このニュースレターは、ユネスコの後援のもと2005年度に土木研究所に設立予定の水災害リスクマネジメント国際センター(仮称:略称ユネスコセンター)の設立準備活動を、広く国内外の関係者の皆様方に知っていただく目的で発行しているものです。
バックナンバーについてはこちらをごらん下さい。ユネスコの全加盟国(191カ国)による意思決定の場である総会に先立って、重要事項の議論を行うための執行委員会(メンバー国58カ国)は、毎年2回、春と秋に開催されています。この4月に開催された第171回執行委員会では、水災害とそのリスクマネジメントに関する国際センターを、ユネスコの後援のもとで土木研究所が設立・運営する旨の日本政府の提案が議題の一つとして取り上げられました。ユネスコ事務局による新センターのフィージビリティ検討結果及びユネスコ日本政府代表部を通じて調整が進められてきたセンター設立に関する合意書案について審議の結果、本件を今秋の総会に諮る旨の決議がなされたところです。
これまでいろいろな立場からご指導いただいてきている 国土交通省、外務省及び文部科学省をはじめ多くの関係機関の方々に、この場を借りて改めて厚く感謝の意を表するとともに、総会での承認及び合意書締結手続きに向けて引き続き支援・協力を賜りますよう、心よりお願いする次第です。
さて、土木研究所にユネスコセンター設立推進本部が設置されて満1年を迎えた4月1日付で、センター設立後の組織運営を視野に入れた準備体制の強化が図られました。具体的には、これまで水工研究グループに属していた水理水文チーム(チームリーダー 深見上席研究員)が水文チームと名称を変えて推進本部に加わり、水災害リスクマネジメントチーム(チームリーダー 吉谷上席研究員)と合わせて2チーム体制になりました。また特命事項担当の上席研究員(田中上席研究員)が新たに設置され、津波防災研修を含む研修活動に関する企画・調整業務を主に担当することになりました。
人事異動によるメンバーの交代も含めて新たな体制のもと、センター設立に向けた準備活動に推進本部一同全力で取り組んでまいります。
ユネスコセンター設立推進本部
"Flash Flood"とは短時間の間(一般的に6時間以内)で豪雨により急激に引き起こされる洪水のことを指しています(米国海洋大気庁:National Oceanic and Atmospheric Administration(NOAA)の定義による)。アジアモンスーン地域では季節的な洪水だけでなく Flash Floodによって大きな被害を被っており、被害者が数百人を超えることも稀ではありません。また近年ではFlash Floodの発生頻度、強さともに増してきていると言われており、早急にFlash Floodの状況把握、緩和対策を行う必要が出てきています。そこでアジア各国から専門家を招聘し、 ?@Flash Floodの被害実態と洪水緩和対策の把握、?A最先端のFlash Floodの観測技術、予測技術、解析技術についての情報共有、?BFlash Flood緩和対策として今後どの様なアプローチを取っていくべきか、の3つを中心議題として「アジアにおける急激な増水を伴う洪水災害軽減に関する国際ワークショップ」を2005年3月2日から4日にかけて土木研究所にて開催しました。
ワークショップには、文部科学省科学技術振興調整費「我が国の国際的リーダーシップの確保:世界の水問題解決に資する水循環科学の先導」(代表:東京大学生産技術研究所沖大幹助教授)の支援のもとで、中国、韓国、フィリピン、タイ、マレーシア、バングラデシュ、 コスタリカの各国の河川防災担当者を招聘するとともに、WMO(世界気象機関)の支援のもとで、同水資源課長Grabs氏の参加をいただきました。
そして、各専門家が各々の国の洪水被害の現状、洪水対策方法を紹介した後、今後のFlash Floodに対してどのような対策を行っていくべきかについて議論を行いました。その中で、Flash Floodに対して、様々な自然社会条件の下で十分な精度を確保できる予測技術が現状では 未だ確立していないことが指摘され、今後は降雨予測の精度向上や様々な条件に対応した洪水予測システム構築のための技術開発が重要であるということが確認されました。さらに現状では洪水予測の精度には限界があること、その不確かな状況の中ではハードやソフトを含めた総合的な取り組みが重要であること等が議論されました。
