンタルヘルス不調」
が危惧されています。
そのため地方公共団体は、
これらの業務に従事する職員の
「メンタルヘルス不調」
の発生予防や適切な対応のための体制
を、
組織として整えておく必要があります。
本マニュアルは、
平成28年熊本地震および平成30年7月豪雨
(通称
「西日本豪雨」)におけ
る被災地方公共団体の職員と他の地方公共団体から派遣された職員を対象とした調査研究
『災
害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書』
(令和2年3月/地方公務員災
害補償基金)
及び関連文献をもとに、
今後地方公共団体がとるべき
「災害時における職員のメ
ンタルヘルス対策」
についてまとめたものです。
災害時にメンタルヘルス不調に陥る職員を最小限に抑えられるよう、
メンタルヘルス対策の
策定にぜひお役立ていただき、
復旧・復興への有効な備えとしてご活用いただけると幸いです。
災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策06081218222628303104
災害時における地方公務員のメンタルヘルスの状況I災害対応業務に従事した職員の状況1被災地方公共団体に派遣された職員の状況212被災地方公共団体での対応II組織としての対応
個人の対応0331
『災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書』
から学ぶ12
短期派遣について
被災地方公共団体へ職員を派遣する地方公共団体での対応III中長期派遣について12
今後被災地方公共団体となった場合への準備IV被災地方公共団体となった場合への準備
被災地方公共団体へ職員を派遣するための準備12「平成 28 年熊本地震」
から学ぶ
過去の災害から学ぶことV「平成 23 年東日本大震災」
から学ぶ
3「平成 30 年 7月豪雨
(通称
「西日本豪雨」)」
から学ぶ
(注記)地方公共団体を
「自治体」
と表記している箇所がありますが、
アンケート調査等からの引用部分については、
そのままの表記を使用しています。02 災害時には、
被災住民の方々はもちろんですが、
災害対応業務に従事する公務員にも、
心身
に大変な負荷がかかることがわかっています。
地方公務員災害補償基金では、
平成28年熊本
地震、
平成30年7月豪雨
(通称
「西日本豪雨」)を対象に、
被災地の地方公共団体の職員(他の地方公共団体から派遣された職員も含む)
に対して、
被災時・派遣時の体験やストレス、その後のメンタルヘルス不調などについて、
実態の調査研究を行いました。
私たちには、
過去の災害において、
その時に起こったさまざまな問題を丁寧に拾い上げ、
そこ
から多くを学ぶことで、
今後の対策に生かしていくことが必要です。
東日本大震災のような甚大
な被害をもたらす大災害では、
ストレスのかかり方や、
被害によってもたらされる問題の規模、
発生する反応の中身も異なってきます。
本マニュアルは、
本調査研究の結果を踏まえつつ、
災害
対応業務に従事する地方公務員のメンタルヘルス対策をどのように行うべきかを、
タイムライン
に沿って具体的に解説していきます。
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究」
事業概要(要旨)
災害対応業務に従事する職員の
「メンタルヘルス不調」
が危惧されており、
その発生予防と適切な対応が求められている。
この現状を踏まえ、
災害対応業務に従事する職員
(被災地方公共団体職員、
他の地方公共団体から派遣された地方公
共団体職員)
に対して調査を行い、
被災時・派遣時の体験やストレス、
その後のメンタルヘルス不調などについて実態を
把握し、
災害対応時のメンタルヘルス対策について提言することを目的とする。
目的
くろまる平成28年熊本地震 くろまる平成30年7月豪雨
(通称
「西日本豪雨」) 対象災害
『災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書』
から学ぶ
(令和2年3月 地方公務員災害補償基金)
災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策
1 実施概要
アンケート調査を実施
(アンケート調査項目は、
ヒアリング結果に基づき作成)し、
職員のメンタルヘルスの状況、
メンタルヘルスに関して講じた対策
内容等について調査分析を行い、
メンタルヘルス対策に関する状況等を取
りまとめた調査研究報告書を作成した。
調査研究報告書は令和2年3月に
各地方公共団体、
地方公務員災害補償基金各支部等へ配布した。
2 ヒアリング (1)
対象団体:被災地方公共団体
(2団体)、被災地方公共団体に職員を
派遣した地方公共団体
(2団体) (2)
対象職員:人事等担当職員、
災害対応業務に従事した職員 (3)
実施方法:ヒアリング対象団体を訪問し面談方式により実施
3 アンケート調査 (1)
対象団体:被災地方公共団体
(2団体)、被災地方公共団体に職員を
派遣した地方公共団体
(3団体) (2)
対象職員:
1被災地方公共団体職員のうち、
災害対応業務に従事した職員
2災害対応業務に従事するために、
被災地方公共団体に派遣された職員 (3)
実施方法:郵送法により、
対象職員本人が返信用封筒を使用し、
地方公
務員安全衛生推進協会へ直接郵送
令和元年度事業
1 実施概要
令和元年度に実施したヒアリング、
アンケート調査及び令和2年度に実
施したヒアリングの結果を基に、メンタルヘルス対策に関するマニュア
ルの作成を行い、
各地方公共団体、
地方公務員災害補償基金各支部等
へ配布する。
2 ヒアリング (1)
対象団体:被災地方公共団体(1団体) (2)
対象職員:災害対応業務に
従事した地方公務員のサポー
トを行った産業医、
保健師 (3)
実施方法:ヒアリング対象団体
を訪問し面談方式により実施
令和2年度事業03 1 災害対応業務に
従事した職員の状況
災害時における地方公務員のメンタルヘルスの状況I以下は、
災害対応業務に従事した被災地地方公共団体の職員に対して行ったアンケート調査の回答です。
回答者の7割以上は
「特に被害は
なかった」
が、
約1割は
「自身の身
の危険を感じた」
経験をしていた。
自身の被災状況
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
アンケート調査(4)【被災地票】
自身の被災状況 Q4.
くろまる自身の身の危険を感じた
くろまる知人や友人が亡くなった・行方不明になった
くろまる自分自身がけがを負った
くろまる知人や友人が大きなけがを負った
くろまる親戚が大きなけがを負った
くろまる家族が大きなけがを負った
くろまる職場の上司や同僚が大きなけがを負った
くろまる親戚が亡くなった・行方不明になった
くろまる職場の上司や同僚が亡くなった・行方不明になった
くろまる家族が亡くなった・行方不明になった
くろまるその他
くろまる特に被害はなかった
0% 20% 40% 60% 80% 100%11.02.81.61.61.00.80.50.40.30.15.874.4
あなたやあなたの身近な方は被害を受けましたか。
(複数回答)Qくろまる人手不足により苦労が増した
くろまる復旧業務と通常業務が重なり、
非常に忙しかった
くろまるこれまで経験の無い業務に従事し、
慣れるのに苦労した
くろまる先が見えない仕事が多く、
辛かった
くろまるいくら働いても、
仕事が終わらなかった
くろまる多忙すぎて、
職場でのミスやトラブルが増加した
くろまる会議が多く、
忙しかった
くろまるマスコミ対応に苦労した
くろまる派遣職員の受け入れに苦労した
くろまる前任者との引継ぎがうまくいかず、
苦労した
くろまる業務に関する苦労は経験しなかった
0% 20% 40% 60% 80% 100%47.044.843.631.122.610.99.98.16.04.89.8勤務に関する苦労 <業務に関して>
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
アンケート調査(9)【被災地票】
勤務に関する苦労 Q9.
災害後から現在までの期間で、
勤務に関して以下の苦労はありましたか。
(複数回答)Q回答者の4割以上が
「人手不足により
苦労が増した」、「復旧業務と通常業務
が重なり、
非常に忙しかった」、「これ
まで経験の無い業務に従事し、
慣れる
のに苦労した」
と感じていた。
くろまる仕事量において部署間に不公平感があった
くろまる暑かったり寒かったり等、
労働環境が良くなかった
くろまる職場の方針に納得できないことがあった
くろまる勤務中、
多忙で食事をとれないことがあった
くろまる労働に見合った報酬が得られていないと感じた
くろまる仕事に対して、
正当な評価を得られなかった
くろまる組織が縦割りになり、
意見を言いづらくなった
くろまる職場の問題に関する苦労は経験しなかった
0% 20% 40% 60% 80% 100%44.019.717.917.111.39.16.717.1
勤務に関する苦労 <職場の問題>
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
アンケート調査(9)【被災地票】
勤務に関する苦労 Q9.
災害後から現在までの期間で、
勤務に関して以下の苦労はありましたか。
(複数回答)Q回答者の4割以上が
「仕
事量において部署間に不
公平感があった」
と感じ
ていた。04 突然発生する災害に対応する被災地の地方公共団体職員の苦労は、
計り知れないものがあり
ます。
平成28年の熊本地震と平成30年7月豪雨
(通称
「西日本豪雨」)の調査研究
「災害時
における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
のアンケート結果から、
実際に被
災対応業務に従事した職員たちの心の状態がどのようなものであったかをみていきましょう。災害対応業務に従事した職員の状況I災害時における地方公務員のメンタルヘルスの状況1回答者の4割近くが
「ゆっ
くり休むことができなかっ
た」、「充分な休暇がとれな
かった」、「体力的にきつかっ
た」
と感じていた。
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
アンケート調査(9)【被災地票】
勤務に関する苦労 Q9.
くろまるゆっく
り休むことができなかった
くろまる充分な休暇がとれなかった
くろまる体力的にきつかった
くろまる仕事に関して、
自分の未熟さを感じた
くろまる無我夢中だった
くろまる自分の意図したように仕事ができなかった
くろまる仕事上のスケジュールがうまくたてられなかった
くろまる元気がなくなった
くろまる感情の起伏が激しくなった
くろまる自分の家族(自宅)が被災して業務に集中できなかった
くろまる自分の問題に関する苦労は経験しなかった 0% 20% 40% 60% 80% 100%39.138.538.332.928.222.322.118.611.73.19.5災害後から現在までの期間で、
勤務に関して以下の苦労はありましたか。
(複数回答)Q勤務に関する苦労 <自分の問題>
回答者の5割以上が
「ストレス
チェックへの回答」
を利用して
いた。
一方、
3割以上が
「とくに
利用しなかった」
と回答した。
職場が用意した災害ストレスケアの利用状況
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査
研究報告書」
アンケート調査(10)【被災地票】
職場が用意した災害ストレスケアの利用状況 Q10.
