総務省 規制の事前評価書
( スプリンクラー設備に関する基準の見直し )
所管部局課室名:総務省消防庁予防課
電 話: 03-5253-7523
評価年月日:平成25年 10 月 23 日
1 規制の目的、内容及び必要性
(1) 規制の改正の必要性(現状及び問題点)
<現状>
消防法施行令別表第一において、防火対象物を主としてその用途により区分して掲げること
により、消防法上の規制が特になされるべきものを政令上取り上げる場合に、その項番号によ
って特定できるようにしている。例えば、消防法第 17 条の消防用設備等の設置・維持の義務が
かかる防火対象物は、消防法施行令別表第一に掲げる防火対象物とされており、消防法施行令
別表第一の用途区分ごとに、構造・規模等に応じて、必要な消防用設備等の設置及び維持の基
準が異なっている。
現行の消防法施行令別表第一では、高齢者、障害者等の福祉援護施設については、
(6)項ロ
及びハに区分している。
このうち、消防法施行令別表第一(6)項ロに区分される施設は、主として自力避難困難な
者が入所している火災危険性の高い社会福祉施設である。このことにかんがみ、火災の延焼抑
制機能を備える構造を持つ施設を除き、延べ面積 275 m2以上の施設にスプリンクラー設備の設
置を義務付けており、他の用途区分よりも厳しい基準としている。
275 m2とした理由は、
(6)項ロの防火対象物には自動火災報知器等の設置が義務づけられる
こと、収容人員 10 名以上の施設には防火管理者の選任も義務づけられること等にかんがみ、一
般住宅と同程度に小規模な施設にあっては、スプリンクラー設備を設置しなくとも、入所者が
安全な時間内に避難しうると考えられたためである。
「一般住宅と同程度」の規模については、
「平成 15 年住宅・土地統計調査」によると、延べ
面積 249 m2以下の住宅が全体の 97.5%を占めていることに加え、グループホーム等の施設には
通常の住宅には存在しない職員事務室等が設けられ、
約1割程度の増要因となることを踏まえ、
275 m2としている。
<問題点>
平成 25 年2月に長崎市で発生した認知症高齢者グループホーム火災
(死者5名、
負傷者7名)
を受け、
火災の調査を行い、
認知症高齢者グループホーム等火災対策検討部会を開催した結果、
延べ面積が 275 m2未満の高齢者、障害者等の福祉援護施設であっても、自力避難困難な者を安
全に避難させることができない高い火災危険性が改めて認識された。1 また、同検討部会においては、
(6)項ロに掲げる防火対象物においては、火災発生時に、自
力避難困難な入所者に対して、火災発生の認識や安全な場所への移動等の介助がなければ避難
できない者については、入所者の生命、身体の安全を確保することが極めて困難であると指摘
されている。
(2)規制の改正の目的及び内容
【規制改正の目的】
火災被害の軽減の観点からは、速やかな避難誘導が必要であるが、避難に介助が必要な者を
安全に避難させるためには、人力に頼らず自動的に初期消火・延焼防止を行えるスプリンクラ
ー設備を活用し、避難時間をより多く確保することが有効である。
特に、今回の火災が発生した高齢者関係施設(
(6)項ロ(1)
)については、入所している
高齢者の特性や火災被害の状況等から、特に避難時間を確保する必要がある。
【規制改正の内容】
以上を踏まえ、別表第一(6)項ロ(1)については、原則としてスプリンクラー設備の設
置基準を強化することとし、延べ面積に関わらずスプリンクラー設備の設置を義務づけること
としたい。
また、別表第一(6)項ロの他の施設(
(6)項ロ(2)〜(5)
)についても、現行の用途
区分において火災危険性が高齢者関係施設と同程度に高いと位置づけられていることから、そ
の実態を踏まえながら、スプリンクラー設備の設置基準を強化することとしたい。
ただし、入所者の避難の困難性に着目し、別表第一(6)項ロ(2)、(4)及び(5)に掲
げる施設のうち、介助がなければ避難できない者として総務省令で定める者を主として入所さ
せるもの以外のものにあっては、現状の設置基準を維持するものとする。
2 規制の費用
(1)遵守費用について
平成 25 年2月に消防庁が行った実態調査では、
(6)項ロの施設うち 275 m2未満でスプリン
クラー設備が設置されていないものは、4,951 施設である。同時に厚生労働省が行った 275 m2
未満の認知症高齢者グループホームへの聞き取り調査によると、スプリンクラー設備設置に約
13,000〜23,000 円/1m2程度の費用が必要とされている。4,951 施設の総床面積 829,392 m2を
乗じて、設置に約 110〜190 億円を要すると見込まれる。
なお、スプリンクラー設備設置に係る費用は、厚生労働省による補助金、9,000 円の範囲内
で都道府県知事が定めた額/1m2の対象となっている。
(2)行政費用について
消防機関等の関係行政機関や社会福祉関連施設等への制度改正の周知・徹底など、改正後の2 制度の円滑な施行に向けた準備に要する費用が発生する。
(3)その他の社会的費用
今回新たにスプリンクラー設備が設置される場合、
消防法第 17 条の3の3に基づく点検報告
義務が生じるが、延べ面積 1,000 m2未満のものについては有資格者によらず自ら点検すること
が可能であるため、点検費用については限定されたものになると考えられる。