ユネスコセンターのオフィスは、土木研究所本館の北側に隣接する実験棟を改修することによって整備することになっています。2004年8月に着工した改修工事は2005年3月までに約半分が完了し、外壁及び屋根の改修を含む構造部分の工事が終わったところです(写真参照)。引き続き、フロア間仕切及び設備工事等を行って、2005年9月には概成の予定です。
2005年3月23日から29日にかけて、新世紀重点研究創生プラン(Research Revolution 2002) 課題6:水資源予測モデルの開発 「アジアモンスーン地域における人工・自然改変に伴う水資源変化予測モデルの開発」 (プロジェクト代表者:山梨大学 竹内邦良教授)の一環で、 水文チームの猪股研究員と天羽研究員(現所属:国土交通省北海道開発局)がカンボジアのトンレサップ湖周辺に雨量計を設置してきました。
カンボジアの中西部にはトンレサップ湖というインドシナ半島最大の淡水湖があります。雨期にはメコン河の水位が上昇してメコン河の水が大量にトンレサップ湖に流れ込み、湖の面積は乾期の3〜4倍になると言われています。トンレサップ湖はメコン河からの水を大量に飲み込むことでカンボジアの首都プノンペンへの洪水被害の軽減に貢献しているのです。
私達は、トンレサップ湖が洪水被害軽減の役割を過去20年にわたってどのように果たしてきたかを解明するための研究を行っており、そのためにはトンレサップ湖の周辺の川から湖に流れ込む水量を把握することが重要になります。そこで、トンレサップ湖に流れ込む周辺河川の一つであるプルサット川(トンレサップ湖の南西側)に焦点を当てて水循環形態の把握を行う事にし、流域に雨量計を6箇所設置してきました。
設置作業は、現地の人々と終始和やかなムードの中でスムーズに行うことができました。
雨量計を設置するということが至上の目的ではありましたが、カンボジアの人達に転倒升雨量計の原理、設置方法、データ回収方法といった基礎的な部分を伝えることができたことも大きな収穫になったと思います。これが今後のカンボジア国内での観測網充実に役立てばうれしく思います。今後は維持管理方法なども伝えていく予定です。
ユネスコセンター設立準備活動の一環として、土木研究所客員研究員高崎哲郎氏の著書 『評伝 山に向かいて目を挙ぐ 工学博士・広井勇の生涯』(鹿島出版会)の 英訳版(ハードカバー、A5版、222ページ)を作成しました。
本書の翻訳は、広井勇博士の第4代目の直系子孫に当たる飛鳥井愛子さんにお願いしました。英訳版のタイトルは「外国の方も理解しやすいシンプルなものにしたい」との飛鳥井さんの意向を受けて「広井勇博士、日本のクリスチャン土木技師の生涯」 (Dr. Isami Hiroi The Life of a Japanese Christian Civil Engineer)としました。
翻訳後に飛鳥井さんは「広井勇が大変な努力で西洋の学問を身につけ、わが国の先駆的な土木技術を支え、人材を育成したことを誇りに思います」と語られています。
今後、各種国際会議の出席者や研修コースへの参加者などに配布し、途上国の人材育成への寄与を含め、我が国の土木技術の紹介に役立てたいと考えています。一般の書店では取り扱っておりませんが、希望者には有償で提供します(消費税込み1,000円、送料別)ので、本ニュースレター末尾の連絡先まで申し込み下さい。
ii. 第3回メコン河洪水フォーラム (2005年4月7-8日)
標記フォーラムに水文チームの深見上席研究員が参加しました。 このフォーラムは、メコン河下流域の4カ国(タイ、ラオス、ベトナム、カンボジア) が「メコン河流域の持続的開発に関する協力協定」(1995年)に基づき共同で設立しているメコン河委員会が主催するもので、深見上席研究員が「洪水管理における構造物対策に関する日本の経験」と題した講演を行いました。その中では、我が国の洪水防御対策について、かつて構造物対策中心で進めてきたが、都市水害等を契機として非構造物対策も含めて総合的に実施する方向に変化してきた歴史的経緯を説明し、両者のバランスが洪水対策にとって重要であることを指摘しました。その他、最近のメコン河における洪水の被害状況や洪水被害軽減のための