くろまるストレスチェックへの回答
くろまるマッサージ・鍼灸など
くろまる産業医等による個別面談
くろまるメンタルケアに関するパンフレット
くろまる産業医等による健康相談
くろまる上司との面談や相談
くろまる娯楽イベント(お茶を飲む会、
コンサート、
スポーツ大会など)
くろまるストレスケアの講話や研修会
くろまる職場のカンファランスにおける相談
くろまる各種相談窓口への電話
くろまるその他
くろまるとくに利用しなかった 0% 20% 40% 60% 80% 100%51.612.411.57.06.54.94.73.11.50.21.436.8
災害後、
職場が用意した以下の制度や活動を利用しましたか。
(複数回答)Q 以上から、
被災地方公共団体の職員の4割以上の人が、
人手不足の中これまで経験してこなかった災害対
応業務に従事し、
さらに通常業務と並行して行わなければならないなどの非常な苦労に晒されていたこと、業務量について部署間の不公平感を感じていたり、
4割近くの人が、
ゆっくり休むこともできず体力的にきつい状
態にあったことがわかります。
本調査では、
調査時点
(令和元年9月〜10月)
において約1割の人が被災による心の傷
(PTSD症状)
を、
1割弱の人が気分障害・不安障害を有している可能性があることも明らかになっています。
今後に向けた被災
後の対策については、
一定期間後業務量の多い部署に人員を増員する、
一定期間後業務を再配分する、
派遣
職員がきたら被災地職員を休ませる方針を徹底する、
などの回答が多く挙げられていました。05 2 被災地方公共団体に
派遣された職員の状況
災害時における地方公務員のメンタルヘルスの状況I「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
アンケート調査(8)【派遣元票】
派遣元勤務に関する苦労 Q8.
くろまる現地の情報が少なく不安だった
くろまる前任者との引継ぎがうまくいかず苦労した
くろまる家族を説得するのが大変だった
くろまる同僚の理解が得にくかった
くろまる派遣前の準備による苦労は経験しなかった 0% 20% 40% 60% 80% 100%54.18.32.91.037.1派遣期間中、
勤務に関して以下の苦労はありましたか。
(複数回答)Q勤務に関する苦労 <派遣前の準備>
0% 20% 40% 60% 80% 100%38.017.610.710.28.81.529.8勤務に関する苦労 <業務に関して>
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
アンケート調査(8)【派遣元票】
派遣元勤務に関する苦労 Q8.
派遣期間中、
勤務に関して以下の苦労はありましたか。
(複数回答)Q回答者の4割近くが
「これま
で経験の無い業務に従事し、
慣れるのに苦労した」
と感じて
いた。
一方、
3割近くは
「業務
に関する苦労は経験しなかっ
た」
と感じていた。
くろまるこれまで経験の無い業務に従事し、
慣れるのに苦労した
くろまる先が見えない仕事が多く、
辛かった
くろまるいくら働いても、
仕事が終わらなかった
くろまる人手不足により苦労が増した
くろまる所属元の仕事が多く残されていて、
こなすのが大変だった
くろまる多忙すぎて、
職場でのミスやトラブルが増加した
くろまる業務に関する苦労は経験しなかった 回答者の2割以上が
「暑かったり
寒かったり等、
労働環境が良くな
かった」、「仕事に関して現地職員
の指示が少なかった」
と感じてい
た。
一方、
3割以上は
「派遣先での
問題に関する苦労は経験しなかっ
た」
と感じていた。
勤務に関する苦労 <派遣先での問題>
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
アンケート調査(8)【派遣元票】
派遣元勤務に関する苦労 Q8.
くろまる暑かったり寒かったり等、
労働環境が良くなかった
くろまる仕事に関して現地職員の指示が少なかった
くろまる職場の方針に納得できないことがあった
くろまる組織が縦割りになり、
意見を言いづらくなった
くろまる派遣元と仕事の手順が違っていて大変だった
くろまる宿舎の衛生面が気になった
くろまる勤務中、
多忙で食事をとれないことがあった
くろまる労働に見合った報酬が得られていないと感じた
くろまる仕事に対して、
正当な評価を得られなかった
くろまる派遣先の雰囲気になじめなかった
くろまる派遣先での問題に関する苦労は経験しなかった
0% 20% 40% 60% 80% 100%26.826.312.27.87.87.86.82.42.01.032.2派遣期間中、
勤務に関して以下の苦労はありましたか。
(複数回答)Q以下は、
災害対応業務に従事するために、
他の地方公共団体から派遣された職員に対して行ったアンケート
回答者の5割以上が
「現地の情
報が少なく不安だった」
と感じて
いた。
一方、
3割以上は
「派遣前
の準備による苦労は経験しな
かった」
と感じていた。06 被災地の地方公共団体に他の地方公共団体から派遣される職員には、
現地の状況がつか
めないまま派遣されることもあり、
被災地の職員とはまた違ったストレス要因があります。
どのようなことにストレスを感じ、
どのような対処が必要とされたかをみていきましょう。
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書」
アンケート調査(8)【派遣元票】
派遣元勤務に関する苦労 Q8.
くろまる仕事に関して、
自分の未熟さを感じた
くろまる無我夢中だった
くろまる体力的にきつかった
くろまる自分の意図したように、
仕事ができなかった
くろまる充分な休暇がとれなかった
くろまる仕事上のスケジュールがうまく立てられなかった
くろまる自分の問題に関する苦労は経験しなかった
0% 20% 40% 60% 80% 100%30.223.920.014.66.86.326.8派遣期間中、
勤務に関して以下の苦労はありましたか。
(複数回答)Q勤務に関する苦労 <自分の問題>
回答者の3割以上は
「仕事に関して、
自分の未熟さを感じた」
と感じていた。
また、
2割以上は
「無我夢中だった」、「体力的にきつかった」
と感じていた。
同時に
「自分の問題に関する苦労は経
験しなかった」
と感じていた。
回答者の2割以上が
「戻ってから
の事後報告会」、「派遣前の事前説
明会」
を利用していた。
一方、
回答
者の3割以上は
「とくに利用しな
かった」
と回答した。
所属地方公共団体が用意した災害ストレスケアの利用状況
くろまる戻ってからの事後報告会
くろまる派遣前の事前説明会
くろまる上司との面談
くろまるストレスチェックへの回答
くろまる定期的(月1回など)に派遣元へ帰る
くろまる産業医等による個別面談
くろまるストレスケアの講話や研修会
くろまる娯楽イベント(お茶を飲む会、
コンサート、
スポーツ大会など)
くろまる産業医等による健康相談
くろまる各種相談窓口への電話
くろまるマッサージ・鍼灸など
くろまるその他
くろまるとくに利用しなかった
0% 20% 40% 60% 80% 100%28.827.817.615.66.85.41.51.51.01.00.53.435.6派遣に際し、
所属自治体が用意した以下の制度を利用しましたか。
(複数回答)Q「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査
研究報告書」
アンケート調査(10)【派遣元票】
所属地方公共団体が用意した災害ストレスケアの利用状況 Q10.
被災地方公共団体に派遣された職員は、
派遣前に現地の情報が少なく不安だったこと、
これまでに経験のな
い業務に従事したこと、
労働環境の悪さや現地職員からの指示が少なかったことに苦労したことがわかります。
ストレスケアについては、
3割近くの人が所属地方公共団体が用意した事前説明会や事後報告会を利用していま
す。
本調査ではこのほかに有効だったケアとして、
派遣された職員と飲みに行く、
現地の職員と飲みに行く、とにかく食べる、
定期的に派遣元へ帰る、
外出や旅行などが挙げられています。
また、
調査時点
(令和元年9月〜
10月)
において気分・不安障害を有している可能性がある人は4.9%でした。
今後に向けた対策については、
必ず複数人のチームで派遣する、
安全な住まいや食事の確保、
事前のニーズ
の把握、
などの回答が多く挙げられています。
調査の回答です。被災地方公共団体に派遣された職員の状況I災害時における地方公務員のメンタルヘルスの状況207 被災直後から右のような
急性ストレス反応が現れま
す。
多くは一過性の反応です
が、
3日〜4週間持続し、強い苦痛を伴い、
かつ日常生活
に支障を来す場合は
「急性ス
トレス障 害」
(病 気の状 態)
の可能性があります。
個人の対応1被災地方公共団体での対応II災害時のストレスについて
急性ストレス反応/急性ストレス障害
急性ストレス反応の主な症状
侵入症状
フラッシュバック
など
回避症状
思い出させる物・
事柄などを避ける
解離症状
思い出せない
陰性気分
幸福感が
感じられない
覚醒症状
睡眠障害やいらだち
左記の症状の持続や新たな症状の発現
が1カ月後以降に認められる場合、
「外傷後
ストレス反応」
が生じている可能性があり
ます。
また、
これらの症状が日常生活に支
障を来す状態が継続する場合、
「外傷後ス
トレス障害
(PTSD)」と診断される可能性
があるので、
医療機関等専門家への受診を
おすすめします。
外傷後ストレス反応/
外傷後ストレス障害
(PTSD)
出典:
『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』
被災直後から1カ月以内に起こる 症状が1カ月以上続く場合
医学的診断 急性ストレス障害 外傷後ストレス障害
(PTSD)
外傷後ストレス反応
急性ストレス反応実際の症状3日後 1カ月後
トラウマ
急性ストレス反応、
急性ストレス障害、
外傷後ストレス反応、
外傷後ストレス障害
(PTSD)
の関係性
くろまるトラウマとなった出来事が記憶として不意によみがえる
くろまる出来事が悪夢として繰り返されたりして苦痛を感じる
くろまる出来事がフラッシュバックして再び起こっているように感じる
くろまる出来事の記憶が蘇ったときに気持ちが動揺したり、
生理学的反応
(動悸や発汗など)
が生じたりする
侵入症状
くろまる出来事を思い出したり考えたりすることを極力避ける
くろまる出来事を思い出させる人、
場所、
会話、
行動、
物、
状況を避ける
回避症状
くろまる出来事の重要な側面を思い出せない
くろまる周囲や自分の現実が変わってしまった感覚
解離症状
くろまる出来事の重要な側面を思い出せない
くろまる自分、
他者、
世界に対して否定的な信念や予想を持つ
くろまる出来事の原因や結果について自分や他者を非難するような
持続的で歪んだ認識を持つ
くろまる恐怖、
怒り、
罪悪感などのネガティブな感情状態にある
くろまる興味や関心を失う、
他者から孤立、
疎遠になっていると感じる
認知と気分の陰性の変化
くろまる幸福、
満足、
愛情などを感じることができない
陰性気分
くろまる睡眠障害 くろまるいらだちと激しい怒り くろまる過度の警戒心