3 規制の便益
(1) 遵守便益
延べ面積に関わらずスプリンクラー設備の設置義務を課し、火災発生時に避難が困難な高齢
者及び障害者等の避難時間を確保することにより、消防法施行令別法第一(6)項ロに掲げる
福祉援護施設の入所者の生命、身体、財産を保護の徹底が図られるものと考えられる。
(2)行政便益
スプリンクラー設備について、火災事例によって認識された火災危険性を踏まえた設置基準
の見直しを行うことで、高齢者及び障害者等の福祉援護施設において、実態に即した火災予防
行政の推進を図ることができる。
また、火災発生時の消防機関の活動の負担が軽減されると見込まれる。
(3)その他の社会的便益
高齢者及び障害者等の福祉援護施設において、火災発生時の被害の軽減等が図られることに
よって、火災予防の実効性の向上に資するものと考えられる。
4 政策評価の結果(費用と便益の関係の分析等)
上記のとおり、遵守費用以外の費用及び便益は、定量的に把握することが困難なものである
ため、政策の実施に当たっては、政策の実施者、規制の対象者等、各方面の意見を丁寧に取り
入れながら、慎重な検討を重ねていく必要がある。
スプリンクラー設備に関する基準の見直しに当たっては、
「予防行政のあり方検討会」の部会
として、有識者で構成される「認知症グループホーム等火災対策検討部会」及び「障害者施設
等火災対策検討部会」
を開催し、
業界関係者も交えて調査・検討を行ってきたところであるが、
認知症グループホーム等火災対策検討部会の報告書において、
「認知症高齢者グループホームは、
最も介助者が少ないときには1名の介助者が最大9名の認知症高齢者を介助する場合もあり、
介助者による避難誘導を補完するためにも、ハード面の対策を併せて講じる必要がある。避難
誘導に要する時間を確保するための具体的な対策として、従前は 275 m2以上の施設のみに義務
づけているスプリンクラー設備を、原則として全ての施設に設置するよう、設置対象を見直す3 べきである。
」又、高齢者福祉施設以外の社会福祉施設についても、別途設置した「障害者施設
等火災対策検討部会」で火災予防対策の詳細について検討をし、
「本検討部会の検討結果を踏ま
え、小規模施設における入居者の特性等に配慮しつつ、すみやかに結論を得るべきである。
」と
結論づけられており、障害者施設等検討部会の報告書案において、
「介助者による避難誘導を補
完するためにも、ハード面の対策を併せて講じる必要がある。避難誘導に要する時間を確保す
るための具体的な対策として、従前は 275 m2以上の施設のみに義務づけているスプリンクラー
設備を、原則として全ての施設に設置するよう、設置対象を見直すべきである。
」と結論づけら
れた。
また、スプリンクラー設備の設置にあたっては、施設側に費用負担が生じることになるが、
国民の生命、身体及び財産を保護すること等をもって安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増
進に資することが消防法の目的である(消防法第1条)ことに鑑みれば、当該目的達成のため
に防火対象物の関係者が消防用設備等を設置することは、社会上の責務であると捉えられる。
加えて、検討部会には、福祉援護施設の代表団体関係者も参加しており、規制強化に対する合
意は概ね得られていること、今回規制の対象になる小規模な福祉援護施設に対しては、比較的
廉価(3分の1〜7分の1程度)な特定施設水道連結型スプリンクラー設備の設置が許容され
ていること(消防法施行令第 12 条第2項第4号)等、規制を最小限に留めているものと考えら
れる。
以上を総合的に勘案すれば、今回の改正には妥当性があるものといえる。
5 有識者の見解その他関連事項
今回の改正は、
「予防行政のあり方に関する検討会」
(委員長)
(委員長:平野敏右 東京大学名
誉教授)の部会として開催された「認知症グループホーム火災対策検討部会」の報告書及び「障
害者施設等火災対策検討部会」の報告書案を踏まえたものである。
「認知症グループホーム火災対策検討部会」
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h24/gh-kasaitaisaku/index.html
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h25/gh-ksaitaisaku/index.html
「障害者施設等火災対策検討部会」
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h25/shougai-ksaitaisaku/index.html
6 レビューを行う時期又は条件
今後の火災予防の実態を踏まえつつ、必要があると認められるときは、レビューを行うものと
する。
7 代替案との比較その他
避難に介助が必要な者を安全に避難させるためには、人力に頼らず自動的に初期消火・延焼防4 止を行えるスプリンクラー設備を活用し、
避難時間をより多く確保することが有効である。
今回、
現行の基準では自力避難困難な者を安全に避難させることができない高い火災危険性が認識さ
れた事態を受け、スプリンクラー設備の設置基準を強化するものであるため、代替案は想定され
ない。5

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