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2024年11月8日

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山梨県身延町で農業に挑戦!移住で得た充実感と地域と歩む未来

いつか農業をやってみたい――。漠然とした憧れを形にする場所として、横浜市の浅野秀人さんが選んだのは山梨県身延町だった。現在、農家として「あけぼの大豆」を栽培しながら、加工や商品開発にも携わっている。浅野さんに身延町を選んだ理由、農業の手ごたえ、そして町の魅力について聞いてみた。

農業への想いを形にした身延町移住

横浜育ちの浅野さんにとって、山梨は縁もゆかりもない土地だった。東京・有楽町のふるさと回帰支援センターで情報を集め、全国各地を訪れたという。

「多くの地域では大規模な機械化農業が主流でしたが、私が求めていたのは昔ながらの職人的な農業。汗を流し、田んぼの畔(あぜ)でおにぎりを食べるような。身延町ならそれが実現できそうでした。実際に畔でおにぎりを食べたことはまだないんですけどね(笑)」

2019年10月に地域おこし協力隊として山梨へ移住。身延町特産で、幻の大豆ともいわれる「あけぼの大豆」の栽培を始めた。「この地域でしか作れない作物というのも大きな魅力でした」と振り返る。

就農を望んだのは浅野さんだが、家族も移住に賛成した。事前に下見で訪れた際、富士川が流れるのどかな風景が気に入ったという。3人の子どもがいるが、上の2人は自立していたので小学生の末っ子と妻、そして横浜で同居していた両親が一緒に移住することになった。

「子どもも乗り気で、妻も『いいんじゃない?』と言ってくれて。すんなり決まりました。母は移住後すぐに病気が見つかり、残念ながらしばらく療養した後に他界してしまったのですが、土いじりなどを楽しみにしていたんですよ」

身延町のブランド大豆「あけぼの大豆」を栽培する浅野秀人さん

人も町もちょうどいい、身延町での暮らし

暮らしの変化に不安はなかったという。

「移住者の多くは地域との関係を心配しますが、自然に溶け込めましたね。最初の半年は単身で暮らしていましたが、近所の方からおすそ分けをいただくこともありました。つかず離れずの適度な距離感が心地よいですね。峡南地域は特に人が温かいという話を聞いたこともあります」

当初は空き家バンクで家を借りてのスタート。数カ月後には近くの古民家を購入し、夫婦でDIYリフォームを楽しんだ。地域おこし協力隊の任期が3年であることを考えると、移住直後から長く暮らす決意があったことになる。

「身延町での暮らしには本当に満足しているんです。毎朝、富士川沿いを走りながら仕事へ行きますが、景色がよく、贅沢な環境だと日々感じています」

子どもが生活する環境としても魅力的だという。
「子どもが少ない分、先生や地域の大人たちの目が一人一人にちゃんと届いている気がします。以前の家の周りは車通りも人通りも多く、子どもを遊びに行かせるのが怖いくらいでしたが、今は夏休みともなれば一日中外で誰かと遊んでいます。近所の方から『しろまるしろまるくん、あそこにいたよ』と教えてもらうこともあり、地域ぐるみで目を配ってくれるのがいいなあと思います」

農業は初挑戦だったという浅野さん。「身延町の風景が好きですね」

元々、横浜市内でも便利な私鉄沿線の駅近くに暮らしていた浅野さんだが、現在の暮らしに不便は感じていないという。

「どこに移住しても、絶対今より不便になるだろうなと。むしろその不便さや、ちょっとした面倒臭さも楽しもうというつもりでいます。たとえば、憧れだった薪ストーブも、薪割りが面倒になる日もあるんですよね。そんなときは『これを楽しむために来たんだよね』と妻と話して気持ちを切り替えます」

近所にはスーパーマーケットとドラッグストアがある。車で30分ほど走れば大型ショッピングセンターにも行ける。ネット通販も1日で届く。

「本当にちょうどいいんです。都会ではないけれど、極端な田舎でもない。日常生活に不自由はなく、市街地とも程よい距離感で、理想的な環境だと思います」

浅野さんが商品開発に携わったあけぼの大豆の加工品。豆の風味が濃い

「あけぼの大豆」栽培で見えた農業の魅力

農作業は、最初の1年は地元の人と一緒にやりながら自分の畑も耕し、昔ながらのやり方を習得した。その後は、新しい技術も活用しながら、自分らしいやり方を確立していったという。あけぼの大豆は、枝豆としても大豆としても需要があり、浅野さんも半分は枝豆、もう半分は大豆として出荷しているそうだ。

