第一七一回
衆第一〇号
水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法案
目次
前文
第一章 総則(第一条−第四条)
第二章 救済措置の方針等(第五条)
第三章 水俣病問題の最終解決に向けた取組等(第六条・第七条)
第四章 公的支援を受けている関係事業者の経営形態の見直し(第八条−第十六条)
第五章 指定支給法人(第十七条−第二十九条)
第六章 雑則(第三十条−第三十五条)
第七章 罰則(第三十六条−第四十条)
附則
公式確認から五十年以上が経過した水俣病は、我が国における公害問題の原点であり、地域住民に甚大な健康被害をもたらしたばかりでなく、地域社会にも広範かつ重大で深刻な影響を及ぼした。
これまで水俣病問題については、平成七年の政治解決等により紛争の解決が図られてきたところであるが、平成十六年のいわゆる関西訴訟最高裁判所判決を機に、新たに水俣病問題をめぐって多くの方々が救済を求めており、その解決には、長期間を要することが見込まれている。
こうした事態をこのまま看過することはできず、公害健康被害の補償等に関する法律に基づく判断条件を満たさないものの救済を必要とする方々を水俣病被害者として受け止め、その救済を図ることとする。これにより、地域の方々が水俣病の苦難の歴史から解放されるよう、地域における紛争を真に終結させ、水俣病問題の最終解決を図り、環境を守り、安心して暮らしていける社会を実現すべく、この法律を制定する。
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、水俣病被害者を救済し、及び水俣病問題の最終解決をすることとし、救済措置の方針及び水俣病問題の最終解決に向けて行うべき取組を明らかにするとともに、これらに必要な補償の確保等のための事業者の経営形態の見直しに係る措置等を定めることを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「関係事業者」とは、水俣病が生ずる原因となったメチル水銀を排出した事業者をいう。
2 この法律において「関係県」とは、公害健康被害の補償等に関する法律(昭和四十八年法律第百十一号。以下「補償法」という。)第二条第二項の規定により定められた第二種地域のうち水俣病に係る地域(当該地域に係る第二種地域の指定が解除された場合を含む。以下「指定地域」という。)の属する県をいう。
3 この法律において「継続補償受給者」とは、旧公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(昭和四十四年法律第九十号)第三条第一項の認定を受けた者、補償法第四条第二項の認定を受けた者その他の関係事業者が排出したメチル水銀により健康被害を生じていると認められた者であって関係事業者との間で当該健康被害に係る継続的な補償のための給付(以下「補償給付」という。)を受けることをその内容に含む協定その他の契約を締結しているものをいう。
4 この法律において「個別補償協定」とは、関係事業者が継続補償受給者との間で締結している協定その他の契約(当該継続補償受給者及びその親族に対する補償給付に関する条項に限る。)をいう。
5 この法律において「公的支援」とは、関係事業者に対し、水俣病に係る健康被害を受けた者に対する補償金及び公害防止事業費事業者負担法(昭和四十五年法律第百三十三号)に基づく負担金の原資等として、地方公共団体又は環境省令で定める団体が行う融資をいう。
(救済及び最終解決の原則)
第三条 この法律による救済及び水俣病問題の最終解決は、継続補償受給者等に対する補償が確実に行われること、救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済されること及び関係事業者が救済に係る費用の負担について責任を果たすとともに地域経済に貢献することを確保することを旨として行われなければならない。
(国等の責務)
第四条 国、関係地方公共団体、関係事業者及び地域住民は、前条の趣旨にのっとり、それぞれの立場で、救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済され、水俣病問題の最終解決が図られるように努めなければならない。
第二章 救済措置の方針等
第五条 政府は、関係県の意見を聴いて、過去に通常起こり得る程度を超えるメチル水銀のばく露を受けた可能性があり、かつ、四肢末梢の修復を図るための事業、地域の振興等に、従前のとおり取り組むよう努めるものとする。
第七章 罰則
第三十六条 第十五条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者は、一年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
第三十七条 第二十三条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第三十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第二十四条の規定に違反して、帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは虚偽の記載をし、又は帳簿を保存しなかった者
二 第二十七条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者
三 第二十八条第一項の規定による許可を受けないで支給業務の全部を廃止した者
第三十九条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第三十六条又は前条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
第四十条 第十六条第一項の規定による命令に違反した者は、百万円以下の過料に処する。
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から施行する。ただし、附則第四条の規定は、この法律の公布の日又は行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成二十一年法律第▼▼▼号)の公布の日のいずれか遅い日から施行する。
(水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法の一部改正)
第二条 水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法(昭和五十三年法律第百四号)の一部を次のように改正する。
第二条第一項中「環境庁長官」を「環境大臣」に、「平成八年九月三十日」を「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法(平成二十一年法律第▼▼▼号)附則第二条の規定の施行の日から平成二十四年十二月三十一日」に、「附則第十二条」を「附則第四条」に改め、同項第二号中「昭和六十二年八月三十一日以前に」を削り、「していた」を「した」に改め、同条第二項中「により環境庁長官が受けた申請に関し」を「による申請を受けた場合には」に改め、同条第三項中「附則第十二条」を「附則第四条」に改める。
第四条を次のように改める。
(認定審査の促進)
第四条 県知事等は、認定等の申請をした者で第二条第一項各号に掲げるものの迅速かつ公正確実な救済のため特に必要があると認めるときは、環境大臣と協議の上、環境大臣に対して、当該認定等の申請に係る事案を移送することができる。
2 県知事等は、前項の規定により事案を移送しようとするときは、当該移送に係る認定等の申請をした者の同意を得なければならない。
3 第一項の規定により事案が移送されたときは、当該移送に係る認定等の申請をした者は、第二条第一項の規定に基づき環境大臣に対して申請を行つたものとみなす。
第五条第三項中「附則第十五条」を「附則第六条」に、「附則第十二条」を「附則第四条」に、「附則第十八条」を「附則第八条」に改める。
(水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法の一部改正に伴う経過措置)
第三条 この法律の施行前に前条の規定による改正前の水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法第二条第二項の規定により行われた認定に関する処分は、前条の規定による改正後の水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法第二条第二項の規定により行われた認定に関する処分とみなす。
(行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部改正)
第四条 行政不服審査法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部を次のように改正する。
第三百十七条の次に次の一条を加える。
(水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法の一部改正)
第三百十七条の二 水俣病の認定業務の促進に関する臨時措置法(昭和五十三年法律第百四号)の一部を次のように改正する。
第六条の見出し中「異議申立て」を「審査請求」に改め、同条中「環境大臣」を「審理員」に、「行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)に基づく異議申立て」を「審査請求」に、「同法第四十八条において準用する同法第二十七条」を「行政不服審査法(平成二十一年法律第▼▼▼号)第三十三条」に、「当該異議申立て」を「当該審査請求」に改める。
理 由
水俣病被害者を救済し、及び水俣病問題の最終解決をすることとし、救済措置の方針及び水俣病問題の最終解決に向けて行うべき取組を明らかにするとともに、これらに必要な補償の確保等のための事業者の経営形態の見直しに係る措置等を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
本案施行に要する経費
本案施行に要する経費としては、初年度約百十五億円の見込みである。