くろまる集中することが難しい くろまる過剰な驚愕反応 くろまる自己破壊的な行動
覚醒症状08 災害による惨事に直面したとき、
また災害対応業務の中で、
心にさまざまな負荷がかかり、
ストレス反応が生じます。
多くは時間の経過とともにおさまりますが、
ストレスの要因が大き
すぎたり、
ストレスへの適切な対処がなされないと、
次第に重症化・長期化することもありま
す。
組織としてのストレスケアが行われるまでの間、
まずは職員本人が自身のストレスの度合
いを把握し、
速やかにセルフケアを行うことが必要です。個人の対応II被災地方公共団体での対応1被災後すぐに行うストレスチェック
(急性ストレス反応チェック)
被災後数日のうちに、
急性ストレス反応チェックをします。
合計が32点を超えたら、
PTSDへの注意が
必要です。
次ページを参考にセルフケアを行い、
ストレスを軽減することが必要です。
また、
被災直後より
も、
ある程度時間が経過した後に強いストレス反応が生じる場合もありますので、
ストレスチェックは定期
的に繰り返し行います。
出典:
『東日本大震災で被災した自治体職員の急性ストレス反応
(髙橋幸子,桑原裕子,松井 豊)
/ストレス科学研究2014,29,60-67』 『被災した地方公共団体職員用急性ストレス反応尺度のカットオフ値および改定版の検討
(髙橋幸子,桑原裕子,松井 豊)』DOI: 10.13140/RG.2.2.32085.7600512345710111312141点
なかった2点少し
あった3点やや
あった4点あった1点なかった2点少し
あった3点やや
あった4点あった1点なかった2点少し
あった3点やや
あった4点あった1点なかった2点少し
あった3点やや
あった4点あった
見た情景が現実のものと思えなかった
自分や周りの人の身に
とても危険を感じた
どのように動いたらいいのか
わからなくなった
寝付きが悪くなったり、
眠りが浅くなったりした
一時的に時間の感覚が麻痺した
強い動悸がした89
とても混乱したり、
興奮していて
合理的な判断ができなかった
とてもイライラしたり、
ちょっとしたことでも気にさわった
わけもなく怒りがこみあげてきた
胃がつかえたような感じがした
一時的に頭痛がした
吐き気をもよおした
おびただしい汗をかいた
小計
(点)
合計得点
被災1 週間後 被災2 週間後 被災3 週間後 被災4 週間後
被災
2週間後 点
被災
3週間後 点
被災
1週間後 点
被災
4週間後 点6食べ過ぎるか、
食べたいという気持ちが出なかった09 呼吸は心の動きとつな
がっています。
息をゆっ
くりと長く吐くことでリ
ラックス状態を導くこと
ができます。
口呼吸でも鼻呼吸でも
OKです。
細かいやり方
は気にせず、
呼吸するこ
とに注意を向けます。特に吐く息に意識を集中し
て、
ゆっくり長く吐くこと
がポイントです。
災害などの非常時においては、
生活環境が大きく変化します。
神経がたかぶってよ
く眠れず、
お酒などに頼ってしまいがちですが、
一時的にはストレスの解消になっても、
体調を崩すなど、
逆にストレスの元となりかねません。
非常時こそ、
できる限り平時と
同じ規則正しい生活を心がけ、
飲食の節制と十分な睡眠、
休養をとることが重要とな
ります。
入浴はリラックスを得るのに有効です。
入浴が可能な状況であれば、
ぬるめの風呂
に8〜10分以上浸かるのが効果的と言われています。
セルフケアの方法
セルフケアには、
一人で行うセルフケア
(自己解消法)
と他者とのかかわりの中で行うケア
(社会的解消法)があります。
一人で行うセルフケア
(自己解消法)
リラックスしたいとき、
いつでも、
どこでも、
道具なしでできるのが呼吸法です。
非常時こそ、
生活のリズムを崩さない意識が大切です。
睡眠には、
脳をリフレッシュ
させ、
自律神経やホルモン
などの働きを正常にして、
ストレスのダメージから回
復させる働きがあります。
眠れないときには、
緊張を
ほぐし、
眠りを促す工夫を
することが大切です。
眠れない
ときには
規則正しい
生活
呼吸法
リラクセーション
くろまる夕食を軽めにする
くろまる自分が心地よいと感じる気分転換をしてみる
くろまるぬるめのお風呂でくつろぐ
くろまる寝る前に、
深呼吸や軽いストレッチをする
くろまる眠れないときは無理に眠ろうとしない
くろまる必要以上に物事を重く考えすぎない
くろまる起床時間を一定にし、
朝起きたら太陽の光を浴びる
参考:
『惨事ストレスとは何か』
(松井 豊 著/河出書房新社)
「3秒息を吸って、
7秒で吐く」
を、
10回程度行います。10 イスになるべく体をまっすぐに
立てて座り、
腕を横に垂らして
準備姿勢をとる。
両肩をゆっくりと上げていく。
ヒジに力を入れないように、だらっとさせておく。
肩の上がっ
ていく感じや凝りの感じに注目
しながら上げていく。
さらに精一杯ギューッと上げ
て、
そこで数秒止め、
肩・頸・
背の感じに意識を向ける。
凝り
や痛みがあれば、
こうして待っ
ていれば、
硬さが緩んで楽にな
ると思いながら少し待つ。
以下は、
主体的な動作を通して心のポジティブな変化を促そうとする臨床動作法の「肩上げ動作課題」
という運動です。
家族との会話は、
多くの人
が行えるストレスケアです。
ストレスを受けたときほど、
意識的に家族と会話をし、
家族を遠ざけないようにす
ることが大切です。
苦労を共にしている仲間と励まし合
い、
現場の感想や気持ちを分かち合う
ことがストレスケアになります。
なお、
部下や同僚が突然、
離・退職を言い
出したら、
背景にうつの症状がないか
を確認し、
適切な対応に結びつけます。
体を動かすことで、
心をほぐすことができます。
気負わず話せる相手との会話は、
心を解放できるひとときとなります。
家族との会話 職場の人たちとの会話
心許せる友人や知人との会話も、この上ないストレスケアです。
たわいな
いおしゃべりが救いとなります。
自分
の状況や辛かったことなどを互いに
話し合えれば、
心の荷を一旦下ろす
作業にもなります。
知人友人との会話
他者とのかかわりの中で行うセルフケア
(社会的解消法)21 3
体を動かす
リラクセーション
会話をする個人の対応II被災地方公共団体での対応1参考:
『惨事ストレスとは何か』
(松井 豊 著/河出書房新社)
耳に肩を
近づける
ように
のびっ
ヨガ、体操、ストレッチ!
できる運動を
こまめに行おう。
ゆっくりと力を抜いて肩を下げ
ていく。
そのときに、
「私が力を
抜いていくので肩が下がる」といった感じで肩を下げていく。
下げきったところで、
肩・頸・
背の自体感
(体の変化した感
じや気持ちの変化)
を味わう。5411 組織としての対応
被災地方公共団体職員のタイムライン 2被災地方公共団体での対応II 災害が発生すると、
被災地方公共団体の職員は、
不眠不休で復旧業務に当たり疲労困憊する中で、
悲惨
な状況を目の当たりにしたり、
懸命に対応しているにもかかわらず、
被災住民の方からつらい言葉を投げ
かけられたりすることもあります。
また、
自分自身やご家族が被災者でありながら、
公務を優先しなければ
ならない状況に置かれることも少なくありません。
このような非日常的なストレスは、
短期間で終わるとは限りません。
災害の規模が大きいほど長期間に
わたり、
その時々でストレスになりうる要因
(ストレッサー)
が変わり、
発生するストレス反応も異なってき
ます。
地方公共団体では、
職員の身の上に起こるストレスに対し、
適切な対処を行わなければなりません。そのためには、
どのようなときにどういった対応を行うかという対策をあらかじめ準備しておくこと、
そして、
常に職員のストレス状態を把握し、
適切なタイミングで対策を講じられるよう、
組織として対応していくこ
とが大切です。
職員のストレスを把握し、
状況に応じた対応を行う
事前の
準備
くろまる惨事ストレスに関する心理教育
くろまるケアを踏まえたBCPの策定
くろまるセルフケアパンフレットの準備
くろまる職場の良好な人間関係の形成
発災当日
くろまる発災直後から交代制の
勤務ローテーションを編成
くろまる生活スペースの維持
くろまる休憩スペースの確保
くろまる自宅の損壊状況を把握し、
業務上の配慮を実施
くろまる子どもの一時預かりを実施
2〜3日後起こり得る
ストレス反応
起こり得る
ストレッサー
実施すべき
ストレスケア
急性ストレス障害
(ASD)
急性ストレス反応
くろまる自身が被災
くろまる家族の安否が不明
くろまる二次災害の危険性
くろまる遺体関連業務
くろまる家族を残して働く不安
くろまる業務多忙で休めない
くろまる指揮系統の混乱
くろまる通勤困難
くろまる家族や同僚の死12 と組織としてのストレスケアの例
家族の対応を後回しにして
被災者対応、
何カ月も自宅
に帰れないなど、
被災者で
ありながら被災者ではいら
れない状況に苦しむ。
心構えのないままに遺体
収容や土葬などの業務に
従事、
疲弊した状態で意
思決定を行うなど、
業務
内容に質的変化が起こる。
復興が進むにつれ、
災害対応
業務と通常業務の併走により
業務量が激増する。
時間外勤
務の増加、
慢性的な人手不
足による多忙が長期間続く。
被災住民からクレームが多
くなる。
何をやっても当た
り前、
公務員のくせに、などと言われたり、
暴言や暴
力を受けることもある。
被災地方公共団体職員のストレスの主な要因
自分自身や家族が
被災者でありながら
公務を優先
業務内容の
質的変化・量的増加
住民との
つらい関わり
参考:
『社会に切り込む心理学 ーデータ化が照らし出す社会現象
(社会臨床 第14章 被災した自治体職員の心理 表2.被災自治体職員のタイムライン)』地方公共団体は、
大きなストレスに晒されることになる職員の
「心の健康」
を守るために、
災害が起きたときに組織としてどのように対応するか、
あらかじめ対策を策定しておくこと
が必要です。
4〜7日後くろまるチェックリス
トによる
ストレスのチェック
くろまるセルフケア
パンフレットの配布1〜3
カ月後くろまるメンタルヘルスセミナー (管理職向けのラインケア、
一般職員向けのセルフケア)
くろまるカウンセリング
くろまる宿泊を伴う県外でのストレスケア研修
1年後〜
くろまる定期的な
健康診断と
ストレスチェック
1〜2週間後くろまる健康診断
くろまる長時間勤務者に
対する
面接の実施
2週間後〜
1カ月後
9カ月〜
1年後
記念日
反応
PTSD、
うつ病、
うつ反応、
燃え尽き症候群、
アルコール依存
くろまる健康状態の悪化
くろまる住民からのクレーム
くろまる意思決定の連続
くろまる先行きのなさ
くろまる職場の
人間関係の悪化
くろまる業務内容や
業務待遇への
不満
くろまる他地方公共団体職員の受け入れ
くろまる通常業務と復興業務の同時進行による多忙
くろまる慢性的な職員不足による多忙組織としての対応II被災地方公共団体での対応213 の役割
被災後、
業務の混乱や職員のストレスをできるだけ軽減するためには、
組織における機能的な支え合い
の仕組みの構築が必要です。
支え合える職場づくり管理職
事前に
すべき
こと
災害に直面した際に、
地方公共団体の職員がどのような状況となるかを基礎知識とし
て教育しておく必要があります。
被災後の状況や自分自身に生じるストレス反応を、事前に知識を持っておくことで受け止めやすくなるからです。
また、
自分自身で行うセルフ
