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大学紹介

看護基礎教育における臨床判断に関する教育計画の実態と課題ー全国看護系大学の調査よりー

更新日:2024年8月19日 ページ番号:0007093

看護アセスメント学研究室 藤内美保 <外部リンク>

緒言

看護基礎教育において、「臨床判断」能力の向上が求められている。令和4年度から施行となる指定規則改正では、臨床判断能力の強化として、専門基礎分野、基礎看護学分野、統合分野での強化が示され、単位数増加の根拠となっている。従来から、判断能力の重要性は問われ続けているものの、看護過程やアセスメント、臨床推論などの概念と臨床判断との関連について困惑があったことも事実である。臨床判断の概念や教育内容が確立していない状況のなかで、看護基礎教育の現場において臨床判断能力を強化するために、どのような教育計画が立てられているのか、その実態を把握し、課題を明らかにすることで、今後の取り組むべき方向性が見出せると考えた。
本研究は、臨床判断能力に関して各看護系大学の取組み、独立した単独科目か否か、単位数や開講学年、到達度、教授内容、教授方法等の教育計画の実態を明らかにして整理・分析することで、今後の臨床判断能力の向上のための教育の示唆を得ることを目的とした。

方法

対象者は全国の看護系大学の基礎看護学領域の臨床判断もしくはヘルスアセスメントや看護過程に関わる責任教員各大学1名の計290名に、無記名自記式質問紙調査を実施した。調査期間は、令和3年7月1日〜8月31日。調査内容・方法は、(1)臨床判断の単独科目があるまたは計画している場合の単位、開講学年,科目名等、​(2)既存の科目に臨床判断の内容を加える計画の場合の単位数、開講学年、組み合わせの科目等、​(3)​14項目からなる教授内容の必要度(4段階のリッカート法でポイントが高いほど必要性が高い)、​(4)​到達レベル、(5)​授業の工夫、(6)​評価方法、(7)​看護学実習の臨床判断能力強化に関する自由記述、(8)​臨床判断能力向上に関する教育の自由記述、(7)​と(8)​はカテゴリー化し内容を整理した。大分県立看護科学大学研究倫理・安全委員会の承認(承認番号21-19)を得て実施した。

結果

回収数は76部(回収率26.2%)であった。対象者の基本属性は、教授48名(63.2%)、准教授18名(23.7%)、講師6名(7.9%)、助教4名(5.3%)であった。臨床判断の単独科目か否かは、単独科目として有していない・計画していないが66.2%で最も多く、令和4年度から創設するが15.6%、既に臨床判断の単独科目を有していたが14.3%であった。単独科目として有している科目のうち、単位数1単位60.9%、2単位30.4%、3及び4単位は各4.3%で、コマ数は15-16コマが56.5%、8-9コマが21.7%であった。開講学年は2年次が56.0%、次いで4年次が24%であった。科目名として臨床判断実践論、看護実践能力開発、臨床判断・推論、臨床推論I・II、臨床ケア論などであった。一方、他の内容と臨床判断を組み合わせていると回答したうち、既に教育をしているが67.6%が最も多く、次いで令和4年度から計画するが19.7%であった。組み合わせている科目は、看護過程が46.2%、ヘルスアセスメントは41.0%、生活援助技術が7.2%であった。組み合わせ科目の場合の開講学年は、2年次が63.8%、1年次が24.6%、3年次は8.7%、4年次は2.9%であった。
教授内容の必要度(図1)について、看護過程と関連させた臨床判断が3.74ポイントで最も高く、ついでフィジカルアセスメントによる臨床判断は3.67ポイントであった。Tannerの臨床判断モデルの教授内容は2.59ポイントで最も低かった。
到達レベル(図2)は、臨床判断のプロセスの理解が27.3%、ある程度適切に臨床判断できるが23.4%、検討していないが23.4%が上位であった。授業の工夫(図3)について、シミュレーションが23.5%、技術演習が16.5%、リフレクションが14.8%であった。評価方法(図4)については、未検討が18.8%で最も高く、状況設定問題が16.8%、実技テストが14.1%であった。

教授内容の必要度到達レベル

授業の工夫評価方法

考察

単独科目として教育している場合、2年次および4年次で段階的に教育しており、単位数も複数単位で内容の充実が予測され、基礎理論と実践的応用を組み合わせて教育していることが推測された。一方で、他の内容と臨床判断を組み合わせて教育している場合、1~2年次の低学年に留まっている可能性がある。また、看護過程やヘルスアセスメント、看護技術といった科目との組み合わせで教育をしている場合、臨床判断の位置づけやその科目で学ぶ意義、何を強化し何を重要視して教授するのかなど、考え方は様々であり、標準的な内容がなく教育されることが推測された。さらに、到達レベルや評価方法の結果からも、臨床判断能力の習得状況には大きな差が生じると考えられる。今後、臨床判断について、豊富な経験をもって教育している大学や先駆的な取り組みをしている大学などから示唆を得て、臨床判断の教育内容を体系化し、充実させていく必要がある。

本研究はJSPS科研費20K10642の研究の一部である。

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