いつ会っても渋さが漂うたたずまい。これが50年一貫する甲斐よしひろ〝らしさ〟だ=東京・世田谷区
日本のロックシーンを半世紀にわたり牽引(けんいん)し続けた甲斐バンドが8日の東京・日本武道館公演で50周年を締めくくる。リーダーの甲斐よしひろ(71)は「メンバー全員が同じ方向を見つめながらやってきたからこそ続けてこられた。固い絆ですよ」と力説。ドラムの松藤英男(71)、ギターの田中一郎(70)に全幅の信頼を寄せ、2004年に他界したリードギター、大森信和さんの思いも激白した。〝4人〟で迎えた50周年、そしてその先へ続く道を聞いた。(ペン・山下伸基、カメラ・尾崎修二)
閑静な住宅街にひっそりとたたずむ一軒家。地下室へと続く階段を降りると、アンプやギターが所狭しと並ぶ。
「裏切りの街角」「HERO〜ヒーローになる時、それは今」「安奈」...数々の名曲を作詞作曲し、歌声を響かせてきた甲斐がメンバーを代表して迎えてくれた。
「ロックに対する純粋な思いで斬新な作品を書き、時代に向けて表現してきたバンド」。その思いだけでデビューから半世紀ブレずに突き進んできたと力を込める。
バンドの礎を聞くと、「僕が書き下ろした作品を大森さんと2人でアレンジしながら作り、松藤がキーボードやギター、ドラムで色合いを足して完成させていく。そこから始まった」と解説。「大森さんが亡くなって21年がたちますが、ライブでは彼の音がいつも隣で聴こえる。田中一郎が大森さんの精神を内在してプレイしてくれていることも大きい」と〝4人〟一緒に歩んだ半世紀を強調する。
昨年11月に突入した50周年はライブハウスツアーに始まり、16年ぶりのオリジナルアルバム「ノワール・ミッドナイト」を6月にリリース。それを引っ提げてホールツアーを展開し、クライマックスが武道館公演。まさに怒濤(どとう)の1年だった。
新アルバムは、それまで書きためていた楽曲やセルフカバー曲を新録するなどして2週間で作り上げた。ラストは大森さんの遺作インストゥルメンタル曲「RING」が飾っている。
制作するにあたり「松藤から急に『大森さんの最後の録音を持っている』と言われてびっくりした。全く知らなかったから」と振り返る。
大森さんが亡くなる半年前、「自由に弾いてください」と松藤がキーボードでメロディーを打ち込んだテープを手渡すと、1週間でバリバリのギターソロが乗った音源が戻ってきたという。
「RING」はアルバムのみならず、今回のホールツアーのエンディングでも必ず流れる。「大森さんと一緒に50周年を迎えたと実感する」としみじみと語る。