ケアのパンフレットをあらかじめ制作しておきましょう。
単に資料を配布するのではなく、
研修・勉強会の形で、
組織として積極的に関わって
いく仕組みを作り、
職員にアプローチしていくことが大切です。
災害に関する事前教育 / セルフケアパンフレッ
トの作成
事前教育の
内容
被災後早期復旧を図るために、
事前にBCP
(Business Continuity Plan/事業継続
計画)
を策定します。
被災後は多くの職員が通常と異なる業務を行い、
さまざまな混乱
が生じることが予想されます。
混乱を最小限にし、
職員の精神的ストレスを軽減するた
めに、
組織としてストレスケアの仕組みを作り、
BCPに反映しておきましょう。
そのためには、
いざというときに支援が受けられるよう、
日頃から精神科やカウンセリ
ング機関とのつながりを持ち、
他の地方公共団体との災害協定を結んでおくことも必要
となります。
災害を想定したBCP
(事業継続計画)
の策定
BCP 策定の
ポイント
被災後は、
ストレスの影響で職場内で怒りが生じやすく、
上司や同僚とのトラブルが
生じたり、
また、
これまで表面化していなかった職場の問題が顕在化することもあります。
被災後の混乱時に業務を円滑に進められるよう、
上司や部下、
同僚とは、
日頃から相手
に配慮しつつ自分の意見を述べるなど、
自由に意見をやりとりできる関係を作っておき
ましょう。
職場の良好な人間関係づくり事前の基礎知識でストレスのダメージを軽減
人的資源へのケアを含めたBCPが必要
非常時に、
日頃の問題点が表面化することも
日々、
職場の人間関
係への目配りをして
いきましょう。
また、
業務における改善点
がわかっていれば、
災害が起こる前に解
決できます。
職員が
発言をしやすい環境
づく
りをするのも管理
職の役割です。
1 被災地方公共団体で起こりやすい状況について
2 自身に生じる可能性のあるストレス反応
3 ストレスのセルフケア
など1231 指揮命令系統・役割分担を明らかにしておく
2 不測の事態を想定した各作業のマニュアルの整備
3 応援職員をスムーズに受け入れる体制づくり4 組織としてのストレスケアの仕組みを整備 など123414 業務の質的変化・量的増加からくる問題に対応
業務体制
における
対策
発災直後から、
BCPに基づいた業務ローテーション体制を組みましょう。
発災直後か
らしばらくの間は、
多くの場合、
24時間体制での災害対応が必要となりますが、
業務内
容・業務量の不均衡が続くと不満が生じ、
ストレスの原因となります。
交代勤務でのロー
テーションやチームでの業務対応など、
特定の個人に過重な負担がかからないような仕
組みづく
りが必要です。
災害対応業務は、
損壊した家屋の判定、
罹災証明書の発行、
土木、
建設、
建築関係
など、
多岐に渡ります。
時間の経過とともに負荷のかかる部署が変わっていきますので、
BCPに沿い、
状況に応じた人員の配置を考慮することが必要です。
休憩スペース、
生活スペース等の確保をしましょう。
住民やマ
スコミの視線に触れずにすむ、
安心して休憩がとれ、
同じ仲間と
本音を語り合える場所や時間は、
心の回復にとても重要です。
職員の自宅の損壊状況、
家族の安否や様子などを聞き取り、
必要に応じ業務上の配
慮を行います。
何よりも公務を優先しなければならない公務員にとっては、
家族を心配
せず、
安心して業務に邁進できる環境が大切です。
被災者でもある職員への配慮
小さなお子さんがいる家庭には、
子どもの一時預かりの場所を設けるなどの必要な対
応を実施します。
精一杯対応しているのに、
住民から理不尽なクレームを受け
たり、
自分の無力さを感じたりして、
心に強いダメージを受ける
ことがあります。
こうしたときにも、
目に見えない苦労をねぎらわ
れたり、
肯定的な評価を受けたりすると、
業務の重要性を改めて
自覚し、
誇りや使命感を確認でき、
ストレス反応が緩和されます。
活動の肯定的な評価
の役割
管理職
部下のストレスや疲
労の状態を絶えずモ
ニターするとともに、
管理職が自ら進んで
休養をとる・セルフ
ケアを行うなど、職員が休養しやすい環
境づくりを実践しま
しょう。
の役割
管理職
の役割
管理職
職員によって被災の
状況が違い、
職場に
温度差が生じること
も。
部下が辛い状況
に追い詰められない
よう、
管 理 職は
「い
つでも相 談を受け
る」
というメッセー
ジを発信し続けるこ
とが大切です。
の役割
管理職
勤務ローテーション体制を確立、
業務の不均衡を解消
負荷のかかる部署が時間の経過とともに変遷することへの対応
自宅の損壊状況等を確認、
業務上の配慮を行う
子どもの一時預かりなどの実施
ねぎらい、
評価がストレスを緩和する
休憩スペース、
生活スペースの確保
職員が適宜休暇や休養がとれるように配慮しましょう。
スト
レスで心身の健康が損なわれる前に、
ストレス要因から一旦離
れることが大切です。
休暇・休養の付与
発災後
の役割
管理職
「ご苦労様」
「頑張っ
ているね」
など、言葉や態度で評価を表
すことが、
職務への
誇りや使命感の回復
につながります。
の役割
管理職組織としての対応II被災地方公共団体での対応215 合計得点が9点以上あれば、
うつ病や不安障害の可能性が高いといえます。
過去30日間にどのくらいの頻度で
次のことがありましたか0点全くない1点少しだけ2点ときどき3点たいてい4点いつも123456
神経過敏に感じましたか
絶望的だと感じましたか
そわそわ、
落ち着きがなく感じましたか
気分が沈んで、
何が起こっても
気が晴れないように感じましたか
何をするのも骨折りだと感じましたか
自分は価値がない人間だと感じましたかこころの健康チェック
受けたストレスの強さや、
時間の経過によってもストレス反応は異なります。
心身の不調を感じたときに
いつでも相談できるよう、
あらかじめストレスケアに関する仕組みを整えておくことが大切です。
相談できる仕組みづくり(本人記入)K6日本語版 職員の心の状態を知るために、
保健師等によるストレスチェックを行います。
発災後
1週間以内に実施し、
結果に応じセルフケア、
産業医の面談、
専門家への相談など、適切な対処に進むよう促します。
下に、
うつ病を含む気分・不安障害の測定に広く使用さ
れている
「K6」、右ページにPTSDの診断指標として世界的に普及している
「IES-R(改訂 出来事インパクト尺度)」のストレスチェックを掲載しました。
ストレスチェックを毎月1回実施するなど、
継続的に職員の状態を把握し、
ストレスケ
アを行っていくことが大切です。
ストレスチェックで心の不調に早期に対応
ストレスチェックの実施
強いストレスに晒される職員にとっては、
産業医や健康相談室にいつでも相談できる
体制が必要です。
長時間勤務者に対する面接指導も重要です。
災害発生時には産業医
や保健師などの不足が予想されますので、
他の地方公共団体の産業医の確保など、平素から体制づく
りを心がけておきましょう。
産業医による面談 / 健康相談室の設置
いつでも相談できる体制づくりが必要
職員の健康状態を把握するため、
定期健診に加え、
適切な時期に臨時健康診断を実
施しましょう。
問診の時間を長くとったり、
この機会にストレスチェックを行うこともで
きます。
以前からの疾患が悪化しているケースもあります。
症状が重い人ほど受診しな
い傾向がありますので、
原則として全員受診させてください。
誰もが受けやすいよう、巡回健診の形をとるなどの工夫も考えられます。
健康診断の実施
健康診断を活用し、
ストレスチェックも
K6は、
うつ 病 を 含
む気分・不安障害の
測定に広く使用され
ているテストです。K6ストレス
ケア
発災後
の役割
管理職
被災後は、
部下の状
態にいつも以上に注
意を払いましょう。
本人に声がけし、必要であれば、
ストレ
スチェックの実施、
産業医や専門家へ
の橋渡し、
あるいは
代わりに専門家に相
談する、
などの対応
も必要です。
被災後 1 カ月目から行いましょう合計得点 被災後
1カ月 点
被災後
2カ月 点
被災後
3カ月 点
出典:Kessler et al,2002:古川他,200316 合計が25点以上あった場合、
PTSDを発症するリスクがあると考えられます。12345678910111213141516171819202122
(最近の1週間の状態についてお答えください。)0点
全くなし1点少し2点中く
らい3点かなり4点非常に
どんなきっかけでも、
そのことを思い出すと、
そのときの気持ちがぶりかえしてく
る。
睡眠の途中で目が覚めてしまう。
別のことをしていても、
そのことが頭から離れない。
イライラして、
怒りっぽくなっている。
そのことについて考えたり思い出すときは、
なんとか気を落ちつかせるようにしている。
考えるつもりはないのに、
そのことを考えてしまうことがある。
そのことは、
実際には起きなかったとか、
現実のことではなかったような気がする。
そのことを思い出させるものには近よらない。
そのときの場面が、
いきなり頭に浮かんでく
る。
神経が敏感になっていて、
ちょっとしたことでどきっとしてしまう。
そのことは考えないようにしている。
そのことについては、
まだいろいろな気もちがあるが、
それには触れないようにしている。
そのことについての感情は、
麻痺したようである。
気がつくと、
まるでそのときに戻ってしまったかの
ように、
ふるまったり感じたりすることがある。
寝つきが悪い。
そのことについて、
感情が強くこみ上げてく
ることがある。
そのことを何とか忘れようとしている。
物事に集中できない。
そのことを思い出すと、
身体が反応して、
汗ばんだり、
息苦しくなったり、
むかむかしたり、
どきどきすることがある。
そのことについての夢を見る。
警戒して用心深くなっている気がする。
そのことについては話さないようにしている。
IES-Rは、
PTSDの診断基準となる
「再体験
(例:知人のことがいきなり頭に浮
かんでくる)」
「回避
(例:自身に関連することに触れようとしない)」「覚醒亢進
(例:
イライラしたり、
怒りっぽくなる)」からPTSD症状の度合いを測定するテストです。
日本語訳 飛鳥井 望
青木病院 院長
下記の項目はいずれも、
強いストレスを伴うような出来事にまきこまれた方々に、
後になって生じることのある
ものです。
その災害に関して、
本日を含む最近の1週間では、
それぞれの項目の内容について、
どの程度強く
悩まされましたか。
あてはまる欄に〇をつけてください。
(なお答えに迷われた場合は、
不明とせず、
もっとも近いと思うものを選んでください)
お名前 ( 男・女 歳) 記入日 年 月 日
IES-R
(改訂 出来事インパクト尺度)
被災後 1 カ月目から行いましょう組織としての対応II被災地方公共団体での対応2合計得点 被災後
1カ月 点
被災後
2カ月 点
被災後
3カ月 点
被災後
4カ月 点17 短期派遣について1被災地方公共団体へ職員を派遣する地方公共団体での対応III 短期派遣は、
被災直後に現地に派遣されることが多く、
混乱期の苦労などがあります。
下記のアンケー
ト調査で、
短期派遣の実態をみていきましょう。
短期派遣の特徴
1週間程度の短い派遣期間では、
時間外勤務できる状況にな
かったり、
被災住民との関わりも少なく、