「農業は楽しいですね。同じ環境でも、作り方次第で大きな差がでます。毎年、自然から採点されている気分ですが、幸いなことに毎年合格点をもらえていると思います」

仕事は忙しい。移住2年目には町営の6次産業施設「あけぼの大豆拠点施設」の会社化に伴い、専務として運営にも携わるようになった。2023年からは「あけぼの大豆味噌」のブランド化と量産を目指す加工施設の管理も担当している。さらに最近、地元の仲間とクラフトビール事業も立ち上げた。

「枝豆といえばビール。このとびきり美味しい枝豆に合う地元産のビールがあれば最高だなと思って。やっぱり作物にどう付加価値をつけていくかは農業の課題ですから、あけぼの大豆を使った新商品の開発にも力を入れています。移住してから10品くらいつくりました。パッケージデザインは妻が担当しています」

取材時はそろそろ小さなサヤがつく9月はじめ。枝豆の収穫は10月頃

当初描いていた「のんびり農業」とは程遠い忙しさだが、浅野さんは充実感を覚えている。
「横浜では、夫婦でデザイン事務所を立ち上げて独立していた時期もあり、また企業経営を任されていたこともありました。そうした経験が、ここですべて活きていると感じますね」

浅野さんは味噌加工施設の運営を機に、みそソムリエの資格を取得。また、農作物を守るため、夫婦で狩猟免許も取得するなど、農業に関連する新たな挑戦を続けており、あけぼの大豆への思い入れも強い。

「あけぼの大豆は、ちょうど私が移住した年に令和の大嘗祭((注記))に献上され、その後、地理的表示(GI)保護制度にも登録されて全国的な認知度が上がりました。あけぼの大豆と共に自分も成長してきた気がします。あけぼの大豆は、大粒で甘みが強く、採れたての枝豆は砂糖水で茹でたかと思うほど。すべての大豆を食べたわけではありませんが、個人的には日本一だと思っていますね」

(注記)大嘗祭は、天皇即位後に一度だけ行われる最も重要な皇室祭祀。新天皇が初めて新穀を天神地祇に捧げ、自らも食す儀式で、皇位継承の完結を象徴する神事です。令和の大嘗祭は、2019年11月14日から15日に皇居東御苑で執り行われました。

あけぼの大豆を使った味噌の加工施設の運営にも携わっている

地域への愛着が育む、町や農業の明るい未来

離れて暮らす浅野さんの子どもたちも身延町の魅力を感じているようだ。
「先日、長女が友だちと遊びにきたんです。イノシシ肉をもらったと伝えると『ジビエだ!』と喜んで食べていました。若い人たちは意外なところから、土地の魅力を感じ取るものですね」

あけぼの大豆を世の中に広めていくことは自分の使命のように感じているという。
「高齢化や後継者問題がある中、次世代にこのすばらしい農産物をつないでいくには、どうすればよいか。移住者としての経験を活かし、町と協力しながら、仕組みづくりをしていきたいですね。さらに魅力的な商品開発にも取り組みたいです」

移住促進についても考えを巡らせる。「派手な施策で一時的に人を集めても、他の地域がより魅力的な条件を出せば、人は流出してしまう。大切なのは、本当にその地域に魅力を感じる人を少しずつでもいいから着実に増やしていくこと。土地を好きになった人は簡単には離れませんし、きっと地域のことを想ってくれるはずです」

それはまさに浅野さん自身でもある。「私にできることは、楽しく暮らし働く姿を見せ、"身延町っておもしろそうな地域だな"と思ってもらう機会を増やすことだと考えています」

浅野さんはまさに理想の場所を見つけたが、就農も移住も生活が一変することになり、一歩踏み出すには一定のハードルがある。

「これまでの経験を活かして町に貢献できているのも嬉しい」と語る浅野さん

「興味がある人は、まず行動することが大切だと思います。行動しなければ、何も変わりません。あれこれ想像して悩むより、現地に来て声を聞くのが一番近道。もし違うと思えば、また別の地域を探せばいいと思うんです。そうやって見つけた身延町は、私にとっては最高の場所ですね」

浅野さんの言葉からは農業への情熱や身延町への愛着が伝わってきた。浅野さんのような熱い想いをもつ人々の手によって、町の未来はさらに明るいものになっていくだろう。

「あけぼの大豆を世の中にもっと広めていきます」と力強く宣言する浅野さん

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