死刑執行に対し強く抗議し、直ちに全ての死刑執行を停止し、世界的な廃止の流れに沿った死刑制度廃止の実現を求める会長声明
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本日、東京拘置所において、1名の死刑が執行された。石破内閣が発足し、鈴木馨祐法務大臣が就任した後、初めての執行である。しかも、2年11か月間執行が行われない状況であった中での執行である。
死刑は、基本的人権の核をなす生命権を国が剥奪する刑罰であり、近代人権思想の中で残された、もっとも苛烈な刑罰である。刑罰制度は、犯罪への応報にとどまらず、罪を犯した者の更生により社会全体の安寧に資するものであるべきであり、本年6月に懲役刑と禁錮刑が一本化されて新自由刑(拘禁刑)に再編する改正刑法が施行されたのも、そのような「応報を主眼とする刑罰制度」から「更生と教育を主眼とする刑罰制度」への移行を意味する。しかしながら、死刑は、日本の刑法典の下で、罪を犯した者の更生を指向しない唯一の刑罰であり、拘禁刑の理念と相容れない異質なものである。
国際的にも、多くの国が既に死刑制度を廃止しており(過去10年以上死刑を執行していない事実上の廃止を含めれば145か国)、世界的な死刑廃止の流れは更に進んでいる。
当連合会は、長年の議論を経て、2016年に開催した第59回人権擁護大会において「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、国に対し死刑制度の廃止と刑罰制度全体の見直しを求めてきた。そして、2022年11月15日付けで「死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計に関する提言」を取りまとめ、改めて「死刑制度の廃止」と「代替刑としての終身拘禁刑の創設」を政府・国会及び社会全体に提言している。
本年2月に結果が公表された世論調査では、「死刑の存続はやむを得ないとの回答が8割以上であった」とされる。しかし、国際人権(自由権)規約委員会等からは「世論調査の結果にかかわらず」死刑制度の廃止を考慮するよう、我が国は何度も勧告を受けている。さらに、その世論調査でも、別の質問に対する回答で「死刑に代えて導入される刑罰の内容次第では、死刑制度の廃止も受け容れられる余地がある」ことが示されている。それゆえに、当連合会も上記のような決議・提言をしたものであり、今は死刑の執行を一旦停止し、死刑制度の是非を政府・国会のみならず社会全体で改めて議論すべき時である。
2024年2月29日、国会議員、学識経験者、警察・検察出身者、弁護士、経済界、労働界、被害者団体、報道関係者、宗教家及び文化人らで「日本の死刑制度について考える懇話会」が設置され、十分な情報をもとに活発な議論を行い、日本の死刑制度について、同年11月13日に報告書が公表された。同報告書では、委員16名全員の一致で、「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現状のままに存続させてはならない」、「早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること」を提言している。
それにもかかわらず、同懇話会の提言に真摯に向き合うことなく、本日、死刑が執行されたことは、大変遺憾である。
以上から当連合会は、本日の死刑執行に対し強く抗議し、死刑制度を廃止する立法措置を早急に講じること、死刑制度の廃止についての結論が出るまでの間、全ての死刑の執行を停止することを改めて求める。
2025年(令和7年)6月27日
日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子