住民から非難されたり
怒鳴られたりする経験は少ない傾向であることがわかります。
被災直後の混乱期に派遣されることの多い短期派遣は、
ニーズとのマッチングを意識した派遣手配をすることで、被災地側も派遣された側にも業務効率化のメリットが生じるとともに、
適切なマッチングは、
被災地で役立つことができた
という派遣された誇りを生むと考えられます。
一方で、
被災直後の混乱期には互いの意思疎通が難しく、
思ったとおりの
活動ができない場合もあることを理解した上で、
被災地に向かうことも必要です。
(注記)上記は、
『災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書』
を、
監修者が追加分析したものです。
被災地方公共団体に職員を派遣した地方公共団体
(3団体)
に勤務し、
実際に被災地に派遣された職員261名のうち、
派遣日数を記載した197名を分析対象に、
月単位で派遣された職員30名を中長期派遣、
日数単
位で派遣された職員167名を短期派遣としたアンケート調査の結果に基づいています。
派遣期間
ひと月の時間外勤務 住民から非難されたり
怒鳴られた経験
勤務の苦労
(多い順) 今後必要な対策
(多い順)
順位 内容
暑かったり寒かったり等
労働環境が良くなかった
先が見えない仕事が多く辛かった
自分の意図したように仕事ができなかった
いくら働いても仕事が終わらなかった
人手不足により苦労が多かった
職場の方針に納得できないことがあった
派遣元と仕事の手順が違っていて大変だった
仕事上のスケジュールがうまく立てられなかった
31.7%
15.9%
11.6%9.1%2
安全な住まいや食事の確保
68.5%
55.6%243455781経験が活かせるよう
事前にニーズを確認してから派遣する 53.1%38.5%8.5%21.0%4.9%2.4%
順位 内容
必ず複数人のチームで派遣する
報告を兼ねて定期的に所属自治体に戻す117.9%
派遣後に帰還報告を兼ねた
慰労会を開催する5短期派遣職員へのアンケート調査(注記)
結果
短期派遣の派遣日数は、
「7日」
の割
合が28%ともっとも多く、
次いで
「9日」
26%、
「8日」
18%の順となり、
最短1日、
最長15日、
平均8.1日でした。
多くは7〜
9日間で終了していることがわかります。
その他8日18%9日26%7日28%
なかった
43.8%
30時間
以内
45.1%
45時間以上 6.2%
30時間以上
45時間未満4.9%全く
なかった
76.6%
たまに
あった
22.2%
かなりあった 0.6% よくあった 0.6%18 短期派遣についてIII被災地方公共団体へ職員を派遣する地方公共団体での対応1被災地以外の多くの地方公共団体から被災地支援のために職員が派遣されます。
派遣された
職員は、
被災地方公共団体の職員とともに災害対応業務に当たったり、
被災地の職員と同様
の通常業務に従事したりします。
派遣される期間によって勤務の苦労や受けるストレスが変
わってくるので、
それぞれに適したセルフケアや組織としての対応が必要となります。
ストレスを感じたとき、
それを押さえ込んで蓄積させてしまうよりも、
上手に
発散させることが大切です。
喜怒哀楽の感情を表に出すこと、
中でも
「笑うこと」と「泣くこと」
がストレスの解消に有効です。 「笑うこと」
は、
身体面では免疫系に良い影響を与え、
精神面ではストレスを
和らげ、
人間関係を良くして、
不安や緊張を緩和させることが、
さまざまな研究
において確認されています。
一方で、
「泣くこと」
も有効なストレス解消の方法で
す。
悩んでいることで泣くことも有効ですし、
無関係なことで泣いても効果があ
ります。 「笑うこと」
「泣くこと」
は、
ストレス反応の
「解離症状」
の一つである
「失感情」
を和らげる効果が期待できます。
笑うことや泣くことを受け入れてくれる人の中
でしっかりと笑い、
泣くことで、
豊かな感情を取り戻すことができます。
ときには感情を発散させることも大切
現地の状況がよくつかめないままに派遣されたり、
被災地の悲惨な状況を目の当たりにしたりすること
がある短期派遣では、
発災直後から現れる急性ストレス反応への対処が必要となります。
ストレスへの個人の対応
被災現場を目撃したり、
負荷のかかる災害対応をすることなどから、
出来事の重要
な側面が思い出せなくなる
「解離性健忘」
や、
周囲や自分の現実が変わってしまった
ように感じる
「現実感喪失」
など、
急性ストレス反応のさまざまな症状が起こります。
周囲との関係では、
帰還後、
周囲から称賛され、
「英雄視」
されることがあります。
他方で
「あれだけひどい現場でよく活動した」
などの称賛の声が、
逆に派遣されな
かった職員たちから
「妬み」
を生むことになり、
次第に周囲との関わりを避けて
「孤
立感」を深めてしまうこともあります。
ストレスチェックで自身のストレス状態を把握し、
p.10〜11に掲載のセルフケアに
進みます。
日常生活に支障をきたす症状がある場合は、
速やかに医療機関等専門
家への受診が必要です。
p.9に掲載の被災後すぐに行うストレスチェック
(急性ストレ
ス反応チェック)
を行います。
帰還後
ひと月以内
うつ病を含む気分・不安障害の状態をみるにはp.16に掲載の「K6」
を、
PTSDの症状の有無をみるにはp.17掲載の
「IES-R」
のストレスチェックを行います。
帰還後
ひと月以上経過
短期派遣で
起こり
うるストレス
短期派遣で
起こり
うるストレス
ストレスチェック
ストレスチェック
セルフケア
セルフケア19 災害直後の現場で、
大きなストレスに晒されることが予想される短期派遣。
派遣される職員には、
事前
に被災地の状況を説明し、
ストレスに対して心構えを持ってもらうとともに、
帰還後のケアについて、
準備
を整えておくことが必要です。
組織としての対応
派遣前に
すべき
こと 行った先がどんな状況か、
具体的に知っておくと不安が和らぎます。
被災地側の担当
者などからできるだけ詳細な情報を得ておくことが必要です。
仕事内容も、
平時では経
験のない作業をすることになります。
先に現地に派遣された職員や被災地派遣の経験の
ある人の話を聞く機会を設けられれば、
なおよいでしょう。
事前説明会の開催
必要な人材・人数、
期間などを被災地側と協議し、
適切な人選を行うことが大切です。
被災地の支援に当たるという志を持って赴いても、
それが現場のニーズとマッチしてい
ないと、
熱意の押し付けとなってしまうことにもなりかねません。
せっかく派遣されても活躍の場がなく、
不十分な活動に終わってしまうケースもあり
ますが、
こうした場合、
思ったように活躍できなかったことで自責の念にかられたり、帰還後、
周囲から活躍ぶりを聞かれて辛い気持ちを抱え込んでしまうこともあります。
また、
複数人のチームで派遣することも大切です。
苦労を分かち合える仲間がいることで、ストレスが緩和されます。
ニーズと技能のマッチング
被災地に遠くなく、
かつ安全な場所に宿泊所を探しましょう。
現場までの移動手段や
食事の調達、
十分な装備など、
派遣元でできることは可能な限り準備します。
安全な住まいや食事の確保
派遣先の状況やストレス要因・ストレスケアを
具体的にイメージできる説明を
派遣先との十分な連携が必須
派遣先で経験が活かせるようニーズを確認する
派遣職員が十分に能力を発揮できるよう、
安全な住まいと食事の手配を万全に
1 派遣先の状況・生活環境についての説明
2 派遣先での仕事内容についての説明
3 現地作業のシミュレーションやロールプレイング形式の研修
1 安全確保の仕方
1 被災職員や被災住民への声のかけ方
1 起こりうるストレス反応とストレスケアについての説明
1 一緒に派遣される人との交流
1 前任者との引継ぎ
2 先に派遣された人や派遣経験のある人の話 など123456987事前説明会の
内容
の役割
管理職
派遣されなかった職
員への配慮も忘れな
いようにしましょう。
希望したのに役職や
交代制の都合で派
遣されないこともあ
りますが、
評価が低
いので派 遣されな
かったのでは、
と思
い悩んでしまうこと
もあります。
の役割
管理職
職員の能力・技能だ
けでなく、
家庭の事
情なども考慮して人
選しましょう。20 情報提供
派遣中に
すべき
こと
帰還後に
すべき
こと
災害の現場では、
情報が混乱しがちです。
現地で活動している派遣職員には全体像
が見えないことが多く、
自分の置かれた状況を的確に把握できないことがあります。被災地側と連絡を密にし、
派遣元からも的確な情報提供を行いましょう。
大変な苦労を経験した後は、
活動への評価とねぎらいが必要です。
帰還した職員には、
あん
な悲惨な現場の話をしても理解を得られないだろうと、
被災地の話をしない傾向が見られま
す。
組織とし
て報告会を兼ねた慰労会などを催し、
職場の人間関係がスムーズにいく
よう働き
かけましょう。
また、
派遣チームでの語らいの場を設定することも、
帰還後のケアとし
て大切で
す。
苦労を共にした仲間と語らうことで共感や癒しが得られ、
ストレ
ス解消の効果があります。
短期派遣の職員は、
被災地方公共団体からの要請に応じ、
避難所の運営や罹災証明書の交付
等の災害対応業務の支援や、
被災地方公共団体が行う災害マネジメントの支援などの業務に当た
ります。
被災直後の現場に赴く厳しい業務ではありますが、
被災地住民の方から感謝の言葉をい
ただき、
仕事の励みになったというエピソードを数多く耳にします。
帰還後のねぎらい / 一緒に派遣された仲間との語らいの機会
派遣期間中に状況が変わることも
派遣元からこまめな情報提供を
派遣職員と派遣されなかった職員の心の溝を埋める働きかけを
帰還後、
ストレスチェックや個別面談を、
定期的
(できれば月1回)
に行います。
スト
レス反応が遅れて出る場合もあるので、
しっかりフォローしましょう。
必要であれば、カウンセリングなどにつなげます。
ストレスチェック・個別面談・カウンセリング
帰還後、
しばらく経ってからストレス反応が起きることも
の役割
管理職
カウンセリングなどに
行きたがらない職員も
います。職場の上司が
うまく時間を調整し、
適切なケアを受けられ
るよう、誘導する工夫
をしましょう。
の役割
管理職短期派遣についてIII被災地方公共団体へ職員を派遣する地方公共団体での対応1
現場リーダーは、普段からチーム職員の
様子や個性を把握し
ておきます。
真面目す
ぎる人や、
酒・タバコ
を過剰に摂取する人
は、
ストレスに弱い傾
向があります。
適宜
ミーティングを開き、
職員の様子に変化が
ないか、
リスク評価を
行いましょう。
役割
現場リーダー の
現場で職員が急性ストレス反応を起こし、
ショック状態に陥ることもあります。
そうし
たときには一旦現場から離れた場所へ誘導し、
下記のケアを行います。
誰にでも起こり
うることなので、
対処方法をあらかじめレクチャーしておきましょう。
現場におけるケア
現場で職員が急性ストレス反応を示すことも
適切な対処が必要です
現場での
急性ストレス
への
対処方法
短期派遣職員が行うおもな業務
1 できるだけ現場から離れる。
2 嘔吐などの身体症状があれば、
症状を和らげる。
3(発作的な行動に出たり、
孤立感を深めないために)
ひとりにしない。