危機管理対策研究の現状、カンボジア国プノンペンに設立が予定される地域洪水管理軽減センターの方向性等について議論が行われました。
iii. ユネスコ第171回執行委員会 (2005年4月21-26日)
パリのユネスコ本部において、ユネスコ執行委員会の行財政委員会(FA
: Financial and Administration Commission)及びプログラム・対外関係委員会(PX : Programme and External
Relations Commission)が開催され、寺川本部長が日本政府代表団の一員として参加しました。 別々の会場で並行して進められた2つの委員会のそれぞれで、日本政府提案による土木研究所ユネスコセンター設立の件を秋のユネスコ総会に諮る旨の決議案(Draft
Decision)が、無事に採択されました。特に後者の委員会では、当該議題に関する審議の冒頭、ユネスコ事務局長代理(自然科学局担当)エルダリン氏からこれまでの検討経緯等について概要説明があったのに続いて、ユネスコ日本政府代表部の佐藤大使より、センター設立・運営に向けた日本の取り組みを表明いただきました。これを受けて、アメリカ、モロッコ、スリナム及びブラジルの各国より、祝辞、支持の声が寄せられるとともに、またアジア以外の地域においても積極的に協力が行われていくことを望む旨発言がありました。
以上のような状況を鑑み、土木研究所ではタイ王国の中央部に位置するChao Phraya川流域を対象として、 社会変動を考慮した水循環解析を行っています。
タイ王国はインドシナ半島のほぼ中央、北緯5〜21度、東経97〜106度に位置し、 西と北にミャンマー、北東にラオス、東にカンボジア、南にマレーシアと国境を接している。
面積は約51.4万k?uです。中部平野地域、東部海岸地域、東北部高原地域、北部および西部山岳地帯、 南部半島地域の5地域に区別され、国土の大半を平野部が占めています。
Chao Phraya川流域の流域面積は157,925k?uで同国の約30%を占め、 29の県に跨る同国最大の流域です。対象流域にはタイ全人口の約38%が住み、
GDPの約58%を占める社会経済的に最も重要な地域であるため、 タイ政府にとって本流域における水資源開発は非常に重要な政策事項です。
ここでは特に、近年急激な経済成長を遂げたタイ王国の中央に位置するChao
Phraya川流域を対象として、 社会変動の一つとして考えられる"大ダム建設"が下流に流況にどのような変化を与えたのかについて研究成果の一部を紹介します。
貯水池操作によって下流の流況に与えた影響を解析した結果、ダム直下では特に顕著な流況の変化を捉えました。 さらに、FFTを用いたスペクトル解析の結果、下流の日流量は3.5日や7日といった短い周期特性を持つことがわかりました。 これは貯水池からの日放流量のスペクトル特性と一致したことから、 貯水池運用が下流へ多大な影響を与えていることを明らかにしました。
2005年6月〜9月中旬までの間に、当推進本部から参加を予定している会議です。
国際水理学会第31回大会 http://www.iahr2005.or.kr/
【2005年9月9−10日 韓国,、ソウル】
本学会は水理学とその実践・応用の分野に携わるエンジニアと専門家からなる独立国際組織です。本大会には例年1000名を越す専門家の参加があり、そこでは調査研究、技術開発に関する最新情報の交換が行われます。本大会では8つの特別セミナー及びワークショップが開催されますが、その中のSS-6「Coping
with Risk(主催:UNESCAP、台風委員会)」において、当推進本部が昨年度実施した「洪水ハザードマップ作成」研修についての報告を行います。