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地域と共に創る持続可能な社会の実現
特集 地域と共に創る持続可能な社会
高見 昭憲
地球温暖化をはじめとして全世界でいろいろな課題が顕在化しています。同時に自分たちが住む地域社会でも多くの課題が顕在化しています。2050年までに脱炭素を実現するため国内の地方自治体などの地域でも太陽光発電、風力発電、バイオマス利用など再生可能エネルギーを利活用する必要があります。同時に、地域の豊かな自然を保全し、森林、農地、沿岸海域などで農業や漁業が営めるよう適切な管理が必要です。また、日本では少子高齢化が進み、数十年後には人口が現在に比べ半分や4分の1になると予測される地域もあります。人口が減ると利用者が減少するためバスや電車などの公共交通が衰退します。ごみの収集や処理、排水処理・下水道など日常生活に欠かせない社会的なインフラを担う人材が不足するとともに老朽化などの対策が追い付かなくなる可能性もあります。農業の担い手が不足し耕作放棄地などが増える可能性もあります。我々は自分たちの住む地域社会をこのまま維持できるのでしょうか?地球温暖化など全世界的課題への対応も大事ですが、同時にそれぞれの地域社会の存続や繁栄も大変重要な課題です。
国立環境研究所(国環研)では2021年度から「持続可能地域共創研究プログラム」を開始しました。このプログラムでは、まず、国内の各地域でどのような課題があるかを明らかにします。市役所、農協、森林組合、漁協、商工会議所、市民など直接、間接的に利害を有する方々であるステークホルダーに地域の課題や将来像について聞き取り調査を行います。例えば、人口減少対策としては、再生エネルギーを導入し関連する産業を育成し就労人口を増やすことも可能ですが、一方で地域の自然や文化遺産を保全し観光産業などに利活用することも可能です。地域の方がどのような課題を意識し、将来どのような地域にしたいかを調査します。
国環研には環境問題に対応できるたくさんの研究者がいます。例えば、国内各地域における脱炭素に向けた道筋や方策、その地域に適した下水などの排水処理の方法、人口減少・高齢化が進む地域での廃棄物処理の方法、地域の交通体系の在り方などについて研究しています。ただ実際には地域の課題は様々であり、個々の技術を用いてある地域の最適化を図っても周辺地域や県・国としての最適化は一致しないかもしれません。その地域の複数の課題に対してバランスの良い解決策を提案するために、地域を俯瞰的に見ることができる「診断」ツールも開発しようとしています。国環研が得意とする理・工・農学など自然科学の知識や成果を取り入れ、各技術をどのように組み合わせるとその地域に適した課題解決の方法が見つかるか検討を進めます。
地域の課題を特定し、課題解決のための技術や制度を導入しても、実際にそれらを利活用するのは地域の人です。地域の人が受け入れられる使いやすい技術や制度を理解するため、人文科学や社会科学の知識や成果も取り入れて、人の行動や意識に関する研究調査を進めます。
このように本プログラムでは、自然科学、人文科学、社会科学などの多様な知見を取り入れ、地域の複数の課題に対してバランスの取れた解決策を考え、地域の人が受け入れられる技術や制度は何かを明らかにし、持続可能な地域社会の実現に向けて地域の人と共に調査研究を進めます。
本特集では「地域課題解決と持続可能性目標を同時達成する地域診断ツール」に関する研究の一端を「研究プログラムの紹介」で、「人口減少・高齢化によるごみ処理への影響」についての研究を「研究ノート」で紹介するとともに、本研究プログラムに関連する概念や用語については「環境問題基礎知識」で解説します。
執筆者プロフィール:
長崎離島で越境大気汚染の観測を行ってきました。十数年通うとその土地の変化が実感としてわかります。心のふるさとが持続可能であってほしいと願っています。人文社会系の方とも共同研究ができるのを楽しみにしています。
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