1 危険を回避できる安全な場所に移動したり、
誰かがそばについ
て安心な気持ちを持ってもらうなどして、
安全感を確保する。
3 現実感を取り戻す働きかけをする。
3 感情を無理に引き出さない。
など14562321 中長期派遣について2被災地方公共団体へ職員を派遣する地方公共団体での対応III 中長期の派遣は、
長期にわたり現地にとどまり、
災害対応業務や通常業務に従事します。
下記のアンケー
ト調査で、
中長期派遣の実態をみていきましょう。
中長期派遣の特徴
中長期派遣の派遣日数は、
「22カ月
以上」
の割合が37%ともっとも多く、次いで
「4〜6カ月」
23%、
「10〜12カ月」
17%の順で最短3カ月、
最長36カ月、
平均16.2カ月となっています。
中長期派遣では時間外勤務が増え、
約2/3の人が、
月45時
間以上の残業をしています。
派遣期間が長期間になると、
住民と関わる機会も増え、
住民
からの非難や暴言を受ける機会も多くなることがわかります。
中長期派遣では、
今後必要な対策として
「定期的に所属自治体に戻す」
「必ず複数人で派遣する」
をあげた人が多く、
長期間の派遣にストレスを感じていることが窺えます。
被災地職員と同等の労働環境とストレスケア体制を整えるととも
に、
派遣元の上司や人事担当者が被災地方公共団体と定期的に連絡をとり、
時間外勤務や健康状態などの見守り体制
をしっかりと行うこと、
定期的・強制的に派遣元に帰還させてストレス源との物理的距離を保ち、
心の健康の維持や回
復に努める必要があると考えられます。
(注記)上記は、
『災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究報告書』
を、
監修者が追加分析したものです。
被災地方公共団体に職員を派遣した地方公共団体
(3団体)
に勤務し、
実際に被災地に派遣された職員261名のうち、
派遣日数を記載した197名を分析対象に、
月単位で派遣された職員30名を中長期派遣、
日数単
位で派遣された職員167名を短期派遣としたアンケート調査の結果に基づいています。
派遣期間
45時間
以上
36.7%
30時間
以内
36.7%
なかった 13.3%
勤務の苦労
(多い順) 今後必要な対策
(多い順)
順位 内容
先が見えない仕事が多く辛かった
仕事上のスケジュールがうまく立てられなかった
職場の方針に納得できないことがあった
人手不足により苦労が多かった
いくら働いても仕事が終わらなかった
派遣元と仕事の手順が違っていて大変だった
暑かったり寒かったり等労働環境が良くなかった
33.3%
30.0%
26.7%2自分の意図したように仕事ができなかった 36.7%1必ず複数人のチームで派遣する 40.0%2345578経験が活かせるように
事前にニーズを確認してから派遣する 30.0%3報告を兼ねて定期的に
所属自治体に戻す 50.0%
安全な住まいや食事の確保 30.0%31
23.3%
23.3%
20.0%
10.0%
順位 内容3.3%派遣後に帰還報告を兼ねた
慰労会を開催する530時間以上
45時間未満
13.3%
中長期派遣職員へのアンケート調査(注記)
結果
その他 22カ月
以上37%10〜
12カ月17%4〜6カ月23%たまに
あった
66.7%
よく
あった
16.7%
全く
なかった
16.7%
住民から非難されたり
怒鳴られた経験
ひと月の時間外勤務22 中長期で派遣される職員は、
少人数で派遣されることが多く、
いわば出向のような形で各
部署に配置され、
派遣先の職員たちと同じように業務を行います。中長期派遣についてIII被災地方公共団体へ職員を派遣する地方公共団体での対応2ストレスを軽くする 4つの発想の転換
長い間派遣されることによって、
さまざまなストレス要因が増える中長期派遣。
外傷後ストレス症状、外傷後ストレス障害
(PTSD)、うつ病、
うつ反応、
燃え尽き症候群、
アルコール依存への対処が必要となります。
ストレスへの個人の対応
ストレスチェックで自身のストレス状態を把握し、
p.10〜11に掲載のセルフケアに
進みます。
日常生活に支障をきたす症状がある場合は、
速やかに医療機関等専門
家への受診が必要です。
趣味・レクリエーション・運動などでの上手な気晴らしは、
長期的に家族や地元
の仲間と離れて仕事をする職員にとって有効なストレス解消となります。
一人でで
きるもの、
複数人で行うものなど、
気晴らしのレパートリーを幅広く持っておくと
状況に応じて活用できます。
また、
小旅行や一時的な帰宅などで、
一時的に被災
地から離れることも、
ストレス解消となります。
ストレスを解消するためには、
普段と異なる発想に切り替えることも大切です。
悲惨な出来事を忘れられず苦しむことがあります。このような記憶は、
完全に消えることはありません。
「思
い出すのは仕方がない」
と、
自分の中で折り合いをつけ
ると気持ちが楽になります。
point 1 忘れられないことを苦しまない
人はつらい苦しみを乗り越えたとき、
成長することも
あります。
こうした考えは他者に押し付けるものではあ
りませんが、
成長できるという希望を持つことは、
スト
レスで苦しむ人にとって救いになります。
point 4 成長への希望を持つ 「〜ねばならない」、「〜すべきでない」、などの自分や
他者を締め付ける考え方は、
これを守れなくなったとき
に自分を責め、
うつへとつながっていきます。
「ちょっと
いい加減になってもいい」、と発想を切り替え、
自分を
楽にする考え方を身に付けることが大切です。
point 3 ちょっといい加減になる
ストレス反応により覚醒状態となり、
休まず活動を続
ける人が多く見られます。
しかし次第に疲労し、
作業効
率が下がりミスが誘発されます。
自分に限界があること
を自覚し、
休憩・休息をとる意識を持つことが、
中長期
派遣のような長期戦には重要です。
point 2 自分の限界を自覚する
うつ病を含む気分・不安障害の状態をみるにはp.16に掲載の
「K6」
を、PTSDの症状の有無をみるにはp.17掲載の
「IES-R」
のストレスチェックを行います。
業務多忙、
先が見えないことへの不安などがストレスとなります。
派遣先での人間関係がストレスとなることもあります。
派遣されてきたのだから休まず働くのが当たり前、
という周囲の過度な期待や視
線がストレスとなるケースもあります。
被災地の職員が休んでいることに、
ストレスを感じることもあります。
中長期派遣で
起こり
うるストレス
中長期派遣で
起こり
うるストレス
ストレスチェック
ストレスチェック
セルフケア
セルフケア23 中長期派遣は、
復興期の被災地方公共団体に比較的長期間派遣され、
派遣先の職員と同様の業務に従
事します。
派遣される職員には、
長期に派遣されることでのストレスについてよく説明するとともに、
派遣
期間中に行う派遣元の組織としての対応をあらかじめしっかり伝えておきます。
派遣前に
すべき
こと
派遣中に
すべき
こと
派遣が長期になるにつれ、
現地の職員と同様に時間外勤務が多くなり、
住民との接触
も増えて、
非難や暴言を受ける頻度も高まります。
多忙な業務に対する精神的な疲労、
地元や家族と離れて暮らすことへの不安、
職場の人間関係など、
長期派遣特有ともいえ
るストレスの要因に、
派遣元がフォロー体制をとって支えていくことを、
具体的に示すこ
とが大切です。
事前説明会の開催
負荷のかかるつらい業務でも、
終わりが決まっていればがんばれるものです。
逆に、
今後どうなるかわからない、
いつ終わるのかわからない、
といった状況がストレスを増
幅させます。
しっかりと期限を定め、
後を引き継ぐ交代要員確保の体制を整えましょう。
負荷の高い部署で働く職員には、
明確な期限を示す
派遣先の人事担当者等と定期的に情報交換し、
派遣された職員の様子を常に把握し
ておくようにします。
業務遂行に問題はないか、
遅刻や早退などが増えていないか、残業時間が増えていないか、
休息をしっかりとっているか、
ストレス反応が出ていないかな
どを確認し、
必要であれば休暇をとらせる、
一旦帰還させるなどの対処をします。
被災地側との情報交換・連携
長期戦ならではのストレスへの対応を具体的に説明
先の見えない不安を取り除く
定期的に情報交換し、
派遣職員の健康状態を確認する
1 派遣先の状況・生活環境についての説明
1 派遣先での仕事内容・引継ぎについての説明
1 派遣元での業務引継ぎについての説明
1 派遣元の定期的なフォローについての説明
1 派遣元への定期的な帰還・対面報告について
(月1回程度)
1 起こりうるストレス反応とストレスケアについての説明
1 心の健康に関する相談先についての説明
1 先に派遣された人や派遣経験のある人の話
など12345678
の役割
管理職
なるべく複 数 人 の
チームで派遣するよ
うにします。
長期間
分かち合う仲間がい
ないと、
うまく感情
を発散する機会が得
られず、
孤独を抱え
てうつなどを引き起
こしてしまいます。
定期的に派遣チーム
でミーティングの場
を設け、
互いに活動
内容や情報を共有し
合うなど、
派遣前に、
周囲からの孤立を防
ぐ仕組みを作ってお
くことが大切です。
組織としての対応
事前説明会の
内容24 派遣期間が長期であるほど、
元の職場に戻る
のにもストレスがかかります。
「慣らし運転」
期間
を作って、
徐々に元の職場に戻していくようにし
ましょう。
派遣期間が終わったら、
しばらく旅行
をして気分転換を図ってもらうなど、
十分な休息
をとって、
現場復帰前のクッションとなる時間を
作るようにしてください。
帰還に当たっての慣らし運転期間を設ける
急な環境の変化に対応できないことも
派遣期間が長期であるほど、
元の職場に戻る
のにもストレスがかかります。
「慣らし運転」
期間
を作って、
徐々に元の職場に戻していくようにし
ましょう。
派遣期間が終わったら、
しばらく旅行
をして気分転換を図ってもらうなど、
十分な休息
をとって、
現場復帰前のクッションとなる時間を
作るようにしてください。
帰還に当たっての慣らし運転期間を設ける
急な環境の変化に対応できないことも
帰還後、
ストレスチェックや個別面談を、
定期的
(できれば月1回)
に行います。中長期派遣の場合、
PTSDやうつ症状を発症しやすい傾向にあります。
p.16に掲載の
「K6」
を、
PTSDの症状の有無をみるにはp.17掲載の
「IES-R」
のストレスチェックを
行い、
必要であればカウンセリングなど専門家の受診へとつなげます。
ストレスチェック・個別面談・カウンセリング
PTSDやうつなどを起こしやすい中長期派遣
ストレスチェックを定期的に実施
帰還後、
ストレスチェックや個別面談を、
定期的
(できれば月1回)
に行います。中長期派遣の場合、
PTSDやうつ症状を発症しやすい傾向にあります。
p.16に掲載の
「K6」
を、
PTSDの症状の有無をみるにはp.17掲載の
「IES-R」
のストレスチェックを
行い、
必要であればカウンセリングなど専門家の受診へとつなげます。
ストレスチェック・個別面談・カウンセリング
PTSDやうつなどを起こしやすい中長期派遣
ストレスチェックを定期的に実施中長期派遣についてIII被災地方公共団体へ職員を派遣する地方公共団体での対応2帰還前後
にすべき
こと
の役割
管理職
帰還した職員を、
職場
全体でねぎらいましょ
う。
派遣期間中、
残さ
れた職員が仕事の穴
を埋めるなど、
心理
的に溝ができている
場合もあります。
うま
く復帰できるよう、管理職が双方の橋渡し
の役割をしましょう。
の役割
管理職
の役割
管理職
家族への配慮も必要
です。
情報提供によっ
て、
長期に派遣され
離れて暮らす不安を
取り除くようにしてく
ださい。
守秘義務に
触れない範囲で、どのような仕事に従事
し、
がんばっている
かを知ることで安心
が得られ、
ストレス
が緩和されます。
の役割
管理職
1 アルコール量が急に増えた
1 寝不足がずっと続いている
1 ずっと同じ服を着ているようだ
1 最近ギャンブルを始めた
1 家庭にトラブルが生じている
など14523定期的に地元へ戻る仕組みづくり 定期的に地元へ戻れるような仕組みを整えておきましょう。
派遣元の産業医や保健
師との定期面談を義務付けると、
自然な形で戻ることができ、
同時にストレスチェック
なども行うことができます。
帰還した際に、
面談などをしながら、
職場外の生活に乱れが生じていないかにも注
意を払いましょう。
下記のような状態が見受けられる場合は、
ストレス反応によるもの
と疑われます。
派遣元での面談を義務付ける
職場外の
生活の
チェックポイント
中長期派遣の職員は、
被災地の復旧・復興事業を支援するための応援として、
被災者の安否確認
の回答、
義援金や復興交付金の申請に関わる事務、
仮設住宅の入退去事業などの被災者支援に関
わるさまざまな業務、
土木や建設、
農業土木、
林業などの専門技術を要する業務、
また、
税務、
生活
保護、
高齢者福祉などの通常業務の支援などを行います。
必要とされる部署で自身の経験や技能を
活かしながら、
日々、
被災地の職員の一員として業務に当たります。
中長期派遣職員が行うおもな業務25
「BCP
(事業継続計画)」とは、
災害時に行政自らも被災し、
人・物・情報などさまざまな資源の活用が
制約を受ける状況下において、
優先的に実施すべき業務を定め、
非常時の業務執行体制、
対応手順、事業継続に必要な資源の確保の方法などを、
あらかじめ定める計画です。
防災対策を定めるものとしては、
「地域防災計画」
や、
さらに具体的な体制や手順を定めた
「災害対応マニュアル」
などがありますが、 「BCP」
は、
地方公共団体自体が被災した場合においても、
非常時優先業務の実施を確保するために策定
するものです。
実効性の高いBCP
(事業継続計画)
とは
BCPは、
災害の規模について考慮しなけれ
ばなりません。
災害の規模が大きいほど、稼働できる人員が少なくなります。
稼働できる人
員が80%だったら、
50%だったらどうするか、
何ができるかという形で、
ケース別にBCPを
策定する必要があります。
BCPを定めるに当たって特に重要な7要素
のひとつに、
「職員のメンタルヘルス対策」が挙げられます。
非常時優先業務の遂行に必要
な人数の職員の参集体制を確保するために
も、
職員のストレスケアが大切となります。
人員の確保ができない場合に備えて、
他の
地方公共団体からの派遣体制を築いておくこ
とも大切です。1今後被災地方公共団体となった場合への準備IV被災地方公共団体となった
場合への準備
出典:
『市町村のための業務継続計画作成ガイド』
(内閣府 防災担当 平成27年5月)
非常時優先業務のイメージ
大規模な災害があっても優先して実施すべ
き業務
(非常時優先業務)、災害応急対策業
務や早期実施の優先度が高い復旧・復興業務(応急業務)、業務継続の優先度が高い通
常業務が何かを検討します。
各部門で、
実施すべき災害対応業務を時系
列に決めていきますが、
その際に、
どの業務に
どのくらいの人員が必要か、
その確保につい
ても同時に考えておかなければなりません。
災害の規模と人員の確保
災害の規模と人員の確保
参考:
『市町村のための業務継続計画作成ガイド』
(内閣府 防災担当 平成27年5月)
に加筆
業務継続の優先度が高いもの
早期実施の優先度が高いもの
地域防災計画による
災害応急対策業務
通常業務
地域防災計画による
災害復旧・復興業務
発災後の
他の新規発生業務非常時優先業務応急業務首長不在時の
明確な代行順位
および職員の参集体制
非常時優先業務を検討する
非常時優先業務を検討する
災害時にもつながりやすい
多様な通信手段の確保
非常時優先業務の整理
BCPに特に重要な7要素
本庁舎が
使用できなくなった場合の
代替庁舎の特定
電気、
水、
食料等の
確保
重要な行政データの
バックアップ
職員のメンタルヘルス対策26 時間の経過とともに、
必要な業務が変わっ
ていきます。
応急業務は縮小していきますが、
徐々に発災直後は停止していた通常業務が増
加していくことに留意しておきましょう。
この時間軸は、
大規模な災害ほど後ろ倒し
になる傾向があり、
非常時優先業務と通常業
務の同時進行は長期戦になります。
こうした
中で、
職員が心の健康を損ねて離脱してしま
わないよう、
必要な時点で多忙となる部署を
重点的に、
ストレスチェックや産業医等による
健康相談、
個別面談などのメンタルヘルス対
策を行うようBCPに盛り込むことは必須とい
えます。
災害に見舞われたときに、
地方公共団体として行政機能を維持し、
非常事態に対応できる
よう、
あらかじめBCP
(事業継続計画)
を策定しておかなければなりません。
BCPを実行
に移すために必要な職員のメンタルヘルス対策を盛り込んでおくことは、
実効性の高い
BCPを作る際に欠かせない要件です。被災地方公共団体となった場合への準備IV今後被災地方公共団体となった場合への準備1
発災後に市町村が実施する業務の推移
出典:
『市町村のための業務継続計画作成ガイド』
(内閣府 防災担当 平成 27 年5月)
時間の経過とともに
必要な業務が変わっていく
時間の経過とともに
必要な業務が変わっていく
災害が起こる前に、
事前教育やメンタルヘルス研
修を行い、
事前の心構えを持つことで、
被災時・被災
後に受ける心のダメージを軽減することができます。
この地域ではどんな災害が起きうるか、
自身の身の
上にどのようなことが起こる危険があるのか、
そして、
そのときどう対処するのか、
具体的にイメージトレー
ニングできるように、
ロールプレイングの手法を用い
た研修が有効です。
地方公務員安全衛生推進協会の
「メンタルヘルスマネジメント実践研修」
や、
内閣府の
「防災スペシャリスト養成講座」、人と防災未来セン
ターが実施する研修など、
外部の研修・訓練を活用
する方法もあります。
こうした取り組みは1回きりで
はなく、
繰り返し行ってください。
組織として講じる対策についてもしっかり説明し、必要なときに活用できるようにしておきましょう。
心のダメージを軽減
災害に対する
心構え
防災意識
の醸成
自身に
起こりうる事態
への心構え
いろいろな事態
を想定した
イメージ
トレーニング
自身に
起こりうる
ストレス反応
への心構え
ストレスの知識
ストレス反応の
多くは一過性
ストレスケアで
回復できる
必要な事前の心構え
事前教育/メンタルヘルス研修業務レベル(量)
約2週間 約1カ月 時間軸
応急業務 非常時優先業務に該当する通常業務 非常時優先業務以外の通常業務
非常時優先業務に
該当する通常業務
非常時優先業務に
該当する通常業務
は、
発災後も継続
応急業務
発災後、
市町村が実施
する業務は、
新たに応
急業務が発生すること
により急激に増加
非常時優先業務以外の通常業務
発災直後は停止するものの、
徐々
に再開することが必要
業務レベル
100%超過分は
受援などにより
対応
発災27 応援要請に対し、
的確かつ迅速に応えられるよう、
あらかじめ応援計画を策定しておきましょう。
実際に災害が発生した場合には、
さまざまな部署の
職員が派遣されるため、
組織横断的に調整を行う応
援本部や応援班、
応援担当などの設置が必要となり
ます。
支援のニーズの把握、
実際の応援状況の取りま
とめ、
応援に係る人的・物的資源の管理などもここで
行います。
応援計画の策定、
応援本部などの設置
2 被災地方公共団体へ
職員を派遣するための準備
派遣職員を派遣先でしっかりと機能させるため、
下記のポイントを押さえた体制づく
りを行いましょう。
有効に機能する派遣体制の構築を目指す
今後被災地方公共団体となった場合への準備IVくろまる支援のタイムラグやミスマッチ
くろまる派遣先、
派遣元のルールやシステム、
組織規模の違いから生じる混乱
くろまる宿泊所など、
派遣職員の生活環境の問題
くろまるさまざまな要因による派遣職員のストレス
くろまる業務をマネジメントする担当の不在 など
災害派遣で起こりうる問題
災害派遣で起こりうる問題2Point
応援派遣に応じられる職員のリストをあらかじめ作成しておきます。
現役の職員はもちろん、OBの方にも広く募りましょう。
職員の派遣により生じる欠員について、
派遣される職員の所属部署と
事前に調整しておく必要があります。
欠員の補充として、
OBを一時的に採用するなどの方法も考え
られます。
リストは定期的に更新し、
突然来る応援要請にしっかり対応できるよう整えておきましょう。
応援派遣に応じられる職員のリストを作成1Point28 近隣地域での災害、
あるいは全国規模の大災害が発生したとき、
地方公共団体では、
応援
の職員を派遣する仕組みになっています。
いつ災害が起き、
派遣要請が来ても大丈夫なよ
うに災害派遣の体制を整備しておくとともに、
派遣職員のメンタルヘルス対策についても、
いつ、
誰が、
どのように行うのか、
といった方針をしっかりと定めておきましょう。被災地方公共団体へ職員を派遣するための準備2IV今後被災地方公共団体となった場合への準備「災害マネジメント総括支援員」
は、
被災市区町村の長への助言、
幹部職員との調整、
被災市区町村に
おける応援職員のニーズ等の把握、
被災都道府県をはじめとする関係機関及び総務省との連携等を通
じて、
被災市区町村が行う災害マネジメントを総括的に支援するために、
地方公共団体が応援職員とし
て派遣する者として、
総務省が管理する名簿に登録されている者のことをいいます。5Point
被災地方公共団体の職員が、
ほとんど経験したことのない災害対応業務のマネジメントなどを行
うのは非常な困難を伴います。
このような場合は、
災害対応に関する知見を持つ地方公共団体職員
によるマネジメントの支援が必要とされます。
災害対応に知見を有する
「災害マネジメント総括支援員」
が総務省の名簿に登録されており、
被災
地方公共団体の災害マネジメントの支援を行います。
災害マネジメント総括支援員等が構成する
「総
括支援チーム」
が被災地に派遣され、
発災直後の混乱した行政機能の早期の立て直しを支援します。
各地方公共団体は、
災害マネジメント総括支援員等の登録のための研修や訓練、
被災地への派
遣等を行い、
積極的な人材の育成に努めましょう。
人材の育成
災害が発生し、
被災都道府県内の地方公共団体による応援職員の派遣だけでは対応困難な場
合、
「応急対策職員派遣制度
(被災市区町村応援職員確保システム)」に基づき、
被災地域ブロック
内を中心とした地方公共団体による応援職員の派遣を行い、
それでも対応しきれない大規模災害
の場合は、
全国の地方公共団体による応援職員の派遣を行う仕組みになっています。
また、
地方公共団体同士、
地方公共団体と関係団体、
民間などとの間で結ぶ協定として
「災害時
相互応援協定」
があります。
被災時に、
必要な物資の供給や医療救護活動、
緊急輸送活動等のさま
ざまな復旧活動について、
被災地方公共団体への支援を行う協定です。
近い地域では、
同時に被災
してしまう可能性がありますので、
遠方の地方公共団体などと積極的に協定を結びましょう。
でき
れば人事交流によって事前にシステムの違いを把握するなど、
平素から締結先との情報交換を行っ
ておくことをおすすめします。
災害時相互応援協定を積極的に結ぶ4Point
派遣期間中および前後のストレスケアについて、
いつ、
誰が、
どのように実施するのかを応援計
画の中に組み込んでおきます。
p.18〜25でも記載したとおり、
派遣先でのストレス要因は、
災害の規模、
派遣先の状況、
派遣期間
などによって多岐に渡ります。
ストレスチェックや一時帰還など、
必要に応じて柔軟に設定しましょう。
応援派遣職員のメンタルサポート3Point29 東日本大震災、
熊本地震、
西日本豪雨の経験から学ぶ
過去の災害から学ぶことV大地震
津波 「平成23年東日本大震災」
から学ぶ
『東日本大震災後、
地方自治体のストレスケア対策に関する探索的調査』
(桑原裕子
(筑波大学大学院人間総合科学研究科/髙橋幸子
(東洋大学HIRC21)
松井豊
(筑波大学人間系))より
くろまる調査対象者:宮城県、
岩手県で被災した沿岸部の18地方公共団体のうち、
協力を許可した7地方公共団体、
有効回答は6地方公共団体。
くろまる調査時期:平成27年
特に有効であった支援の効果についての回答
(抜粋)
東日本大震災は、
平成23年3月11日に発生した、
三陸沖の宮城県牡鹿半島の東南東を震源としたマグニ
チュード9.0の巨大地震です。
最大震度7の大地震、
広範囲に爪痕を残した未曾有の大津波は、
経験したこと
のない大災害をもたらし、
大量の建物倒壊、
死者、
行方不明者、
負傷者、
帰宅困難者が発生、
大規模な自衛隊、
緊急消防援助隊等の部隊派遣とともに、
広く全国の地方公共団体からも職員派遣が行われました。
概要
「東日本大震災後、
地方自治体で行われたストレスケア対策に関する調査」
より
*この研究は、
RISTEXから筑波大学への委託研究
(災害救援者のピア
サポートコミュニティの構築)
により実施された。
「個別面談や健康相談」
の必要性が高いと判断さ
れたのは、
発災後、
遺体
捜索や遺体安置などのご
遺体と関わる業務につい
た職員や、
物資配給、住民対応窓口など被災者の
感情を直接受ける業務に
ついた職員であった。
学ぶべきこと
くろまる職員のストレスケアを組み込んだ防災計画の策定
くろまる組織が職員の被災状況や業務内容を把握し、
職員の精神的健康に配慮する必要性
くろまる他の地方公共団体からの派遣職員の継続的・長期的な派遣
くろまる継続的なストレスケアの必要性 などが、
今後の課題としてあげられた。
被災職員への今後あるべきストレスケア対策と支援についての回答
(抜粋)
くろまる多くの地方公共団体が、
健康相談や医師等による面
談などが特に有効であった支援としてあげており、
地元の専門機関から支援を受けていた。
くろまる面談の必要のある職員ほど、
時間を作ろうとせず、
なかなか利用しないなどの状況があったが、
定期的
に相談を実施することで、
何かあったときに相談で
きる安心感があった。
くろまる
「個別面談」
の効果として、
何かあったときに相談で
きる安心感、
経験したことや思いを吐き出せる場と
しての効果があった。
くろまる
「飲み会」
は、
地元の住民の目を気にしなければなら
なかったが、
「飲まないではいられない気持ちもあっ
た」
などの切実な回答もあった。
職員自身のケア
職場によるケア
専門家によるケア
応援・派遣職員
によるケア
応援職員へのケア
まずは自分の命をしっかり守る
産業医等のストレスケア
心のケアの面接の義務化
(月1回)など
「全部地元職員で」
と思わず、
派遣・応援で来てくれた職員と
一緒にやる など
派遣職員のギャップ
(業務過多・やることがない等)
への対
応 など
業務量の均衡を図り、
十分な休養をとらせる防災計画
(BCP)
に職員の処遇やケアについて盛り込む
「職員に特に有効であった支援」
についての回答
(抜粋)30 東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨の経験から学ぶV過去の災害から学ぶこと近年、
大型台風や集中豪雨、
地震などの大規模な災害が頻発し、
多くの地方公共団体職員が、
その対応に当たっています。
私たちは、
さまざまな困難の中、
災害対応に当たる職員たちの経
験から学び、
今後に備えなければなりません。
過去に発生した
「平成23年東日本大震災」
「平
成28年熊本地震」
「平成30年7月豪雨
(通称
「西日本豪雨」)」
の事例から、
そのとき起こっ
たことを振り返り、
今後に活かすべきことを拾い上げていきましょう。
地 震 「平成28年熊本地震」
から学ぶ
豪 雨 「平成30年7月豪雨
(通称
「西日本豪雨」)」
から学ぶ
出典:
『自治労通信 2019年冬号
(No.793)』(特集 災害後のストレス
「熊本地震による自治体等職員のメンタルヘルス健康調査 結果の概要」)
(自治労本部、
自治労熊本県本部、
立教大学現代心理学部・香山リカ教授による共同調査)
より
くろまる調査対象者:被災した熊本県の11自治体職員
(回収調査票4002枚、
うち熊本地震発生前の入職者3732枚。) くろまる調査時期:平成30年
「熊本地震による自治体等職員のメンタルヘルス健康調査 結果の概要」
より
平成30年7月上旬に、
過去に例のない雨量の豪雨が西日本を中心に降り続き、
広島県、
岡山県、
愛媛県、
大阪府などの広範囲で河川の氾濫や土砂崩れ、
家屋への浸水、
家屋損壊などが起こり、
死者、
行方不明者も
多数出るなどの大災害となりました。
概要
平成28年熊本地震は同年4月に熊本県東部で発生、
二度の震度7の激震、
震度6クラスの余震が熊本県、
大分県にわたる広範囲に多発し、
建物倒壊などの甚大な被害をもたらした大地震です。
多くの地方公共団体
職員、
派遣職員が災害対応に当たりました。
概要
出典:
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス 調査結果 速報」
くろまる調査対象者:平成30年7月豪雨で被災した地方公共団体職員
(回収調査票846枚、
うち有効回答819枚。) くろまる調査時期:令和元年9月〜10月
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス 調査結果 速報」
より
長引く復興業務と疲弊
する職員に対応するた
め、
あらかじめ職員の
"こころのケア" を行う
ための体制を整えてお
くことが必要。
くろまる
「震災前と比べ現在の業務量が増えて
いる」
が復興業務従事者では 57.8%
くろまる
「震災前と比べ現在の時間外労働時間が増
えている」
が復興業務従事者では 46.4%
平時からの研修等、
応援職員の
配置を盛り込んだBCPの策定な
どの事前の準備と、
一定期間後に
業務量の多い部署への人員再配
置や業務の再配分を行うなど、事後の調整が求められる。
また、長引くストレス状態に対応した長期
間のメンタルヘルス対策も必要。
学ぶべきこと
学ぶべきこと
震災後2年近く経過した後の調査だが、
労働環境が震災前の状態には
戻っていなかった。
自治体等職員の "こころのケア"
実現の問題点
(熊本地震経験職員 4つ以内選択回答)1位2位3位4位
職場に余裕がなく対応できない 38.0%
ケアの必要な人が誰か分からない 37.0%
必要な人への対応方法が分からない 30.6%
ケアが役に立つのか分からない 28.1%
くろまる復旧業務と通常業務が重なり、
非常に忙しかった 43.6%
くろまる人手不足により苦労が増した 43.2%
くろまる仕事量において部署間に
不公平感があった
40.3%
くろまるこれまでに経験のない業務に従事し、
慣れるのに苦労した 38.8%
くろまるPTSD症状を有するリスクが
高い人 7.2%
くろまる気分・不安障害である可能性が
高い人 6.0%
災害後から現在までの勤務に関する
苦労について、
多かった回答
被災後2年経過後のストレスの状況
(心理テストIES-R・K6による)31 監修者より
「災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策調査研究」
検討委員会委員等
検討委員会委員
(3名)
座長 松井 豊 筑波大学 人間系名誉教授
髙橋 幸子 専修大学 人間科学部非常勤講師
(公認心理師)
飯山 尚人 総務省 自治行政局公務員部安全厚生推進室長
オブザーバー
(3名)
加藤 壮一 熊本県 知事公室危機管理防災課主幹
檜垣 元 広島県呉市 総務部人事課人事研修グループ主査
加藤真木子 地方公務員災害補償基金 企画課主査
一般財団法人 地方公務員安全衛生推進協会 企画課
事務局
災害時における地方公務員のメンタルヘルス対策マニュアル
松井 豊 筑波大学 人間系名誉教授
髙橋 幸子 専修大学 人間科学部非常勤講師
(公認心理師)
地方公務員災害補償基金 令和3年3月
〒102-0093 東京都千代田区平河町2-16-1平河町森タワー 8 階
TEL 03-5210-1342(企画課)
監修
発行
このマニュアルは、災害時に不眠不休で
働く被災地方公共団体職員の皆さま、被災
地の応援に駆けつける被災地外の地方公共
団体職員の皆さまが、こころの健康を維持
しながら復旧・復興業務に当たられることを
目指して作成したものです。被災経験のある
地方公共団体職員の皆さまのご意見をもと
に、被災後のメンタルヘルス対策について、
個人でできること、組織がやるべきことを具
体的に示しました。被災後にご活用いただ
くことはもちろんのこと、事前の備えとして
ご一読いただき、ご自身に何が起こりえるの
か、どうすればご自身を守れるのかを考える
きっかけにしていただけると幸いです。
(髙橋 幸子)
被災地で心理支援を行う中で、さまざま
な被災地公務員のお話を聞きました。避難
所で物資を被災者に配りながら、自分は賞
味期限を過ぎた食品を一日一食しか口にし
なかった職員。窓口で大声を出して怒鳴る
住民に頭を下げ続けた職員。何カ月たって
も睡眠時間を削って業務をし続けた職員。
こうした被災地の地方公共団体職員や被災
地に派遣された職員の心の健康を護るため
に、このパンフレットを監修しました。災
害が起こる前に、災害で生じる心身の問題
を知り、対策を採って、災害に対処する職
員が組織全体で護られることを祈っており
ます。
(松井 豊)
参考文献
『惨事ストレスとは何か』
(松井 豊 著/株式会社河出書房新社)
『市町村のための業務継続計画作成ガイド』
(内閣府 防災担当 平成27年5月)
『自治労通信 2019年冬号
(No.793)』『災害発生時における自治体組織と人のマネジメント』
(市川宏雄・中邨 章 編著/第一法規株式会社)

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